(仁絵side・第三者視点)


そんなこんなで夜須斗が祖父とすったもんだしていた時、
仁絵も揉め事を起こすことになってしまう。



仁絵の父親は大きな企業の社長で、

仁絵の家は洲矢以上に大きい。
家には使用人やら執事やらが10人ほどもいる。

仁絵が『天凰の女王様』と呼ばれていた夏頃までは、
仁絵は不良仲間とオールして朝帰り、

果ては帰ってこない、なんてことの方が頻繁だったので、
転校してからここ最近、仁絵が毎日9時過ぎには帰ってくることは、
帰ってくるのが遅い、なんてことはなく、

むしろ驚嘆するほどのことだった。



その日も、夜須斗たちと別れ、9時半頃仁絵は家に帰ってきた。


「お帰りなさい、仁絵さん。今日も帰ってきていただいて・・・・」


「・・・・んだよ。帰って来ちゃ悪ぃのか?」


出迎えた執事、西院宮(さいのみや)に向かってそんな言葉を吐き、

ギロッと睨みつける仁絵。

西院宮は30前半ながら、20代から執事として雇われていて、

有能と評判で仁絵の父親からの信頼も厚い男。
彼は長い間最悪に荒れていた頃の仁絵を知っていたし、
他のメイドたちとは違って、

もともと荒れている仁絵にも怯まない唯一の使用人。
フッと笑うと軽く返した。


「いえ。以前はお帰りになるほうが珍しかったものですから。」


「フン・・・・・」


その時、仁絵が不機嫌になる要因がやって来た。


「あ・・・・お帰りなさいませ、旦那様。」


「!」


真っ黒なスーツに身を包んだ厳格そうな男性。

実はまだ30代なのだが、
その風格はそれ以上に思わせるものがある。
彼こそ、大企業の社長であり、仁絵の父親だった。


「お久しぶりのご帰宅ですね。」


実は、彼の帰宅は一週間ぶりである。


「ああ、いくつか仕事は持って帰ってきたがな。

やっと今抱えている仕事のメドがついた。ところで・・・・」


ギロッと仁絵の方に目線を向ける。


「お前は今帰ったのか?」


「だから?」


「・・・聞いたぞ。星ヶ原中に転入してから、

毎日10時前には帰ってきてるそうじゃないか。」


「・・・・で?」


「ケンカもしなくなり、補導されての警察沙汰も、

悪い連中との噂もなくなった、と西院宮が驚いていた。」


「・・・何が言いてぇのか知らないけど。大した用がないなら・・・」


「俺への当てつけか?」


「・・・・・は?」


「天凰で、俺が必死に手を回して

お前が退学にならないようにしてやっていた時には派手に暴れ回って、
愛想を尽かして公立に放り出したとたんに、素行を良くして・・・

私の気分を害そうとしているんだろう?」


「・・・・何それ。バッカじゃねーの・・・?」



もともと、仁絵は父親をよく思っていなかった。というか大嫌いだった。
ろくに家にも帰ってこず、

世間体だけを気にして自分をギリギリまでブランド校である天凰にとどめ置き、
どうにもならなくなった瞬間に公立に放り出してもう知らない、ときたものだ。
家の事なんて使用人に任せておけばいいと思ってる。

全く家庭の匂いがしない、冷血漢。そう思っていた。
そして、仮にも息子である自分のことを『厄介者』としか思っていない、

他人とでさえも思っているような接し方。


この時も、その心ない父親の言葉を聞いた瞬間、

仁絵はぶち切れてしまった。



「なーにが当てつけだ! 

てめぇにんなことするほど、こちとら暇じゃねーんだよ!
だいたいなんだよ、

俺がちょっと家に帰るようになったからって珍しがりやがって!
西院宮とかみてぇにそれだけならまだしも、

んなくだねぇ憶測して勘繰って!
ちょっと帰るの早くなって、ケンカしなくなったら策略扱いかよ!
てめぇはイイコちゃんの俺よりも、

ケンカして、警察沙汰になって、暴れ回ってる俺のが良いのかよ? 
どーなんだよ、大企業のお偉い社長サマ!!」


ガンッ


「仁絵さん!」


壁を思いっきり蹴った仁絵。

思わず西院宮が声を上げる。


「フン・・・勝手にしていろ・・・・・・・お前が私の息子とはな・・・」


「こっちだっててめーが父親なんざ願い下げだよ! 

