「ただいま。」
「ただ…いま…」
 

あの後帰りの道中、葉月は実嵐の手を強く握ってはいるが、

何組かすれ違った甘やかなカップルの空気とはほど遠く
二人は一言も話さず終始無言で歩いて帰ってきた。

ドアを開けて、葉月がどこか冷たくこともなげに、実嵐が所在なさげに帰宅を告げると、
奥から仁絵が飛び出してきた。

「っ…おかえり!! …よかった…」

「ひとえ…あの、ごめ…」

「実嵐、仁絵くんにお風呂温め直してもらったからすぐ入って。その後入れ替わりで俺が入るから。」

「え…あ…うん…」

仁絵が心底安堵した表情を見せ、どれだけ心配させてしまったか察した実嵐が謝ろうとするが、
それを遮るように葉月に指示を出されてしまった。
その顔が、普段実嵐に向ける顔とは似ても似つかぬ恐ろしく冷たい顔で、

実嵐はしゅんとして、珍しく素直に従い、着替えをとるために二階の寝室に向かっていった。
 

 

 

「あー…飯、食う?」

残った二人。

仁絵は微妙な空気に恐る恐る口を開くと、うん、そうする、とまだ冷たさの残る返答があった。
 

二人は続いてダイニングキッチンに入り、

仁絵は本来は先に実嵐が食すはずだったクリームシチューを温め直す。

「…どんな状況だったの。」

焦げ付かないよう、鍋の中のシチューをかき混ぜながら、仁絵が問いかけた。

「どうして?」

ダイニングチェアに腰掛け、何するでもなく待っている風丘が逆に問うと、仁絵はそりゃあ…と続ける。

「今の風丘、マジでヤバい顔してるから。ってか流石に自分でも気づいてるだろ。隠そうともしてないし。」

そんなにひどい顔してるー?と少し苦笑しつつ、葉月は呟くように言った。

「…まぁ、あんなにみらちゃんに怖がられるの初めてかもだから結構な顔してるのかな。

でも、今日くらい許してよ。俺だって、あんなの見たら余裕なくなる。」

「だから…」

「…酔っ払いに絡まれてた。」

「え」

「好き放題触られてた。」

うわぁ…と、仁絵は声にならない声を上げ顔をしかめた。
それはあんな顔にもなるだろう、あれだけ大切にしている実嵐にそんなことをされたら。
仁絵は皿に盛ったシチューを葉月の前に置くと、唐突に言った。

「…俺のこと、1発くらい殴ったら。」

「えぇ?」

突然の言葉に、葉月が怪訝な顔をする。

「言ったろ。俺知ってて黙ってたって…空城が一人で帰ろうとしてること。」

「…」

実は、空港からやはり車を飛ばして帰ってきた葉月に、

仁絵はたまらずここまでの経緯を洗いざらい話したのだ。
そして、実はまだ帰っていない、と結論を言った瞬間葉月は飛び出していった。
実嵐が危ない目に遭った原因の行動に自分も多少なりとも加担してしまった、

