※毎度のことではありますが、今回かなりご都合主義的展開の度合いがひどいです
あらかじめご了承の上ご覧くださると助かります・・・←




「委員長! 大変! 倉庫がっっ!!」

5組の女子が倉庫から飛び出してきて、歩夢に駆け寄る。
その表情は今にも泣きそうで、ただ事ではないのが伝わってくる。

「どうしたの? そんなに慌てて…」

歩夢の問いかけに、女子が震えながら答える。

「倉庫がメチャクチャで…垂れ幕破れてて…
それにお花がっ…お花がないの!!」

「えっ?」

女子の言葉に全体がざわめき出す。
倉庫には、新入生歓迎会のために各クラスが作った種々の物全てが入っている。
歩夢はそれを聞いて倉庫に駆け出し、中を見ると…

「これは…」

昨日は綺麗にクラスごと整頓されて置かれていた小道具や装飾が、床にまき散らすように荒らされている。
一番に目につくのは、真ん中から引きちぎるように破られた垂れ幕だ。

「うわっ やば…」
「ひでぇな…」

後を追ってきた原田や木坂も、その荒れように顔をしかめ、

「これは…どういうことだ?」

最後に、高藤の冷たい声が響き渡った。

静まりかえる倉庫。
そしてその沈黙を破ったのは、冷静な歩夢の声だった。

「…とにかく、被害状況を確認しよう。
一旦中の物を全部出して、並べてみよう。」

「うん!」
「ああ!」
「・・・」


こうして、各クラス委員長が先頭に立って、倉庫の中の物を出して倉庫前に並べていった。

全て並べ終わると、その結果はひどいものだった。

「被害無しのクラスは無し、ってとこだな…」

木坂がそう言って、ため息をつく。

「そうだね…1組から4組まで、大体2,3個は小道具壊されてる。
特にひどいのは、1組か… あと5組はこの垂れ幕…」

原田が破かれた垂れ幕を手に取ると、歩夢が静かに頷いた。

「うん…あと花が無くなってる、かな…」

「え?」

「他のクラスの小道具は壊されてて、うちのクラスも垂れ幕は破かれて、それはこの場に残ってたんだけど…
ペーパーフラワーだけは、アーチに付けたやつ以外は段ボールごとほとんどなくなってるんだ。」

「え…それ、いくつ…?」

恐る恐る問いかけてくる原田に、歩夢は困ったような曖昧な笑みで答える。

「えーと、散乱してたのが50個くらいあったから…に、250個…?」

「ええええええっ!?」
「なぁぁぁぁっ!?」

歩夢の言葉を聞いて、原田と木坂が声を上げる。
そして、今まで何とか黙って成り行きを見守っていた惣一たちも、
突きつけられたこの事実に我慢できずに飛び出した。

「やべぇじゃん、どうすんだよ委員長!」
「っていうかせっかく作ったのにぃぃっ」

「うん、そうだね…」

惣一とつばめに縋り付かれ、歩夢も困った表情を隠せない。

「ったく、誰だよこんなことした奴!!」

「確かに…」
「一体誰が…」

惣一が吠えた言葉に木坂と原田が首をひねり出すと、またあの冷たい声が響いた。

「全く、白々しいな。」

「…は?」

口を開いた高藤は、惣一の目の前に立って言い放った。

「お前が主犯の一人だろう、新堂惣一。」

「なっ…」

蔑んだ目で見られて、惣一は押さえられなかった。

「なんだとてめぇぇぇぇぇっ!!!」

「そ、惣一待って!!」

高藤の一方的な決めつけに、惣一が逆上して掴みかかりそうになるのを、
歩夢が慌てて押しとどめる。

「俺らが作った、俺らのクラスのが一番被害でけぇんだぞ!! 
何で俺が自分で作ったもん自分で壊さなきゃなんねーんだよ!!」

惣一のもっともな追求に、高藤は眉一つ動かさず答えた。

「確かに、普通に考えたらそうだな。
だが、お前の5組のクラスのものは『壊されてる』んじゃない。
ほとんどが『なくなってる』んだ。」

「そ、それが何だよ…」
「! ち、違うよ高藤くん!」

惣一はピンときていないが、
歩夢は高藤の言わんとしていることが分かったようで、必死に否定する。
そして高藤は惣一にも分かるようにはっきり言った。

「最初から花なんて『なかった』んだろう。」

「は…はぁ?」

「お前は月曜日、『終わりそうにない』と言った僕にムキになって突っかかってきたな。
『何が何でも水曜日までに完成させて、僕をギャフンと言わせる』だとか、下らないことも叫んでいた。」

