ゴールデンウィークも終わり、休みが恋しくなりながらもまったりと過ごす5月半ば。
昼休みの最中、惣一は幼稚園から幼なじみの西園 夏蓮(にしぞの かれん)に話しかけられた。
「ねぇ、惣一。明日の放課後、少し空いてない?
ちょっと話したいことあるんだけど…。」
怖ず怖ず、といった様子の夏蓮に、惣一は素っ気なく一言で返した。
「んー? 無理。つばめとゲーセン行くから。」
「そう…明後日は…部活、だよね…。じゃあ、今度の土日は?」
「やだよ。なんでわざわざ休みの日に夏蓮と予定合わせて会わなきゃなんねーの。」
「っ…そう…だよね。分かった。ごめん。」
惣一が断ると、夏蓮はなにか言いたげな、一瞬少し寂しそうな表情をしたが、微笑んで教室を出て行った。
そんな夏蓮の後ろ姿を見送って、つばめが惣一の背をつつく。
「ねー、惣一。最近夏蓮ちゃんに冷たくなーい? この前もお誘い断ってたじゃん。
親衛隊に殺されちゃうよー?」
「…ほっとけよ…。最近あいつなんだか知らねぇけどしつこいんだよ…」
「親衛隊?」
仁絵が首をかしげると、ひーくんそういうの興味ないもんねぇ、と洲矢が笑う。
「夏蓮ちゃん可愛いからねぇ。」
「うんうん。見た目ちょっとギャルっぽいけど女の子っぽくて優しいし。」
洲矢とつばめの意見に、そうかー?とピンときていないような返事をする惣一に、
つばめがうーんと唸る。
「惣一は夏蓮ちゃんと幼稚園から一緒だもんねぇ…そういう見方しないかー」
「去年くらいだっけ? 親衛隊できたの。」
洲矢が夜須斗に問う。
「あぁ。まぁほとんど西園と絡めない他クラスの奴らだけどな。」
ほぼほぼクラス替えがない星ヶ原中高なので、
中1で別クラスならもう同じクラスになるチャンスは皆無なのだ。
「そいつらに訳分からん目ぇつけられてこっちはいい迷惑なんだよ…。」
惣一が独り言ちる。
「そもそもあいつが幼なじみだからって無駄に俺にまとわりついてくんのが悪ぃんだよな。
よりどりみどりなんだから早く適当な男作って諦めさせろよ…。」
「は?」
惣一の言葉に夜須斗が声を上げて惣一を見つめる。
「え?」
惣一が返すと、夜須斗は呆れて返す。
「惣一それまさか本気で言ってる?」
今度は惣一がどういう意味だと返そうとした時。
教室に夏蓮が戻ってきた。…というより、正しくは引っ張られてきた。
「ちょっと惣一! あんたなんで夏蓮に予定合わせてあげないのよ!
もう先月からずっとでしょ!?」
「またうるせーのが来た…。」
怒鳴り込んできたなるみ…(日山[ひやま] なるみ)に惣一がうげっと顔をしかめる。
「あんただけなのよ、親衛隊まで出来た夏蓮のお誘い断る失礼な身の程知らず!」
「あぁ?」
なるみのキツい物言いに、惣一の空気が変わったのを感じて、夜須斗がすかさず口を挟む。
「おい日山。惣一変に刺激するなよ。惣一も、それ以上…」
「はぁ? 夜須斗は黙ってて、なんであたしがこんな奴のご機嫌伺わなきゃいけないの!」
「うざ…だから嫌なんだよ…夏蓮と絡むの…」
「っ…」
「何その言い方っ」
夏蓮が息を呑み、なるみが噛みつく。
しかし、惣一は完全にスイッチが入ってしまったのか、なるみ以上のキツい言葉を投げつけた。
「こっちから頼んでもねーのにまとわりつかれてむしろメーワク。うざったいんだよ!」
「もうやめときな、惣一。」
夜須斗の制止もきかなかった。
「だいたいマドンナだの親衛隊だの持ち上げられて良い気になってる身の程知らずは夏蓮の方だろ!