メッセージで嘘もついた、仁絵はその報いは受けるべきだと考えたのだ。
仁絵の言葉を聞いて、葉月は少し黙ると、いつもの調子に戻ったような口調で言った。

「なるほど、それで『1発殴ってもいい』なんてあの仁絵君に言わせるほど

今の俺はぶち切れた顔してるわけか。」

やっぱりそんなにひどい顔してるかー、と眉間に指を当てマッサージするような動きをして、それから立ち上がる。

「まぁ、仁絵君にも全く怒ってないかというと嘘にはなるけど。

言ってくれればよかったのに、とかは思う。
といっても、どうせみらちゃんが無理矢理黙らせたんだろうし。

そんなみらちゃんみたいに叱るつもりはなかったけど…
ただまぁ、あの仁絵君がせっかく提案してくれた上に珍しく反省してくれてるみたいだから。」

「うおっ…ちょっ…」

そう言うと、葉月は仁絵の腕を引くと、

自分はまた椅子にかけ直し、あっという間に仁絵を膝の上にのせた。
慣れた手つきで仁絵の履いているものを下着ごと下ろす。

「…俺は『殴れ』って言ったんだけど。」

「俺は人の顔を殴ったりしないの。知ってるでしょう?」

バッチィィィィンッ

「ってぇぇぇっ」

想像以上の威力で1発目が降ってきて、思わず仁絵は声を上げてのけぞった。

白いお尻には綺麗に赤い手形が落ちている。

バチィィィンッ バチィィンッ

「うあっ…いった!!!」

「はい、おしまい。今度あの子がオイタしそうになったら隠さないで俺に言うこと。約束。」

「わかったよ…ってぇ…『1発』っつったのに…」

立ち上がって下着とズボンを直し、少し恨み言を言いながらお尻をさする仁絵に、葉月は少し意地悪く言う。

「言われたとおりにするんじゃお仕置きにならないでしょ。」

「俺はこうしろなんて言ってねぇよ、殴れって言っただけで…」

「こうなるって分かってたくせに。
俺が仁絵君を殴ったりするわけないってこと、仁絵君なら分かりきってるでしょ。」

「いや、まぁ…」

想定していなかったといえば嘘になるが、

思ったより痛いのを落とされたので2発目が落ちてきた時に若干後悔しかけた、とは

さすがに恥ずかしくて言えず、仁絵は言葉を濁した。
葉月はそれを知ってか知らずか、さて、冷める前に食べなきゃ、とスプーンを手に取り、食事を始めた。
 

 

 

「…ありがと。気遣わせたね。」

少し経って、食事をほぼ終えた葉月が徐にそういった。
仁絵は、食器を片付けようとする葉月を手で制し、

自分が食器を下げながら、尻叩いといて言う台詞じゃねーだろ、と照れ隠しのように言う。

「別に。スルーされるのも居心地悪ぃし。

…まぁ、あんたあーいうことするときはいつも冷静になるイメージだから。」

それで少しは落ち着いてくれるかとは思った、という仁絵の言葉に、葉月はふぅ、と息をついた。

「それが気遣ってなくてなんなの。

っていうか、俺がそこで落ち着かないで怒りにまかせてめっためたにお仕置きしてきたらどうするつもりだったの。」

「風丘はんなことしねーだろ。ま、そうなったら明日児童虐待で児相に駆け込んでたかもな。」

「それは、あそこで冷静になれた自分を褒めなきゃね。…どう? 顔、少しは戻った?」

「さっきよりはな。…あ。」

風呂場の扉が開く音、次いでこちらに向かってくる足音がして、

それを聞いた葉月はごちそうさま、と告げて立ち上がる。

「あんま泣かすなよー、明日出掛けにぐずってるあいつに絡まれるのはごめんだからな。」

「ちゃんと俺がフォローするよ。じゃ、みらちゃんにちゃんとご飯食べさせてね。」

その返答はつまり相当泣かせるつもりだと言外の含みを察した仁絵は、
実嵐が自分で蒔いた種とはいえ、いささか可哀想になるのだった。
 

 

 

「ひとえ…ごめん…」

「俺のことはもういいから。早く食えよ、風丘もうきっと風呂から出たぞ。」

こっちはこっちでいつもと打って変わった様子で、仁絵は調子狂う…と、ため息をついた。
 

風呂からあがった実嵐は、

いつもだったら考えられないくらいスローペースでシチューを食べ、合間合間に仁絵に謝っている。
ダイニングに入って開口一番実嵐に問われた、「叱られた?」の問いに、
「まぁ、何もなし、ってわけにはいかねぇだろ」とオブラートに包んだつもりが

わりとはっきり回答してしまったのがよくなかった。
聞いた瞬間顔を歪め、更にしょげ返ってしまってこの調子だ。
もう10分近く前に、風丘が風呂を終えて自室に戻る足音が聞こえた。
あまり待たせすぎても良い結果はない。仁絵は実嵐を急かす。

