※珍しく割とハード描写&特殊なお仕置きありです。
あらかじめご了承の上お読みください。
「・・・風呂ありがと・・・」
お風呂から上がった夜須斗は、まさに「恐る恐る」といった様子でリビングに入った。
風丘は仁絵のお仕置きを終わり、ソファに座って新聞を読んでいた。
入ってきた夜須斗の姿を認めると、新聞をラックにしまって立ち上がる。
「どういたしまして。それじゃ始めるか。」
心なしか声が冷たいのは気のせいじゃないだろうな・・・と
夜須斗は内心少しびくびくしながら思う。
「こっち。」
手招きをされて、ゆっくり近づく。
「はい、手出して。」
「・・・え?」
「手。両手出して。」
てっきり有無を言わさず膝に乗せられるか
ソファか机あたりに押しつけられるかされると思っていた夜須斗は
予想外の指示に面食らいながらも、
逆らったらきっとろくなことがないのでおずおずと両手を前に出す。
「手を握って、手首をくっつける。はい、そのまま。」
「・・・え・・・ちょ・・・これって・・・」
シュル・・・
「ま、待って風丘・・・ちょっと」
「黙ってる。」
「いや、だって・・・」
風丘の手にはいつの間にか包帯が握られていて。
気付かなかったが、机の上には救急箱が置かれていた。
きっとそこから出したのだろう。
くっつけた夜須斗の両手首は、あっという間に一纏めにして包帯で縛られていく。
あまりのことに思考回路が追いつかず、声を発したときには時既に遅しだった。
「・・・よし。」
「か、風丘・・・」
解放されたときには、
ガチガチに縛られていて両手首は微塵も動かせない状態になっていた。
包帯だから痛くはないが、拘束されるなんて・・・とそれだけで恐怖が襲う。
「暴れたり手で庇われたりしたら危ないから。はい、こっち来て。」
危ない?危ないって何?
もう何もかもが怖い。風丘から発される言葉も、視線も、行動も、何もかも。
どうして忘れていたんだろう、
最初に風丘に酒でお仕置きされた時も
突然変わったこいつの態度にあんなに恐怖したじゃないか。
・・・と、自分で自分を責めるももう今更だった。
夜須斗はまた重い足取りで風丘に言われた場所に動く。
ローテーブルの前。
「手を頭の上に挙げて。そう。そのまま膝立ち。で、お腹をのせる。」
「っ・・・」
言われたとおりの体勢になるやいなや、風丘に無言でズボンも下着も下ろされる。
「さて・・・と。」
風丘が静かな声で言った。
「さっきも言ったけど暴れないこと。
とりあえず『ごめんなさい』は聞かないから黙って反省してろ。
俺ももう前みたいなお説教しないから。」
「えっ・・・」
夜須斗が思わず振り返ると、冷たい目をした風丘と目が合う。
「だって吉野、俺のお説教なんてどうせ聞かないだろ?」
「そ、そんなこと・・・」
否定しようとするもその言葉も遮られる。
「あるから酒飲んだんだろ。
俺はあの時、どうして酒飲んじゃいけないか言った。吉野もそれを理解してた。
吉野は頭がいいからお説教の内容を理解してないわけじゃない。
それでもまたやったってことはただ単に説教されたことを聞く気がないから。」
「っ・・・」
何も言い返せず、夜須斗は前に向き直って唇を噛む。
「これはいつものイタズラと違って
何度も繰り返して、その都度お仕置きして済んでいいようなことじゃない。
あの時も言った。体に関わることだって。
理論的に説明して、理解できて、それでも聞いてくれないなら、
一度目と方法を変えるしかない。だから・・・」
「・・・」
「道理とか関係なく、
酒見ただけで本能的に怖くなって逃げたくなるようにしてやるよ。」
あの時お仕置きの後言われた言葉を思い出す。
〈トラウマになってきっとお酒見るのもいやになるよ〉
あの時は冗談めかしていたけど、今回は・・・本気だ。
ピトッ
「ひっ・・・」
夜須斗の心を占める恐怖心がいよいよ限界までふくれあがった時。
素肌になったお尻に冷たい感触があった。
夜須斗が思わず身をすくませると、次の瞬間・・・
ヒュン・・・ピシィィィンッ
「っ!!???・・・ぁぁああっ!!」
耳に入ったのは何かが空を切る音。
ついで感じたのは切るように鋭い痛み・・・というか衝撃。
その瞬間には声は出せず息が詰まり、一拍遅れて悲鳴がこぼれる。
(何!? 何で叩いてんの!?)