調子に乗って、大したことないブサイクのくせに!」
「ちょ、ちょっと惣一!」
「っ!!」
「あ、夏蓮ちゃん!」
惣一の言葉に耐えられなくなった夏蓮が教室を飛び出した。
つばめが呼びかけて、全員の視線が夏蓮の飛び出した教室のドアに向いた一瞬だった。
パァァンッ
「っ…にすんだてめぇぇぇぇっ!!!」
なるみが思いっきり惣一を平手打ちした。
意識が夏蓮の方に向いていた惣一は振り上げられたなるみの手に気付かず、
思いっきりビンタを受けてしまった。
我に返った惣一がなるみに掴みかかろうとすると、咄嗟に動いた仁絵によって止められた。
「惣一! 女に手ぇ出すな。」
「…それに、今のは惣一が悪い。」
夜須斗に断罪され、惣一は仁絵に押さえられた腕は下げたが、怒りは収まらず思い切り壁を蹴った。
一方、教室を飛び出した夏蓮は、授業のために教室に向かう風丘と廊下ですれ違った。
「夏蓮さん? もう授業だよ? どうかした?」
もう授業開始3分前だ。これからどこか行くにはいささか厳しい。
夏蓮のただならぬ様子を感じ取ったのか、
風丘の心配する優しい声に呼び止められて、耐えていた夏蓮の心は決壊した。
「せんせっ…風丘せんせぇ~っ…」
「えっ…あっ…ちょっとほんとにどうしたの、夏蓮さん…」
風丘にすがりついて泣きじゃくる夏蓮に、風丘は困ったように背中をトントン叩いてあやす。
「あぁ、ほら泣かない、泣かない。」
「あっ…夏蓮さん!」
教室で一部始終を見守っていて、夏蓮を追ってきた和歌葉が風丘と夏蓮に追いついて声をかけた。
「あぁ、和歌葉さん。良かった。事情を知ってる?」
「は、はい。何となくは…。」
「よし、OK。さぁ、じゃあ夏蓮さん。和歌葉さんも来てくれたし、保健室行こうか。
今日は雨澤先生だから。」
風丘はそう言って夏蓮の手を引き、和歌葉を伴って保健室に送り届けた。
その道中、これまでの経緯を聞きながら。
夏蓮を保健室へ送り、諸々の事情を聞いて授業開始から少し遅れて風丘が教室に戻ると、
教室の雰囲気はどんよりしていた。
「うわぁ…空気サイアク。」
その元凶の1人である惣一のもとに行くと、
ふて腐れてそっぽを向いている惣一の肩を叩いて風丘の方を向かせる。
「粗方の事情は聞いてるけど。まぁ新堂のお口が悪すぎだね。」
「っなんで俺ばっか!!」
「たとえヤキモチでも女の子に向かって『ブサイク』なんて言って良いわけないでしょ。」
「ヤキモチ?」
風丘の言葉につばめがん?と引っかかると、惣一は焦ったように口を開く。
「は、はぁ? 元はといえばっ…」
「とりあえず新堂はこの後お部屋だけど。まぁそうだね。あとは…日山。」
「っ!」
名字を呼ばれ、なるみが肩を震わせる。
教室の空気も心なしかピリッとした。
経験があろうとなかろうと、名字呼びが意味するところは中学から風丘のクラスの生徒なら周知の事実なのだ。
まさかの展開に、夜須斗が慌てて割って入る。
「えっ…風丘待って、日山はっ」
「分かってるよ。大丈夫。問答無用にはしないから。」
心配そうな夜須斗の視線に、風丘は優しく笑って日山に向き直る。
「…日山。いくら友達のためとはいえ、手出すのはよくなかったかな。
しかも日山の感情の勢いのままに叩いちゃったんじゃない?」
風丘に図星を指され、先ほどの勢いはどこへやら、なるみは俯いてしまう。
「後悔するような、感情にまかせて叩くのは暴力になっちゃうよ。それは絶対にダメ。
日山なら分かるでしょう?」
「…はい…。」
「うん、そしたら叩いちゃった手を出して。」
「先生っ…」
「日山。出しなさい。」
躊躇っているとピシリと少し強く言われてしまい、
なるみは観念して、惣一を平手打ちした右の手の平を風丘に向かって差し出した。
風丘は胸ポケットにしまっていた指示棒を取り出して伸ばすと、差し出されたなるみの手の平に軽く当てる。
「ちょっと我慢ね。」
そう言うと、風丘は指示棒をヒュンッと振り下ろした。
ピシィィンッ
「っいったぁぃっ」
「日山。新堂にごめんなさいできる?」
「っ…」
手の平をさすって無言のなるみに、風丘があれれと目を丸くする。
