「・・・お疲れ様。部屋とか決めなくちゃね。
お客さん用の寝室があるから・・・」
「アンタ・・・馬鹿じゃねーの?
生徒家に住ませるとか・・・マジ常識外れ・・・」
「だって仁絵君、家にいたくないんでしょう?
これが一番良い解決方法だと思うけど?
可愛い教え子にストリート生活はして欲しくないしね。」
「やっぱアンタ変だよ・・・」
「こら、『アンタ』はダメ。
呼び捨ては俺は気にしないんだから、せめて呼び捨てで呼びなさい。」
「・・・分かったよ・・・。」
「・・・さて、それじゃあ荷ほどきといきたいところだけど・・・
仁絵君、寝なくて平気?」
「あぁ? これくらい平気だけど・・・」
何の気無しに答えた仁絵。
だが、その瞬間、風丘の纏う空気が変わった。
「・・・それじゃあ、柳宮寺。」
「ゲッ・・・」
突然、改まって名字呼びになった風丘に、
仁絵が顔を引きつらせる。
いろいろありすぎて忘れていたが、
当初風丘の部屋に連れてこられたのは・・・
「ケンカのお仕置き、ちゃーんと受けてもらうからね。」
「やっ・・・」
後ずさりする仁絵の腕を、ガシッと掴む風丘。
「こーら。洲矢君もちゃんと受けたでしょ?」
「うっ・・・」
それを言われてしまうとイタイ。
抵抗の力が緩んだスキを逃さず、
風丘はそのままソファに座った風丘の膝に引き倒された。
そして、履いているものを下ろされる。
「っ・・・」
「はい、じゃあ行くよー。」
唐突な宣言と共に。強烈な1発目が降ってきた。
バシィィンッ
「ってぇっ!」
「全く・・・深夜徘徊にケンカ。
この前補導されたのに全然懲りないんだから。」
バシィンッ バシィンッ バシィンッ バシィィンッ
「いってぇっ・・・やめっ・・・くっ・・・うぁっ」
「この前のお仕置きじゃ反省できなかったんだ?」
バシィンッ バシィィンッ バッシィィンッ
「ってぇぇっ!!・・・ふぇっ・・・
歩いてたらっ・・・ふっかけてくんだよっ・・・ヤンキーが!」
バシィィンッ バシィンッ バシンッ バシィィンッ
「うぁぁっ・・・ふぇっ・・・いたぁぁっ・・・うぇっ・・・」
仁絵はもうリミッターがはずれたようで、泣き出している。
でも、風丘は動じない。
「そんなの自分でも分かってたんでしょ?
自分が夜歩けばそうなることぐらい。柳宮寺、頭良いんだから。
それでも行ったのは、ケンカになってもいいって思ってたんじゃない?」
「うっ・・・」
図星で、狼狽える仁絵。
「ケンカに懲りてない証拠。
この前あんなにお仕置きしたのにね。全く・・・」
風丘は溜息をついて、お仕置き再開。
バシィィィンッ
「うぁぁっ」
バシィンッ バシィンッ バシィンッ バシィィンッ
「ふぇっ・・・いたいっ・・・もっ・・・も・・やだぁっ!」
ついに耐えかねてか、
仁絵が膝から降りようとして暴れ出した。
風丘は、慌ててガードする。
「あ、こらっ 危ないでしょ?」
腰に手を添えていたのを、腕を回して腰を抱え込むようにする。
「離してっ・・・もっ・・・痛いのやだぁっ・・・」
「まだダメ。・・・ふぅ。これ、逃げた分ね。」
風丘はそう言うと、
仁絵のほんのり赤くなったお尻の右半分をギュゥッと抓った。
「いっ・・・たぁぁぁぁぁぃっ やだっ・・・離してっ・・・やめっ・・・」
暴れる仁絵を尻目に、5秒ほど抓って、離す。
そして、さらっと恐ろしい一言。
「はい、じゃあ次左側ね。」
「なっ・・・ヤダッ・・・それやだぁっ・・・」
「逃げるから悪いんでしょう?
