この映画のもっともすばらしい点は(というと誤解を招きそうだな…。特別な点、ということです)、たぶんあっちこっちで言われてることだろうけど、人種差別というのはどうあってもなくならないものだ、としているところです。
娘のトーニャを二人の白人にレイプされたカール・リー・ヘイリーは、犯人の二人を彼らの裁判中に射殺してしまう。この弁護を引き受けたのが、カール・リーの友人である主人公のジェイク・ブリガンスなのだが、カール・リーが黒人で被害者のレイプ犯二人が白人であったことや、人口の大部分を白人が占めるという土地の現実もあって、やがてこの事件は軍隊まで出動するような社会的騒動へと発展することになる。助手のロークや親友にして弁護士のハリーの手助けもあって、ジェイクはどうにかこうにか弁護をすすめていくのだが、土地柄の必然から陪審員がすべて白人であることや、さらにKKKからの脅迫なんかもからんできて、もういっぱいいっぱいになってしまう。
最終弁論を前にして、完全に行き詰まり、殺人罪を飲む(つまり罪を認める)ことをもちかけるジェイクに、カール・リーは言う。差別反対を口にしてはいても、結局はあんただって陪審員と同じ白人だ。やつらとおんなじ脳みそなんだ。だからこそおれはあんたに弁護をたのんだのだ。あんたの目に見えるおれは、「人間」でなく「黒人」。あんたとおれは線のこっち側とあっち側。あんたは敵なんだよ。おれはそれを逆に利用するのだ。あんたが陪審員のひとりなら、どう説得されたらおれを無罪にするかね？
最終弁論でジェイクはどうしたか？陪審員たちに目をつぶらせ、トーニャのレイプ事件を、その始まりから、無残な暴行の詳細に至るまで、ゆっくりと細かに、話してきかせたのだ。陪審員も傍聴人も、カール・リーも、誰もが、顔を歪めながら、トーニャが、「黒人の」女の子が、「白人の」男にレイプされているシーンを思い浮かべている。しかし最後に、ジェイクはつけくわえる。その子は「白人」だった、と。テレビでみるように遠いところにあったただの「かわいそうな物語」を、「自分の物語」として間近に引き寄せたのである。ジェイクが語ったこの物語は、作中で彼がくりかえしいうように、もしうちの娘がやられたら、という想像から生まれてきたものだ。カール・リーが目にした、娘が残虐に暴行されるという現実ばなれした「世界」を、「おはなし」に付託して、イライラするくらい蒙昧な陪審員たちにつきつけたのである。白人は黒人ではないし、黒人は白人ではない。だからただ事実を伝えるだけではダメなのだというカール・リーの意思を、そのように具現したのであ
る。
もちろんこうしたのちでは、白人と黒人、すなわちジェイクとカール・リーは裁判で勝利しても複雑な表情のままである。陪審員たちにカール・リーの目にした現実を理解させることをあきらめ、どうあってもお互いにわかりあうことはないのだと認めたからこそ、こうした物語を語ることができたわけだから。ラストのシーンは、やっぱりこれは大衆が観る映画だし、救いがないとアレだから、ジェイクが家族をつれてカール・リーの家に遊びにいくふうになっているが、この映画が描いているのは、明白なことだろうけど、人間は誰でも一緒で平等なんだよ、ということではなく、どうやっても交わらないものというのがあって、それはたとえば「男」と「女」もそうだし、つきつめれば人種云々以前にひとりの「人間」というものがそもそも個別の存在であるとして、それを納得、というか理解して受け入れたうえでなければ、平等平等ときれいな言葉を並べたところで、なんにも生まれてこないんだよと、そういうことなのである。「相手の立場にたってみる」というのは言い換えればその
相手を取り除いて状況のみをこちらにもってくることであり、実のところただ新しい「自分の物語」を読んでいるだけのはなしで、「実際に」、カール・リーの見て、感じたことを、カール・リーの感覚作用で感じることはできないのである(当たり前だけど)。くりかえすが、人種のちがいからこれをどうしても「かわいそうなおはなし」ぐらいにしか見れない陪審員に対し、これを理解させることをあきらめ(現にどうしようもないことだから)、「小説」を用意し、陪審員にそれぞれの「世界」を組み込ませて、「自分の物語」として読ませたのが、ジェイクの最終弁論だったのだ。
でもすごいと思いませんか？ブログとかでこそこそひとりごとみたいに言うんならまだしも、映画でこういうことをこんな大きな声で言ってみせるなんて。それが表現の仕事だといってしまえばそうなんだけど、、、
どうでもいいけど…傍点とか、強調記号使いたいな～。携帯からだからできないんですよね…。