注意
※こちらの作品は、「王室教師ハイネ」二次創作のスパ小説となっております。
二次創作が苦手な方、原作のイメージを壊したくない方はバックお願いします。
「リヒト・・・お前っ もう1回言ってみろ!」
和やかな朝食の場に、一転して緊張が走った。
きっかけは、リヒトの一言だった。
「何度だって言ってあげるよ。
15歳にもなってニンジンとピーマン食べられなくて先生にお説教されてるとか、
レオ兄ダッサー」
「私はお説教をしていたわけでは・・・」
ハイネは単純に「今日も召し上がらないのですか?」と聞いただけだったのだが、
それに過敏に反応したレオンハルトが
「う、うるさい! 今食べようと思っていたんだ!」とムキになったのを、リヒトがからかった。
そこから、口喧嘩がヒートアップしていったのだ。
「おい、2人ともいい加減にしろっ 食事の場だぞっ」
「みんな、仲良し。ケンカ、ダメ・・・。」
さすがにこれ以上はまずい、と上2人が窘めるが、もう2人の耳には届いていない。
それどころか、リヒトがとんでもないことを口走った。
「そーんなガキみたいな好き嫌いしてるレオ兄なんか、
今に王位継承者争いから脱落するんじゃないのー?」
「っ!!!」
「おい、リヒト!!」
明らかに言い過ぎだ。ブルーノが語気を強めるが、言ってしまったことはもう戻せない。
衝撃を受けたレオンハルトの顔が固まり、そして俯いて肩を震わす。
「っ・・・リヒトっ・・・お前みたいなっ・・・お前みたいな奴、もう弟じゃない!!」
レオンハルトはキッと対峙していたリヒトを睨みつけると、両手で強く突き飛ばした。
倒れはしなかったものの、数歩後ずさったリヒトも、もう戻れないとばかりに応戦する。
「はぁ!? 何それっ こっちこそ、あんたみたいなバカ兄願い下げだからっ!」
「うるさい!! リヒトのくせに生意気なこと言うなぁっ!!」
そして、レオンハルトはニンジンが刺さったままの自分のフォークを手に取り、
リヒトの胸めがけて投げつけた。
「わっ!! ちょっとレオ兄何すんだよっっ」
「レオンハルト王子! いくらなんでもそれはっ・・・」
口喧嘩くらいなら様子を見よう、と思っていたハイネもさすがに止めに入ろうとした時だった。
「何の騒ぎだい?」
騒ぎを聞きつけたのか、たまたま通りがかったのか、
4王子とハイネが朝食を摂っている部屋に父親であるヴィクトールが入ってきた。
険しい顔をした父親を認めると、レオンハルトは顔面蒼白になり、次の瞬間・・・
「っ・・・ち、父上・・・僕はっ・・・僕は悪くありませんからぁぁっ」
脱兎の如く、叫びながらヴィクトールが入ってきたのとは別の出入り口から
飛び出して行ってしまった。
あまりの俊足に、ヴィクトールはやれやれ、とため息をつきながら、ハイネを呼ぶ。
「レオンハルトはとりあえず君に任せる。
朝食を終えてからで構わないよ。見つけて私の書斎に。」
まだ少し残っているハイネの皿を見やって、ヴィクトールが気遣うと、ハイネがいえ、と制す。
「元は私が止めに入るのが遅れた不手際です。」
ハイネは、どうしたものかとオロオロしている朝食の給仕係のメイドに声を掛ける。
「すみませんが、私の残った分を箱か何かに詰めてお部屋に運んでおいて頂けますか。」
「か、かしこまりました!」
メイドはこの場を離れられる口実が出来、
ありがたいと言わんばかりにハイネの皿を下げ、そそくさと出て行った。
「それでは、私は失礼いたします。」
ハイネも恭しくお辞儀をすると、レオンハルトが出て行ったのと同じ出入り口から部屋を出て行った。
ハイネの後ろ姿を見届けると、
ヴィクトールはバツが悪そうに手を後ろに組んでそっぽを向いてる末っ子に声を掛ける。
「さて、リヒト。何があったか話してくれないか。」
「・・・」
黙ってそっぽを向き続けていると、リヒト、と少し低い声音で再度促され、渋々口を開いた。
「別に何もっ いつものケンカ! っていうか仕事にとっとと戻れば?
