この物語は
悪魔のような鬼教師に
小学6年の子供たちが戦いを挑んだ
一年間の記録
今日の語りは和美ちゃん!?
新聞でのタイトルは、
『夏休みはありません!!追いつめられた子供が引き起こした悲劇と奇跡!!』
神田家。
夕食時、妻が作った料理を誉め、和美に好物のハンバーグを分ける
父・武(尾美としのり)。
夫の茶碗にご飯を山盛りしながら、
「やましいことでもあるんじゃないの?」と妻・章子(羽田美智子)。
「そういう変な詮索するの、やめろよ。」
「料理のことなんか滅多に誉めないのに。
さっきもメールが、」
姉・優(夏帆)が、元気のない和美の変わりに麦茶をひっくり返し、
両親のケンカは中断される。
和美(志田未来)は、夏休みはないと言った真矢の言葉を思い出していた。
「夏休みの間、毎日出席するたびに、そのカードにこのシールを貼ります。
テストの成績が良かったり、運動や、音楽が優秀だったり、
挨拶がきちんとできる人にも、シールを張りますから、
全員、首からぶら下げて、常に携帯するように。
そうやって、各自のポイントを集計したものを、グラフにして張り出します。
もちろん、一番得点の低い人と、低い班には、居残りで罰を与えます。
そうね、みんなが帰るまで、机の上に正座して反省するのはどう?
もちろん、今まで以上に雑用も増やしてね。」
「あの、先生!得点が高い人には、何かいい事があるんですか?」
刈谷孝子(佐々木ひかり)が質問する。
「もちろんよ。
夏休みの間に、カードのポイントが満点になった人には、その場で卒業証書を
渡します。その人は、二学期から学校に来る必要はありません。
彼は、こんな物を貰うために、学校に来ている訳じゃないなどと、
愚かなことを言っていたけど、他の人は頭がいいからわかるわよね?
卒業証書をもらえれば、私立を受ける人は受験勉強に専念できるし、
他の人だって、朝寝坊しようが遅刻をしようが、もう文句を言われないのよ。」
「私は・・・やっぱりおかしいと思います。
しょ、小学校最後の夏休みなんだし、
みんなで海とか山とか行って、楽しい思い出を作りたいとか思わない?」と和美。
「いいですね~!海とか、山~!」と同調する真鍋由介(松川尚瑠輝)。
「やっぱり夏休みですしね~!」と和美。
「いいのよ。来たくない人はこなくても。
でもいいのかしら。自分達が遊んでいる間に、クラスのみんなに
どんどん取り残されても。」
「あとから頑張りましょうよ!」と由介。
「ねぇ!ファイトファイトー!」と和美。
「私、行きます!」
「僕も行きます!」
「私も!」「僕も!」と生徒達が次々に席を立つ。
和美と由介に賛同してくれる生徒は一人もいなかった。
真矢は、そんな様子を笑顔を浮かべ見つめていた。
朝、目を覚ますと気合を入れるように肩を回す和美。
朝食を食べたあと、ぼーっと何かを考え込む母親に夏休み授業の説明会の
お知らせを渡し、学校へと飛び出していく。
近藤校長(泉谷しげる)は真矢の提案に戸惑うが、上野教頭(半海一晃)は
どっちみち土、日以外は登校しなければいけないんだし、と賛成する。
意見を聞かれた並木平三郎(内藤剛志)は
「阿久津先生なら、心配ないかなーって思います。
ただ、有給で、家族旅行を計画していて、
旅行に、行きにくいぞー!なんて。」そう言い笑う並木。
いつもなら真っ先に真矢に反論する天童しおり(原沙知絵)はどこか元気がない。
学級便りにある児童のことを書いたら、保護者からプライバシーの侵害だと
クレームがつき、それで悩んでいるらしい。
「阿久津先生なら、どうします?」天童が尋ねる。
「教師なら、ご自分で考えたら。」と真矢。
理科室で、夏休み勉強会の説明会が開かれる。
「夏休みがないっていうのは、どういうことなんでしょうか?」
「うちは塾があるんですが。」「うちは実家に行くことになっていて。」
「給食は?「お金は?」
さまざまな質問が飛び交うなか、
「私たちも、小さい頃、楽しみでしたよね!夏休みってね。」
そう言ったのは章子だった。父兄に睨まれ、慌てる章子。
「私がわかっていただきたいのは、みなさんのお子さんは、今、
確実に成長しているということなんです。
それなのに、夏休みをだらだら過ごしていいんでしょうか?
せっかくの成長が止り、全て水の泡になってしまうんですよ。
お手元のスケジュール表を見ていただければわかると思いますが、
無料の塾代わりと考えていただければ、皆様にとっても、
決して悪くないお話だと思うんですが。
私立を受験するお子さんは、この夏休みが勝負です。
私立を受験する予定のないお子さんは、同級生と多くの時間を過ごした方が、
より有意義な毎日を送れます。
なぜなら、子供は、子供同士の間で成長するからです。」
母親たちは、真矢の言葉に感銘を受け、喜んで子供を通わせます、と言い出す。
「うちもお願いします!」章子もそう言う。
真矢はそんな母親を微笑を浮かべて見つめる。
章子と和美、考えることは一緒ですね。(笑)
下校時。
歩道橋を歩く進藤ひかる(福田麻由子)は、和美と勇介の姿を
少しだけ見つめ、また歩き出す。
勇介は、自分たちだけでフケて、お医者さんごっこでもしよう!とふざけるが
「私、やっぱり行く!
なんかピンチはチャンスって感じがするんだよね。
このチャンスを利用して、逆にみんなと仲良くなれるような気がして。」
「大丈夫かよ。又みんなに苛められるかもよ。」
「大丈夫だよ。だって・・・
私はもう一人じゃないからさ。」
照れる勇介。
「バカでお調子者でどうしようもないけどね。」
「それどういう意味だよ!」
「!!真矢だ。」
和美の言葉に勇介の動きが止る。
「バッカが、見るー!!」
二人が走り出すと、馬場久子(永井杏)が姿を現し、
怖い表情で二人の背中を見つめた。
馬場ちゃん、スパイ活動中!?