この冷血社長!! 会社のことしか頭にねーんだろ!?
てめーの口から『息子』なんて言葉出してもらいたくねぇ!!」


仁絵の罵声を聞き流して、父親は2階に上って行ってしまう。


「旦那様、お夜食は?」


「いらん。」


「・・・かしこまりました。」


「俺もいらねぇ!! 

あいつのせいでマジでイライラして飯食うどころじゃねぇ!」


「・・・・・かしこまりました。」


仁絵もダンダンッとイライラしていることが分かるような足音を立てながら、

自分の部屋に向かっていってしまった。




仁絵のイライラもこのまま翌日も収まらず、そのまま学校に登校。




そして、同じく不機嫌だった夜須斗とある事件を起こすことになる・・・。










この日、2人の虫の居所が悪いのは

仲良しグループの惣一、つばめ、洲矢でなくとも、誰の目にも明らかだった。


態度や受け答え等にはそこまで現れないのだが、

とにかく表情がいらついている。
2人とも授業中、いつも以上に不機嫌そうな気怠そうな顔でいて、
特に仁絵はこれで何かかんに障るようなことでも言ってしまったら、
初日以来の派手にぶち切れ、大乱闘が起きてしまうんじゃないか、と

思わせるぐらい、顔が怖い。
夜須斗も睨みつけるような目線で、

授業中もずっと何を意識的に見るわけでもなく、ずっとその表情。
元々2人とも顔が美形な分(特に仁絵)、怖さが増している。


「あれは完全に機嫌悪いね・・・・」

「だな・・・・」

「うん・・・」


つばめと惣一と洲矢は、

休み時間、ムスッとした顔で机に頬杖をついている仁絵と、
腕を組んで壁にもたれかかっている夜須斗を見ながら

遠目でコソコソ会話をする。


「なんか・・・・話しかけてあげたほうがいいかな?」

「止めときなよ、洲矢。触らぬ神に祟りなしだよ~~」

「なんだよ、つばめ、難しい言葉知ってるじゃんか!」

「フフン、お馬鹿な惣一とは違うからね~~」

「んだとぉっ!?」

「あー、もう2人ともっ」





「・・・・・なぁ、夜須斗。」

「・・・何?」

「お前、昨日どーだった?」

「どーもこーも。朝からの顔つき見りゃ分かるだろ。お前と同じ。」

「・・・だよな。・・・・なぁ、今日の夜、付き合わね? 

