10月も半ばに近づき、めっきり秋めいてきた頃のある日の朝の話。
この2人が同時にイライラし、荒れていた・・・。
「あーっ!! うっぜぇ・・・あのオヤジ・・・」
「イライラする・・・マジでありえない、あのジジィ・・・・」
(夜須斗視点)
仁絵がグループに加わってもうすぐ1ヶ月。
最初はどうなることかと思ったけど、
まぁ、意外と入っちゃえばうち解けるもんだよね。
そして一番意外だったのが・・・・
「へぇ~~ お前ピアノ弾けんだ?」
「うん。ちょっとだけだけど。(ニコッ)」
ある日、洲矢がピアノを弾きたいって言うから、
いつものメンバーで放課後の音楽室でたまっていた。
で、この日、初めて洲矢のピアノを聴いた仁絵は、驚いたように言ったんだ。
そんな仁絵の言葉に、ニコッと笑って洲矢が返した。
「ちょっとってことねぇだろ、今のショパンじゃん。楽譜も見ないで・・・」
「そう言う仁絵君もショパン分かるなんてちょっとびっくり~(^_^)
見た目明らか
『ロックとかしか聞かねぇし。クラシック? 何それ、おいしいの?』
・・・ってキャラじゃない。」
『』だけ、人が変わったような声で言って、またすぐにニコニコ笑顔に戻る洲矢。
そんな洲矢に仁絵は苦笑しながら、言う。
「お前なぁ・・・(汗) まぁ、俺もちょっとは弾けるからな・・・。
・・・・ってか、ホワンホワンしたオーラで、カワイイ顔してサラッと言うなよ・・」
「カワイイ顔って・・そう言う仁絵君はめちゃくちゃ美人さんだよ?」
「はいはい、そりゃどーも。」
「美人」と切り替えされて、少しムスッとなる仁絵。
そんな仁絵の顔を見て、おかしそうに洲矢は微笑んだ。
「クスクスッ」
そんな洲矢を見て、
仁絵も振り回されてる自分がおかしくなったのか、吹き出す。
「・・・プッ・・・お前、変な奴。」
「・・・そーぉ? っていうより!
僕の名前、洲矢なんだからね?
名前があるんだから名前で呼ばなきゃダメなんだよ?」
ムーッとふくれる洲矢。
「はいはい、分かったよ。」
と、仁絵が軽く返すと、
「呼んで?」
と催促する。そんな洲矢に根負けして、仁絵が呼ぶと、
「ったく・・・・洲矢。」
「うん、ありがとう(ニッコリ)」
とまた笑顔に。
・・・・そう、洲矢と仁絵が仲良しになったこと。
これには仁絵とは常にケンカばっかの惣一やつばめも目を丸くしてた。
一番かみ合わなそうな組み合わせなのに、
なぜか2人はよくしゃべっていて、
仁絵の従兄弟で、もともとそれなりにうち解けてる俺を除くと、
確実に明らか仁絵の一番の友達的存在になってた。
で、そんな風にうち解けてくると、
放課後どこかに寄ろう、なんて話も持ち上がるわけで。
ここんところ、放課後、
俺らはテキトーな場所にたまってずーっと喋ってたり、
ボウリング行ったり、カラオケ行ったり、ゲーセン行ったり・・・。
だから帰りも結構遅くなったりするんだけど、・・・9時過ぎとかね。
ここで問題が発生する。
家出事件以来、洲矢の縛りも緩くなったし、
洲矢は時間になると迎えが来るから、惣一曰く、安心して連れ回せる(苦笑)。
時間になったら迎えの車がどこからともなく現れて、
洲矢はいつでも帰れるからな・・・。
で、惣一とつばめの両親は
「日付変わんないんならいいんじゃね?」的なノリで、
門限には寛大(寛大すぎても問題だけど、さ。)
ってことで・・・・そう、問題は、俺と仁絵。
まぁ、仁絵は仁絵が話すだろうからまずは俺の話。
俺は、知っての通り問題はあのじじぃ・・・・いや、じーちゃん。
うちだって両親は「日付変わらないなら・・・」まではいかないとしても、
時間が二桁になるまでなら、くらいの寛大さは持ってくれてる。
でも、両親・・・
その時間に当人達が家にいてくれないんじゃ意味がない(汗)。
いるのは、「中学生の門限なんぞ7時で十分!!」
って言うじーちゃんだけ。
・・・・部活があったらそれでもう門限守れるかあやしいラインだし、それ。
で、ここ最近8時とか9時過ぎに帰ってて、
その時は運良く母さんがいてくれてて、
じーちゃんは渋い顔して説教はしてくるものの、特に何も言わなかった。
ただ、その9時過ぎ帰りが続いて3日目。ついに・・・・・
~昨夜~
「ゲッ、母さんの車ない・・・・。」
きっと、臨時の仕事かなんかで残業してるんだろう。
時刻は午後9時15分。
いつも残業となると11時過ぎになるから、
そこまで不思議なことじゃない。
ただ・・・・最近いつも帰ってきてたから、忘れてたな・・・。
あー、ってことは今家にはじーちゃん1人・・・・
まずい、非常にまずい。つーかめんどくさい・・・・
ガラガラッ
「・・・・・・・」
とりあえず、玄関の引き戸を開ける。
別にばれないように、なんて考えてないけど、無言。
靴を脱いで、そのまま自分の部屋がある2階に上がろうとすると・・・
「夜須斗!」
「うっ・・・・・・」
あー、・・・まぁ、そうだよなぁ・・・。
「・・・・何。」
仕方なく、上りかけた階段を降りる。
「『何?』じゃないじゃろう!
