「ほら、俺らの番。」


夜須斗は20分そこらの正座は何の辛さもなく、

スッと立ち上がって風丘の方に行こうとする。

だが、惣一はそうも行かなかった。


「うっ・・・ちょ、ちょっとタンマ・・・」


足が痺れて上手く立ち上がれない。

夜須斗に向かって手を伸ばす。


「なんで20分そこらでそこまで痺れるわけ・・・・?」


夜須斗は呆れて、ため息をつく。


「俺が無理矢理引っ張り上げたらよけい辛いだろ。

自分で立ちなよ。」

「んなこと・・・言ったって・・・」


夜須斗に促されても、惣一はほとんど動けない。

思えば、風丘から叱られるようになってから、
惣一は正座をする回数が小学校時代に比べてだいぶ減っていた。

そして、そのやりとりを見ていた雲居が、

仕方なさげに惣一の元に来る。


「あ~ 見ててじれったいわ。はよ立て!」

「!!! ぎゃぁぁぁっ」


雲居が惣一の腕を掴んで無理矢理引っ張り上げた。

思い切り引っ張られたせいで、惣一は大声を上げる。
不意に足をついてしまい、

頭のてっぺんからつま先まで電気が流れたようにジーンとする。


「・・・・まぁ、あっちはなんとかなるでしょ。おいで、吉野。」

「・・・おう。」


逆らったらろくな事がない。

賢い夜須斗は4月から何回も受けてきたお仕置きの中で

学習していた・・・というか、
いい加減惣一達も学習してもいいはずなのだが。

夜須斗は、少しためらいながらも素直に風丘の脇に立った。

夜須斗のプライドの高さを承知している風丘は、
無理に自ら膝にのることを強要したりはしない。

今回はそこまですることはないと思っていた。


「よし、じゃ、始めるよ。」

「・・・うっ・・・」


風丘はそう言うと夜須斗の腕を引っ張って膝にのせ、

慣れた手つきでズボンと下着を下ろす。
いつものこととはいえ、恥ずかしい・・・ 夜須斗は顔を少し赤らめた。


「なんか吉野のお仕置き久しぶりだなぁ。いっつも光矢だったから。」

「しゃ、喋ってないでやるならとっとと・・・」

「はいはい。」


バシィィンッ


「うっ・・・・」

「前もこんなことあったよね? 

吉野が入れ知恵して、よけい話がややこしくなるの。」


バシィィンッ


「くっ・・・」

「光矢に言われたんじゃないの? 

その頭の良さの使いどころ、間違ってるって。」


バシィィッ


「う・・あっ・・・」


「どうなの?」


バッシィィィィンッ


「うぁぁぁぁっ! い、言われた・・・けど・・・」


不意に降ってきた強い平手に、

今まで声を押し殺して耐えてきた夜須斗の声が不意に大きくなる。
それでも、風丘はお構いなし。


バシィィンッ


「いっつ・・・」

「けど?」


バシィィンッ


「あぁっ・・・どーせ言ったら逃がせとか言うじゃん・・・」

「・・・・・・・・」


夜須斗がそう呟いたとたん、風丘は手を止めた。


「か・・・ざおか・・・?」

「そんな言い方ないじゃない・・・ 

もう9月だよ? どれだけ一緒にいたと思ってるの? 

少しは信用してくれてもいいんじゃない?」

「・・・・え?」

「相談もしてくれないなんて、先生悲しいな・・・」


風丘がうつむき加減にぽつりと言う。

演技だということは分かっていても、気まずくなるぐらい漂う悲愴感と沈黙。
耐えられなくなった夜須斗が叫んだ。


「・・・・・・・・・あーっ! もう! 

分かったよ、分かった! 俺が悪かった!
確かにあんたに相談するって選択肢もあったのに、

隠すって方選んだ!

どうせ逃がせっていうだろ、って決めつけたよ! 