学校。
『康彦』からの着信に、嬉しそうに微笑む天童。
辺りを見渡し、電話に出る。
「もしもし、やっちゃん!ごめんね、昨日。
ちょっと保護者とトラブっちゃってさ。
大丈夫だよ。だって久しぶりのデートなんだし!」
突然現れた真矢に驚く天童は、慌てて電話を切る。
「トラブルの方は解決したの?」
「あ、いえ。なかなか、大変で。」
「それなのにデート。楽しそうね。」
「プライベートも、大事、ですから。」
「あなたみたいな人がいるから言われるのよ。
女性はいいですね。いざとなったら結婚すればいいなしって。
いっそ、お辞めになったら?恋人もそれを望んでいるんだろうし。」
怖い~!けど、真矢の気持ち、わかります。
職場、しかも学校で、デートの約束はちょっとまずかったんじゃないかな。
夏休み登校日初日。
校庭でラジオ体操をする子供達。腕組みをしてその様子を見つめる真矢。
体操が終わると、真矢の元へ駆け寄り、一列になってシールを貰う子供達。
和美、由介は列に並ばず、教室へ歩き出す。
和美は、同じく列に並ばなかったひかるにも手招きするが、無視される。
真矢は教室に戻っていく二人をちらっと見るが何も言わない。
算数の時間、一番最初に問題を解き、シールを受け取るひかる。
体育の時間、うさぎ跳びのレースで一着になり、大喜びでシールを貰う勇介。
「バーカ!」と和美が睨みつける。
給食は、生徒達自ら支度する。
「先生!これ食べてみて下さい。」
刈谷と恵里花が、我先にと真矢に作った物を出す。
すると他の生徒達も、自分のを食べてもらおうと持っていきだす。
まさに、『女王様』状態な真矢でした。
「今日も最下位は、いつもの二人みたいね。
みんなが帰るまで、反省していなさい。」
真矢に言われ、和美と勇介が机の上に正座する。
「一番成績の悪い班も6班だから、馬場さんと進藤さんはこの二人と
一緒に残って掃除をしておきなさい。」
「先生!班を代えて下さい。二人のせいで、いくら私が頑張っても
毎日雑用やらされるし。」
「進藤さんならともかく、あなたがそんなに偉そうなことを言えるような
成績をとっているかしら。」
他の生徒たちが、馬場を馬鹿にしたように笑い出す。
「カードを持ってきなさい。
くだらない質問をして、みんなの貴重な時間を無駄にしたから、
マイナスポイントです。」
「そんな・・・。」
「早くしなさい!」
馬場は仕方なくカードを真矢に見せる。
真矢は馬場のシールを何枚か剥がした。
授業を終え、生徒達が次々と帰っていく。
机の上に正座する二人は、そこから生徒達に声をかける。
だが誰も答えようとしない。
しびれた足を引きずりながら、和美はひかるに声をかける。
「進藤さんからも言ってくれないかな。
一緒に夏休み、楽しもうって。」
「無駄だから辞めたら?私立に行く人は真矢の言うとおりにした方が
都合いいんだし。
実際3学期になったら学校来ない子もいっぱいいるし。」
「じゃ、私立に行かない人は?」
「きっと、逃げたいから頑張っているのよ。
卒業証書もらえば、もう真矢の顔見なくてすむから。」
「じゃあ、進藤さんは何で学校に来てるの?」
「別に。家にいたくないから。
そっちこそそんなに悩むなんんら、来なきゃいいじゃん!」
「私たち、決めたんだ。
どんなに真矢に酷い目にあっても、絶対諦めないって!」
「俺は、無理やり約束させられたんだけどね!」由介。
「進藤さんも、私たちと一緒に、頑張らない?」
「何やってるの!?
何コソコソ話してたの!?
わかってるわよ!どうせ私の悪口でしょ?
真矢にチクろうとして相談してたんでしょ?」
ゴミ出しから戻ってきた馬場が言う。
「お前さ、被害妄想なんじゃねーの?」と由介。
「何か夏休みらしいことをしようと話してただけだよ。
そうだ!明日休みだし、4人でどっか行かない?
プールとか、遊園地とか!
同じ班なんだし!」
「私はパス!」とひかる。
「私だって!」と馬場。
「行こうよ、馬場ちゃん!ティヒ!」
翌日、待ち合わせ場所に二人は姿を現さず。
「しょうがないから二人でどこかに行く?何ならホテルとか!?」
和美は由介をキッと睨み
「行くわよ!!」と言いひかりの家を目指す。
そんな二人を影から馬場が見つめていた。
由介はどうせ又冷たくされるだけだからやめたほうがいいと言うが、
「私、進藤さんって本当はそういう人じゃない気がするんだよね。」と和美。
馬場は二人の後を見つからないようについていく。
『進藤デザイン事務所
進藤 麗子
ひかる』と書かれた表札。
自宅は事務所も兼ねているようですね。
そして、母親と二人暮しのようです。
インターホンを押すと、母親が応対に出る。
ひかるは本屋に行っているそうですぐに帰ってくると、二人を家に入れる。
「ひかるのお友達が来るなんて久しぶり。」と歓迎する母。
二人にケーキを振る舞い、ひかるの様子を聞く。
「あの子、学校ではどうなの?ちゃんとやってる?」
「進藤さんは勉強しなくてもすっごい成績いいですから。」
「でも、私立に行けって言ってるんだけど、ちっとも言うこと聞かないの。
担任の先生って、どんな方なの?
あの子、学校のこと何も話してくれないから。」
「え?じゃあ真矢に苛められたこととか知らないんですか?」と由介。
「え!?」
「あ、何でもないんです。ティヒ。」「ティヒ。」由介も真似てごまかす。
そこへひかるが帰ってきた。
「何か用!?」
「あら失礼じゃない。せっかく遊びにいらしてくれたのに。」
「ちょっと黙ってて。」
母親の言葉に驚く二人。
三人はひかるの部屋へ行く。
「何?話って。」
「なんていうか、進藤さんのこともっと知りたいなーと思って。」
和美はそこで、伏せられた写真たてを手にとって見る。
「可愛いね!友達?何年生の時?」
「いい加減にして!!これ以上干渉するのやめてくれる?」
「でもほら、私たち親友だし。」
「やめてよ!!あなたは私の親友じゃないから。
友達なんていらないから、私。
出てって。出てってよ!」
ひかるは二人を追い出してしまう。
マンションの廊下をがっかりしながら歩いていると、電気がチカチカとする。
嫌な予感がしながら振り返ると、真矢が立っていた。
弱気な由介にあきれ返りながら、和美が真矢へと真っ直ぐ歩いていく。
由介も仕方なく和美に続く。
「相変わらず無駄な努力しているみたいね。
みんなと仲良く夏休みを過ごしたいとかいって。
いい加減目覚めなさい。向こうは迷惑なだけなんだから。
今の世の中、みんな自分さえ良ければいいの。
周りの人間のことなんかどうでもいいの。
上辺では仲良くしているけど、あなたみたいに何も知らないくせに
心の中に土足で入ってくるような人間が、一番不愉快なの!