久しぶりの憂さ晴らし。」

「・・・・・・・・・」


ここで、いつもの夜須斗なら止めに入ったり、

慎重に考えたりするものだが、
いかんせん、今日の夜須斗はいらついていて、思考が冷静ではなかった。
このいらつきを晴らしたい、そう思うのは自分も同じで・・・・


「・・・・・分かった。」


少々の沈黙の後、早々に了解の意を示していた。







放課後。


「なーっ、夜須斗、仁絵、帰ろー・・・・・って、いねーし。」


掃除当番を真面目にこなして教室に帰ってきた惣一は、

一緒に帰ろうと夜須斗を呼んだが、
教室にその姿はなかった。仁絵共々。


「っかしーな・・・・いつもなら終わるまで待っててくれんのに・・・・・ 

今日は部活もねーし・・・・」


「やっぱり、あの2人今日変だよね~ 

2人とも、ずーっと眉間にこーんなにシワ寄せちゃってさっ」


と、つばめが眉間を指さしてしかめ面をする。


「うん・・・・ なんか・・・心配だね・・・・」


洲矢も言う。


「だから仁絵君に『大丈夫?』って聞いたんだけど・・・・
『大丈夫だよ、よけいな心配しなくていいから。』って言われちゃって・・・」


とシュンとなる。


「夜須斗もそうだけど、

仁絵なんて爆発するとやばそー・・・ってかやばいからなぁ・・・

何もないと良いけど・・・
なんかありそう・・・(汗)」




そんな惣一の予感は、的中することになる。





早めに下校した2人は、そのまま家に帰らず、街中をうろついていた。

早めに学校が終わったと言っても、

その後駅近くまで行って、

あてもなくぶらついていたら時刻はもう6時を過ぎている。

秋の日はつるべ落とし、とはよく言うもので、あたりはもうだいぶ暗い。


その後、ハンバーガーショップで軽い食事をとると、

2人はゲームセンターに向かった。

ちなみに、この時点で時刻は7時半。

夜須斗は見事に門限を思いっきり破っているが、
今はそんなこと問題ではなかった。




ゲームセンターに着くと、2人はそのまま適当なゲームで遊んでいた。

別に2人ともゲームがことさら好きなわけでもないのだが、

そのまま1時間経過。

8時を回れば、いい加減補導員が巡回を始める。

そろそろ出るかと、2人が顔を見合わせたときだった。


「・・・・天凰の『元』女王様がこんなところに何のご用でしたか~?」


ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべた、

高校生不良7人ほどのグループが絡んでくる。

そんな奴らを見て、仁絵と夜須斗は目配せした。


「・・・・来たな。」

「・・・あぁ。」


そして、仁絵が口を開き、かつてと何ら変わらない、尊大な態度でこう言った。


「・・・・・ここじゃその話はできねぇな。場所変えろよ。」






あの時間まで仁絵と夜須斗がゲームセンターに残っていた理由。

それは、いらつきを押さえるために、暴れる相手を探していたのだ。

夜須斗はともかく、

仁絵は『天凰の女王様』という通り名をもっていたくらいに
この辺りの中学、そして高校の不良の世界では名が知れている。

分かりやすい金髪ロン毛で整いすぎた女顔の容姿であることもあって、

見る者が見れば一目で仁絵だと分かるのだ。

そして、しばらくケンカとは離れていたので、

久しぶりに不良のたまり場であるゲーセンあたりにでもいけば、
必ずふっかけてくる奴らがいる、仁絵はそう踏んだのだ。

仁絵は『天凰の女王様』として、

中1になって約1ヶ月ちょっとで、

高校生まで倒して『最強』の名をほしいままにし、
そしてその『最強』という肩書きを持ったままケンカをやめてしまった。
当然、その名を奪いたいと思う単純な不良たちはごまんといるわけで、

そんな奴らが自分たちを目にすれば、必ず声をかけてくるはずだ、と。


一見遠回しな方法に思えるが、

こうすれば自分たちが下手な奴に声をかけてふっかけた時と違って
「売られたケンカを買った」という名目上の理由が出来、

何かあったとき、取り繕いやすい、というのと、
自分からふっかけてくるぐらいだから、有る程度強い不良だろうから、

一瞬で終わる、なんてことはないだろう、というのだ。






で、人気が全くない、夜の寂れた公園、

というケンカのお決まりスポットまでやって来た。


「で? どーしたいわけ?」


腕を組んでそう言い放つ仁絵。


「フッ・・・忘れたとは言わせねぇぞ!」


不良のリーダーらしきその高校生は、

シチュエーションに似つかわしい常套句を吐く。


「・・・・何をだよ。」


「んだとぉっ!? 5月に一度やり合った、石山だ! 

あんときも名乗ってやっただろーが!!!」


「・・・・クスッ なーに偉そうに言ってんの? 

悪いけど、俺の記憶にはねーな。お前。
記憶にもねーってことはどうせ俺にボコボコにされたんだろ。

手応え無かった奴は忘れることにしてっから。」


「てんめぇ・・・・・・」


「てめー、高校生だろ? 

なのに中1の俺に負けて、リベンジでふっかけてくるとかダッサイ奴。
しかも買って失敗した。俺はもっとやりがいある相手探してたんだけど?」


ズバズバ言う仁絵に、

石山と名乗った不良は、みるみるうちに顔が赤くなる。


「・・ざけんじゃねぇ・・・っ 

フッ・・・こんだけ人数がいりゃあ・・・この前みたいにいかねーぜ・・・
連れも含めて、今日こそボッコボコにしてやる!!!!!」


「どーぞ。ってか・・・・俺たちも今日は虫の居所が悪ぃんだよ・・・・

手加減しねぇからそのつもりでいろ!」


「上等だ!!!!」


そんなこんなで始まったケンカだが、

仁絵と夜須斗の強さは中学生レベルを逸脱していた。
仁絵はやはり『女王様』と呼ばれた強さは数ヶ月のブランクを経ても健在で、
リーダー格の石山を含めた4人を相手に互角、

