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ナチュラルに組織壊滅後&赤井と降谷が恋仲。

スパ以外はR要素はほぼないですが

設定から二次創作(むしろ妄想)なので

腐要素等々地雷の方は要回避。

 

ちなみに前編はスパ要素も皆無ですあせる

 

 

 

 

 

ある月末の金曜日。
過去に「プレミアムフライデー」などと大層に名付けられたこの日も、

警察庁公安部は特に何かが変わるはずもなく通常営業。
午後からの有給も、時間休暇すら申請する者は誰もおらず、

デスクで弁当、建物内の食堂、外出して定食屋…と、各々昼食をとっていた昼休み。
 

デスクで自作のサンドイッチを片手にメールチェックする降谷のパソコン脇に置かれた携帯に、

1通のメッセージが入ったことを知らせるポップアップが表示された。

何気なく目をやった降谷は、予想外の人物からのメッセージに目を見開いた。

《来週の金曜の夕方から1週間ほど、日本に戻れることになった。》

降谷は嬉しさに、思わずメールチェックの手を止めて携帯に手をのばし、即座にメッセージを返す。

《そうですか! こっちも今のところは比較的落ち着いている方なので、

久々に二人でゆっくりできそうですね。》

すると、向こうからもすかさず返信がきた。
あまりの速度にお互い何をしているんだと呆れて笑ってしまいそうにもなるが、それだけ心躍っているのだ。

《そうか。帰ったら久々に零君の手料理が食べたい。》

《任せてください。腕によりをかけて作ります。

帰国の日には必ず定時であがりますから。空港に迎えに行きます。》

《嬉しいな。ただ、くれぐれも無理はしないでくれ。》

《僕を誰だと思ってるんですか。まだ1週間もあるんです。それくらいの調整余裕ですよ。》

《頼もしいな。では、1週間後を楽しみにしているよ。my honey.》

《ええ。僕もです。》



「…何が『my honey』だよ…。」

携帯を置き、そう呟く降谷の顔は、しかしとても穏やかで幸せそうな表情だった。

組織壊滅からまもなく2年。
一時犬猿の仲(主には一方的な降谷からの敵意が原因だが)であった降谷と赤井は和解し、
共同で後処理をしていく中で和解にとどまらず二人は恋仲となった。
その道のりは紆余曲折ありすぎて、

和解からカップルになるまでの間がたった1年あまりと言われるとあまりの短さに信じられない気持ちにもなるが、
とにかく今二人は世間一般に言う『恋人同士』の仲であった。

後処理も大方済み、最近は赤井はアメリカと日本を中心に各国を飛び回る生活スタイルに戻ってきていた。
今は少し大きめの事件の関係だと1ヶ月ほど前からアメリカに戻っており、

先日そろそろ一段落しそうだ、と連絡をもらっていたところだった。
 

降谷の生活も、ここ最近はすっかり様変わりした。
多忙なのに変わりはないが、トリプルフェイス…少なくともバーボンの顔は必要がなくなったし、
元々多くの部下をもつ降谷が直々に現場で任務にあたることはそうはないのだ。
大きな案件に関すること以外はデスクワーク中心になり、仕事の進捗や先々の予定も読みやすくなっていた。
今はすぐに動きがありそうな大規模な案件もなく、

順調にデスクワークをこなせば赤井が帰国する1週間後は確実に定時に上がれるはずだ。

「早速頑張るか。」

残りの昼食のサンドイッチを頬張り、降谷は片手でメールの画面をスクロールしながら、

デスクに積まれた書類の山に手を伸ばした。
 

 

 

しかし、人生そう上手くはいかないものだ。



連絡を受けた金曜は順調に仕事をこなして夜10時には帰宅した。
週末の土日も、少しでも片付けられるものはやってしまおうと出勤し、予定通りの量を処理して充実感に満たされて帰宅した。
週明け月曜も、午前中は重要事件発生中の時と比べれば平和と呼ぶ以外何ものでもないくらい穏やかだった。

…事態が変わったのは昼休み明け。
オフィスに鳴り響いた電話のコール音。

何の変哲もない、オフィスでは当たり前の音だが、
降谷は嫌な予感を察知し、風見に視線をやると図らずも目が合った。
お互い感じたことは同じだろう。風見は少し険しい顔をして一つうなずき、電話をとった。
内容を聞きながら、降谷に目配せして手元でメモをとる。
メモを覗き込む降谷の眼差しはどんどん真剣さを増していく。
二人の様子を見て、他の部下たちも先ほどまでの穏やかな空気を一転させ、

緊張した面持ちで電話後の指示を待つべく席に着いた。
 

 