まだペンペン残ってるんだから、早く済ませるよ。」
嫌がる仁絵を尻目にそう言って。
さっきと同様に左側もギュゥッと抓る。
「やぁぁぁっ・・・いたぃっ・・・ふぇっ・・・ふぇぇっ・・・」
「はい。じゃあ、再開。」
『情け容赦ない』とはまさにこのことじゃなかろうか。
何事もなかったかのように、風丘はまた平手を振り下ろす。
バシィィンッ
「いたぃぃっ・・・もっ・・・やだぁっ・・・風丘っ・・・」
「全く・・・ただの中学生同士のケンカならまだしも、
あんな危ないおにーさんたちとのケンカは絶対ダメ。
いくら柳宮寺が強くても、怪我しちゃうでしょう?」
バシィィンッ バシッ バッシィィンッ
「やぁっ・・・ふっ・・・ぇっく・・・もっ・・・やだぁっ・・・わかったからぁっ・・・」
「次、ケンカしたりしたらこんなんじゃすませないよ。分かった?」
バシィィンッ バシィィンッ バッシィィンッ
「いったぁっ・・・ふぇっ・・・わかったってばぁっ・・・」
「はい、じゃあ何て言うの?」
バシィィィンッ
「ふぇっ・・・ごっ・・・ごめんなさいっ・・・」
バシィィィンッ
「もうしないぃっ」
バッシィィィンッ
「いったぁぁぁぃっ!!!」
「はい、おしまい。」
最後にとびきり痛いのを貰って、お仕置きは終了した。
そしてその後は恒例の・・・
「ふぇっ・・・ぇぇっ・・・いたいっ・・・
バカッ・・・風丘のばかぁっ・・・」
「はいはい、ほら、お尻冷やさないと腫れちゃうよ?」
そう言いながら、
手元に用意していたタオルを抱っこしながら仁絵のお尻にあてる。
いつも抱っこを求められてタオルの用意が出来ないので、
あらかじめ用意しておいたのだ。
「ふぇぇっ・・・」
「仁絵君。」
「んっ・・・?」
「今日からよろしくね。」
「・・・うん・・・」
「少し寝なさい。起きたら、いろいろやることやるから。」
「・・・う・・・ん・・・」
風丘に抱っこされたまま眠りについた仁絵だった。
~後日~
あの後、洲矢に「お仕置き終わった」メールは送ったものの、
肝心の風丘との同居話は誰にもしていなかった仁絵。
というのも、この経緯を話すには、
どうしても自分の出生についてなんかを話さなければならず、
4人に変な気を回させてしまうかもしれない、と気が進まなかったのだ。
同情されるのも、好きではない。
が、風丘に
「後々のこともあるし、
あの4人にぐらいは話といた方がいいんじゃない?」
と言われ、
気持ちの整理がついた年明け、
学校始まる前日の日にファーストフード店に呼び出して経緯を説明。
第一声は4人そろって
「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!????」」」」
これは予想通り。
が、その後の反応が。
「お前・・・苦労するなぁ」
「ほんとほんと・・・」
惣一とつばめが同情するような目を向ける。
・・・が、後に続いた言葉は。
「これから毎日ケツ叩かれる恐怖と隣り合わせじゃねーか・・・(涙)」
「はぁっ!?」
その言葉に拍子抜けする仁絵。
「だってそーだろ!?
あの変態暴力教師が学校でも家でもそばにいんだぜ!?」
「そーそー、何かしたらすぐに『お尻ペンペン』だよ!?
すっごいねー、仁絵。
よくOKしたねっ 僕だったら耐えられない・・・」
「お前ら・・・心配するとこそこなわけ?」
夜須斗が苦笑い。が、2人はなぜか仁絵よりも必死に熱弁。
「何がおかしいんだよっ 死活問題だろ!?
じゃあ、夜須斗、オメー 毎日ケツ叩いてくる奴と同居できるか!?」
「そりゃ、嫌だけど・・・」
「だろぉっ!? 仁絵・・・辛いことあったら、言えよ・・・
俺たちが、いつでも相談乗るからな・・・」
「うんうんっ」
「そ、そりゃどーも・・・」
仁絵を置いてけぼりにヒートアップする2人。
気を遣ってか、ただ単に『風丘と同居』の部分が強烈すぎて
忘れてしまっているのか。
出生については何も言われない。
すると、夜須斗が横でボソッと言った。
「気にしないだろ、知ったところで、そんなこと。」
「えっ?」
「俺らは、親見てお前とつるんでるわけじゃないし。」
すると、そこに洲矢も加わる。
「うん。僕、ひーくんが好き。
ひーくんは、前だって今だって同じひーくんだよ。」
「・・・そーいうこと。だから、気にしなくていいんじゃん?」
「・・・・・・サンキュ。」
こーいう奴らだから。だから、安心してつるめるんだ。
改めて、そう実感する仁絵。
「・・・ま、毎日あいつに尻叩かれんのには同情するけど。」
「うーん・・・それは・・・(苦笑)」
「だろ!? やっぱ夜須斗も洲矢もそう思うよなっ」
「昨日叩かれたばっかりで、まだお尻痛いのに~~って、
絶対あるよ、絶対!!」
「それでもぜってぇ容赦ねぇよな、あいつ!!」
「お前ら・・・そんな毎日ケツ叩かれるようなことするわけねぇだろ!!!」
この5人、結局風丘がらみで思うことはそこ。
仁絵は、話すと決めたときの緊張感はどこへやら、
脱力しつつ、笑って話していたのだった。