※注意※
今回のお話、
かなりご都合主義的展開が盛り込まれてます(苦笑)
急な展開と感じられる方多いかと思いますが、
お許しください
世間はクリスマスムード一色。
現在は12月20日。
教室で、仁絵と洲矢が仲良く(?)話していた。
「ねぇ、ひーくんはクリスマスイブの日、何するの?」
「あぁ? クリスマス?」
あれからすっかり洲矢は仁絵に懐き、君付けもとれ、
親しげに「ひーくん」などと呼ぶようになった。
何でも、雲居の風丘に対する「はーくん」を参考にしたようで。
見た目金髪で明らか不良な仁絵と、
ホワンホワンした優しげな雰囲気で、
いつもニコニコしている、お坊ちゃまの洲矢が話している光景は、
最初こそシュールでクラスから奇異な目で見られたものの、
もうそれも定番の光景となっていた。
「うん。クリスマス。」
「・・・何もしねーよ。
何か・・・夕飯に骨付きチキンとかケーキが一切れ出てくるくらい。」
「ツリーは?」
「西院宮が何か飾ってっけど・・・興味ねぇ。」
「プレゼントは?」
「親から貰った記憶なんか、ほぼ0だし。
大体親父帰ってこねーし。」
「そっか・・・。・・・・じゃあ、僕の家来てよっ」
「・・・・は?」
突然の提案に、ポカンと口を開ける仁絵。
「うち、クリスマスはいつも
お父さんとお母さんととばぁやでパーティーするんだけど、
今年お父さんは仕事で、
お母さんも演奏会で帰ってこれなくて寂しいんだ・・・。
だから、ひーくん一緒に来てパーティーしようよっ
それで、泊まってって?
惣一も夜須斗もつばめも、クリスマスは家族とだから、誘えなくって・・・。」
「・・・はぁ。」
仁絵は、それを聞いて苦笑しつつため息。
その様子に、洲矢は子犬のように目をウルウルさせて、
長身の仁絵を下からのぞき込む。
「・・・ダメ?」
「いーよ。付き合ってやる。」
「ほんと!? やった!!! プレゼント交換もしようねっ」
手を挙げて大喜びでニコニコの洲矢に、
仁絵は呆れたように聞き返す。
「はぁ? 男同士でプレゼント交換して何が楽しい・・・」
「ケーキは、ばぁやの手作りなんだよ? それでねっ」
「ったく・・・」
が、ニコニコ笑顔ではしゃいで全く聞いていない洲矢に、
それ以上何も言えず、
仁絵は呆れたように、しかし少し笑って相づちを打つのだった。
その日。仁絵は帰宅し、西院宮にその予定について伝えた。
「クリスマス。予定入ったから出かけるわ。泊まり。」
「左様でございますか。旦那様は今年もお帰りにはならないようですから、
またお一人で、となると寂しゅうございますからね。
ご友人と、ですか?」
「まぁな。・・・つーか親父の話出すな。虫酸が走る。」
「またそのような・・・・・・まぁ、とにかく楽しんでらしてください。
一応旦那様にも話しておきます。」
西院宮はそう言って下がった。
翌朝。西院宮からは仁絵の父が『勝手にしろ』と言っていた旨を
仁絵に伝えた。
仁絵はまぁそうだろうと思っていたから、
特に何のリアクションもせず、登校。
そして放課後には、
なんだかんだで洲矢へのプレゼントも真剣に選んでしまっていた。
しかし、当日。
西院宮から最悪なことが告げられた。
「あの・・・仁絵様。」
「何?」
「旦那様が・・・契約先主催の晩餐会に仁絵様も出席させるから、
7時までにお戻りになるよう伝えろ、と・・・。」
すまなそうな顔の西院宮。
また、これだ。と仁絵は思った。
いつも土壇場で、自分の邪魔をしてくる。
一度は良いと言ったくせに。
それだけに余計タチが悪い。身勝手きわまりない。
「・・・バッカじゃねーの?
