「な、なななななななななんのことっ!?(;゚∇゚)」
「つばめ…(;^_^A」
「貴方ねぇ…それでごまかしてるつもりですか?」
必死で冷静を取り繕おうとした(らしい)つばめに、
洲矢は引き攣った苦笑いをし、霧山はため息をついた。
「……」
続いて霧山の冷たい目で無言で見つめられ、
つばめは何も言えなくなってうーと、俯いて唸っている。
膠着状態に入ってしまい、洲矢が見かねて恐る恐る口を開いた。
「霧山先生…あの・・・いつからいらっしゃってましたか…?」
「そうですねぇ…あなた方が追いかけっこか何かをしていたくらいでしょうか。
ちょっと騒がしかったので注意に行こうとしたら大きな音がしましてねぇ…」
「あっ…」
「なっ…!!」
洲矢の問いに対して、涼しい顔で応じた霧山の答えに、二人は全てを察し、
つばめは察すだけでは我慢できずに噛みついた。
「何だよ…何だよ何だよっ 全部知ってたんじゃんっ
なーにが『お尋ねしたいんですが』だよぉっ わかってたくせに!!
この性悪! 鬼畜!! 人でなしっっ」
「ちょ、ちょっとつばめ…っ」
暴言吐きまくりのつばめに洲矢が制止に入るが、霧山はそれについては触れずに冷たく言った。
「えぇ。ですからチャンスをあげたんじゃないですか。
私を前にして、正直に罪を告白できるか、誤魔化すか。
正直に言ってくれたら減刑も考えましたが…残念ながらあなた方がとった選択肢は後者でした。」
「うっ…」
「霧山先生…ごめんなさい…」
何も言えなくなって言葉に詰まるつばめを横に、洲矢は本当に申し訳なさそうに頭を下げた。
すると、霧山は先ほどよりは幾分柔らかい口調で、しかしやはり有無を言わさぬ雰囲気で答えた。
「えぇ、そうですね。佐土原君はちゃんと反省できているようです。
後は、やってしまったことの罰を受けましょうね。」
「はい…」
霧山がハタキの柄を振って、ヒュンと風切る音がして、洲矢はビクッとしながらも返事をする。
が、本人は素直に返事をしているのに
その洲矢の処遇に納得いっていないのはもう一人の方だった。
「えぇっ!! こんなちゃんと謝ってんのに洲矢叩くの!?」
信じられない、という目で霧山を見つめる、そんなつばめの抗議は、しかしきっぱり切り捨てられた。
「もちろん、貴方もですよ。太刀川君。
…さて、無駄話が過ぎました。まぁ、今回は下着の上からで良いでしょう。
二人とも、ズボンを下ろして机に腹這いになってください。」
「うーっ・・・やだぁ・・・」
「つばめ・・・ヤダヤダ言っても逃げられないよ。」
しゃがみ込んでヤダヤダと駄々をこね続けるつばめに、
洲矢は同じようにしゃがんで目線を合わせて言い聞かせる。
「でもぉ・・・」
渋るつばめに、洲矢は困ったように薄く微笑んで言った。
「僕も我慢するから。
元々、僕がつばめのお願いダメって言えなかったのが悪かったしね。」
洲矢はそう言うと、立ち上がって制服のズボンのベルトに手をかける。
そしてバックルを外し、ベルトをゆるめると、
ズボンがストンと床に落ちたのが床にしゃがみ込んだつばめの視界に入る。
「うー・・・そんなこと言わないでよぉ・・・洲矢ぁ・・・」
洲矢の姿にいよいよ逃げられないと悟ったつばめは、ノロノロと立ち上がった。
洲矢に比べればだいぶ嫌々な動作ながらも、同じようにズボンを下ろし、
既に机に腹這いになっている洲矢の隣に並ぶ。
すると、ここまでずっと黙っていた霧山が口を開いた。
「はい、いいですね。」
パシンッと軽く自分の手の平をハタキの柄で叩いて、霧山が机に腹這いになった2人に近づく。
「余計に痛い思いをしたくなかったら手は出さないように。では、いきますよ。」
そう言うやいなや、2人の耳にヒュンッと風を切る音が聞こえ
ピシィィンッ
平手とは明らかに違う軽い、けれど鋭さを感じる音がつばめの横で弾けた。
そして次の瞬間
「いっ・・・たぁぁぁぃっ!!」
洲矢が悲鳴を上げ、机から崩れ落ちていた。
「えっ・・・ええぇぇぇっ!?」
これに焦ったのはつばめだ。
洲矢とはこれまで何度か一緒にお仕置きを受けたことはあるが、