もう諦めなさい。あなたと友達になりたいなんて変わった人間は、
彼以外いないんだから。」
そう言い、真矢は立ち去った。
その様子を背後から、馬場が見ていた。
和美は真矢の言葉に益々落ち込み、帰っていった。
二人の背後に人影が見えたとき、怖かった~!まるでホラー!!
真矢は二人をつけてきた、というよりは、ひかるの心配をして来ていたように
感じます。
初登場のひかるのお母さん、とても優しそうな女性ですが、
そんな母親にひかるは冷たい態度のよう・・・。
まだ一枚もシールの貼られていない個人評価カードを見つめながら
「なーんか、お先真っ暗って感じ。」と呟く和美。
突然優に目隠しされ、悲鳴を上げる。
「何悩んでるの?」
「ねぇお姉ちゃん。もし私みたいのが同じクラスにいたら、友達になりたいと思う?」
「ぜーんぜん!」
「やっぱそうなんだ。」
「又真矢に何か言われたの?」優が笑いながら尋ねる。
「私と友達になる人なんか一人もいないって。
私みたいに何も知らないくせに、心の中土足で入ってくる人間は迷惑なだけだって。」
「確かにね。」
「やっぱそうなんだ・・・。」
「何も知らないのがいけないんだったら、知っちゃえばいいじゃん、みんなのこと。
そうすればOKってことでしょう?」
「でも、どうやって?」
「そんなの自分で考えなよ。」
「ちょっとお姉ちゃん!」
姉を追う和美はつまづき、ベッドに倒れこむ。
「・・・大丈夫?」
「!!ありがとう、お姉ちゃん!!」
真っ暗なリビング、懐中電灯を照らしながら和美は便箋と封筒をゲット!
そして、ひかるに手紙を書き始める。
鼻と口の間にエンピツを挟む和美ちゃん。
エンピツが落ちたときの笑顔が可愛かった!
その頃ひかるは、写真の少女を見つめていた。
翌朝、手紙の束をカバンに入れ、和美は嬉しそうに学校へと走る。
教室に一番に到着した和美は、机の中に手紙を入れて回る。
由介がやって来た。
「もしかして、みんなに手紙書いたとか!?」
「徹夜しちゃったから眠くって!」
そこへひかるがやって来た。
「おはよう、進藤さん!はい、これ。」
「何これ?」
「とにかく読んでみて。出来れば返事くらい欲しいなー。」
「あなた本当に暇ね。」
ひかるは手紙を受け取らずにそう言う。
由介は和美の手から手紙を奪い、
「おい!読んでやれよ!神田、徹夜して書いたんだぞ!」と突き出す。
だがひかるは受け取らない。
馬場が教室にやって来た。
「あ、馬場ちゃん!これ読んでくれる?」
「何これ、何かの陰謀?
こんなことしている暇あったら早く教室掃除しなさいよ!
授業の前に教室が汚れていたら、先生に怒られるでしょ!」
ひかるは本を読み出している。
「進藤さん、早くしてください!先生に見つかったらどうするの?」
だがひかるは答えない。
「進藤さん!班長の命令は聞いて下さい。」
「何よ、真矢の言いなりの癖に威張っちゃって。
ま、しょうがないわよね。
勉強も運動も出来ないからご機嫌とってないと真矢にいじめられる。
言っとくけど、あなたのことなんて誰も相手にしてないから。」
教室から飛び出していく馬場。
由介はちょっと言いすぎだ、とひかるに言う。
和美は、馬場のカバンから飛び出たノートを拾い上げ、それをひかるに
見せる。そこには、読書をしたり、微笑むひかるの絵が4点描かれていた。
「馬場ちゃん、ずっと進藤さんに憧れてたんだよ。
進藤さんみたいになりたいって、ずっと思ってたんだよ。
クラスの誰よりも友達になりたいって、思ってたんだよ。」
「言ったでしょ。友達なんかいらないって!」
ひかるはそう言うと、乱暴に手紙を掴み教室を出ていってしまう。
「まだ掃除してないの?早くしなさい。」
教室の外にはいつの間にか真矢が立っていた。
二人に冷たくそう言い、立ち去ろうとする。
「先生!進藤さんのこと教えて下さい!
先生なら知っているんでしょう?
どうして友達がいらないなんて言うんですか?」
「イメージ出来る?
昔は明るくて素直な子だったの、彼女。
でも小学校3年生の時、両親が離婚して変わってしまった。
大好きな父親と離れて暮らさなければならなくなり、
しかも離婚の原因が、リストラされた父親を、母親が見捨てたせいだと
わかって、彼女に反感を持つようになってしまった。
でも、その頃出来た親友のおかげで、彼女は明るさを取り戻したの。
その親友と一緒にいれば、辛いことも忘れられるようになったから。
でも今度は、その親友に、母親が酷いことを言ってしまった。
あなたはうちの子にふさわしくないから、家に遊びに来ないでって。
しかも、信じられないことに、その翌日、その親友は交通事故で
亡くなってしまったの。
それ以来彼女は、完全に母親に心を閉ざしてしまった。
母親は親友を、殺したと思い込んだのね。
同級生とも距離を置いて、一人で本の世界に閉じこもるようになってしまった。
彼女は怖いのよ。好きになった人が、みんな自分の前からいなくなって
しまうんじゃないか。
要するに、友達を作る勇気のない、弱い人間なの。」
それを聞いた和美は教室を飛び出していく。由介が後を負う。
真矢は二人の背中を見つめて少し微笑む。
その頃ひかるは屋上にいた。
和美から貰った封筒をためらいながら開けようとするが出来ず、
本に挟んでしまう。
そんな様子を馬場は心配そうに影から見守っていた。
その視線に気づき、ひかるは歩き出す。
その時持っていた本が落ち、封筒から手紙が飛び出した。
ひかるはそれを拾い上げ、そして手紙を開いて読み出す。
『進藤さんのことが知りたいので、質問で~す。
食べ物は何が好きですか?
(わたしは牛乳以外なんでもOK)
将来の夢は何ですか?
(わたしはないんだよね、まだ)
面白い本があったら教えて下さい
(むずかしくないのお願い。すぐ寝ちゃうんだわたしの場合。ティヒ!)
好きな授業は何ですか?
進藤さんは勉強』
そこへ和美たちが駆けつける。
ひかるの肩に手をかけて泣きながら話しかける和美。
「私は、いなくならないよ。
ずっと友達でいるからね。
前に、進藤さんが、私をトイレに行かせるよう庇ってくれた時、
すっごい嬉しかった。
あの時、私が漏らしちゃったこともずっと黙っててくれたじゃん?