確実に平手ではない。
今まで使われた定規とか靴べらとかとも違う。
未知の痛みに、それを与えてくる凶器が何かを確認しようとするも、
夜須斗がそれを視認する前に次の痛みが夜須斗のお尻を襲った。
ヒュン・・・ピシィィィンッ
「ぅっ・・・ぃっ・・・いたぁぁぁっ!!」
先ほどの、お尻のちょうど中心より少し上に一発。
本当に切れて血が出るんじゃないかと思うくらいの痛み。
「か、風丘待って・・・無理っこんな・・・」
ヒュン・・・ピシィィィンッ
「うわぁぁぁっ!!・・・っく・・・ぅ・・・」
今度は真ん中より少し下。ほぼ同じ強さで一発。
夜須斗の目からはもう涙がにじんでくる。たった三発で。最短記録だ。
風丘が手を縛ってきたのもうなずける。
こんな痛み、庇わないで受けられるはずがない。
ヒュン・・・ピシィィィンッ
「ひぁっ・・・いたぁぁぁっ!」
また上。さっきよりも上だ。
同じ所を叩かないように気を遣ってくれているのかもしれないが、何にしたって痛い。
痛みは変わることなく、むしろ心なしか増している気さえする。
「風丘っ・・・ふっ・・・痛いっ・・・ぇっ・・・痛いからっ・・・」
「・・・」
ヒュン・・・ピシィィィンッ
「うっ・・やぁぁぁっ!」
説教しないとは聞いたけど無言だなんて聞いてないっ・・・
怖いんだって、何か喋ってよっ・・・痛い、怖い、痛い、怖いっ・・・
いつもの冷静さは欠片もなく、脳内でらしくない感情表現の言葉の嵐がかけめぐる。
しかし、そんなことは我関せずというように、風丘は何も言わずに次を振り下ろす。
ヒュン・・・ピシィィィンッ
「ああぁぁぁっ!!」
ヒュン・・・ピシィィィィンッ
「っ・・・もうやだぁぁっ・・・!」
ヒュン・・・ピシィィィィンッ
「うぁぁぁっ! ぇっ・・・うぇぇ・・・」
ヒュン・・・ピシィィィィンッ
「いたいぃぃぃっ!! もっ・・・もっ・・・む・・・」
ヒュン・・・ピシィィィィンッ
「いあぁぁぁっ・・・ふぇっ・・・」
ヒュン・・・ピッシィィィィンッ
「!!!???? ~~~~~っうぁぁぁぁぁっ!!!」
ひときわ厳しい一打がお尻と足の境目、付け根に当てられた。
あまりの痛みに悶絶する夜須斗を尻目に、風丘がふぅっと息をつく。
「・・・まぁ、こんなところか。」
カラン・・・
「ひぐっ・・・ぅっ・・・? こ、こんなのでっ・・・」
机に突っ伏したまま泣いている夜須斗の顔の横にころんと転がされたのは、
金属製の指示棒だった。
風丘は自身が経験して嫌だったこともあって、今まで使っていなかったのだ。
そのままの姿勢で動かない夜須斗を一瞥して、風丘は言う。
「言っておくけどまだ終わりじゃないから。次はこっち。」
「ぇっ・・・」
まだやるというのか。
ソファに座って自らの膝を叩く風丘を見て、絶望的な気持ちになるが、
抵抗する勇気も元気も先ほどの指示棒のお仕置きでそがれてしまった。
夜須斗はよろよろと起き上がり、風丘の膝の上にうつぶせになる。
「さ、てと・・・」
「んぅ・・・」
夜須斗のお尻には綺麗に10本のみみず腫れが走っている。
風丘がその上を指でなぞっただけで痛みが走り、夜須斗はうめき声をあげた。
「暴れないでよ。」
そう言って、風丘は夜須斗の足を自分の足の間に挟み込んで固定する。
それから、夜須斗の視界には入らない背後でカタンと何やら音がして、
その数秒後・・・
「っ!? あぁぁぁぁぁっ!!」
叩かれた痛みではない、でも激痛が夜須斗の体を駆けめぐった。
膝から逃げ出しそうになるが、手は縛られ足は挟まれ、全く動けない。
突然叫び声をあげたため、夜須斗はむせかえりながらも疑問を口にせずにはいられない。
「ケホッコホッ・・・なにっ・・・染み・・・っ」
「んー。これ。アルコール。消毒用だよ。」
「なっ・・・!? そ、そんなの・・・」
傷口にアルコール消毒をする時、染みるのは誰もが経験のあること。
風丘のお仕置きの後は普通に風呂にはいるのも辛いのだ。
そんな状態のお尻にそんなものを塗られれば・・・先ほどの痛みも納得だ。
が、そんなのは序の口だった。
「みみず腫れ10本あるからあと9回ね。」
「なっ・・・やだよっ・・・そんなの無理っ・・・」
さっきみたいな痛みをあと9回も耐えろなんて無理な話だ。
夜須斗は必死に懇願するが、
風丘は受け入れるどころか返事もせずに涼しい顔で次のみみず腫れにアルコールを塗る。
「あ゛あ゛あ゛っ!! っぐ・・・うくっ・・・」
「無理とか我慢できるとか吉野の都合は関係ない。
あれだけダメって言われてもまた飲むくらいアルコール好きなんだろ?