それ以上のバトルを繰り広げていた。

そして夜須斗も、

ケンカ経験は惣一に付き合ってしたくらいでそれほど多くはないものの、
残り3人を相手に見事に立ち回っていた。


しかし、いかんせん7対2では1人あたりの負担が大きすぎる。
優勢とはいえ、2人とも相当のダメージは受けていた。
2人とも地面に倒れたりはしないので、

服が泥まみれだったりということはないが、
つかみかかられ、引っ張られるので、

Yシャツはボタンが飛んで破れている箇所もある。
また、避けきれないパンチもあり、

それが数発から十数発、顔やボディに入って、その部分は痣になったり、
切れて出血していたりしている。
・・・・・・ただし、相手の不良達はそれ以上に、

目もあてられないほど2人にボコボコにされているのだが。


しかし、不良達も2連敗するわけには、と思っているのか、なかなか陥落しない。

時刻は9時を回っている。

そんなとき、事態は最悪の方向に動いた。

ケンカが長引いている間に、

通りかかった会社帰りのサラリーマンが、近くの警察署に知らせに行き、
警察がやって来てしまったのだ。



「こらーーーーっ!! お前達、何してる!!」


「・・・・はぁ・・・・・・夜須斗、逃げるぞ! あんなのに絡んだら面倒だ!」

「あ、ああ。」


それにいち早く気づいた仁絵は、

ため息をついて、夜須斗の腕を引っ張って退散しようとする。

ちなみに、相手の不良達はあまりにもぼこられたために逃げる気力もないのか、

素直に補導されている。
仁絵は、補導なんてあってたまるかと、全力で駆けだした・・・・

が、進行方向に人がいた。


「どーこへトンズラする気ですかー? じょ・お・う・さ・ま?」


「チッ・・・・須王・・・・」


その人物の顔を見た瞬間、仁絵が顔をゆがませて舌打ちをした。


「・・・知り合い?」

「ああ・・・めんどくせー奴が出てきた・・・」

 



須王 勝輝(すおう かつき)。

この界隈の少年課の若い警察官で、仁絵が不良だった頃、
小学生時代から何度も補導している人物。
見た目は仁絵と同じ金髪を逆立てていて、服は警官の制服じゃない。
警察官らしからぬ風貌、乱暴さとその言動で、

自分の想定内に動いてくれない須王が仁絵は大嫌いだった。



「どけよ・・・俺ら家に帰んだから。」


「はぁ? ふざけたこといってんじゃねーよ。

あんだけ乱闘起こしといて、補導されねーわきゃねーだろーが。」


「誰がてめーに補導なんか・・・されっかよ!」

「おっと」

「仁絵・・・っ」


仁絵が須王の顔面に向かってパンチを打ち込む。

が、須王はいとも簡単にそれを見切ってヒラリと身をかわす。


「ここ数ヶ月『女王様』の名を聞かねーで平和だったのによー・・・

久しぶりにいらっしゃったと思ったら、この乱闘騒ぎかい。

気が変わったか更正したのかなんてことを思った俺がバカだったみてーだな。」


「ざっけんな・・・・てめーこそ元ヤンだろーが!!」


今度は回し蹴り。しかし、それも見切られる。


「ああ。そーだよ? 

だからテメーとまともにやり合えんだろーが。
つーか、元ヤンだからどーした、

今や立派に更正して警察官サマになれたんだからいーんだよ、んなこたぁ。
おら、早く補導されろ。めんどくせー。」


「ざけんなっていってんだ・・・・っ・・・・・・・・・・・」

「仁絵! あんた・・・何してんの・・っ?」


再度仁絵が須王に向かっていった瞬間。

須王は、仁絵の鳩尾に容赦なくパンチをたたき込んだ。
そのまま仁絵がくずおれる。

あれだけのパンチを食らえば、失神することは間違いない。
こいつが、警察・・・? と、夜須斗が須王を見て呟く。


「あぁ? こんなの、こいつとやり合うときは日常茶飯事だよ。

で? お前は知らねー顔だなぁ・・・」


「仁絵の従兄弟。」


「ふーん・・・まぁ、お前もぼこしたんだろ、あいつらを。

一緒に来てもらうぜ。
つーか、仁絵と同じようにのびとくか?」


「遠慮しとく。無駄に痛い目にあいたくないし。」


「・・・てめーもむかつくガキだな。」


「・・・・・・・・」



こうして、ケンカをふっかけた石山たち不良グループも含め、

仁絵、夜須斗と全員が近くの警察署へ補導されたのだった。





「・・・・んでテメーが担当なんだよ!!!」


意識を取り戻した瞬間、須王にくってかかる仁絵。


「うるせー、こっちこそ一番めんどいテメーの担当なんざしたくねーっつーの。
上司がテメーが久しぶりに補導されたって聞いて、

俺に押しつけてきやがったんだ。」


「だいたい、いきなり鳩尾にかますとか、どーいうつもりだ! 