 

結果として、何か重大事件が今まさに発生、というような緊急レベルとしてそこまで高いものではなかった。
継続的に追っている案件の首謀グループと目される集団の幹部と推定されている連中に、

いつもと変わった動きが見えたという潜入捜査中の者からの報告だった。
急ぎ上に伝令すれば、今後の方針を早急に示せというお達しが降りた。
事件が起きたわけではないとはいえ、なかなか長期戦を強いられている相手に関わる内容であり、

降谷的リミットである今週金曜までに落ち着かせるのはかなりギリギリの戦いだ。
この案件一つに公安部全員でかまけていられるわけでもない。しかし。

「…やるしかないだろ。」

降谷は呟くように、だが決意を込めて言った。
『僕を誰だと思ってるんですか』。
赤井にかけた言葉を頭の中で自分に言い聞かせるように反芻する。

「降谷さん?」

その呟きもとい決意は一番近くにいた風見にもはっきりとは聞き取れなかったようで、
風見が聞き返すと降谷はいや、何でもない、と返す。

「さぁ、早速取りかかるぞ。この案件、1週間で取りまとめる!」

降谷の号令に、公安部全体が威勢良く返事を返した。
 

 

 

金曜定時上がりをなんとしてでも完遂するべく、そこから降谷は怒濤の勢いで仕事をこなした。いつにもまして。
この案件が持ち上がってくる前もかなり勢いづいていたが、その比ではなかった。
月曜から、降谷は自宅に帰っていない。

火曜、水曜…。
鬼気迫る勢いに風見や部下が時折心配の声をかけるが、そんなことは耳に入らなかった。
 

降谷の机の上の書類は目に見えて減っていっている。

案件に関わることも、その他の雑務的書類もどちらもみるみる片付けられていく。
更に降谷は、部下の仕事が自分のチェックに上がってくる間も待ち遠しいのか、

部下の仕事のサポートにまで片っ端から入っていった。

サポートというかもはや主務と補佐が入れ替わる並に降谷がやってしまう勢いだ。
部下たちは、もっと仕事が切羽詰まっている時は数え切れないくらいあったのに、
何故今回に限って降谷の「全部抱え込み猪突猛進スタイル」の激しさが

過去の類を見ないくらい増しに増しているのか理由が分からず困惑していた。
しかし何にせよ、家に帰らず、ろくに仮眠もとっていない(風見が証人)上司に仕事を奪われるなど精神的に耐えられない。
降谷に目をつけられまいと、皆必死に仕事に取りかかった。

もはや協力プレーなんて平和的なものではない。闘いだった。



「フーッ…」

木曜深夜。そろそろ日付が変わって金曜になろうとしている。
部下たちは粗方帰した。

昨日までは数人ずつ残っていたが、人数が物を言う仕事はほぼほぼ片付いていたものだから、
降谷に「お前たちが出来ることはやり尽くしてくれただろう」と事実を言われてしまえば部下たちも帰らざるを得なかった。
残っているのは降谷とあと一人。

「降谷さん。今日こそは帰って休んでいただく約束だったはずです。」

「ん…」

風見は未だデスクから離れる気配のない上司に強い口調でそう言い募った。
降谷的にも今夜は、明日帰ってくる赤井のためにも(赤井は日本にいる間は当然のように降谷の家に滞在する)、
帰宅して少しは自宅を整えておきたいという思いが昨日少しはあった。
だから、昨日「今日も帰らないおつもりですか」と少し非難じみた物言いをしてくる風見に

「明日は帰るから」と言ってはぐらかしたのだ。
そのとき確かに「分かりました。約束してくださいね。」などと言われて、

「あぁ、わかったから」とか適当に返事した気もする。だが…。

「…やっぱりまだ帰れない。」

降谷の目算だと、今帰れば明日の定時上がりは難しくなる。残って続ければ間に合いそうなのだ。
多少準備が甘い自宅を赤井の眼前に晒すことになっても、
あそこまで言い切っておきながら、

やっぱり仕事が終わらなかったから定時には上がれない、空港への迎えも行けない、なんてことを赤井に報告する方が、
そして実際それが現実になってしまうことの方が数百倍降谷にとっては恥ずかしいことだった。
少し緊急の案件が入ったからなんて関係ない。そんなこと公安部に属していれば日常茶飯事だ。

何もいきなりテロ事件が起きたわけじゃない。

それも含めて定時に上がる、と言ったつもりだったし、赤井もそのつもりで「頼もしい」と返したはずだ。

「約束していただいたはずです。」

なおも詰め寄る風見に、降谷はうるさい、と素っ気なく返す。

「思っていたより進みが悪い。これじゃ明日までにまとめきれない。」

「それでもです。というか降谷さん。お言葉ですが、いつもと比べたらむしろ速すぎるくらいの処理スピードです。
まさか本当に1週間で取りまとめようなんて…」

「僕は最初からそのつもりだった。」

 