洲矢は基本的にお仕置き中、
先生たちの言いつけは忠実に守って、真摯な態度でお仕置きを受けようとする。
痛くても目に余る暴れ方は絶対しないで我慢するし、手でかばったりなんてしない。
そもそも大声で悲鳴をあげるなんてこともほとんど無いレベルだ。
そんな洲矢が悲鳴を上げ、言われた体勢を維持できずに崩れ落ちた。
それはつまり・・・
「そんなに・・・痛いのっ!? ちょっ、ちょっ、もりりん待ってっ・・・」
慌てるつばめだが、時既に遅かった。
「問答無用。」
霧山に訴えようと振り向いたつばめの視界には、
既に振り上げられたハタキの柄と、冷ややかな霧山の表情が映った。
そして・・・
ピシィィンッ
「いっ・・・たぁぁぁぁぁぁぃぃぃっ!!」
当たった瞬間、洲矢の時と同じように鋭い音、
そして一拍置いて今まで経験の無い痛みがつばめを襲った。
当然耐えられるはずなく、つばめは飛び上がってその場に蹲る。
しかし霧山はそんなつばめに目もくれず、
いつの間にか元の体勢に戻っていた洲矢の方に向き直り、声を掛けた。
「佐土原君はあと2発、我慢できたらおしまいにしましょう。
先ほどみたいに体勢を崩さないように。良いですね?」
「は、はい・・・」
明らかに不安そうな洲矢の声に、
霧山はクスッと笑ったが、手に持ったハタキは容赦なく高々と掲げられた。
ピシィィンッ ピシィィンッ
「ふぁっ・・!! いたいぃぃぃぃ・・・っ」
何としても崩れ落ちるわけにいかない洲矢は、
何とか痛みを紛らわそうと机につけていた手の平でパタパタ机を叩く。
その様子が微笑ましかったのか、霧山は幾分柔らかい声音で、
机に伏せっている洲矢の背中をポンと優しく叩いて言った。
「はい、佐土原君はお仕置きはもういいですよ。
太刀川君が終わるまで、あちらで正座して待っていてください。」
そう言って、美術室の隅を指差す。
「はい・・・先生に嘘ついてごめんなさい・・・」
「ええ。ちゃんと聞かせていただきました。」
素直な洲矢の謝罪に、霧山も微笑んで答える。
そして洲矢が言われたとおりに部屋の隅に正座したのを見届けると、
霧山は以前床に蹲ってお尻をさすっているもう一人の方に向き直った。
「さぁ、太刀川君。
いつまでそんな格好をしているつもりですか。早く元の体勢に戻りなさい。」
しかし、そう言われて戻れるようならとっくに戻っているのだ。
体勢を崩したままだとまずい、というのはつばめも洲矢もよく知っている。
だからこそ洲矢はつばめが打たれている間に元に戻ったわけで・・・
だが、つばめはそう分かっていても動けなかった。
「無理ぃ・・・お尻痛いよぉっ・・・」
しかし当然、霧山はそんなことで甘い顔をするような人間ではない。
涙目で蹲るつばめの姿を冷ややかに見つめ、カツカツとつばめの元に歩み寄った。
そして、突然つばめの右腕を掴んで上に引っ張り上げ、無理矢理立たせた。
「うわっ・・・ぁっ!」
余りにも突然に、しかも強い力に驚くつばめ。
自分より20㎝以上高い、すなわち腕の長さも自分より相当長い霧山に腕を掴まれ、
立ち上がらせられるだけでなく掴まれた腕は更に頭上高くまで引っ張られ、
つばめはつま先立ちにも近い不安定な体勢になる。
振りほどこうにもこう見えて武道を嗜む霧山の力は強く、びくともしない。
「あの程度の一発で音を上げるくせに、私監督の掃除場所であのような悪行三昧とは・・・
よっぽど頭が足りないのかそれとも・・・」
頭上から振ってくる霧山のお説教と、背後に感じるとてつもなく嫌な気配。
しかし、気付いても遅かったし、気付いたところで手首はしっかり掴まれていて、逃げられなかった。
ピシィィィンッ
「やぁぁぁぁっ!!」
いつの間にか振り上げられていたハタキの柄がつばめのお尻にヒットする。
腕を掴まれているだけなので身をよじったり地団駄踏んだりと結構暴れているのだが、
それでも霧山はつばめがまた座り込もうとするくらいの威力の一打を打ち込んだ。
つばめは実際は、崩れ落ちそうなところを
腕をまた引っ張り上げられて、無理矢理立たされているが。