「意外と意地っ張りさんだね。日山もお部屋に行く?」
「やっ…それは嫌っ…」
そうなれば意味することは1つだ。
なるみは慌てて首をぶんぶんと横に振った。
「謝りますっ ちゃんと言いますからっ…」
「よし、約束ね。今の新堂じゃ素直に聞けないと思うから、新堂がお部屋から帰ってきたら仲直りしてね。
はい、新堂行くよー。」
「なっ…今授業中っ…」
日山とのやりとりに呆気にとられていた惣一だが、突然矛先が戻ってきて我に返って反抗する。
「奇跡的に我がクラスは世界史の進み具合がとってもいいからねー
今日はワークで大丈夫。歩夢くんあとはよろしくー」
「はーい。どーぞごゆっくり~」
「歩夢てめっ…ごゆっくりじゃねーだろ!」
暢気な返事の歩夢に惣一が噛みつくが、そんな間にも風丘は惣一の腕を掴んで歩き出す。
「お言葉に甘えて~」
なるみが手を打たれた時はその衝撃に息を呑んでいたクラスメイトたちだが、
こっちの風景は日常茶飯事。
慣れたように送り出すと、
クラスメイトの前で叱られたなるみが気まずそうに頬を染めている以外は
皆何事もなかったかのように自習に取りかかったのだった。
「さて、と。とりあえずお仕置きから済ませちゃおうか。」
部屋に着くなり、風丘はソファに座り、膝を叩いた。
何だかんだ惣一が高校生になってから部屋でのお仕置きは初なのだが、
様子は全く中学の時と変わらない。
「もう高校生なんだから…」
食い下がろうとするが、そんな惣一を風丘は衝撃の一言で一刀両断した。
「好きな女の子に素直になれなくて『ブサイク』なんて最低な憎まれ口叩く子は
精神年齢中学生…いや小学生と変わらないでしょ。」
「なっ…なっ…」
ストレートに放たれた「好きな女の子」という言葉に、
惣一はお仕置きされることとは全く違うところで顔を真っ赤にする。
「す、好きなんかじゃっ…」
「…その反応で否定するのは無理があるでしょ。
まぁ、あんまりプライベートなことに口出ししたくはないんだけど
お口が悪かったことは反省してもらわないとね。」
「っ…」
「はい、おいでー。」
「うぉっ」
風丘に見透かされていたことに狼狽えている惣一の腕を引いて、
膝の上にのせると、あっという間に履いているものを下ろしてお仕置きのスタンバイ。
「とりあえず30回かな。いくよー」
気の抜けた口調はいつも通りだが、しかし落ちてきた平手は想像以上だった。
バッシィィンッ
「いぃっ!!??ってぇぇぇっ」
惣一は伊達に中1からお仕置きされてきていない。
自慢できたことではないが、
風丘の「これくらいの怒り具合ならお仕置きはこれくらい」という加減は知っているつもりでいた。
しかし、予想以上の平手の強さに惣一は目を白黒させて慌てた。
「なっ…なんでこんな痛ぇのっ…」
「何言ってるの。お仕置きなんだから痛いの当たり前でしょ。それに…」
バッシィィンッ バシィンッ バッシィィンッ バシィィンッ
「んんんっ! あ゛あ゛っ…あ~~~っいってぇぇっ」
「俺のお仕置き舐めてもらっちゃ困るからね。
高校生になったんだから、お仕置きも高校生仕様だよ☆」
バシィンッ バシィンッ バシィンッ バシィンッ バッシィィンッ
「あ゛あ゛!? いっ…てぇぇぇぇっ ちょっと待っていらないっそんなバージョンアップいらないぃっ」
重たい1発が降ってきたかと思えば息つく間もない連打。
中学生の時のお仕置きと違って、緩急の織り交ぜが激しくなり、
予測のつかない平手はいつものお仕置きの何倍も厳しく感じる。
正直平手30発なんて何度も受けてきたお仕置きだ。しかし、感じる痛みは段違いだった。
…バチィィンッ バチィィンッ バシィンッバシィンッバシィンッ
バッシィィンッ バッシィィンッ バッシィィンッ バチィンッバチィンッ
「ぎゃぁっ…ああっ…もっ…ごめんっ…ぐすっ…いてぇぇっ…うぁぁっ…あやまるっ
かれんにもひやまにもあやま…いってぇぇぇっ」
そして30発に到達する前に、惣一の方から陥落した。
高校生にもなって情けないが、風丘に敵わないことを改めて痛感させられた。
「うん、良い子。ちゃんと2人に謝って…夏蓮さんに少し素直になってあげな?