俺たちと一緒に朝食食べれないほどに忙しいんでしょ?」
棘だらけのリヒトの言葉にも、ヴィクトールは動じなかった。
「朝一番の仕事の後は、今日は少し時間があるから、
朝食後の穏やかなひとときを可愛い息子達と過ごそうと
勇んで仕事を終わらせてきたところだったんだが・・・。
どうやら楽しい時間はお預けのようだ。」
「チッ・・・」
苦々しげなリヒトの舌打ちに息をつくと、
ヴィクトールはリヒトに説明させることを諦めて、黙って座っているブルーノを呼んだ。
「・・・何があったか説明してくれるかい?」
リヒトがブルーノを睨み付けるが、ここで父の言葉を無視するなどブルーノに出来るはずもない。
ブルーノは立ち上がり、説明を始めた。
「・・・確かに、最初はいつものケンカでした。
今日の朝食のメニューは・・・レオンハルトの苦手な野菜が多かったので。
こっそり避けて兄さん・・・カイの皿に入れようとしていたところを
ハイネ先生が見つけて軽く窘めたのを、リヒトがからかったんです。
いつもなら多少言い合いになって終わるんですが、
今日は二人とも虫の居所が悪かったようで、ヒートアップしていって・・・
リヒトが『そんなでは今にレオンハルトは王位継承者争いから脱落する』と言ったのに、
レオンハルトが相当ショックを受けたようで、
最終的にお互いがお互いを『弟じゃない』『願い下げだ』と言い合って、
レオンハルトがリヒトを突き飛ばし、フォークを投げつけ、
父上が来たのを機会に飛び出していった・・・というわけです。」
事実を淡々と説明してくれたブルーノに、
リヒトが少しは軽めに話してくれればいいものを、とますます不機嫌そうな顔になる。
ヴィクトールはブルーノにありがとう、と礼を言うと、というわけで、と改めてリヒトに向き直る。
「リヒト。私と一緒に来なさい。」
「はぁ!? そんなのおとなしくついてくわけ・・・「来るんだ。」」
「っ!!」
有無を言わさない迫力と、一段低くなった声に、リヒトは後を着いていくしかなかった。
連れてこられたのはヴィクトールのプライベートルームでもある書斎だった。
が、ここに息子たちと二人きりで入ると、
この部屋は書斎ではなく息子たちにとって恐ろしい部屋へと変貌する。
「リヒト、分かっているだろう? ここへ来なさい。」
部屋につくなり、デスクの脇に置かれていたベルベットのスツールに腰を掛けたヴィクトールは、
膝を叩いてリヒトを呼んだ。
書斎に呼ばれたときから分かっていたものの、
行けばどうなるか嫌すぎるほど分かっているリヒトは当然のように拒んだ。
「嫌だよ! っていうか俺被害者だしっ 突き飛ばされて、フォーク投げつけられて!」
「確かに力に訴えた上に逃亡したレオンハルトは悪い。
だから後でしっかりレオンハルトにも反省してもらう。
だが、リヒト。お前にも反省すべきところがあるだろう?」
「っ・・・ないっ 俺悪くないからっ」
「ブルーノの話だとレオンハルトに酷い暴言を言ったようだね。
ブルーノの説明を聞いているときのお前の顔を見たところ事実のようだ。
リヒト。確かに突き飛ばされたり、フォークを投げられたり、
力で傷つけられたのはお前の方かもしれないが・・・言葉だって十分人を傷つける。
『お前なんて弟じゃない』。
レオンハルトにそう言われて、リヒトは何も思わなかったのかい?」
うっ、とリヒトは一瞬言葉に詰まるが、すぐにまた突っぱねる。
「べ、別にっ 俺の方こそ願い下げだってば、あんな暴力わがまま兄貴!」
「・・・はあっ 埒が明かないな。来なさい。」
「やだっ 来ないでよっ・・・離してっ 離せよっ!」