「私のお仕置き等恐るるに足らずとなめられていたんでしょうかねぇ。」
ピシィィィンッ
「あぁぁぁんっ!!」
またも的確にヒットしたハタキの柄に、
既に大泣きでまたも崩れ落ちそうになるつばめの様子を見て、霧山はふぅと息をつく。
そしてつばめの腕を引いて再び上半身を机に突っ伏すようにさせると、
掴んでいた腕を放して今度は背中を上からしっかり押さえつけた。
これでついに上半身は身動きがとれなくなったつばめは、足をバタバタさせて霧山に訴える。
「お尻いたいぃぃぃっ もうやだぁぁっ」
しかし、そんなつばめの必死の懇願にも霧山は冷ややかに答えた。
「静かになさい。これ以上片足でも地から浮かせたら
これも下ろして素肌をこの柄で打ちますよ。」
そう言われ、履いている下着のゴムに指をかけられれば、おとなしくなるしかなかった。
ピタッと足のバタバタを止めたつばめに、
霧山は全く・・・と溜息をつきながら、再び柄を振り上げる。
ピシィィィンッ
「ひっ・・・っ・・・ふぇ・・・ふぁぁぁぁぁんっ!!」
再び自分のお尻を襲った鋭い痛みに、
足を浮かすことも許されないつばめはついに涙をこぼして大泣きした。
体を動かして痛みを紛らわすことが出来ず、
その分が涙と泣き声に集約されたかのような大泣きだ。
しかし、その音量に正座している洲矢の方がビクッと肩を揺らし、心配そうにつばめを見つめる中、
霧山は至って冷静だった。
呆れたような声で言う。
「やれやれ。葉月から聞いていた通りですね。
大泣きして甘えるばかりで、肝心なことはなかなか言わない・・・と。」
「ふぇっ・・・ひぐっ・・・お尻ぃ・・・痛いよぉっ・・・」
霧山がタイミングをくれているのに、
お尻が痛い、痛いと泣いてばかりのつばめに、洲矢がたまらずアドバイスを送る。
「つばめっ 『ごめんなさい』言わなきゃっ」
「ふぇぇ・・・しゅうやぁっ・・・」
涙目で助けを求めるように自分の名前を呼ぶつばめの姿に、洲矢は一生懸命促した。
「つばめ、頑張ってっ 『ごめんなさい』!」
洲矢に促されて、つばめはヒクッヒクッとしゃくり上げながら何とか口を開く。
「ごめっ・・・ひくっ・・・なさっ・・・」
「・・・」
しばしの沈黙。つばめのすすり泣く声だけが聞こえる中、
次に霧山の口から発された言葉は、つばめにとって絶望の言葉だった。
「・・・人に再三促されてようやく言った謝罪の言葉など、私は聞きません。」
「ふぇっ・・・」
そうして再びハタキの柄が振り上げられる気配がする。
再度の痛みの襲来に耐えかねたつばめは、無我夢中で禁じられたことをしてしまった。
「いやいやいやっ・・・もう痛いのやだよぉぉっ」
足をバタバタ、ついでに手は拳にしてドンドン机を叩く。
そうすると、痛みはやって来ず、またしばしの沈黙。
「いやっ・・・もうやだぁ・・・ふぇ・・・ぇぇ・・・」
長い沈黙につばめが足バタバタも騒ぐのも止めると、霧山が静かに告げた。
「・・・足を地から離したら下ろす、と忠告しましたよね?」
「!! やっ・・・だめぇぇぇっ」
そこでようやく自分の過ちに気付いて、
つばめはまたぶわっと涙を目から溢れさせて自分の傍らに立つ霧山を見上げる。
しかし、その霧山の表情は冷たい。
「人の話は聞かない、言うことも聞けない・・・
だからこんな痛い目を見ているんじゃないですか。全く・・・
一度徹底的に懲りた方がいいですよ、貴方は。」
そう言って、再び下着のゴムに指をかけられる。
絶体絶命だ。なりふり構ってられないつばめは、必死で懇願した。
「やだやだぁっ 無理っ・・・こんな・・・直接叩かれたら死んじゃうよぉっ
ごめんなさいっ もうしないからっ・・・ごめんなさぃぃぃっ」
しかし、霧山もそう簡単に譲る人間ではない。
「ダメです。今日は先ほどまでの不真面目な態度や、
人の話を聞かないということの結果がどうなるか、しっかり骨身に染みなさい。」
「あぁぁぁぁんっ」
霧山に断罪され、大泣きするつばめに、霧山は溜息をついた後言葉を継ぐ。
「まぁ、ですが・・・今の必死な『ごめんなさい』に免じて、これは使わないであげましょう。」