「そ、それが何だよ!」

「しかし、蓋を開けてみれば終わらなかった。だから…」

高藤は改めて断罪するように強く言った。

「誤魔化すために他クラスの小道具諸共壊し、倉庫を荒らしたんだろう。
そうすれば、たとえ『最初からなかった』花でも、荒らした奴のせいにできる、と思ってな。」

「なっ…」

「僕にあれだけムキに言い返しておきながら、結局終わらなかったというのを、
お前のその無駄に高いプライドが許さなかった…そうだろう?
僕の1組の小道具が一番被害が大きいのも、そういうわけだからだ。」

「てめぇ…黙って聞いてればベラベラとっ…」

「そ、そうだよ! 私たち、ちゃんと最後まで作ったよ!」
「皆で最後まで残って、全部で500個!」

そうだ、そうだと5組が声を上げるが、高藤はフンと鼻で笑って切り捨てた。

「生憎、昨日最後まで残っていたのが5組だから、全て完成したのを5組以外の人間は誰も見ていない。
否定されたところで、それは身内の証言だ。」

「てめっ…」

「ありえないでしょ。そんなの。」

今まで黙って聞いていた夜須斗が歩を進めて口を開く。

「いくら期日までに完成しなかったのがクラスの恥でも、
いくらあの鬼メガネ教師の元うちのクラスが団結してるって言っても、
たとえ高藤が言った通りだったとして全員が全員黙ってるなんてそんな可能性、常識的に考えてあるわけがないじゃん。
本気で言ってるわけ? そんなバカみたいな話。」

しかし、この夜須斗の反論に、高藤はさもありなんと言った様子でとんでもないことを言い出す。

「お前たちは小学校時代から筋金入りの不良だからな。それに、柳宮寺もいる。
お前ならうってつけなんじゃないのか。」

「あ゛ぁ?」

突然名前を呼ばれ、仁絵が高藤を睨みつけるが、高藤は涼やかに言い放った。

「暴力で脅して、クラスメイトを押さえつけるのに。」

「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」

あまりの言いように仁絵よりもまず先に周囲が凍り付いた。
そんなことを言えば、次にどうなるか。
それを一番知っているのは彼ら仁絵のクラスメイトなのだ。

「てめぇ・・・もう一回言ってみろよ・・・」

仁絵がゆらりと徐に立ち上がり、低い声で高藤に問いかける。
クラスメイトが気が気でない視線を二人に送る中、
高藤自身は気にするそぶりも見せず再度口にしようとした。

「何度でも言ってやろう。お前がそのお得意の暴力でクラスメイトを脅し・・・」

高藤が話している間に仁絵が間合いを詰めて高藤に掴みかかろうとする。
が、それよりも前に高藤の声を遮る声があった。

「それはないよ。」

「「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」」」

それは歩夢の声だった。叫ぶでもなく、落ち着いたその声は、だがよく響いた。
途端に体育館中の注目が歩夢に集まる。
仁絵もすんでの所で踏みとどまり、振り返って歩夢を見た。

「宮倉。先ほどから言っているだろう、お前のクラスの証言は正当性の証明が出来ない・・・」

「確かに、小道具や装飾が壊れている件については、そうかもしれない。
でも、今俺が『違う』って言ったのは惣一や仁絵についてのことだよ。」

「え?」
「!」
「・・・何だって?」

「確かに惣一も仁絵もケンカが強いし、ちょっと目立つところもあるから、
いわゆる『問題児』みたいな見方をされちゃうのは事実だよ。
でもね」

歩夢はまっすぐ高藤を見据えて言った。

「その力を使って、俺らクラスメイトを脅すなんて、そんなことは絶対しない。
人が一生懸命作った物を、つまらない理由でわざと壊すようなことも絶対にしない。
それは俺や、クラスメイト皆が一番よく分かってるよ。保証する。」

「さすが委員長!!」
「委員長・・・」

歩夢の言葉に、惣一が感動の声を上げ、仁絵も驚きの眼差しを歩夢に向けている。
高藤は苦々しい顔をした。

「それから」

そして歩夢は続けて衝撃の一言を言った。

「小道具が壊れたり、装飾がなくなったりしたことについての責任の所在なら、おそらくそれは俺だよ。」

「・・・はぁっ!?」
「何言ってんの委員長!」

惣一とつばめが分かりやすく声を上げ、他のクラスメイトたちも驚きの表情。
追求をしていた高藤自身も一瞬眉を顰め、問いただした。

「どういう意味だ。」

「俺たちクラスは絶対ペーパーフラワー500個をはじめ全ての装飾を完成させた。それは誓って事実。
そして、最後に出来たそれらを倉庫にしまった、
その時に、他のクラスの作ってくれた小道具が壊れてた様子は・・・なかったよね?」