「そんなに謝りたいなら俺じゃなくてあとで風丘に謝れよ。」

「葉月…怒ってた…」

「そりゃな。だから謝るのは俺じゃなくて風丘。とっとと食って叱られてこいよ。
お前がそんなんじゃこっちが調子狂う。」

「っ…仁絵ももっと怒ればいいだろ、私のせいで叱られたんだし。」

「だーかーら、俺の方はもう済んでんの。次は空城の番。それだけ。
大体、俺はそんなに怒ってねぇよ。人のこと言えたもんじゃねーし。」

「…ほんとに?」

「ま、一言言わせてもらうとすればスマホの電池管理ちゃんとしろ、ってことくらい。マジで心臓に悪いから。」

「ごめん…気をつける…」

「あー、やっと食べ終わった。ほら、じゃあ早く行ってこいよ。」

実嵐がやっと空にしたシチュー皿を取り上げ、仁絵は実嵐をせき立てる。

「あんま待たせてもいいことないから。このまままっすぐ行けよ。これはアドバイス。」

「うん…わかった。」

実嵐は仁絵に送り出され、ようやっとダイニングを出たのだった。



ガチャッ

「あの…葉月…」

実嵐が寝室のドアを開けると、葉月はベッドに腰掛けていた。

ドアを開けても視線を向けてはくれず、実嵐は恐る恐る話しかける。

「ん?」

「っ…あの…さっきはごめん…助けてくれてありがとう…っ」

無視されず反応を返してくれたことに安堵して、実嵐は少し声を震わせながら言った。
それを聞いて、葉月は全くね、と呆れ声で言う。

「こんな説教のテンプレみたいなこと言いたくないけど俺が間に合わなかったらどうなってたかね。
あれ以上の状態見せられたら俺本気であいつら殴りつけて半殺しにしてたかも。」

「ひっ…」

葉月は徐に立ち上がると、実嵐の腕を掴み、そのままベッドの縁まで連れて行き仰向けに押し倒す。

「…はづっ…」

「自分がどれだけヤバい状況にいたか分かってる? 大体実嵐、細身で力も言うほどないだろ。
俺が片手で押さえてるだけの今だって逃げられないのに。
なのに平気で夜中に一人で出歩いて。絡まれたら案の定振りほどけない。」

「ごめん…葉月ほんとに…だって私なんか…絡んでくる奴なんていると思わな…」
 

実嵐の言い訳とも言えない言い訳に、葉月はチッと小さく舌打ちした。

「いるに決まってるだろ。過小評価もいい加減にしろよ。」

「ひっ…はづきっ…」

身動きがとれない状況で耳元で少しドスのきいた声で言い放たれ、

怖さと息のかかったくすぐったさで実嵐が身じろぐ。

「あー…むかつく。イライラする。」

「はづ…き…?」

「…あいつらに触られたとこ全部言って。」

空いている方の手で顎をクイと持ち上げられる。まるで尋問のようなプレッシャーに、実嵐は慌てて口を開く。

「っ…手首掴まれて…お、お尻…撫でられただけ…」

「撫でられた『だけ』?」

「な、撫でられたっ…」

「胸は?」

「それは大丈夫…葉月が来てくれたから…」

「そう。それじゃあ…」

「うわっ…」

葉月は突然掴んでいた実嵐の手首を再度引っ張ると、体勢を変え、あっという間に実嵐を膝の上にセッティングしてしまった。

「汚い野郎に触られたこのお尻、その感触も忘れられるくらいしっかり消毒しないとね。」

バシィィィィィンッ

「きゃぁぁっ!? ちょっ…ちょっと待ってっ…」

正直、実嵐は葉月にお尻を叩かれるのはこれが初めてではない。
しかし、これは今まで経験したどんな時よりも痛かった。まだパジャマの上からなのに。
しかも、実嵐が想像を絶する威力の平手に慌てている内に