一度スツールから立ち上がったヴィクトールが、リヒトに近づいて腕をとる。
振りほどこうと暴れるリヒトに、ヴィクトールは呆れ顔でいい加減にしなさい、と低い声で言う。
「あまり暴れるならブラシを使うよ。それとも鞭のがいいかい?」
「じょ、冗談じゃ・・・「ならおとなしく反省しなさい。」
「わぁっ! ちょ、ちょっとっ・・・このバカ親父っっ 変態っっ」
あっという間にスツールに座ったヴィクトールの膝の上に横たえられ、
履いているものを全て下ろされてしまったリヒトが足をバタバタさせながら暴言を吐くと、
それを窘めるように厳しい平手がリヒトのお尻を目がけて振り下ろされた。
バシィィンッ
「いっ・・・たぁぁぁっ!? ちょ、ちょっと痛いっ」
「リヒト。お前はその口の悪さをどうにかするべきだ。
すぐに暴言を吐く、その癖こそ王位継承者としてよっぽど危険なことだ。」
バシィンッ バシィンッ バシィィンッ バシィィンッ
「いぁっ・・・ちょっ・・・いっ・・・たいって言ってんだろこの怪力親父!!!」
「はぁっ・・・言ってるそばから・・・
分かった。そんな口が利く気も起きないくらい痛くしてあげよう。」
ヴィクトールはそう言うと、やおら足を組んだ。
嫌な体勢に、さすがのリヒトも顔面蒼白になる。
「やっ・・・!? ちょ、ちょっと待って父さんっ・・・これやだっ・・・」
途端口調が甘え気味になったリヒトを、ヴィクトールは冷たく断罪する。
「今更遅い。たっぷり後悔しなさい。」
そして次の瞬間、先ほどまでとは比べものにならない痛みがリヒトを襲った。
バッチィィィンッ
「っ・・・!? やぁぁぁぁっ」
バチィィィンッ バチィィンッ
「あぁぁぁっ!? 痛い痛い痛いーーーーっ!!」
お尻の真ん中にとびっきりの一発、その後は左右に一発ずつ。
それぞれ綺麗に手型がついている。
あまりの痛みにとっさに出た手はあっさりヴィクトールによって背中に縫い止められる。
「こら。今度は手でかばうとは・・・今日は本当に悪い子だ。」
バチィィィンッ バチィィィンッ
「あぁぁっ だってこんなの無理ぃぃっ いつもより全然いたいっ・・・」
「こんなに厳しくさせたのは誰だろうねぇ。」
バチィンッ バチィンッ バチィンッ
「ぎゃぁんっ・・・ふぁっ・・・いたいっっっ」
「答えなさい。リヒト。誰のせいでこんな痛い目に遭っているのか。」
バチィンッ バチィィンッ
「ふぁぁっ・・・俺っ 俺ですぅっ!」
「その通りだ。自分の発言や行動には責任が伴うものだよ。
悪い言葉を使ったから痛い目に遭うんだ。覚えておきなさい。」
バチィンッバチィンッバチィンッバチィンッバチィンッ
「うぁぁっ わかった、分かりました覚えますっ ひゃぁぁんっ 俺が悪かったですごめんなさぃぃぃっ」
足の付け根に5発連打をもらって、元来甘えたな末っ子は早々に陥落した。
が、今回はそう易々と許さない、とヴィクトールはリヒトの腕を押さえる手に力を込めた。
「まだ駄目だよリヒト。今回はたくさん悪い言葉を使ったね。
お仕置きも素直に受けないし。こんな程度じゃ終われないな。」
「や、やだ父さんっ・・・ごめんなさいっ・・・反省したからぁっ」
恐ろしい言葉にリヒトは必死で謝罪するが、ヴィクトールは決めたことを最後までやり通す。
「あと5回。1打ごとに回数と反省の言葉を言いなさい。」
「そ、そんなの無理だからぁぁっ」
「出来なければいつまでもお仕置きが終わらないだけだ。ほら、始めるよ。」
バチィィンッ
「いたぃぃっ・・・ふぇっ・・・うぅっ・・・」
痛い、しか言わずにいつまで経っても回数も反省の言葉も言おうとしないリヒトに、
ヴィクトールは呆れて厳しく言い放った。