テメー仮にもケーサツじゃねーのかよ!」


「いちいち怒鳴るな、うるせーんだよ。
大体、てめーだったら鳩尾一発食らったくらい、何ともねーだろ?
つーか、相手に向かってく時に急所フリーにするてめーが悪ぃ。

いつまでもびーびー言ってっと、女王様の名が泣くぜ?」


「てめー・・・そう呼ぶなって言ってんだろーが・・」


「フッ・・・悪ぃ、悪ぃ。あまりにもぴったしな呼び名だからな。

初めて会ったときからこの今まで一貫したそのえっらそーな態度。
それからその無駄にキレーな女顔。まさに『女王様』。」


「・・・マジでぶっ殺す・・・」


ズバズバ言ってのける須王に、仁絵が拳を握りしめるが、夜須斗が制す。


「仁絵。よけいな労力使わない方がいいんじゃない? 

これからまだ面倒事残ってるんだし。」


「・・・・チッ・・・」


「そっちはやけに冷めたヤローだな。」


須王が夜須斗に目を向け、苦笑する。


「悪い?」


「お前は補導されたことは?」


「あるよ。何回かはね。

こんな取調室まがいのところに入れられたのは初めてだけど。」


そう、2人が連れてこられたのは普段簡単な取り調べ等に使う部屋だった。


「あー、てめーの隣の金髪バカはいつもここだ。」


「誰が金髪・・・」


「で、だ。おら、連絡先と身元引受人。

保護者かそれに相当する奴。早く言えよ。
てめーらに説教なんてしたって効き目0だろーから

とっとと引き渡して仕事済ます。」


「誰が家族なんか呼ぶかよ!」

「それには賛同。」


「んでだよ。」


「今日、俺ら家族関係のことでむしゃくしゃしてたからケンカ買ったんだよ。
なのにそれでまた家族呼ばれるとか冗談じゃねー。」


「身元引受人って・・・・あー・・・でも・・・・」


きっぱり言う仁絵に、夜須斗もその意見には賛成だと思っていたが、

ある考えに行き着いて、とたんに顔を曇らせる。


「んじゃなかったら学校関係者だ。学生証見せろ、学生証!」


「ちょ、学校関係者って・・・」


仁絵も気づいて、表情を曇らせた。
学校関係者。となれば、出てくるのは当然・・・。


そして、2人は慌ててコソコソと話し始める。


「・・・・この時間、学校にまだいるか、あいつ・・・」

「まさか。さすがにいないでしょ、もう10時近いよ? 

学校、さすがに閉まってる。」

「そしたら学校にかけても誰も出なくね?」

「いや、転送機能で確か教頭の携帯かなんかに・・・」

「でも、どっちにしろあいつに連絡行くよな・・・」

「親とどっちがいい?」

「どっちもどっち・・・・」



「あ゛ぁ? おい、テメーらなにごちゃごちゃ言ってやがる。

親か学校か早くちゃっちゃと選べ!」


業を煮やして須王が怒鳴る。

しかし、2人は本気で悩んでいた。親か学校か。

『あれ』さえなければ迷わず後者を選択するのだが・・・・。




そして、沈黙すること数分。


「・・・・・・・・・・・・・・・学校で良い。」


仁絵が消えるような小さい声で言った。

究極の選択だった。それでも、親はイヤだった。


「あ? 学校? んじゃ、どっちか学生証貸せ。」


「・・・はい。」


観念したのか、

夜須斗がポケットの財布から引き抜いて、机に投げ出す。


「態度悪ぃなぁ(苦笑)」

「あんたに言われたくないんだけど。」


須王はそれを受け取ると、付き添っていた他の警官に渡した。


「・・・・あんたが連絡しねぇのかよ。」


仁絵が言うと、


「まぁ、てめーらが逃げねー保証はねーし。一応、な?」


と笑って言った。





そして、数分後。


「連絡、つきました。

担任の先生が出られて、学校にいらっしゃったようですので、

すぐお見えになるそうです。」


「ひぇ~~ こんな時間まで残業かい。

先生も大変だなぁ・・・。・・・って、お前らなんでそんなしょぼくれてんの?」


いつもならずっとガンとばしてるくらいの元気が今日は見られない、

と須王が首をかしげる。


「るせぇ・・・・ほっとけよ。」

「そうそう・・・・。」


「???」


いつも手に負えない仁絵を知っているだけに、

須王も含めた少年課の警察官たちは、不思議そうな表情をした。


そして、2人の最悪の時間は、程なくしてやってくるのだった・・・・・。