そう言って、霧山はハタキの柄を机の上に置くと、
またつばめの腕を掴み、自身が美術室の角椅子に座り、膝の上につばめを横たえる。
そしてあっという間につばめの下着を下ろしてしまうと、
既にハタキの柄の形に赤い線が数本走っているつばめのお尻に、ピタピタと手を添えた。
そこでようやく我に返ったつばめが、涙声で訴える。
「いやぁっ もりりん平手もすっごいいたいぃっ!!」
しかし、これ以上は霧山は譲歩しなかった。
バシィンッ
「やぁぁんっ」
「これ以上は甘くしませんよ。早く終わって欲しいなら、言うべきことを早く言いなさい。」
バシィィンッ
「ふぁぁぁんっ」
「それで? 何が『もうしない』『ごめんなさい』なんですか?」
ピシャンッ ピシャンッ
(霧山にしては)軽い平手で促され、つばめは必死に答える。
「ふぁんっ あぁっ・・・掃除っ・・・サボって遊ばないぃぃ」
バシィィンッ
「いたぁぁっ!!」
「はい。それから?」
ピシャンッ
「んぅっ・・・嘘つかないっ・・・」
バシィィンッ
「ふぇぇぇぇっ」
「そうですね。人に嘘をつくのを強要して巻き込むのもいけません。・・・他には?」
ピシャンッ
「ったぁぁ・・・人の話聞くっ 言うこと聞くぅっ・・・」
バシィィンッ
「ふぁぁぁんっ」
「えぇ。普段の生活でも、お仕置きの時でも、ですよ。
・・・それでは、これらの反省事項をどうするのか。最後にもう一度どうぞ。」
ピシャンッ
「ひぅっ・・・ご、ごめんなさい・・・もうしませんっ・・・」
今度のは受け入れてもらえるか・・・つばめがぎゅっと目をつぶっていると・・・
バッシィィィンッ
「ひっ!?・・・ふ・・・え・・・ふぇぇぇぇぇ・・・!!!」
「いいでしょう。おしまいです。」
最後にとびきり痛い一発をもらって、つばめはようやく解放された。
霧山の膝の上で、
お仕置き中は腰だけが膝の上にあって頭ははみ出て宙に浮いて頭に血が上るような体勢だったのだが、
腰を押さえられていた手を離されると、つばめはずりずりとずり落ちて、
お尻を出したまま霧山の膝に頭を埋めてわんわん泣いている。
霧山はその様子を見て少々呆れた様子だったが、無理矢理剥がそうとはせず、
先に律儀に正座を続けている洲矢に声を掛けた。
「佐土原君、正座はもういいですよ。」
「あ、はい。」
そう長時間ではなかったが、少し痺れている。
洲矢はそろそろ歩きながら、2人の元に近づいた。
泣いているつばめを前にして気が引けるが、言わねばならない、と
洲矢は心を決めて霧山に話しかける。
「先生。あの・・・掃除、終わらないかも・・・」
残り時間は1時間を切ろうとしている。
そうおずおずと申し出る洲矢に、霧山はフッと不敵な笑みを浮かべた。
「そんなことありません。終わりますよ。今回は特別に私が力をお貸ししますから。」
「えっ・・・本当ですか!?」
洲矢に聞かれ、霧山は自信満々に言い放つ。
「えぇ。当然です。
さぁ、というわけで太刀川君。いつまで泣いているつもりですか。掃除を再開しますよ。」
そう言って、膝にすがりついているつばめを引きはがした。
「ふぇっ・・・お尻痛いのにぃ・・・」
つばめは当然愚図るが、そんなつばめの甘えはあっさり切り捨てられた。
「それは自業自得でしょう。
さぁ、とっとと始めますよ。放課後まで掃除監督なんてごめんですから。
もし動きが鈍ったりサボったりしていたら・・・」
霧山はフフッと微笑んで再び『あれ』を手にした。
「しっかり、これ、で気合いを入れて差し上げますから。」
ヒュンッと目の前で風を切ったハタキの柄に、
洲矢の顔は引きつり、つばめはふにゃっと顔をゆがめた。
「え・・・」
「ふぇっ・・・このっ・・・鬼ドS悪魔ぁぁぁぁぁっ!!」
「太刀川君。お尻をこちらに向けてください?(ニッコリ)」
・・・この後2人は霧山の指示通り必死に手を動かし、何とか時間通りに大掃除を終えた。
居残りにはならなかったものの、その代償はあまりにも大きく、
つばめはこの後この場にいない他の三人に「悪魔は本当にいた」「真のドSだ」と涙ながらに語るのだった。