私、この人と同じクラスになれて良かったなって思ったんだからね。
この人と絶対親友になるんだって、決めたんだから。」
馬場も由介も微笑みながらその様子を見つめていた。
だがひかるは黙ったまま、自分の肩に置かれた和美の手をそっとどかした。
和美は涙をこぼしながら歩き出す。
由介が和美に続き、馬場も別の方向へ歩き出した。
教室では、みんなが和美の手紙に気づき、それぞれ読み始めていた。
和美は全員に手紙を書いていたのだ。
真剣な表情で読む恵里花。
窓際で並んで読み始める三人組。
みんな、神妙な面持ちで手紙を読んでいた。
「なにこれ、笑っちゃうよね。」
「信じらんない!みんなに書いてるの。」
「超ヒマだよね!」
三人の女子の声に、クラスの子供達はそれぞれ思うことがあったはずなのに
同調し始める。
桜と桃に何て書いてあったか聞かれた恵里花は、
「信じらんない!
まだ私のこと、この前島田さんの財布盗んだ泥棒とか書いてある!
むかつく!」
恵里花はそう言い、和美の手紙を破ってしまう。
すると、みんなが一斉に手紙を破り出す。
怒った由介は、男子たちともみ合いになる。
机の上に立ちあがりもみ合う由介たち。
和美も他の生徒も、必死に二人を止める。
和美が机に上がり止めようとしたとき、生徒の腕が思いっきり当たり
和美はそのまま窓ガラスを突き破り、廊下へ投げ出される。
割れたガラスが和美の足に突き刺さり、悲鳴を飲み込む和美。
丁度その時廊下にいたひかりは「いやーーっ!!」と悲鳴を上げる。
和美の足の下に、血の海が広がる。
生徒達が慌てて和美の元へ駆け寄る。
「神田!!」由介が声をかける。ひかるはその場へ座り込んでしまった。
「何をしているの?」真矢が廊下に姿を現す。
「神田さん?」意識を確認する。
「はい。」
「動かないで。」
真矢は怪我をした上の部分をギュっと掴んだまま彼女を抱き上げ保健室へ。
そしてピンセットでガラスを取り除いていく。
てっきり救急車を呼ぶのかと思いきや、自分で手当て!
しかも、慣れた手つきです。
こんな時でも慌てない真矢、すごいです!
教室の前。
「お前らみんな最低だよ!弱虫だよ!卑怯だよ!!
・・・って、俺もこの前神田に言われたんだけどね。
こうも言われたよ。
俺達が同じクラスになったのは、運命じゃないのか。
何でみんなと仲良くしたらいけないんだって。
いい思い出作ろうとして何が悪いんだって。
このままクラスがバラバラになるのは、絶対にいやだって。
お前らさ、あいつの言うこと、正しいって思わないのかよ?
みんないい加減目覚めろよ!
俺達が真矢の言いなりになったから、こんなことになったんだぞ!
クラスメートってさ、みんなで守るもんじゃないのかよ。」
由介はそう言うと、バラバラになった和美の手紙を拾い集め始める。
ひかるが手伝い始めた。
馬場は、自分の机に入れられた手紙を開けて読む。
『馬場ちゃんへ。
もうすぐ誕生日だよね。
今度誕生日回やろうね。
ハッピーバースディー』
便箋には、もぐらの絵描き歌の絵も書いてあった。
そして封筒の中にはもう一つ。パラパラ漫画が作られていた。
和美と馬場が笑顔で寄り添い抱きしめあうぱらぱら漫画。
「じゃあ、友達になってくれるの?」
「何言ってるの?当たり前じゃーん。」
いつかの二人の会話を思い出し、涙をこぼす馬場。
保健室。
「もう帰ったら?みんなの顔なんて見たくないでしょ?」
「いえ、大丈夫です。」
「なら、教室に戻りなさい。」
足を引きずりながら、和美が教室に戻ってきた。
クラスの生徒みんなが注目する。
後ろからやってきた真矢の姿に、生徒達は一斉に机につく。
「神田さん、真鍋君。
何やってるの?ガラスが危ないじゃない。早く片付けなさい。」
由介は掃除道具を取りに、和美は足を引きずりながら廊下へ出て行く。
みんな、その様子を見つめている。
「他の子たちは、予定を変更して、音楽の授業にします。
音楽室に移動して。」
「先生!」ひかるが発言する。
「なーに?」
「私は、神田さんたちを手伝います。
私、ずっと友達作るの避けてました。
でも神田さんは言ってくれました。
私は友達だよって。
何があっても、ずっと友達だよって。」
ひかるはそう言うと、和美を見つめて微笑む。
和美も、由介も嬉しそうに微笑む。
「親友が困ってるの、ほっとけませんから。」
「そんな愚かなことをして大丈夫?進藤さん。
神田さんたちと友達になって、何かいいことがあったかしら?
困った時、二人が助けてくれるかしら?
結局又裏切られて、一人ぼっちになるだけよ。
そうなってから後悔しても遅いのよ。
あなた達三人の味方になる人間は、このクラスにはもういないんだから。」
「先生!」馬場が立ち上がる。
「何ですか?」
「私・・・私も、神田さんたちの味方です!
私・・・私、初めてなんです。友達から手紙もらったの。
すっごく嬉しかった。」馬場が和美に向かってそう言う。
「俺も、一緒に掃除やります。」怪我をさせてしまった少年が立ち上がる。
「僕も!」「俺も!」「私も!」
次々と立ち上がる生徒達。
「ていうかさ、これからみんなで雑用やんない?」
「いいねー!」
「夏休みも、もう来ません!」
島田・松本・宮内の三人組が立ち上がる。
「俺も来ません!」
「卒業証書、いりません!」
「私もいりません!」と桃。
「私もいりません!」と恵里花。
真矢は、クラスを見渡し、まだ座ったままの男子生徒を見つめる。
その生徒が立ち上がり、「僕も、掃除手伝います。」と言った。
三人(?)の生徒を残した生徒達は立ち上がり、真矢を見つめていた。
「みんなとじっくり話す必要があるみたいね。
ちょうどいいわ。一人ずつ個人面談をしましょう。
そうね、最初は、佐藤さん。」
「え!?」恵里花が驚く。
「あなたからにしましょう。」
「困ったもんね、みんな。
友情なんていって、大事な授業を台無しにして。」
「あ、そ、そうですよねー。」笑顔で答える恵里花。
「佐藤さん。もし、またみんなが良からぬことを企んだら、
私に教えてくれない?」
「もしかして、スパイになれってことですか!?」
「知ってるのよ。
あなたが、島田さんの財布を盗んだ本当の犯人だってことぐらい。」
悪魔のような鬼教師に
小学6年の子供たちが戦いを挑んだ
一年間の記録
今日の語りは和美ちゃん!?