親衛隊なんて出来ちゃって寂しかったって。」
「ん…なんじゃねぇよ!!」
バチィィィィンッ
「うわぁぁっ うぅっ…」
「ほら、そういうところ。フフッ、それじゃあやっぱりヤキモチかな?」
「だっ…だからそんなんじゃ…っ」
バッチィィィンッ
「あ゛あ゛あ゛っ」
「はい、さーんじゅっ。 よし、じゃあ一旦起きてー」
最後に締めの強烈な平手をもらい、惣一が解放されて思わずお尻をさすっていると、
風丘はどこからともなく衣装コンテナのような大きなプラスチックの箱を引っ張ってきた。
そしてその中身を見て、惣一は思いっきり顔を引きつらせた。
「な、何だよこれ…」
その中身は、物差し、靴べら、指示棒、ベルト、洋服ブラシ、縄跳び、布団叩き等など…
一見統一感がないが、惣一には何を意味するものか嫌でも分かってしまうものたちが
一緒くたに集められていた。
「お仕置き高校生仕様って言ったでしょ。
これからお部屋でお仕置きの時は必ず最後仕上げに道具で3発。」
「なぁっ!?」
「今日は好きな道具選ばせてあげる。好きなの1つ取ってソファの座面に手ついて。」
「すっ…好きなのなんてあるわけねぇだろ!!」
「選べないなら俺が選んであげるけど? とっておきのヤツ♪」
不敵に笑う風丘に、惣一は冷や汗が流れるのを感じた。
絶対にろくでもない未知の道具を選んでくるに決まってる。
焦った惣一は箱の中のものの中では痛みをよく知っている、
そういう意味で好きというよりむしろ嫌いな物差しをひっつかんで風丘に突き出した。
「こ、これにする!」
「ハイハイ、物差しね。さ、じゃあほらとっとと手をつく!」
背もたれ側に連れて来られて手をつくように指示をされたので、
いくら背が伸びてきたとはいえ少し背伸びするような格好で背もたれにおなかが乗る形で、
お尻の位置がかなり高くになってしまった。
なんとなく嫌な予感がして心がざわざわしている惣一に、その衝撃は突然訪れた。
ベシィィンッ ベシィィンッ ベシィィィンッ
「あぁぁぁぁぁっ!!??」
「はい、おーしまいっ」
物差しによる仕上げの3発は、右のお尻の付け根、左のお尻の付け根、一番赤く腫れたお尻の天辺と
最悪の3カ所にクリーンヒットで、惣一はただただ悶絶するしかなかった。
背もたれからずり落ちてうずくまる惣一を尻目に、
風丘はこともなげに冷やしたタオルを冷蔵庫から取り出し、
ズボンを上げることも出来ないままの惣一のお尻に当てる。
「んぁっ…つめてっ…」
「ほら、ソファにうつ伏せにならないと冷やしづらいよ。」
「んん…マジで鬼…何なんだよこのやり方…」
お尻に当てられたタオルを手で押さえながらソファにうつ伏せになった惣一は、
恨みがましくデスクの椅子に座った風丘を見つめる。
こんなお仕置きは知らない。
高校生になった途端、予告なくこんな厳しいお仕置きをしてくるなんて卑怯だ。
惣一の愚痴は、風丘に笑って受け流された。
「クスクスッ 今日のお仕置きのこと、ちゃんと皆に共有してあげてね。
身をもって体験した第一号として。」
「何で俺ばっかり…」
思えば中学時代の本格的なお仕置きの犠牲者第一号も惣一だった。何にも嬉しくない。
「そんな怒ってなさそうだったのに…」