いつも以上に頑なな降谷の態度に、風見は戸惑いを見せる。

「何をそんなにこだわっていらっしゃるのか…。自分の体を犠牲にしてまでのことなんですか。」

「っ…」

困惑の表情を隠さない風見に、

まさか赤井の帰国に合わせて定時退庁する、と赤井に言い切ったことを、
今更守るのが厳しくなってきたから実は焦っているなどと言えるはずもなく、

降谷は別に何もない、と風見から顔を背けた。
話題を変えるように、大体、と口を開く。

「家に帰ったって大して何も変わりやしないだろう。ここでだって仮眠はとってるんだ。」

「仮眠室にまで捜査資料を持ち込んでいるじゃないですか。
ご自宅ならそれは出来ません…というか、それが目的でしょう。お帰りにならないのは。」

いくら公安のエースといえども、機密資料の持ち出しは制限がある。
帰宅してしまうと、手元に仕事を進めることの出来るものがほぼなくなるので、否が応でも休む以外の選択肢がなくなるのだ。
しっかり見抜かれていて、降谷は(小姑め…)と心の中で舌打ちする。

「…明日は定時で上がる。場合によっては時間休で早上がりするから。」

「は? そんなことでごまかされるとでも…」

「明日は絶対にそうする。だからこの話はもう終わりだ。いいな、風見。」

「降谷さん…」

「仮眠をとる。邪魔するなよ。」

そう言ってオフィスを出る降谷の手にはしっかり捜査資料があって。
しかし「仮眠する」と言われればそれ以上何も言えない。
またはぐらかされた…と、風見は肩を落とすのだった。
 

 

 

翌朝。

仮眠室からオフィスに戻った風見の視界に真っ先に入ったのは、真剣な面持ちでキーボードを叩く降谷の姿だった。
数名部下も出勤してきているが、まだ8時前。始業時間まで大分ある。
降谷は大方、風見が仮眠室に引っ込んだタイミングを見計らって明け方の内にオフィスに戻ったのだろう。

いくら資料を持ち込んでいるといっても、仮眠室で出来る仕事なんて限られる。
風見がオフィスを出る前には降谷のデスクに積まれていた書類の束がいくつか消え、

代わりに上に回す報告書等が積まれる箱の中身が増えていた。

風見は一つため息をつくと、「おはようございます」と諦めたように降谷に声をかけた。

「あぁ、おはよう。」

降谷は何事もなかったかのように返すと、

作業台やら会議机やらとして使われている長机の端に置かれたコンビニ袋を指で示す。

「朝飯まだだろう。適当に買ってきてもらったから好きなの食べるといい。」

降谷が視線を投げた先の部下が小さくぺこりと会釈した。
いつも出勤の早い者だから、出勤ついでに買ってきてもらったのだろう。

「…ありがとうございます。降谷さんは?」

「僕は今はいい。1つ2つ残しておいてくれれば気が向いたときに食べる。」

睡眠だけでは飽き足らず食まで疎かにする気か、この人は。
そういえば降谷が最後にまともな食事をしているのを見たのはいつだ…?
そう思ってごみ箱に目をやると、ゼリー飲料や栄養食の空きパックや包みが目立つ。

「…降谷さんが召し上がってからいただきます。」

「別に僕は食べないと言ってるわけじゃないだろう。」

「いいえ。私が残ったものを食べます。」

「……全くお前は…。」

降谷はため息をついてわかった、とキーボードから手を離した。
自分の体は全く顧みないのに、

部下が一食抜こうとするのは気にするのだから不思議な人だ、と風見がそんなことを考えた時だった。

「昨日から少し口うるさすぎ…っ…る…」

「降谷さん!」
「「「!!!」」」

長机の方に行こうと降谷が勢いよく立ち上がろうとした瞬間、降谷の視界はグワンと揺れた。
咄嗟にデスクに手をついて体を支えようとしたが、

腕に力が入らずカクンと折れて、そのまま尻餅をつくように床に倒れてしまう。
そんな兆候さっきまでなかったのに、と降谷は自分の体に心配どころか苛立ちを覚えた。
風見や部下たちが自分を呼ぶ声が微かに聞こえる。
引っ張られていくようななんとも言えない抗えない感覚に、

ああ、やばい落ちる、と思ったのを最後に、降谷の意識はブラックアウトした。