こちらの小説は、お友達のにょんちゃんの企画で

ピクシブに投稿させていただいたものと同一となります。







元日の夜。


「・・・莉央菜お嬢様。いい加減になさってください。

昨日の夜更かしは特別ですよ、と毎年申し上げているでしょう。」


「いーじゃん、七希!! 今日だってお正月なのよっ!?」


ソファーにごろんと横になってお正月の特番を見ているのは、

このお屋敷、花吹家の令嬢、花吹 莉央菜(はなぶき りおな)、15歳、中学3年生。

そんな彼女に苦言を呈しているのは、

彼女付きの執事、鷹渡 七希(たかと ななき) 27歳。


莉央菜と七希の間には、いくつかの約束事がある。

その1つが、遅くても日付が変わる前にはベッドに入って寝ること。

ただ、その約束が一日だけなくなるのが、大晦日の夜。
その日だけは、除夜の鐘を聞いて、初詣に行くので、

12時でも起きていることが許されるのだった。

しかし、それは大晦日だけで、翌日、つまり元日の今夜は適用されない。
でも、テレビをつければ、お正月恒例の長時間の特番がどれも夜遅くまでやっている。
莉央菜が7時頃から見だした特番も、終了予定は12時半。
ベッドに入って寝る前に、歯磨き等寝る支度をしなければならないので

11時半にはテレビを見るのは止めなければならない。
その頃七希に一度「そろそろお時間ですよ」と声を掛けられたが、生返事。
そして現在時刻は11時55分。

しびれを切らした七希が少し怖い声で声を掛けてきて、

それにも口答えしてしまったのが冒頭の場面だ。


「いけません。大体、昼間からずっとテレビに張り付いていらっしゃるでしょう。
いくらお正月だからって、そんなだらけた生活はダメです。
今から終わりまでを録画すれば済む話じゃないですか。」


「他の番組2つ同時に録ってるからもう録画できないのっ!
だいたい、こんなの途中から録画して後から見たって何にもおもしろくないもんっ
いーじゃない、ちょっとぐらい! あと30分で終わるからっ」


「ダメです。寝るお約束の時間は何時ですか?」


まるで子供相手のような口調に

(実際子供じみた駄々を捏ねているのは莉央菜なのだが)

莉央菜はカチンときて


「っ!! 何よっ この石頭執事!!!」


座っていたソファにあるクッションを七希に向かって投げつけた。


「・・・へぇ・・・そうですか。分かりました。」


顔面に飛んできたクッションを七希は難なくキャッチすると、

静かにそう言い、テレビに向かって歩き出す。

そして・・・


ブチッ


「なっ!!! 何してんのよ七希っ テレビ壊れたらどーすんのよっ・・・っ!」


テレビの電源を消すことなく、コンセントから引っこ抜いた。
ブチッという音と共にテレビ画面が消えて、莉央菜はキッと七希を睨む・・・が。


「な、七希・・・っ」


「良いじゃないですか。壊れてしまえばいいんですよ、テレビなんか。

これがあるからお嬢様がお約束守れないんですから。」


「な、七希ちょっとまって・・・まさかあんたっ・・・」


七希を纏う雰囲気の不穏さに、思わず莉央菜は後ずさる。
だって、だってこの雰囲気は・・・


「お約束を守れない、その上注意されたら逆ギレして人にモノを投げて・・・
そんなどうしようもない悪い子のお嬢様には、当然でしょう?」


近づいてくる七希から逃げようと、

莉央菜はソファに座ったまま七希から遠いソファの端へ少しずつ後ずさる。


「い、嫌よっ ほら、もう12時よ!! 

七希、あんたが言ったんでしょう、12時までに寝なさいって。
私寝る支度を・・・」


何とか追求から逃れようとするが、それはあっさり切り捨てられた。


「いいえ。

お約束を守れない悪い子が寝るベッドなんてありませんから、どうせ寝られませんよ。
ベッドに入れるイイコになれるまでたっぷりお仕置きです。」


「なっ!!/// きゃぁっ!!」


一瞬だった。

一瞬のうちに間合いを詰められ、

気付けばあっという間にソファに座った七希の膝の上にうつぶせで固定されていた。
ご丁寧に、腕は後ろ手でまとめて押さえつけられて。


「全く・・・私が優しく注意しているうちに聞いてくだされば

こんなことにはならないんですがね・・・」


そう言いながら、

七希は何の躊躇いもなく莉央菜のネグリジェをまくり上げ、レースの下着も下ろしてしまう。


「やめてよっ 変態っっっ」


「今更何を仰いますか。このお子様が。」


バチィィンッ


「きゃぁっ」


「全く・・・ どうしてこんな簡単なお約束すら守れないんですか。」


バチィンッ バシンッ バチィンッ バチィィンッ


「ああんっ! いたいっ・・・いやぁぁっ」


「何も9時に寝ろ、とかそんな無茶なこと言ってるわけじゃないんです。
日付が変わる前に寝る・・・ただそれだけのことですよ?」


バチィィンッ バチンッ バシンッ バチィィンッ バシンッ


「あぁっ! いっっ・・・だってっ・・・だってテレビっ・・・」


こうなってもまだ我が儘を言おうとする莉央菜に、

七希は溜息をついて厳しい平手を落とす。


バッチィィィィンッ


「いたぁぁぁぃっ」


「そういうことがあるから、とレコーダーを旦那様に買っていただいたんでしょう?
2番組も録画しているんですから、少しは我慢することを覚えてください。
そんな我が儘ばっかりがいつまでも通用するとお思いですか?」


バチィンッ バチィンッ バシィンッ バシィンッ バシィィンッ


「うぅっ・・・ふぇぇっ・・・ああんっ! 

