VERBALさん | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

「マインドステイトはflow重視 流れる言葉、光通信 メトロの空気、HipHop中心 天から授かる方針」
『mindstate』

「悪そうなBもいる、インテリ系でていねいな口調のBもいる、いろいろいたほうがいいんじゃねえか? So long's you ain't being a funk-faker」
『What It Is』

これらはバーバルさんの(ということはm-floの)音楽的姿勢を歌詞のうえでわかりやすく示した一例です。先のほうはラップじたいの、後のものは一個のB-BOYとしての、言ってみれば思想を、端的に表しています。
ある程度のキーみたいなものはあるとはいえ、メロディのないラップが、ただのビートにのっかったおしゃべりになっていないのは「フロウ」があるからだと考えられています。カラオケが好きな人なら、自分の好きなラップを歌ってみて、なんかちがうな、ジブラはこんなんじゃなかったぞ、という経験があるかと思いますが、それは単純にフロウしていないからです。明瞭に発音してみせたあと、もつれるように言葉がからまったり、上がったり下がったり、語尾を早めに切ってみたり、そういう工夫が、これらをただのおしゃべりにしていないわけです。そんな中で、フロウにもっとも大きな影響を及ぼす技術、それは「ライム」だといわれています。押韻のことです。メインのMCがラップしているあいだ、サイドMCが合わせて声を出している、あそこです。日本語ラップの偉大なオリジネイターたちは、すべての音に母音が含まれるオンビート丸出しのこの言葉と四つに組み、どうやって韻を踏み、フロウを生み出すか、試行錯誤していました(ほんの十数
年前のはなしです)。このことについてひとつの解釈(こたえではない)を与えたのが、キングギドラでした。彼らはそのポリティカルな言動ばかり注目されがちですが(そんなことないかな?)、少なくとも押韻ということに関して、彼らの登場は決定的だったようです。アルバム『最終兵器』の「平成維新」からすこし引用します。

「俺らお上に反旗、ひるがえし MIC持って今日も犬退治 事の核心、ズバッと切るライミング 女子供は帰れ血ぃ見る前に」ZEEBRA
「いつの時代も外道は外道 借り返しとくぜ今日までの そのうす汚ねえ、手口を隠す 有無言わさず巧みに搾取」K DUB SHINE

こんなかっこいい韻が他にあるでしょうか?いまではUZIや童子‐T、餓鬼レンジャーYOSHIや、DABOなど、かっこいいライマー(って言うかな?)はいっぱいいますが、『空からの力』が出た当時は革新的でした。
一方で、彼らのようにかたい押韻は使わずに、別方向からのアプローチで、言葉の響きからフロウを生み出す人々もいます。たとえばBUDDHA・BRANDの、DEV・LARGE、CQ、NIPPSの三名でしょう(ライムしないというわけではない)。教養人という言葉の具現、吉田健一は『英語と英国と英国人』でこう書いています。
「或る言葉を美しいと感じるのは、我々人間に与えられた喜びの一つであって、その感じも、又、それを与える言葉の機能も、国によって異なるということはない。(略)自分の国の言葉に対する感覚が発達していれば、それがどこの国の言葉に対しても作用する」
吉田健一は言葉の普遍的な美しさについて言っているわけですが、それはラップの中にある、なんか悪っぽい、どす黒いかっこよさにも通じて、僕らはDEV・LARGEやMACKA-CHINの発する言葉を聞いて、聞き取れなかったり意味がわからなかったりしても、なんかわかんないけどかっこいいとおもうわけです。
バーバルは英語が得意だから(得意、というレベルじゃないか)、年齢的にも日本語ラップよりは英語のほうに影響を受けているようで、言葉の響きや、それらが自然にもたらすフロウを使うクチでしょう。m-floの古い曲をきくと、バーバルがいまとほとんど同じスタイルであることに気付くと思います。その当時からすでに完成していたということです。ラッパーは誰でも、なにか大きな声でみんなに伝えたいことがあるからラップする(最近はそうでない方々も増えてきていますが)。怒りとか憎しみとか、あるいは一周して平和を守ろうとか、さもなくば自分の大切なかわいいものとか、そういうことをそれぞれ自らの信じる手法で詞にする。だから、一般的なはなしで、ラッパーもひとりの人間であるということが重要で、あなたもわたしも、潜在的にはみんなラッパーであると僕は考えます。しかしそれでも上手い下手はあって、バーバルのラップはもう、ほとんど楽器でしょう。例をだすとキリがないのですが、たとえば『prism』のあの、ビートに
乗っているというよりは、なんかもう、時間も空間もぶっ壊して進むような高速ラップ。あれだけ速いと字余りもくそもない。言葉じたいがフロウを生む好例だと思います。
バーバルのもうひとつおもしろい点は、皮肉屋っぽいその姿勢にあると思います。K DUB+DJ OASISから成るユニット、R.A.PにDISられ、今回のアルバム収録の『LOVE CAN'T CRY』がそのアンサーソングのように書かれていて、バーバル自身はアメブロ上で否定していますが、このタイミングであれを書くというのは、真意はどうあれ、ニヤリという感じですよね。DISられたらDISりかえす、あるいは無視しちゃうというのもそれぞれのこたえですけど、なんかバーバルらしいと思います。