あんたのこと、信用してなかった!」


「・・・・・そっかぁ。じゃあ、もうちょっと厳しいお仕置きでも文句言えないね。」


「え・・・ちょ・・・まっ・・・」

「これからはもうちょっと信用してよね。じゃ、あと20。」


風丘はそう言うと、手を振り上げ、ねらいを定めて打ち下ろした。


バッシィィィンッ


「うぁぁぁぁっ」


バシィンッ バシィンッ バシィンッ バシィンッ バシィンッ


「くっ・・・いたぁっ・・・うぅっ」


一発一発はそこまで重くなくても、

今までの痛みが堆積しているのだ。痛くないわけがない。


バシィンッ バシィンッ バシィンッ バシィンッ バシィンッ
バシィンッ バシィンッ バシィンッ バシィンッ バシィンッ


「いったぁっ・・・も、もういいって・・・うぁぁぁっ」

「ダーメ。あと5発。いっくよ~」


楽しそうなのは気のせいか。


バッシィィンッ  バッシィィンッ  バッシィィンッ
バッシィィィィンッ バッシィィィンッ


「ひぃぃぁっ・・・うぁぁぁっ・・・あああああっ!」


「はい、おっしまい。」


弾んだ声でそう告げる風丘に、夜須斗は涙目で軽く睨んで叫ぶ。


「あんた・・・何楽しんでんの!?」

「気のせいでしょ? ほら、降りて降りて。

タオル準備できないでしょ?」

「何が先生悲しいな・・・だよ! 気持ち悪いし気まずいしっ」

「あれ? そんなこと言っていいのかな~」

「あっ・・・うっ・・・・」

「クスッ」


風丘たちの前ではクールになりきれない夜須斗だった。





ところ変わってこちらは雲居と惣一。


「ぎゃぁぁぁぁっ!」

「うるさいわ! まだなんもしてへんやろ!」

「んなこと言ったって・・・ 足っ・・・電気・・・」


痺れている足を思い切り地面に着けてしまったせいで、

まるで体中を電気が流れたような感覚になった惣一は、
たまらず叫び声を上げた。


「そんなん知るか! 自業自得や。」


雲居はそんな惣一の言い分には聞く耳持たず、

さっさと下着ごとズボンを下ろしてしまう。


「言っとくけどなぁ、『動物愛護の精神』なんちゅー言い訳はきかんで。

学校側の迷惑も考えや。」


バッシィィィンッ


「うぁぁぁっ! ちょ、ちょっとあんた初っぱなからキツ・・」


バッシィィンッ


「うぁぁぁぁっ!」

「うるさいわ。俺ははーくんみたいに1つ1つゆっくり言い聞かせて・・

ってのは苦手なんや。
せやから全力でさっさと終わらせる。我慢しいや。」

「んなのっ・・・・」


バシィィィンッ


「やぁぁぁっ」

「学校に野良猫なんざ連れ込んだら、

猫アレルギーとかの生徒が困るやろ!
それくらい考えや!」


バッシィィィンッ


「ぎゃぁぁぁぁっ!」

「変な菌持ってるかもしれへんし・・・

そういう後先考えへん行動するから、こないな目に遭うんや!」


バシィィィンッ


「いたぁぁぁっ」

「分かったか?」


バシィィィンッ


「うぁぁっ わっ、分かったよっ 分かったからぁっ・・・・」


ほぼ手加減無しでバシバシやられ、

すがの惣一も涙目だ。いつもの風丘のお仕置きが嫌で、

選ぶのを迷ってしまったけれど、
結局どっちも死ぬほど痛い、ということを再確認することになるだけだった。


「ほなら、最後に仕上げの三発。覚悟しいや。」


雲居がハァッと息を手にかける。惣一はギュッと身を固くする。


バシィィィンッ

バッシィィィンッ

バッシィィィィィンッ


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「ほら、しまいや。適当にうつぶせになって、冷やしとけ。」


雲居はそう言うとさっさと膝から惣一を下ろした。


「ほな、後は頼むわ。シーツとか洗濯せなあかんしな。」

「うん、お疲れさま。光矢。

あ、洲矢君とつばめ君ももういいよ~」


風丘は部屋を出て行く雲居を笑顔で見送ると、

立っていた二人にも解放を告げた。


「風丘先生・・・あの・・・ミャケたちは・・・」

「今、保健室のベランダに雲居がおいといてくれてるよ。

感謝してよね~
校長先生、生徒指導主任、各学年主任・・・

説得するの大変だったんだからっ」

「「「「え?」」」」

「OKもらった・・っていうか、説き伏せたんだけど。

とりあえず、週末に動物病院連れてって、健康診断と予防接種。

それから保健室でのベランダでなら、飼ってもいいってさ。」

「うっそ・・・マジでOKもらったの?」

「保健の雨澤先生が動物好きでね・・・助かったよ~ 

授業中とかは、先生方にみてもらわなくちゃならないからね。
雨澤先生がOKくれなかったら、交渉決裂だった。
まぁ、交渉や説得は昔から慣れてるからさ。

さすがに校長先生相手は緊張だったね~」

「・・・・・あんたってつくづくよく分かんねぇ・・・・」



風丘葉月、という人間の力を見せつけられた4人だった。


夜須斗が叫び終わった瞬間、

風丘がにっこりと笑った。・・・・怖い。