だったらその大好きなアルコールにたっぷり苦しめられるといいよ。」
飲むアルコールとこのアルコールは違うとか、
どうやったらこんな頭おかしい罰の与え方を思いつくんだとか、
言ってやりたいことは山ほどあるがそんなことを口にする余裕もない。
とにかく痛いのだ。
アルコールを含ませた脱脂綿で、
傷跡に塗り込むように強く、しかも丁寧に塗ってくれるおかげで、もうそれは本当に激痛だった。
3回目、4回目と淡々と塗られていくが、塗り終わった傷はジンジンと痛み、
もうお尻が何倍にも膨れあがっているかのような感覚だった。
「うぁぁぁぁっ・・・っぅぅ・・・ったぃぃぃぃぃっ」
指示棒のお仕置きから叫び続けた喉も限界で、
残り1回になった頃には、悲鳴らしい悲鳴もあげられず、
ただ息を詰めて耐えるだけになっていた。
「・・・最後。」
「っ・・・!!!っうぅぅぅっ・・・ハァハァハァ・・・」
脱脂綿がお尻から離れていき、夜須斗は肩の力を抜いて息をする。
やっと終わった・・・何時間にも感じられたお仕置から解放された・・・
そう思った時だった。
「さて・・・あと何回叩けばいいと思う?」
「!!!??? な、何言って・・・」
お尻に手が添えられ、そして放たれた衝撃の一言に振り返って風丘の顔を見れば、
お仕置き開始から何ら変わらない冷たい目。
「まだ終わりなんて一言も言ってないだろ。」
バチィンッ
「っあああっ! やだ、風丘ぁっ」
バチィィンッ
「もう無理ぃっ・・・無理だからぁぁぁっ」
バチィィンッ
「うぇぇっ・・・ごめんなさいっ・・・反省してるっ・・・」
バチィィンッ
「うぅ゛っ・・・もう二度と酒飲まないっ・・・約束するっ・・・誓うからぁっ」
バチィィィンッ
「ああああっ・・・おねがっ・・・もう許して・・・っ」
「・・・」
ごめんなさい、許して。と、かすれた声でもう一度言うと、ようやく平手が止まった。
だが、その手はお尻の上に置かれたままで、いつまた振り下ろされてもおかしくない。
「どうせまたそれは口先だけの誓いだろ?
いいよ、出来ない約束無理にしなくたって。」
「ちがっ・・・」
また風丘の手がお尻から離れる。
嫌だ、もう無理だ、本当に。
夜須斗は叫んだ。
「ちゃんと守る!! 守るからぁぁっ!!」
ピタッと直前で平手は止まり、勢いを無くしてまたお尻の上に置かれる。
まだか。まだ足りないのか。
「もう絶対約束破んないっ・・・懲りたからっほんとにっ・・・」
「ふーん。本当? どうせお尻が痛い間だけでしょ?
治ったらまたすぐ飲むんじゃないの。」
少し柔らかくなった風丘の声。もう縋るしかない。
夜須斗は必死に言葉を紡いだ。
「飲まないっ 飲みませんっ・・・もう成人するまで絶対にっ・・・」
「・・・」
「っ!!」
風丘は黙って夜須斗を抱き起こした。
そしてソファに座った自分の前に立たせ、夜須斗の頬を両手で包み込む。
「本当だね? 3度目はないよ?