いたいぃぃっ・・・だってっ・・・だってぇぇっ・・・ふぁぁっ・・・」


大の男に叩かれて、お尻はすでに赤くなってきている。

かばいたくても、背中に縫い止められた両手はびくともしない。


「そのお約束だって、

夜更かしして寝不足になったらお嬢様自身が翌朝お辛いから、なんですよ?」


バシンッ バシンッ バチィィンッ


「きゃぁっ あんっ・・・ふぇっ・・・

次の日ゆっくり起きればっ・・・せっかくお休みなんだからっ・・・」


バチィィィィンッ


「ふぇぇぇっ」


「休みだからと生活リズムを崩したら余計体に悪いでしょう。
はぁ・・・全く・・・お約束を守れない、口答えはする・・・」


いつまで経っても反省の態度が見えない莉央菜に、

七希は溜息をついて冷たく突き放すように言う。


「そんな悪い子は私は嫌いですよ。もうずっとお仕置きされて泣いてなさい。」


「っ!!!???」


そう言われた瞬間、莉央菜の体がビクッと跳ね、その後震えた声で七希を呼ぶ。


「な・・・七希・・・」


首を曲げて、潤んだ瞳で七希を見つめる。が、しかし・・・


「・・・」


「っ!! 七希ぃっ・・・」


七希はふいと顔を背けてしまう。

余りにも悲しくて、莉央菜の瞳からジワッと新たな涙が溢れてくる。
が、七希はそんなこともお構いなし、という感じで厳しい平手を再開する。


バチィンッ バチィンッ 


「ふぇっ・・・ああんっ・・・ななきぃっ・・・」


「・・・」


バシィィンッ バチィィンッ バシィィンッ バシィィンッ


「いたぁぁぃっ・・・もっ・・・むりぃっ・・・いやぁぁっ! ななきぃっ・・・」


「・・・」


何度も七希、七希と呼びかけても無言。
いつも我が儘を言って叱られることがあっても

こんな対応をされたことのなかった莉央菜は、
本当に嫌われてしまったかもしれない・・・ そう思うと突然怖くなった。


バシィンッ バシィンッ バシィンッ


「いやっ・・・いやぁっ・・・ななきっ・・・ななき、ごめんなさいっ・・・」


「・・・」


『ごめんなさい』 今日初めての莉央菜の謝罪に、

七希は未だに無言を貫きながらも平手を止めた。


「我が儘言ってごめんなさいっ クッション顔に投げつけてごめんなさいっ
いっぱい、いっぱいごめんなさいするからぁっ」


「・・・」


「っ・・・石頭執事なんて言ってごめんなさいぃっ・・・もう暴言言わないっ・・・

いや、いや、ななきっ・・・私のこと嫌いになっちゃいやぁぁっ」


泣きじゃくって必死に言葉を紡ぐ。
莉央菜の謝罪を黙って聞いていた七希は・・・


「・・・はぁ。やっとですか。」


「っ・・・ふぇぇぇぇぇっ」


ようやく口を開いた七希は、莉央菜の頭を優しく撫で、抱き起こした。
安心した莉央菜は、更に泣きじゃくって七希にしがみつく。


「こうまでしないと自分から謝ってくださらないんですから。

クスクスッ
いつも甘やかされているお嬢様にはよく効くクスリだったようですね。」


少し茶化すように言われて、

莉央菜は照れ隠しで七希の胸に顔を埋め、ポカポカ叩く。


「ふぇっ・・・本当に嫌われちゃったかとっ・・・

バカっ・・・バカバカッ 七希のバカァァッ
鬼畜執事っ、性悪執事ぃぃっ!!」


「・・・おや。もう暴言は言わないんではなかったですか?」


「っ!!! いやっ ごめっ・・・」


途端にビクッと体を跳ねさせて慌てる莉央菜を見て、七希は吹き出す。


「クスッ 冗談ですよ。今日はいつもよりたくさん叩いてしまいましたしね。

これ以上お仕置きはしません。」


「ふぇっ・・・もうっっ 七希の意地悪っ」


「クスクスッ 

そんな意地悪に『嫌われたくない』と泣いていらっしゃったのはどなたですか。」


「うーっ・・・」


むくれながらも七希から離れない莉央菜。
莉央菜の頭を優しく撫で続けながら、七希はつぶやく。


「私こそ、いつも口うるさくして、お仕置きして、

お嬢様に嫌われていないか、と不安ですよ。」


「・・・バカじゃないの・・・嫌ってるやつにこの私がこんなに・・・」


「・・・ありがとうございます。おやすみなさい、お嬢様。」


莉央菜の言葉は最後までは音にならず、

泣き疲れたのか七希の腕の中でそのまま眠ってしまった。
その表情は、目は泣きはらして赤くなっていたものの、

とても穏やかで安らかなものだった。