パジャマのズボンも下着も一緒くたにあっさり取り払われてしまう。

バチィィィンッ バチィィィィンッ

「いたいっ…いたいはづきっ」

「当然。中途半端な痛みじゃ消毒にならない。さて、あと97回。」

それはつまり100叩きということか。この威力で。
衝撃の宣告に、実嵐は目を見開いて足をばたつかせる。

「きゅっ…無理、無理ぃ…」

バチィィンッ バチィィンッ バチィィンッ

「やぁっ! いたいっ…やーっ」

「暴れるな。消毒を妨害する悪い足も消毒が必要? こうやって。」

バチィィンッ バチィィンッ

そう言って落とされた平手で、お尻のだいぶ下、両足の太もも裏に1枚ずつ赤い紅葉がついた。
お尻よりも大分肉の薄い場所を打たれた酷い痛みに、実嵐は必死に首を横に振る。

「あああっ ぅぅっ…いらっ…いらないっいらなぃっ」

「じゃあおとなしくする。」

バチィィィンッ バチィィィィンッ

「いたいいっ…もう反省したぁっ…うぁぁっ…もう夜中一人で帰ったりしないっ…」

実嵐の必死の叫びも、葉月は受け流す。

「当たり前。あれだけの目に遭って反省なし、また一人歩き、なんてことになったらこんなんじゃ済まさない。」

バチィィンッ バチィィンッ バチィィンッ バチィィンッ バチィィンッ

「やぁぁぁぁっ!? いたっ…やぁぁっ」

「実嵐が反省してるのは分かってる。顔を見れば。
でも、いつものオイタのお仕置きと違って、反省しました、はい終わり、なんて簡単には許せない。
今日は1発もまけない。大事な消毒だからね。はい、あと87回。」

「やぁ…無理ぃ…」

絶望的な数字に、実嵐が涙声で葉月を呼ぶと、葉月は眉間にしわを寄せて首を軽く横に振った。

「…今更そんな甘えてもだめ。」

バッチィィィィンッ

「あぁぁぁっ…ぇっ…たいっ…」

「俺は何度も忠告した。具体的にもし約束を破ったらどうする、ってことまで伝えてやった。

っていうか分かってたよな言わなくたって。
それでもやらかして、挙げ句最悪の結果。膝の上で平手で100叩きなんて甘すぎるくらいじゃない?」

「そんなっ…そんなことなっ…」

バチィィンッ バチィィンッ

「いたいぃぃっ…はづ…あぁぁっ」

「あと84回。しっかり味わって懲りろ。」

「やぁっ… ……~~~~!」
 

 

 

そこからは、そこまで以上に地獄のようだった。
平手の威力は全く落ちることなく、ペースは緩急織り交ぜられ、
じっくり文字通り叩き込むようにゆっくり1発ずつ打ち込まれたかと思えば、
お尻全体余すことなく赤く染め上げてやらんばかりの連打の雨を降らされたり、

同じ場所を立て続けに打たれたり。
「反省しているのは分かっている」、からか、

葉月は残り84回以降説教らしい説教はせず、たまに残り回数のカウントを言ってくるだけ。
感じる痛みの割に減らないその回数に、実嵐は絶望で更に泣くことになった。
 

 

 