歩夢が5組に問いかけ、皆が頷く。

「ありがとう。つまり、ここまではまぁ高藤君が言うには『身内』の証言だけど、少なくとも複数人証明する人がいる。
だけど、その後・・・俺が倉庫の扉に鍵をかけたことについては、俺一人の作業だから誰も証明できない。
100%、絶対にかけたかと改めて問われれば、残念ながら俺も不安がないわけじゃない。」

「・・・だから責任は委員長にあるって? 馬鹿馬鹿しい、そんなの・・・」

夜須斗が話を遮ろうとすると、歩夢は人差し指をそっと自分の唇に置いて「シーッ」とジェスチャーし、夜須斗に目配せした。

「っ・・・」

それを見て察した夜須斗が黙ると、先ほどの冷ややかな態度に戻った高藤がしばらく黙ってから言った。

「・・・ふん、まぁ、とりあえずはそういうことにしたとして。それで」

高藤が、歩夢に詰め寄って尋ねる。

「壊れた小道具や足りない装飾はどうするつもりだ。」

「それについてだけど・・・」

歩夢の言葉を聞こうともしないで高藤が続ける。

「まさか自分に責任があるから自分が責任もって終わらせる、等と出来もしない大見得を切るつもりじゃないだろうな。
そんなくだらない自己犠牲を見せられても何の意味もありはしない、ということぐらい分かっているだろう?」

嫌みな高藤の物言いに歩夢が答えようと再度口を開いたが、
その前に勇ましい声が体育館に響いた。

「誰も委員長一人でやるなんて言ってねーだろ!!」
「そーだそーだ!」

進み出て口を開いたのは惣一だった。
つばめも相づちを打ち、それを合図に5組全員が寄ってくる。

「まー、クラス全体でやれば、今日の放課後この時間使えば何とかいけるでしょ。
リハはうちのクラス以外でやっといてもらって、俺らは明日のリハで何とか合わせるって感じで。」

そうまとめた夜須斗の言葉に、そうだそうだ、と賛成の声が上がり盛り上がる5組。

「何を勝手に・・・!」

それを高藤が睨み付けると、歩夢がまた進み出る。

「明日のリハーサル、特に集中してやって、絶対、本番ではとちらないようにするよ。だから・・・」

お願い、と歩夢が高藤に頭を下げた。
こんな奴に頭を下げなくても、と惣一が歩夢を起こそうとする。
そんな二人を見ながら、高藤は言った。

「別に僕に頭を下げろ等とは一言も言ってない。
大体、問題は足りていないお前のクラスの装飾もそうだが、
壊された他のクラスの小道具についてはどうするつもりだ。」

「それは・・・」

最もな高藤の追求に歩夢が口ごもると、今まで黙っていた4組委員長の木坂が口を開いた。

「そんなの、各クラスで直せばいいだろ。
壊されたのなんて5組の足りない装飾に比べれば全然少ないんだしよ。」

「そんな時間どこにあると・・・」

気楽に言う木坂に高藤が反論すると、更に気楽な様子で3組委員長の原田がさらっと言ってのけた。

「っていうかさー、俺予定表見て最初から思ってたんだけど今日のリハ要る?
どーせ明日全学年集まって5時間目から放課後使ってガッツリリハすんだからそん時ちゃんとすればいーじゃん。
だから今日は皆で壊れたやつとかちゃんと直すのに時間使おーよ、はい決定ー」

「原田、勝手に・・・」

「え? だって木坂も同意見だし、宮倉だって当然そうでしょ? 
だったらたとえ高藤と佐橋が反対しても多数決で決定じゃん。
まー、佐橋も反対しないでしょ?」

そう言って、原田は2組の委員長である女子の佐橋に話を振った。
突然振られた佐橋だが、動じた様子もなく答える。

「えぇ、まぁ、うちだって小道具直さなきゃいけないし・・・
そもそも1組が被害状況大きいんでしょ。今日は一律全クラス直す時間でいいんじゃない?」

「・・・仕方ない。」

佐橋にまで言われ、ようやく高藤が折れ、
今日は予定していた3年だけでのリハーサルではなく、装飾作り直し・小道具修理の時間になった。

各クラスが作業に分かれる中、歩夢が木坂と原田に礼を言う。

「ありがとう、二人が言い出してくれたから・・・」

すまなそうな顔をする歩夢に、木坂がニカッと笑って答える。

「ん? あー、気にすんなって、普通のこと言っただけだし。」
「いっつも宮倉に助けられてばっかだしねー たまには借り返しとかなきゃ(笑)」
「二人とも・・・ありがとう(ニコッ)」