新聞でのタイトルは、
『夏休みはありません!!追いつめられた子供が引き起こした悲劇と奇跡!!』
神田家。
夕食時、妻が作った料理を誉め、和美に好物のハンバーグを分ける
父・武(尾美としのり)。
夫の茶碗にご飯を山盛りしながら、
「やましいことでもあるんじゃないの?」と妻・章子(羽田美智子)。
「そういう変な詮索するの、やめろよ。」
「料理のことなんか滅多に誉めないのに。
さっきもメールが、」
姉・優(夏帆)が、元気のない和美の変わりに麦茶をひっくり返し、
両親のケンカは中断される。
和美(志田未来)は、夏休みはないと言った真矢の言葉を思い出していた。
「夏休みの間、毎日出席するたびに、そのカードにこのシールを貼ります。
テストの成績が良かったり、運動や、音楽が優秀だったり、
挨拶がきちんとできる人にも、シールを張りますから、
全員、首からぶら下げて、常に携帯するように。
そうやって、各自のポイントを集計したものを、グラフにして張り出します。
もちろん、一番得点の低い人と、低い班には、居残りで罰を与えます。
そうね、みんなが帰るまで、机の上に正座して反省するのはどう?
もちろん、今まで以上に雑用も増やしてね。」
「あの、先生!得点が高い人には、何かいい事があるんですか?」
刈谷孝子(佐々木ひかり)が質問する。
「もちろんよ。
夏休みの間に、カードのポイントが満点になった人には、その場で卒業証書を
渡します。その人は、二学期から学校に来る必要はありません。
彼は、こんな物を貰うために、学校に来ている訳じゃないなどと、
愚かなことを言っていたけど、他の人は頭がいいからわかるわよね?
卒業証書をもらえれば、私立を受ける人は受験勉強に専念できるし、
他の人だって、朝寝坊しようが遅刻をしようが、もう文句を言われないのよ。」
「私は・・・やっぱりおかしいと思います。
しょ、小学校最後の夏休みなんだし、
みんなで海とか山とか行って、楽しい思い出を作りたいとか思わない?」と和美。
「いいですね~!海とか、山~!」と同調する真鍋由介(松川尚瑠輝)。
「やっぱり夏休みですしね~!」と和美。
「いいのよ。来たくない人はこなくても。
でもいいのかしら。自分達が遊んでいる間に、クラスのみんなに
どんどん取り残されても。」
「あとから頑張りましょうよ!」と由介。
「ねぇ!ファイトファイトー!」と和美。
「私、行きます!」
「僕も行きます!」
「私も!」「僕も!」と生徒達が次々に席を立つ。
和美と由介に賛同してくれる生徒は一人もいなかった。
真矢は、そんな様子を笑顔を浮かべ見つめていた。
朝、目を覚ますと気合を入れるように肩を回す和美。
朝食を食べたあと、ぼーっと何かを考え込む母親に夏休み授業の説明会の
お知らせを渡し、学校へと飛び出していく。
近藤校長(泉谷しげる)は真矢の提案に戸惑うが、上野教頭(半海一晃)は
どっちみち土、日以外は登校しなければいけないんだし、と賛成する。
意見を聞かれた並木平三郎(内藤剛志)は
「阿久津先生なら、心配ないかなーって思います。
ただ、有給で、家族旅行を計画していて、
旅行に、行きにくいぞー!なんて。」そう言い笑う並木。
いつもなら真っ先に真矢に反論する天童しおり(原沙知絵)はどこか元気がない。
学級便りにある児童のことを書いたら、保護者からプライバシーの侵害だと
クレームがつき、それで悩んでいるらしい。
「阿久津先生なら、どうします?」天童が尋ねる。
「教師なら、ご自分で考えたら。」と真矢。
理科室で、夏休み勉強会の説明会が開かれる。
「夏休みがないっていうのは、どういうことなんでしょうか?」
「うちは塾があるんですが。」「うちは実家に行くことになっていて。」
「給食は?「お金は?」
さまざまな質問が飛び交うなか、
「私たちも、小さい頃、楽しみでしたよね!夏休みってね。」
そう言ったのは章子だった。父兄に睨まれ、慌てる章子。
「私がわかっていただきたいのは、みなさんのお子さんは、今、
確実に成長しているということなんです。
それなのに、夏休みをだらだら過ごしていいんでしょうか?
せっかくの成長が止り、全て水の泡になってしまうんですよ。
お手元のスケジュール表を見ていただければわかると思いますが、
無料の塾代わりと考えていただければ、皆様にとっても、
決して悪くないお話だと思うんですが。
私立を受験するお子さんは、この夏休みが勝負です。
私立を受験する予定のないお子さんは、同級生と多くの時間を過ごした方が、
より有意義な毎日を送れます。
なぜなら、子供は、子供同士の間で成長するからです。」
母親たちは、真矢の言葉に感銘を受け、喜んで子供を通わせます、と言い出す。
「うちもお願いします!」章子もそう言う。
真矢はそんな母親を微笑を浮かべて見つめる。
章子と和美、考えることは一緒ですね。(笑)
下校時。
歩道橋を歩く進藤ひかる(福田麻由子)は、和美と勇介の姿を
少しだけ見つめ、また歩き出す。
勇介は、自分たちだけでフケて、お医者さんごっこでもしよう!とふざけるが
「私、やっぱり行く!
なんかピンチはチャンスって感じがするんだよね。
このチャンスを利用して、逆にみんなと仲良くなれるような気がして。」
「大丈夫かよ。又みんなに苛められるかもよ。」
「大丈夫だよ。だって・・・
私はもう一人じゃないからさ。」
照れる勇介。
「バカでお調子者でどうしようもないけどね。」
「それどういう意味だよ!」
「!!真矢だ。」
和美の言葉に勇介の動きが止る。
「バッカが、見るー!!」
二人が走り出すと、馬場久子(永井杏)が姿を現し、
怖い表情で二人の背中を見つめた。
馬場ちゃん、スパイ活動中!?