「まぁ、原因は微笑ましいヤキモチだからね。
もっとおっきな悪さだったらこんなもんじゃすみません。」
「だからヤキモチじゃねぇって…」
「はいはい、あと10分で授業終わるから、早く謝って仲直りすることっ」
風丘に取り合ってもらえず、惣一は顔を赤くしてソファのクッションに顔を埋めて黙り込むのだった。
ガラガラッ
「あ、惣一帰ってきたー!」
教室の後ろのドアを開けて入ってきた惣一の姿を見て、つばめがご丁寧に大声で報告してくれる。
あれから10分、授業終了を告げるチャイムの音が鳴った途端、
風丘にお尻の上のタオルを取り上げられ、服も直され、とっとと部屋を追い出された。
引きずり込んだのはそっちのくせに…と、
まだ全然痛むお尻をさすりながら、惣一は教室に戻ってきた。
実際は、痛い内の方が幾分素直になれるだろうという風丘のお節介なのだが。
惣一はまず、気まずそうに机に向かってまだ俯いているなるみの所へ行った。
「日山…わ…悪かった。いきなりガン飛ばして掴みかかって…」
そろっと恐る恐るといった感じで床を見つめてぶっきらぼうに謝る惣一に、
なるみも顔を向けることなく小さく頷き、口を開く。
「っ…私も…ビンタはやり過ぎた…ごめん…なさい。」
なるみは惣一と目を合わせず、机を向いたままだったが謝罪した。
微妙な空気が流れる2人に、洲矢がニコニコして近づく。
「よかったぁ まずは2人仲直りだねっ(ニコッ)」
ほんわかした洲矢の声と雰囲気に、なるみはようやく顔を上げてぎこちなく笑った。
「まぁ…そういうことにして。」
「…おぅ。あと…夏蓮。」
ビクッ
なるみへの謝罪を済ませると、その後ろで所在なさげに立ち尽くしていた夏蓮に惣一が声をかけた。
突然名前を呼ばれ、夏蓮が肩を震わせる。
「今日の放課後、やっぱ大丈夫だわ。いいだろ、つばめ。」
「もちのろんっ」
「そ、惣一…ありがとうっ」
夏蓮は惣一の言葉を聞いてパアッと笑顔になると、同時に少し目を潤ませた。
これに焦ったのは惣一だ。
「はっ!? おいちょっと、なんで泣くんだよ!?」
「泣いてないよっ ただ先月からずっと誘ってようやくなんだもんっ…」
そう言われてしまっては立つ瀬がない。
惣一はばつが悪そうに謝罪した。
「あー…悪かったよ…あと、さっき酷いこと言ったのも…」
惣一の謝罪に、夏蓮は少しムッとして返す。
「ほんとだよっ…もう…放課後ついでにクレープ奢ってよねっ」
「へーへー、わーったよ。」
これは呑むしかない。惣一は両手を挙げて頷くのだった。
「はいっ 今更だけど誕生日プレゼント!」
「え…いや、もう5月…」
「だから先月から誘ってたんでしょ!」
「いや教室でくれりゃいーじゃねーかよ…」
「そしたら親衛隊とか気取ってる男子たちが情報仕入れて
惣一にうざがらみして惣一の機嫌が悪くなるじゃん。」
「まぁそれは…そうだけど…ってかスポーツタオルとか普通に使えるヤツじゃん!
サンキュ!」
「惣一スポーツ馬鹿だからちょうどいいかと思って。名前の刺繍入りだからなくしても大丈夫。」
「ハハッ…お節介オバサンみたいな大きなお世話どーも。」
「何それもーっ…惣一。」
「…なんだよ。」
「ハッピーバースデー。」