「あと5回。」

「ふぇっ…えぇっ…」

ようやくだ。もうお尻は何倍にも腫れているように感じられ、
当たり前だが数時間前に男たちに触られた感覚などとうの昔に忘れ去られた。

バチィィンッ バチィィンッ バチィィンッ バチィィィンッ

「あぁっ…ふぁっ…うぅぅぅぅっ」

あと1発。
早く終われ、そしていつもの葉月に…、実嵐は目を固く閉じ、それだけを心の中で必死に念じていた。
すると…

「っ…え…? つぅっ!」

ファサッと、平手ではない何かが実嵐のお尻に触れた。

実嵐が不思議な感覚に目を少し開くと、次の瞬間、刺されるようなチクッとした痛みを感じた。

もしや。まさかと脳裏をかすめた予想は、葉月の言葉で現実だということが証明される。

「…まぁ、こんな真っ赤じゃつけてもあんまり見えないよね。はい、これで100回。消毒おしまい。」

「なっ…なっ…なっ…」

あまりのことに言葉を失っている実嵐。その隙に、葉月は実嵐の手首を掴んで実嵐に尋ねた。

「掴まれた手は右?左?」

「み、右…やっ、ちょっと!」

すかさず葉月は実嵐の右手首を自分の口元に寄せると、強く吸い付いた。
ピリッとした痛みを感じ、見れば綺麗な形が浮き上がっている。

「こ、こんな見えるとこに…っ」

「どうせ1日、2日で消えるし、明日は俺といてくれるんでしょ?」

「それはっ…」

「手首も触れられてるから、それも消毒だよ。」

「うー…じゃあお尻もそれでよかったじゃん…どうせしたし…」

真っ赤に腫れ上がっているお尻を見て、恨めしそうな視線を葉月に向けると、

葉月はそれはダメ、と苦笑して即答した。

「…そんな顔して。

恨むなら、俺の心配を素直に聞かないで仁絵君丸め込んでまで反抗しようとした意地っ張りな誰かさんを恨みなさい。」

「それはっ…その…葉月…」

「んー?」

 

葉月のいつもと変わらない優しい声音と眼差しに、実嵐は心が凪いでいくのを感じる。

自然に素直な言葉が出ていた。

「ごめん…ごめんなさい…ムキになって、約束破って、心配かけて…」

「ん。あと、実嵐はもう少し自分の魅力を自覚すること。さっきも言ったけど無自覚すぎてたまにむかつく。」

 

葉月は実嵐の髪をやさしく撫でながら諭す。しかし、実嵐は少し困ったようにして答えた。

「ん…ごめん、それは…正直あんまりわかんない…かも…」

「はぁー…素直なんだから。」

「で、でもっ」

困り顔の葉月に慌てて実嵐は付け加えた。

「私は葉月の彼女だから。葉月の女だって自覚を持って行動するようにする…から。

その…他の男に触らせない…とか。」

「みらちゃん…それは嬉しいけど。その逆もちゃんと意識してくれるかなぁ?」

「逆?」

 

葉月の言葉の意味を掴みかねているのか、キョトンとする実嵐に、葉月はまた困ったように笑って説明する。

「俺はみらちゃんの彼氏ってこと。それなら、迎えに呼ぶのも当たり前って思えるでしょ。

彼女守るのは彼氏にとって当たり前なんだから。」

「うん…そう…だよね。わかった。」

実嵐は少し顔を赤くして頷くと、

ベッドにうつ伏せに寝転ぶ自分の横に腰掛けた葉月の膝に額を乗せ、呟くような声で言った。

「あの時すごく…怖かった。葉月が助けに来てくれたとき、ほんと嬉しかった。

葉月を呼ぼうとして、それで、目の前に葉月がいて…あぁ、やっぱり葉月が助けてくれたって。

今回はたまたま間一髪間に合った、それはわかってるけど、

でも、それでも、私を助けてくれるのは葉月なんだって…

私…葉月のこと大好きだよ。」

「みらちゃん……そういえば。1カ所、消毒し忘れたところがあった。」

「え?」

 

思わぬ言葉に実嵐が顔を上げると、目の前には大好きな恋人の顔が急接近していて。

「あの下衆野郎たちと会話したでしょ?」

「え…んっ」

その後の言葉は、音にならずに消えていった。
 

 

 

 

 

翌朝、実嵐は葉月が身支度をしている隙に

仁絵に「葉月にも意外と独占欲ってあるんだな」と驚き混じりに報告して、
仁絵を呆れさせたとか何とか。

(あいつは独占欲の塊だろ…)

仁絵の視線の先にあったのは、実嵐の右手首に残る綺麗なあの跡だった。