「甘えていいのはお仕置きをちゃんと受けてからだ。
リヒトがその気になるまで、ずっとここを叩こうか。」
バシィィンッ バシィィンッ
「やーーっ あぁんっ 受ける、受けますぅっ」
両足の付け根に厳しい平手をもらい、リヒトはたまらず叫んだ。
ヴィクトールはよし、と頷くと、改めて1発目をお尻の真ん中に打ち下ろした。
バチィィンッ
「あぁぁんっ 1回っ・・・ごめんなさぁぃっ」
バチィィンッ
「いたぃぃぃっ ひくっ・・・2回・・・もうしないからぁっ」
バチィィンッ
「さんかいぃぃぃっ うぅぅっ・・・暴言言わないぃっ」
バチィィンッ
「ふぇぇぇっ・・・よんかいぃぃ・・・ケンカしないぃぃ・・・」
「さぁ、最後だ。」
バチィィィンッ
「ぎゃぁぁぁんっ・・・ふぇっ・・・いたぃ・・・ふぇぇ・・・」
また飛び切り痛い1発に、背を仰け反らせ、痛い、痛い、と泣くリヒト。
だが、ヴィクトールは「甘えていいのはお仕置きを受けてから」と言ったとおり、
最後まで甘やかさなかった。
「リヒト。それでは終われないな。もう一度だ。」
「やっ・・・とおさま待ってっ・・・」
リヒトの必死の願いもむなしく、痛みはやってきた。
バチィィィンッ
「うぁぁぁぁんっ ごかいぃぃぃっ レオ兄にも謝るからぁっ ごめんなさいぃぃっ」
「・・・よし、よく頑張ったね。終わりだよ、リヒト。」
ヴィクトールはリヒトを抱き起こすと、フワッと微笑んで抱きしめた。
「痛かったっ・・・父さん怖かったっ・・・」
いつもなら恥ずかしがってすぐに膝から下りたがるリヒトだが、
今回はよほど応えたのか、少し恥ずかしそうにしながらもそのまま父に抱かれている。
「末っ子でいつも甘やかしていたからね。少しびっくりしたかい?」
「少しどころじゃないよっ・・・いつもより段違いに痛いし怖いしもう最悪っ・・・」
「ハハッ・・・だったら、もうこんな思いをしないように言葉には気をつけなさい。」
「はーい。」
少し膨れながら、リヒトは素直に返事をした。
しばらくヴィクトールの膝の上であやされて落ち着いたリヒトは、衣服を整え、
部屋の中央にあるスツールとお揃いのベルベッドのソファに恐る恐る座った。
その様子を見て少し笑いながら、ヴィクトールもスツールから移動して隣に腰掛ける。
すると、リヒトは不意にヴィクトールに尋ねた。
「・・・ねぇ。レオ兄にも同じくらい痛いのするの?」
リヒトの問いに、ヴィクトールは一瞬目を丸くして、それからフフッと微笑んだ。
「レオンハルトのことが心配かい? さっきまであんなにケンカしていたのに。」
「っ・・・だって、俺がからかったり暴言吐いたりしたのが原因だし・・・」
「原因がリヒトでも、今日はレオンハルトも悪いところがたくさんある。
力でリヒトを傷つけ、悪い言葉も使ったようだ。
それに・・・あの子はお仕置きが嫌で逃げたしね。」
「でも・・・レオ兄痛いの苦手だから・・・」
小さい頃から泣き虫で、
運動が得意でほとんど怪我することもないからかたまに怪我しようものなら
ちょっとした傷でも大泣きしていたレオンハルト。
こんなお仕置きをされると思ったらいてもたってもいられなくなったのも同意できる。
「だからといって逃げていいことにはならない。
・・・だが、大丈夫だ。
レオンハルトは・・・お前のお兄ちゃんは、強くていい子だ。今は違うけれどね。
ちゃんとお仕置きを受けて反省できる。
そうしたら、2人で仲直りしなさい。分かったね?」
ヴィクトールに頭を撫でられ、リヒトは頷く。
「・・・うん、分かった。」
レオ兄がお仕置きを受けて書斎から出てきたら、俺が先に謝ろう、
リヒトはそう心に決めて、隣に座る父の肩に頭を預けた。