学校。
『康彦』からの着信に、嬉しそうに微笑む天童。
辺りを見渡し、電話に出る。
「もしもし、やっちゃん!ごめんね、昨日。
ちょっと保護者とトラブっちゃってさ。
大丈夫だよ。だって久しぶりのデートなんだし!」
突然現れた真矢に驚く天童は、慌てて電話を切る。
「トラブルの方は解決したの?」
「あ、いえ。なかなか、大変で。」
「それなのにデート。楽しそうね。」
「プライベートも、大事、ですから。」
「あなたみたいな人がいるから言われるのよ。
女性はいいですね。いざとなったら結婚すればいいなしって。
いっそ、お辞めになったら?恋人もそれを望んでいるんだろうし。」
怖い~!けど、真矢の気持ち、わかります。
職場、しかも学校で、デートの約束はちょっとまずかったんじゃないかな。
夏休み登校日初日。
校庭でラジオ体操をする子供達。腕組みをしてその様子を見つめる真矢。
体操が終わると、真矢の元へ駆け寄り、一列になってシールを貰う子供達。
和美、由介は列に並ばず、教室へ歩き出す。
和美は、同じく列に並ばなかったひかるにも手招きするが、無視される。
真矢は教室に戻っていく二人をちらっと見るが何も言わない。
算数の時間、一番最初に問題を解き、シールを受け取るひかる。
体育の時間、うさぎ跳びのレースで一着になり、大喜びでシールを貰う勇介。
「バーカ!」と和美が睨みつける。
給食は、生徒達自ら支度する。
「先生!これ食べてみて下さい。」
刈谷と恵里花が、我先にと真矢に作った物を出す。
すると他の生徒達も、自分のを食べてもらおうと持っていきだす。
まさに、『女王様』状態な真矢でした。
「今日も最下位は、いつもの二人みたいね。
みんなが帰るまで、反省していなさい。」
真矢に言われ、和美と勇介が机の上に正座する。
「一番成績の悪い班も6班だから、馬場さんと進藤さんはこの二人と
一緒に残って掃除をしておきなさい。」
「先生!班を代えて下さい。二人のせいで、いくら私が頑張っても
毎日雑用やらされるし。」
「進藤さんならともかく、あなたがそんなに偉そうなことを言えるような
成績をとっているかしら。」
他の生徒たちが、馬場を馬鹿にしたように笑い出す。
「カードを持ってきなさい。
くだらない質問をして、みんなの貴重な時間を無駄にしたから、
マイナスポイントです。」
「そんな・・・。」
「早くしなさい!」
馬場は仕方なくカードを真矢に見せる。
真矢は馬場のシールを何枚か剥がした。
授業を終え、生徒達が次々と帰っていく。
机の上に正座する二人は、そこから生徒達に声をかける。
だが誰も答えようとしない。
しびれた足を引きずりながら、和美はひかるに声をかける。
「進藤さんからも言ってくれないかな。
一緒に夏休み、楽しもうって。」
「無駄だから辞めたら?私立に行く人は真矢の言うとおりにした方が
都合いいんだし。
実際3学期になったら学校来ない子もいっぱいいるし。」
「じゃ、私立に行かない人は?」
「きっと、逃げたいから頑張っているのよ。
卒業証書もらえば、もう真矢の顔見なくてすむから。」
「じゃあ、進藤さんは何で学校に来てるの?」
「別に。家にいたくないから。
そっちこそそんなに悩むなんんら、来なきゃいいじゃん!」
「私たち、決めたんだ。
どんなに真矢に酷い目にあっても、絶対諦めないって!」
「俺は、無理やり約束させられたんだけどね!」由介。
「進藤さんも、私たちと一緒に、頑張らない?」
「何やってるの!?
何コソコソ話してたの!?
わかってるわよ!どうせ私の悪口でしょ?
真矢にチクろうとして相談してたんでしょ?」
ゴミ出しから戻ってきた馬場が言う。
「お前さ、被害妄想なんじゃねーの?」と由介。
「何か夏休みらしいことをしようと話してただけだよ。
そうだ!明日休みだし、4人でどっか行かない?
プールとか、遊園地とか!
同じ班なんだし!」
「私はパス!」とひかる。
「私だって!」と馬場。
「行こうよ、馬場ちゃん!ティヒ!」
翌日、待ち合わせ場所に二人は姿を現さず。
「しょうがないから二人でどこかに行く?何ならホテルとか!?」
和美は由介をキッと睨み
「行くわよ!!」と言いひかりの家を目指す。
そんな二人を影から馬場が見つめていた。
由介はどうせ又冷たくされるだけだからやめたほうがいいと言うが、
「私、進藤さんって本当はそういう人じゃない気がするんだよね。」と和美。
馬場は二人の後を見つからないようについていく。
『進藤デザイン事務所
進藤 麗子
ひかる』と書かれた表札。
自宅は事務所も兼ねているようですね。
そして、母親と二人暮しのようです。
インターホンを押すと、母親が応対に出る。
ひかるは本屋に行っているそうですぐに帰ってくると、二人を家に入れる。
「ひかるのお友達が来るなんて久しぶり。」と歓迎する母。
二人にケーキを振る舞い、ひかるの様子を聞く。
「あの子、学校ではどうなの?ちゃんとやってる?」
「進藤さんは勉強しなくてもすっごい成績いいですから。」
「でも、私立に行けって言ってるんだけど、ちっとも言うこと聞かないの。
担任の先生って、どんな方なの?
あの子、学校のこと何も話してくれないから。」
「え?じゃあ真矢に苛められたこととか知らないんですか?」と由介。
「え!?」
「あ、何でもないんです。ティヒ。」「ティヒ。」由介も真似てごまかす。
そこへひかるが帰ってきた。
「何か用!?」
「あら失礼じゃない。せっかく遊びにいらしてくれたのに。」
「ちょっと黙ってて。」
母親の言葉に驚く二人。
三人はひかるの部屋へ行く。
「何?話って。」
「なんていうか、進藤さんのこともっと知りたいなーと思って。」
和美はそこで、伏せられた写真たてを手にとって見る。
「可愛いね!友達?何年生の時?」
「いい加減にして!!これ以上干渉するのやめてくれる?」
「でもほら、私たち親友だし。」
「やめてよ!!あなたは私の親友じゃないから。
友達なんていらないから、私。
出てって。出てってよ!」
ひかるは二人を追い出してしまう。
マンションの廊下をがっかりしながら歩いていると、電気がチカチカとする。
嫌な予感がしながら振り返ると、真矢が立っていた。
弱気な由介にあきれ返りながら、和美が真矢へと真っ直ぐ歩いていく。
由介も仕方なく和美に続く。
「相変わらず無駄な努力しているみたいね。
みんなと仲良く夏休みを過ごしたいとかいって。
いい加減目覚めなさい。向こうは迷惑なだけなんだから。
今の世の中、みんな自分さえ良ければいいの。
周りの人間のことなんかどうでもいいの。
上辺では仲良くしているけど、あなたみたいに何も知らないくせに
心の中に土足で入ってくるような人間が、一番不愉快なの!