「・・・チッ」

しかし、そうして笑い合う三人に向けて舌打ちをする人間がいることには、
三人をはじめこの場の誰も気づくことはなかったのだった。





こうしてリハ予定だった水曜放課後を丸々つぶし、
小道具は完全に修復され、装飾も足りない分作り直され無事500個揃った。(小道具修理にあぶれた他クラスが手伝ってくれたおかげもあり、むしろあっという間に完成した。)

そしてこの日の最後に3年生全員が集まり、
先生方に改めて報告したりするとまた面倒なことになる上歓迎会にケチがついてしまいかねないので、
今日のことはとりあえずこれで解決とし、少なくとも歓迎会を無事終えるまでは蒸し返さないということを全員の共通理解とした。

そして、この日の倉庫の戸締まりはクラス委員長5人全員が立ち会ってしっかり確認したのだった。



それからこの日以降は何事もなく、翌日は無事リハーサルを終え、本番も大成功を収めた。




こうして、一つのイベントを終え、各々再び平穏な日々に戻る・・・はずだったのだが。





新入生歓迎会が終わって数日後のある日の放課後。


最終下校も近く、5組の教室には歩夢一人だけが残っていた。
そんな歩夢に一人の影が近づき、話しかけた。

「お疲れ様ー(^∇^)」

「わっ・・・びっくりしました、風丘先生。」

背後から突然話しかけられ、歩夢は一瞬驚いた表情をしたが、
風丘と認めるといつもの朗らかな笑顔で応じた。

「ごめんごめん(笑) この前は新入生歓迎会お疲れ様。どう?最近。」

「え?」

唐突な質問に、歩夢が少し怪訝な顔をすると、
風丘は、別にそんな深い意味はないよ、と苦笑して応じる。

「歩夢くん、新入生歓迎会終わった後もまだよく残ってるから。最近どうかなって。」

風丘の言葉に、あぁ・・・と歩夢は納得して答える。

「歓迎会の準備が忙しくて、ちょっと勉強サボり気味だったので。」

「あー、そっかそっか。ふふっ、俺が言うのも何だけど真面目だねぇ」

「いえ、そんな・・・」

歩夢の謙遜の言葉を最後に、二人の間にしばし沈黙が流れる。
歩夢が所在なげに視線を漂わせたところ、

「ねぇ、歩夢くん。」

「あ・・・はい?」

今度は唐突に名前を呼ばれた。そして、風丘が歩夢に問いかける。

「俺に何か話したいことない?」

「・・・え?」

またもや突然の質問に、歩夢は一瞬逡巡した様子を見せてから、口を開いた。

「えーっと・・・歓迎会の反省点とかですか?」

「え? えーっと・・・うん、クスクスッ そうだねぇ、それもそうだけど。(苦笑)」

「?」

歩夢の答えを聞いて苦笑する風丘に、歩夢の頭の中には?がたくさん浮かぶ。
が、そんな歩夢の様子は気にもとめず、風丘は話を続ける。

「じゃあ歩夢くん、俺と一つ約束しよう。」

「約束・・・ですか?」

首を傾げる歩夢に、風丘は、うん、そう、と続ける。

「もし何か困ったことがあったり、自分一人じゃきつくなったりした時は、必ず俺に言うこと。」

「・・・どうしたんですか、先生、いきなり・・・」

不思議そうな歩夢に、風丘はいいからー、と言って、小指を差し出してくる。
そんな風丘を見て、歩夢は少し考えてから微笑んで答えた。

「ふふっ、分かりました。約束します。」

そう言って、差し出された風丘の小指に自分の小指を絡めた。
すると、風丘がその手を振って言った。

「はい、指切りげんまん。嘘ついたら・・・お仕置き、だね。」

最後に少し低い声で言われた物騒な言葉に、歩夢は苦笑する。

「くすっ、怖いですよ、先生(笑)」

「本気だよー?」

笑う歩夢に風丘がムッとして言うと、歩夢は大丈夫ですよ、と応じる。

「俺、委員長してて困ったりキツいって思ったりしたことないですもん。だから、大丈夫です。」

「うん・・・そっか。そうだね。」

朗らかにそう言う歩夢に、風丘もそう言って微笑んだ。

「はい。・・・じゃあ、もうすぐ最終下校なので俺もそろそろ帰ります。さようなら、先生。」

「うん、気をつけてー(^-^)/」

風丘に見送られ、最後まで穏やかな表情で歩夢は教室を後にした。

そして教室を出て下駄箱に向かう歩夢の表情は・・・
・・・眉間にしわの寄った、険しいものだった。





・・・平穏な日々は、まだまだ遠かったのである。