■『牙の領域/フルコンタクト・ゲーム』中島望 講談社ノベルス
いつか紹介した『Kの流儀』の続編。これも笑えるくらい非現実的なリアル・ファイト小説なのだけど、とにかく読ませるし、おもしろい。
「レスリング、日本拳法、合気道、フルコンタクト空手、そして…骨法!
必殺の域にまで武道を極めた素手の暗殺者集団・「五連凶星」が放つ究極の暴威!
その標的となった少年は、しかし、あの“極真空手”の達人だった!」
中表紙より
主人公は前作と同じ逢川総二。真壁グループと文字通りの死闘を演じた総二は大学生となっている。ひょんなことから彼と深い仲になった青木有為子は、しかし“解放教会”といううさんくさい宗教団体に目をつけられ、拉致されてしまう。キリスト教派の宗教団体とは名ばかり、裏では《ヒューマン・ダスト》と呼ばれる麻薬を流す犯罪組織である。解放教会所属の若い女はすべて変態教祖の結城典膳のオモチャとなり、力のある若い男は教会の異分子を排除する清掃部隊として鍛えられる。しかし素手でひとを殺すという残忍性を買われ、清掃部隊よりさらに優遇されている者たちがいた。それが《五連凶星》。
突然に連絡の途絶えた彼女が解放教会に捕われていることを総二は知り、これと闘うことになる…
ほら、笑えるくらいありえないはなしでしょ(笑)これがまったくのファンタジーならいい。ピッコロ大魔王が目から怪光線を発したって、誰も「ありえない」とはいわないわけだから。しかしこれが基本的には“リアルファイト”としてごりごり書かれちゃってるってのがすごい。そして…とにかくおもしろいんです。これこそが想像力の、物語のちからだよなー
前作のたたかいで死人まで出しているのに総二が傷害罪ですんでいるというのもよくわからないけど、今回も彼のキャラクターに変わりはない。あくまで総二は「殺すため」に、なんのためらいもなく、ばったばったと敵を再起不能にしていく。今回のヒロインはこの有為子なわけですが、前作の明日香と比較するとおもしろい。明日香が、すれちがう男全員が二度見するような美女で、かつ気が強く、しかし内にはその美貌と強さからは想像もつかないような地獄の闇を抱える、複雑にしてありがちな堕天使であったのに対し、有為子は、からだは肉感的で魅力的ではあるが、見た目はぱっとせず、痴漢にあっても同僚に無理やり宗教勧誘をされてもいまいち強く出れない、くみしやすい女なのです。これはもちろん、教会に拉致されなければならない、という設定の必然もあるのだろうけど、おそらく今回の総二が前回よりもう一歩、たたかう理由というものについて踏み込んでいるからだとおもわれます。ちょうどそれは、漫画『バキ』で、バキが童貞を捨てることで…守るものが生まれたこ
とで数段強くなったことと似ています。
(現在のバキはさらに次の段階にありますが。つまり、もう「なにかを守るため」という理由すら必要なくなったと。アライJr.はおはなしの構造的にそういう役割であったと僕は見ています。あれから梢江ぜんぜん出てこないしね)
つまり…前作『Kの流儀』では、明日香はたしかに守るべき存在ではあったのだけど、現実のたたかう理由はそこになく、総二はあくまでふりかかる火の粉を打ち払うために拳を繰り出します。今回はわざわざ乗り込みに行ってますもんね。
…それで今作のじっさいの“敵”、《五連凶星》ですが…前回以上に狂ってる。まず、時代不明の革ジャンを身にまとった、総二と同じフルコンタクト空手の使い手、鵜飼恭平。隆々とした筋肉をタンクトップで誇示する日本拳法、鳴海武士。素手で成人男性を圧死させる、五人中最大のパワーを誇る巨漢、ジェイソンばりのホッケーマスクをかぶった完全なイカレ野郎、レスリング牛窪巌。見た目は銀行員か気の弱いセールスマンみたいだが、本性は護身術である合気道を殺人術として用いる、吉住由紀夫。そして謎の武術“骨法”の使い手、五連凶星最強の男、醍醐武尊。書きながらすべての名前のあとに(笑)とつけたくなるような感じもしますが、いやいや、オモロイんですよこれが。いやオモロイって笑えるってことじゃなくて。前作もそうだったけど、たたかいの舞台なんかも非常に凝っていて、この作家はわりと風景描写とかがリアリズムっぽく、念入りなので、そういうところも見所。たぶんロマンチックな、誠実で真面目なひとなんじゃないかなと想像します。
ファイトについては…対牛窪を除くと、正直に言って前作のほうが興奮度は高かったとおもう。というのは、逆にいえばこの牛窪戦はすごかったということです。191センチ120キロ、打っても打っても倒れない、筋肉のかたまりみたいな魔人とのたたかい。むしろ、醍醐戦よりわくわくしましたよ。正直、醍醐、吉住戦は…それまでの期待が大きかっただけに、やや拍子抜けしました。骨法ってのもなんだかよくわからないし。
しかしそうはいっても、これだけアリエナイ、ネタみたいなはなしをここまで読ませるのは、とんでもないことだとおもいます。一級の娯楽小説。