もう諦めなさい。あなたと友達になりたいなんて変わった人間は、
彼以外いないんだから。」
そう言い、真矢は立ち去った。
その様子を背後から、馬場が見ていた。
和美は真矢の言葉に益々落ち込み、帰っていった。
二人の背後に人影が見えたとき、怖かった~!まるでホラー!!
真矢は二人をつけてきた、というよりは、ひかるの心配をして来ていたように
感じます。
初登場のひかるのお母さん、とても優しそうな女性ですが、
そんな母親にひかるは冷たい態度のよう・・・。
まだ一枚もシールの貼られていない個人評価カードを見つめながら
「なーんか、お先真っ暗って感じ。」と呟く和美。
突然優に目隠しされ、悲鳴を上げる。
「何悩んでるの?」
「ねぇお姉ちゃん。もし私みたいのが同じクラスにいたら、友達になりたいと思う?」
「ぜーんぜん!」
「やっぱそうなんだ。」
「又真矢に何か言われたの?」優が笑いながら尋ねる。
「私と友達になる人なんか一人もいないって。
私みたいに何も知らないくせに、心の中土足で入ってくる人間は迷惑なだけだって。」
「確かにね。」
「やっぱそうなんだ・・・。」
「何も知らないのがいけないんだったら、知っちゃえばいいじゃん、みんなのこと。
そうすればOKってことでしょう?」
「でも、どうやって?」
「そんなの自分で考えなよ。」
「ちょっとお姉ちゃん!」
姉を追う和美はつまづき、ベッドに倒れこむ。
「・・・大丈夫?」
「!!ありがとう、お姉ちゃん!!」
真っ暗なリビング、懐中電灯を照らしながら和美は便箋と封筒をゲット!
そして、ひかるに手紙を書き始める。
鼻と口の間にエンピツを挟む和美ちゃん。
エンピツが落ちたときの笑顔が可愛かった!
その頃ひかるは、写真の少女を見つめていた。
翌朝、手紙の束をカバンに入れ、和美は嬉しそうに学校へと走る。
教室に一番に到着した和美は、机の中に手紙を入れて回る。
由介がやって来た。
「もしかして、みんなに手紙書いたとか!?」
「徹夜しちゃったから眠くって!」
そこへひかるがやって来た。
「おはよう、進藤さん!はい、これ。」
「何これ?」
「とにかく読んでみて。出来れば返事くらい欲しいなー。」
「あなた本当に暇ね。」
ひかるは手紙を受け取らずにそう言う。
由介は和美の手から手紙を奪い、
「おい!読んでやれよ!神田、徹夜して書いたんだぞ!」と突き出す。
だがひかるは受け取らない。
馬場が教室にやって来た。
「あ、馬場ちゃん!これ読んでくれる?」
「何これ、何かの陰謀?
こんなことしている暇あったら早く教室掃除しなさいよ!
授業の前に教室が汚れていたら、先生に怒られるでしょ!」
ひかるは本を読み出している。
「進藤さん、早くしてください!先生に見つかったらどうするの?」
だがひかるは答えない。
「進藤さん!班長の命令は聞いて下さい。」
「何よ、真矢の言いなりの癖に威張っちゃって。
ま、しょうがないわよね。
勉強も運動も出来ないからご機嫌とってないと真矢にいじめられる。
言っとくけど、あなたのことなんて誰も相手にしてないから。」
教室から飛び出していく馬場。
由介はちょっと言いすぎだ、とひかるに言う。
和美は、馬場のカバンから飛び出たノートを拾い上げ、それをひかるに
見せる。そこには、読書をしたり、微笑むひかるの絵が4点描かれていた。
「馬場ちゃん、ずっと進藤さんに憧れてたんだよ。
進藤さんみたいになりたいって、ずっと思ってたんだよ。
クラスの誰よりも友達になりたいって、思ってたんだよ。」
「言ったでしょ。友達なんかいらないって!」
ひかるはそう言うと、乱暴に手紙を掴み教室を出ていってしまう。
「まだ掃除してないの?早くしなさい。」
教室の外にはいつの間にか真矢が立っていた。
二人に冷たくそう言い、立ち去ろうとする。
「先生!進藤さんのこと教えて下さい!
先生なら知っているんでしょう?
どうして友達がいらないなんて言うんですか?」
「イメージ出来る?
昔は明るくて素直な子だったの、彼女。
でも小学校3年生の時、両親が離婚して変わってしまった。
大好きな父親と離れて暮らさなければならなくなり、
しかも離婚の原因が、リストラされた父親を、母親が見捨てたせいだと
わかって、彼女に反感を持つようになってしまった。
でも、その頃出来た親友のおかげで、彼女は明るさを取り戻したの。
その親友と一緒にいれば、辛いことも忘れられるようになったから。
でも今度は、その親友に、母親が酷いことを言ってしまった。
あなたはうちの子にふさわしくないから、家に遊びに来ないでって。
しかも、信じられないことに、その翌日、その親友は交通事故で
亡くなってしまったの。
それ以来彼女は、完全に母親に心を閉ざしてしまった。
母親は親友を、殺したと思い込んだのね。
同級生とも距離を置いて、一人で本の世界に閉じこもるようになってしまった。
彼女は怖いのよ。好きになった人が、みんな自分の前からいなくなって
しまうんじゃないか。
要するに、友達を作る勇気のない、弱い人間なの。」
それを聞いた和美は教室を飛び出していく。由介が後を負う。
真矢は二人の背中を見つめて少し微笑む。
その頃ひかるは屋上にいた。
和美から貰った封筒をためらいながら開けようとするが出来ず、
本に挟んでしまう。
そんな様子を馬場は心配そうに影から見守っていた。
その視線に気づき、ひかるは歩き出す。
その時持っていた本が落ち、封筒から手紙が飛び出した。
ひかるはそれを拾い上げ、そして手紙を開いて読み出す。
『進藤さんのことが知りたいので、質問で~す。
食べ物は何が好きですか?
(わたしは牛乳以外なんでもOK)
将来の夢は何ですか?
(わたしはないんだよね、まだ)
面白い本があったら教えて下さい
(むずかしくないのお願い。すぐ寝ちゃうんだわたしの場合。ティヒ!)
好きな授業は何ですか?
進藤さんは勉強』
そこへ和美たちが駆けつける。
ひかるの肩に手をかけて泣きながら話しかける和美。
「私は、いなくならないよ。
ずっと友達でいるからね。
前に、進藤さんが、私をトイレに行かせるよう庇ってくれた時、
すっごい嬉しかった。
あの時、私が漏らしちゃったこともずっと黙っててくれたじゃん?