もし次飲んだってことが分かったら、吉野が二十歳になるまでお尻が痛くない時がないようにずーっとお仕置きするから。」
「っ・・・」
真剣な風丘のまなざしに射貫かれる。
「急性アルコール中毒で倒れた、救急車で運ばれた、なんてこと聞かされるくらいなら
お仕置きで俺が毎日泣かせた方がまし。・・・俺は本気だよ。」
「っ・・・はい・・・」
「よしじゃあ最後。言うべきことは?」
「ごめん・・・なさい・・・」
夜須斗がそう言うと、風丘は夜須斗を抱きしめて頭を撫でた。
「全く・・・お酒強いからって体に害がないわけじゃないんだからね。
頼むから、自分の体は大事にしてね。
・・・よし、許す。お仕置き終わり。」
そうして、ようやく風丘の顔に笑顔が戻る。
それを見た瞬間、夜須斗は力が抜けてその場にへなへなと崩れ落ちてしまった
「し、死ぬかと思った・・・グスッ・・・うぅ・・・」
「クスクスッ この世の終わりみたいな顔して。」
風丘は崩れ落ちて全く動けない夜須斗を抱き起こすと、包帯を解き、どこからともなく持ってきたタオルで冷やしてやる。
「うっわぁ、お尻ボコボコ・・・」
「誰がやったんだよ・・・」
他人事のように言ってくる風丘に、夜須斗は心底恨めしげな声をあげたのだった。
ひとしきりして落ち着くと、夜須斗は何とか下着とズボンを履いて立ち上がる。
「喉痛い・・・」
「もうそろそろご飯も出来てるだろうし、仁絵君に言って飲み物貰ってきなー。
俺はここ片付けてからいくから。」
風丘にそう言われ、夜須斗は仁絵がいそいそと支度をしているキッチンに入った。
「おー、さすがに死んではねーな。お疲れ・・・」
「半分死にかけだよ。バカ・・・」
かすれた声でそう返事をすれば、仁絵がびっくりした顔をする。
「何だよ、そのひでー声・・・すげー叫んだりしたのか?」
あれが聞こえなかったなんてそんなわけない、と夜須斗は不機嫌に返す。
「叫んだりしたのか?じゃないよ、
あれが聞こえてなかったとかそんなバカみたいな気遣いいらないから。」
「いや、マジで聞きたくなくてさっきまでこれで音楽大音量で聴いてたから・・・
お前がこっち来たから止めたけど。」
仁絵はそう言ってポケットから携帯音楽プレーヤーを取り出す。
見せられたディスプレイには確かに相当の大音量の表示。
「・・・こんな大音量で音楽聞きながら料理してたわけ?」
「だって聞きたくねーもん、お前の悲鳴とか、何より尻引っぱたく音とか・・・」
気分沈む、と仁絵がしかめ面でそう言えば、夜須斗は遠い目をして答える。
「あー・・・まぁ、俺の悲鳴以外はあんまり聞こえなかったと思うけど、今回は。」
ハハ・・・と力なく笑う夜須斗に、仁絵が目を丸くする。
「え、尻叩かれなかったのかよ?」
「いや、叩かれたよ? でもそれより何よりさぁ・・・」
「仁絵くーん? ご飯・・・って何、その目。」
遅れてやって来た風丘は、
入った途端に向けられた仁絵の冷たい目に困惑する。
「『何、その目。』じゃねーよ。悪趣味変態ヤロー。」
「え?」
「お、おい仁絵・・・」
あまりのド直球にやられた本人の夜須斗も引いているが、仁絵は黙らない。
「尻叩くのは百歩・・・千歩・・・いや万歩譲って罰だと受け取るけどな、
わざと尻にみみず腫れ作ってそこにアルコール塗り込むとか何だそれは、何のプレイだ。
お前がドSで鬼畜で悪趣味で変態なのは今に始まったことじゃねーだろーけど
そこまでいったら引くわ。マジで引く。」
一息でそこまで言い切った仁絵に、風丘は一瞬びっくりした顔をしたが、
すぐに吹き出した。
「クスクスッ なーんだそんなこと。」
夜須斗からお仕置きの一部始終を聞いてしまった仁絵に非難された風丘だが、
余裕の笑みで仁絵に近づくと・・・
バッシィィィンッ
「ってぇぇっ!」
仁絵のお尻にズボンの上から一発落とした。
不意打ちで打たれ、声を上げてしまう仁絵。
「お仕置きに文句付けられる立場なのかなー? 仁絵君。」
「ってぇ・・・思ったこと言っただけだろーが・・・」
間違ったことは言っていない、と睨む仁絵を見て、
風丘は可愛いなぁと思いながら仁絵の髪を撫でる。
「クスッ まぁいいけど。
お酒の再犯のお仕置きだよ? いつもみたいなあまーいお仕置きで済むはずないでしょ。
アルコールを使った、文字通り痛みが『身に染みる』お仕置き。
すっごいいいアイディアだと思わない?」
「どこが・・・」
嬉々として語る風丘に、もういいよ、と呆れたような仁絵と、
そのやり取りを見ていた夜須斗だったが、
続く一言は聞き逃せなかった。
「まぁ、俺発案じゃないんだけどねー」
「「え??」」
そして本当の戦犯が明らかになる。
「昨日の夜、メールしたらすぐ返ってきたんだー。よく思いつくよね。さすが光矢♪」
「「・・・」」
(あいつかよ・・・変態白衣ヤロー・・・)
(だからあいつ嫌いなんだ・・・)
食事の間中、二人は(特に夜須斗は)頭の中で雲居に悪態をつきまくったのだった。