俺は先に洲矢と約束した。親父もあんたもいーっつっただろ。
行かねーよ。そう親父に言え。」
「ですが・・・」
「いいな。」
西院宮は物言いたげな顔をしたが、
仁絵は無視し、それだけ言って、家を出た。
「うわ、でっけぇ・・・人のこと言えねぇけど。」
教えられた住所に来ると、
そこは明らかに周囲の住宅街から浮いている
大きなヨーロッパ風屋敷の前だった。
リンドーン
チャイムを鳴らすと、
中から洲矢がいつものニコニコ笑顔で飛び出してきた。
「いらっしゃい!」
「あぁ。」
「寒かったでしょ? 入って入って!」
促されるままに玄関ホールに入る。
すると、そこで洲矢の「ばぁや」が出迎えてくれた。
「まぁまぁ、お寒い中ようこそ。
洲矢坊ちゃまの世話係と家政婦の、
冠城 美琴(かぶらぎ みこと)と申します。
実の祖母でもありますけど。」
「ど、どうも・・・。」
品が良く、穏やかで優しそうな老婦人。
普段ほぼ接さない人種のその人に、仁絵は戸惑いながら挨拶した。
「さぁさ、お腹も空いたでしょうから、こちらへどうぞ。
お食事の支度、してありますからね。」
「いこっ」
「あ、あぁ・・・。」
洲矢に手を引っ張られ、ダイニングホールに連れてこられると、
「すっげ・・・」
テーブルの上においしそうな料理が並んでいた。
クリスマス定番のローストチキン。
シチューポットパイに、とろとろのオムライス。
「ぜーんぶばぁやが作ったんだよっ」
「ばぁさんが?・・・あ、いや・・・」
初対面の人に『ばぁさん』は失礼だったと、
口に出してから気づき、気まずくなって目線をそらす。
すると、ばぁやはニコニコ笑ったままやんわりと言った。
「まぁまぁ。私がおばあさんなのは事実ですからねぇ。
でも『ばぁさん』はちょっと嫌ですねぇ・・・
せめて『ばぁちゃん』にしてくれますか?」
「え、あ、はぁ・・・いや、
単純にすげぇって思ったんだけど・・・ すいません。」
てっきり怒られると思った仁絵は、
肩すかしを食らったようで少しポカンとし、慌てて相づちを打った。
「いえいえそんな。でも温かいうちに食べましょうね。
ほらほら、席について。」
促されるままに椅子に座る。洲矢も続いてうれしそうに座って、
「いただきますっ」
と言うが早いかスプーンを持って食べ始める。
仁絵も
「・・・いただきます。」
そして、スプーンを持って、オムライスを口に入れた。
「・・・うまっ」
「そうですか? 良かった。」
ニッコリ笑うばぁや。
仁絵の家で食べる料理は、
手作りではあるが、ある意味手作りではない。
それは、父親が雇っている専属の料理人が家の厨房で作るプロの味。
だから、仁絵はこのような家庭的料理を生まれてこの方
食べたことがほとんどなかった。
プロ並みの味では決してないだろう。
それでも、初めて食べるこの家庭的な味は、
仁絵が今まで食べたどの料理よりもおいしく感じたのだ。
残さず完食し、その後にこれまた手作りのクリスマスケーキが出てきた。
ホールケーキだったが3人で完食。
食事が終わると、
2人は大浴場並みのサイズのお風呂に一緒に入り、洲矢の部屋にいた。
「ありがとね。ひーくん。来てくれて・・・」
「別に。礼を言うのはこっちだろ。
あんな旨いもん食べさせてもらって、よくしてもらって・・・。」
「ばぁやも、ひーくんのこと気に入ったみたいだよ。
ずっとニコニコだったもん。」
「そりゃどーも。あぁ、そうだった。・・・ほらよ。」
仁絵は、思い出したように自分のカバンから小さな箱を取り出す。
「クリスマスプレゼント。交換すんだろ?」
「わあっ! 開けてもいい?」
中には、オルゴール付きの懐中時計。
「綺麗な音・・・」
「お前、そーいうの好きかと思って。
時計なら、持ち運びもできるし。」
「ありがとうっ すっごくうれしいっ
あっ、じゃあ僕もひーくんにっ はい!」
洲矢も長方形の箱を仁絵に差し出す。
中には、クロスのシルバーネックレス。
「お前・・・チョイスが女子みてぇ・・・」
まさか男からアクセサリーを貰うと思っていなかった仁絵は、
苦笑して言う。
「えーっ、だって、ネックレスなら身につけられるからっ
ひーくん、学校にもシルバーつけてきてるし・・・」
本来校則ではアクセサリーは禁止なのだが、
登校初日から耳にはピアス、指にはゴツいシルバーリング、
ベルトにチェーンという
全身アクセサリーだらけだった仁絵は、その点に関してほぼ無視されている。
「ダメだった・・・?」
不安げに見つめてくる洲矢に、仁絵はフッと笑って。
「ダメじゃねーよ。・・・サンキュ。」
仁絵はその場でつけて、そうお礼を言った。
「うんっ」
それを聞いて、洲矢はまた笑顔になる。
その後、2人はくだらない話などをして、夜は更けていった。
「ほんと、ありがとうございました。
朝飯まで作ってもらっちゃって・・・」
「いえいえ、残さず食べてもらえてこちらこそうれしかったですよ。」
「また来てねっ ひーくんっ」
翌朝。ばぁやが作った朝ご飯を3人で食べ、仁絵は家路についた。