私、この人と同じクラスになれて良かったなって思ったんだからね。
この人と絶対親友になるんだって、決めたんだから。」
馬場も由介も微笑みながらその様子を見つめていた。
だがひかるは黙ったまま、自分の肩に置かれた和美の手をそっとどかした。
和美は涙をこぼしながら歩き出す。
由介が和美に続き、馬場も別の方向へ歩き出した。
教室では、みんなが和美の手紙に気づき、それぞれ読み始めていた。
和美は全員に手紙を書いていたのだ。
真剣な表情で読む恵里花。
窓際で並んで読み始める三人組。
みんな、神妙な面持ちで手紙を読んでいた。
「なにこれ、笑っちゃうよね。」
「信じらんない!みんなに書いてるの。」
「超ヒマだよね!」
三人の女子の声に、クラスの子供達はそれぞれ思うことがあったはずなのに
同調し始める。
桜と桃に何て書いてあったか聞かれた恵里花は、
「信じらんない!
まだ私のこと、この前島田さんの財布盗んだ泥棒とか書いてある!
むかつく!」
恵里花はそう言い、和美の手紙を破ってしまう。
すると、みんなが一斉に手紙を破り出す。
怒った由介は、男子たちともみ合いになる。
机の上に立ちあがりもみ合う由介たち。
和美も他の生徒も、必死に二人を止める。
和美が机に上がり止めようとしたとき、生徒の腕が思いっきり当たり
和美はそのまま窓ガラスを突き破り、廊下へ投げ出される。
割れたガラスが和美の足に突き刺さり、悲鳴を飲み込む和美。
丁度その時廊下にいたひかりは「いやーーっ!!」と悲鳴を上げる。
和美の足の下に、血の海が広がる。
生徒達が慌てて和美の元へ駆け寄る。
「神田!!」由介が声をかける。ひかるはその場へ座り込んでしまった。
「何をしているの?」真矢が廊下に姿を現す。
「神田さん?」意識を確認する。
「はい。」
「動かないで。」
真矢は怪我をした上の部分をギュっと掴んだまま彼女を抱き上げ保健室へ。
そしてピンセットでガラスを取り除いていく。
てっきり救急車を呼ぶのかと思いきや、自分で手当て!
しかも、慣れた手つきです。
こんな時でも慌てない真矢、すごいです!
教室の前。
「お前らみんな最低だよ!弱虫だよ!卑怯だよ!!
・・・って、俺もこの前神田に言われたんだけどね。
こうも言われたよ。
俺達が同じクラスになったのは、運命じゃないのか。
何でみんなと仲良くしたらいけないんだって。
いい思い出作ろうとして何が悪いんだって。
このままクラスがバラバラになるのは、絶対にいやだって。
お前らさ、あいつの言うこと、正しいって思わないのかよ?
みんないい加減目覚めろよ!
俺達が真矢の言いなりになったから、こんなことになったんだぞ!
クラスメートってさ、みんなで守るもんじゃないのかよ。」
由介はそう言うと、バラバラになった和美の手紙を拾い集め始める。
ひかるが手伝い始めた。
馬場は、自分の机に入れられた手紙を開けて読む。
『馬場ちゃんへ。
もうすぐ誕生日だよね。
今度誕生日回やろうね。
ハッピーバースディー』
便箋には、もぐらの絵描き歌の絵も書いてあった。
そして封筒の中にはもう一つ。パラパラ漫画が作られていた。
和美と馬場が笑顔で寄り添い抱きしめあうぱらぱら漫画。
「じゃあ、友達になってくれるの?」
「何言ってるの?当たり前じゃーん。」
いつかの二人の会話を思い出し、涙をこぼす馬場。
保健室。
「もう帰ったら?みんなの顔なんて見たくないでしょ?」
「いえ、大丈夫です。」
「なら、教室に戻りなさい。」
足を引きずりながら、和美が教室に戻ってきた。
クラスの生徒みんなが注目する。
後ろからやってきた真矢の姿に、生徒達は一斉に机につく。
「神田さん、真鍋君。
何やってるの?ガラスが危ないじゃない。早く片付けなさい。」
由介は掃除道具を取りに、和美は足を引きずりながら廊下へ出て行く。
みんな、その様子を見つめている。
「他の子たちは、予定を変更して、音楽の授業にします。
音楽室に移動して。」
「先生!」ひかるが発言する。
「なーに?」
「私は、神田さんたちを手伝います。
私、ずっと友達作るの避けてました。
でも神田さんは言ってくれました。
私は友達だよって。
何があっても、ずっと友達だよって。」
ひかるはそう言うと、和美を見つめて微笑む。
和美も、由介も嬉しそうに微笑む。
「親友が困ってるの、ほっとけませんから。」
「そんな愚かなことをして大丈夫?進藤さん。
神田さんたちと友達になって、何かいいことがあったかしら?
困った時、二人が助けてくれるかしら?
結局又裏切られて、一人ぼっちになるだけよ。
そうなってから後悔しても遅いのよ。
あなた達三人の味方になる人間は、このクラスにはもういないんだから。」
「先生!」馬場が立ち上がる。
「何ですか?」
「私・・・私も、神田さんたちの味方です!
私・・・私、初めてなんです。友達から手紙もらったの。
すっごく嬉しかった。」馬場が和美に向かってそう言う。
「俺も、一緒に掃除やります。」怪我をさせてしまった少年が立ち上がる。
「僕も!」「俺も!」「私も!」
次々と立ち上がる生徒達。
「ていうかさ、これからみんなで雑用やんない?」
「いいねー!」
「夏休みも、もう来ません!」
島田・松本・宮内の三人組が立ち上がる。
「俺も来ません!」
「卒業証書、いりません!」
「私もいりません!」と桃。
「私もいりません!」と恵里花。
真矢は、クラスを見渡し、まだ座ったままの男子生徒を見つめる。
その生徒が立ち上がり、「僕も、掃除手伝います。」と言った。
三人(?)の生徒を残した生徒達は立ち上がり、真矢を見つめていた。
「みんなとじっくり話す必要があるみたいね。
ちょうどいいわ。一人ずつ個人面談をしましょう。
そうね、最初は、佐藤さん。」
「え!?」恵里花が驚く。
「あなたからにしましょう。」
「困ったもんね、みんな。
友情なんていって、大事な授業を台無しにして。」
「あ、そ、そうですよねー。」笑顔で答える恵里花。
「佐藤さん。もし、またみんなが良からぬことを企んだら、
私に教えてくれない?」
「もしかして、スパイになれってことですか!?」
「知ってるのよ。
あなたが、島田さんの財布を盗んだ本当の犯人だってことぐらい。」