「新堂― 太刀川― お部屋おいでー」
今日は1学期終業式の日。
かったるい式を終え、欲しくもない成績表を持たされ、
ようやく待ちに待った夏休み、という放課後に突然落とされた爆弾に、
惣一とつばめは顔を見合わせた。
「な、なんでぇ!?」
「そうだそうだ!! そんないきなりっ」
抗議の声を上げる二人に、風丘がニコッと問いかける。
「なんでだと思うー?」
「いやなんでって…」
「僕たちが思い浮かばないから聞いたんですけどっ」
正直、細々したことならいろいろありすぎていちいち覚えていない。
下手な墓穴を掘るくらいなら、何も言わない方がましだ。
二人がムッと口をつぐむと、
風丘がやれやれ、とため息をついて口を開いた。
「昨日の放課後、部活サボってどこにいたの?」
「「!!!」」
それか、と二人が腑に落ちた瞬間、
それは結構まずいやつだととりあえず駆け出すが…。
ガチャガチャ
「!? いつの間に!?」
用意周到にいつの間にか教室のドアにカギがかけられていて、
それを開けようと手間取っている間にあっさり捕まってしまったのだった。
ビシィィンッ ビシィィンッ
「いったぁぁぁぃっ」「ってぇぇぇっ」
揃って部屋に連行され、ソファの背もたれにお腹をのせる形で
仲良くお尻を突き出す姿勢で並んだ二人は、
風丘からの物差しのお仕置きに大騒ぎしていた。
部屋に着いた途端、
平手にしてあげるつもりだったけど、逃げようとしたからねー、と
いきなり物差しを持ち出され、血の気が引いたのは言うまでもない。
温情で下着は残されたままだが、
もう10数発受けてお尻は絶対に赤くなっているし、
この最初で最後の砦もいつ無情に降ろされるか分かったものではない。
「まったく…職員室から鍵盗んでパソコンルームに侵入して…」
ビシィィンッ ビシィィンッ
「あーーっ!!」「いぃぃぃぃっ」
「部活サボってYouTube見てたとか…」
ビシィィィンッ ビシィィィンッ
「いたぁぁぁぁっ」「うぁぁぁっ」
「またしょうもないことするんだからっ」
ビシィィンッ ビシィィンッ
「痛い痛いっ」「ぎゃぁっ」
風丘がこれを知ったのは、情報科の教員からのタレコミだったらしい。
元々昨日の放課後は高等部の職員会議で職員たちは会議室に集まっており、
パソコンルームのカギを貸した覚えもないのに、
パソコンルームのパソコンが動いた形跡があるのを
今朝その教員が気付き、
不審に思ってパソコンルーム前の防犯カメラを警備員と確認したら
惣一とつばめが映っていた、と。
情報科の教員は、風丘よりも若い気の弱そうな男性教員だから油断していた。
ご丁寧にログまでチェックして、
YouTubeでゲーム実況動画を見ていたことまで風丘に報告してきたらしい。
お仕置きが始まる前にそれを聞かされ、
プライバシーの侵害だ!と惣一が喚くと、
学校の備品勝手に使っておいて偉そうなこと言わない、と風丘に一刀両断され、
物差しの前に余計に平手を3発もらうことになった。
「部活サボったくらいじゃ俺もそんなに怒らないけどねぇ。
職員室でカギ盗んで、勝手に入って備品使うとか、
ほぼほぼ犯罪行為だからね?」
分かってるー?と、言いながら、風丘は容赦のない物差しを振り下ろす。
ビシィィンッビシィィンッ ビシィィンッビシィィンッ
「あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!」「いたいいたいむりむりむりっ」
いたーい足の付け根に左右的確に打ち込まれ、
二人して背もたれからずり落ちて悶絶する。
しかし、そんな二人を見る風丘の目は冷ややかだ。
「何やってんの。あとそこもう2セット。じゃなきゃ仕上げいけないよー?」
「いや無理だってマジでっ…」「いまのほんといたいぃ…」
お尻を抑えて蹲る二人だが、
風丘は物差しを持ったまま腕組みしてそんな二人を見下ろす。
「いつまでそうしてるつもりかなー。仕上げの回数どんどん増えてくよー。」
ちなみにもう仕上げは下着無し決定ね♪とはっきり宣言され、
何回かわからない仕上げがどんどん増えていくのも恐ろしくて、
二人は諦めてなんとか立ち上がり、元の位置に戻る。
なんだかんだ、ここで駄々を捏ねても絶対に良い方には転がらないことを
経験上嫌というほど知ってしまっている二人だった。
ビシィィンッビシィィンッ ビシィィンッビシィィンッ
「い゛い゛ってぇぇぇっ」「ほんといたいってばぁぁっ」
ビシィィンッビシィィンッ ビシィィンッビシィィンッ
「ぎゃぁぁぁっ」「い゛やぁぁぁっ」
足の付け根に左右を3セット、
声が嗄れんばかりの大絶叫で何とか受け終わった二人だが、
まだ終わりではない。
また崩れ落ちてお尻を擦る二人の目の前に、
いやーなボックスが引っ張ってこられた。
「それじゃ、選んでー。二人一緒のでもいいし、別でもいいけど。」
悲しいかなこの仕上げの道具を選ぶシステムにも
1学期の終わりともなれば慣れっこになってしまった。
まだ半分くらいは未知の道具だが、それらは恐ろしすぎて体験したくもない。
比較的選びやすい(それでももちろん痛いけど)物差しの選択肢を奪われてしまい、
二人はうんうん唸りながら、靴べらを選択した。
「はい、じゃあ下着おろして元の体勢に戻って。
回数は…どうしよっかな…」
靴べらをパシパシ掌に当てながら、わざとらしく風丘が呟く。
素直にお尻を出さなければ回数を増やすぞ、という脅しであることは
ここまでの付き合いになれば容易に伝わる。
二人は慌ててどちらからともなくお尻を出して、元の位置に戻る。
さっきの3セットが痛すぎて、
とりあえず少しでも少ない回数で終わってほしかったのだが…
「10回? 20回?」
「は、はぁぁっ!?」「なんで全然多いっ…」
いつもの仕上げは3回だ。さっき少し抵抗したとはいえ、
お尻も素直に出したのに、いきなりそんなに増やすなんて、そんな殺生な。
二人が抗議の表情を見せると、風丘はえー、だって、と続ける。
「痛い痛いばっかりで、まだごめんなさいも聞いてないしねぇ」
「っごめんなさい!」
「ごめんなさいっ ごめんなさいっ」
指摘されて二人して慌てて口にするももう遅かった。
「はいはい、じゃあ10回ね。」
ベシィィンッ ベシィィンッ
「「ごめんなさいぃぃぃっっ」」
渾身のごめんなさいも空しく、容赦ない10発が二人のお尻にお見舞いされた。
待ちに待った夏休み1日目は、
痛いお尻を庇いながらの散々な1日になりそうな二人なのだった。