何だ、毎日毎日こんな時間に帰ってきおって!」
じーちゃんがガミガミ言ってる。
でも、正直返事をするのもめんどくさくて、聞き流しながら、キッチンまで行く。
じーちゃんが説教しながらついてくるけどそんなの知らない。
「・・・・パスタでも作るか。」
キッチンに入って、棚からスパゲティの袋とミートソースの缶を取り出す。
この程度なら調理、なんて言うほどの作業もなく出来る。
一度机において、スパゲティの袋を開けようと手に持った瞬間、
横からそれを取り上げられた。
「・・・・じーちゃん、返して。今から俺夕飯作んの。」
「何が夕飯じゃ! ちょっと来なさい!」
「ったぁっ、ちょっと! おい!」
手首を掴まれ、そのまま道場まで連れてかれる。
ああ、デジャビュ。
雲居まで呼んで騒ぎになったあの一件のせいもあって、
こうやって連行されてる時は、全力で抵抗できない。
その分口でわめくけど、そんなことを聞き入れてくるじーちゃんでもない。
道場につくと、ドンッと突き飛ばされて、自分はそこに仁王立ちした。
俺もそのまま突き飛ばされたまま床にへたり込んでるのも癪だから、
立ち上がろうとすると、じーちゃんが怒鳴ってきた。
「正座じゃ!」
「はぁ!? なんで?
俺、んなことしない! つーか叱られるような覚えないし。」
「何が『覚えがない』じゃ!
こんな時間に帰ってきおって! 3日連続だと!?
昨日までは弥栄子さんがおったから口出しせんかったが・・・」
弥栄子、ってのは俺の母さんの名前。
「今日は弥栄子さんもおらんしの、最近お前は調子に乗りすぎじゃ。
わしがみっちり躾直してやるわ!」
「いらないから、そんなの。
俺腹減ってるんだよ、飯作って、食って、風呂入って寝るの。
俺、もう行くから。」
立ち上がって道場を出ようとしたら、また突き飛ばされた。
今度は踏みとどまって尻もちはつかなかったけど。
「ってぇなっ! 調子乗ってんのはじーちゃんだろ!
父さんや母さんが10時くらいまでに帰ってくればいいっつってんだから、いいだろ!
なのにいろいろ口出ししてきて、うざいんだけど!」
そう怒鳴ってやったら、
わかりやすくじーちゃんの眉間のしわが更に深くなって、
「そうか、ならもういい。今日はもうここから一歩も出んでいい。
布団が数組、奥の押し入れに入っておるから、ここで夜を明かせ。」
「はぁ!? なんでそうなる・・・・」
「夕飯は抜きじゃ、とにかく今から就寝の11時まで、1時間半正座!
もちろん、わしが見張っておるからな。」
「ふざけないでよ、俺は正座なんか・・・」
「なら、蔵でもわしは構わんぞ?
その場合、明日朝、お前の尻に竹刀がとぶことになるがな。」
「何勝手に・・・・」
「あまりにも聞き分けがないようだったら、雲居先生を呼ぶ手もあるのう。
お前は雲居先生の言うことなら聞くようじゃし・・・」
「!!・・・・くっ・・・・・」
冗談じゃない、こんな家庭内のことを雲居に知られて、
しかも叱られるなんて。
あの一件のせいで、じーちゃんは俺が雲居に敵わないことを悟ったらしい。
あー、よけい面倒になった・・・・
仕方なく、俺はその場に正座した。
1時間半・・・正座に強い俺でも、最近はあんまりなかったから
なかなかハードな時間だ。
しかも、渋々正座した俺に、
じーちゃんは満足そうな(いらつく)顔で、付け加えに言ったんだ。
「明日の朝は5時起きで道場の雑巾がけをしなさい。
それからこれから一週間は寄り道せずに家に帰ってくること。外出は禁止じゃ。」
・・・・あまりの内容に俺は反論する気も失せて、じーちゃんを睨んだ。
「なんじゃその目は!!」
「別に・・・。」
そうして、その夜は更けていった。
翌日、俺は本気で雑巾がけをさせられて、学校に行くことになった。
そんなこんなで冒頭の朝のシーン。
そして時間が過ぎていってもいらつきはとれず、仁絵と一緒にずっと不機嫌。
そして、俺達は有る事件を起こすことになっちゃったんだよね・・・。