「ねぇ、夜須斗っ 今日の昼休み、屋上に来て? お願いっ」
朝っぱらからなんだよ・・・・
つばめが上目遣いで手を合わせて俺を見つめる。
お前、なんなんだその誘惑目線・・・
「別にいいけど。何があるの?」
屋上なんて、気が向いたときに行くのに・・・
「あ、えっとねぇ・・・・な・い・しょ♪」
「はぁ?」
言えないようなもんなの? おいおいおいおい・・・
結局、それ以上聞き出すのも面倒だからやめて、
言われたとおり昼休みに屋上に行った。・・・・・
「・・・・・なんなんだよ、これ・・・・・」
屋上のドアを開けた瞬間、俺の目に飛び込んだのは3匹の猫。
三毛猫に、トラ猫に・・・・これは・・・白猫か?
汚れで茶色くなってるけど・・・・
「なんで学校に猫がいんの?」
俺は猫じゃらしを持ってる惣一に話しかけた。
まぁ、予想はついてるけど・・・
「あー・・・ついてきちまったんだよ、昨日の朝、俺ら遅刻だったろ?」
確かに、つばめと惣一がそろって遅刻してたっけ・・・
まぁ、30分だからって風丘の部屋行きは免れてたな・・・
「こいつらが登校んときについてきちまったから、
隠すためにわざと遅刻して、
登校時間終わってからゴミ置き場行って段ボール組み立てて、
とりあえず体育館裏の目立たないトコにおいたんだよ。
んで、放課後みんなが帰ってから屋上に移したってわけ。」
「おい・・・それって敷地内に入れたのはお前らってこと?」
「しょうがねぇだろ! ついてきちまったんだからよー」
ついてきたって・・・・
校内に入れたら面倒くさくなるに決まってんじゃん、ったく・・・・
「それで? 何で俺呼んだの?」
「お願い夜須斗っ バレないで飼い続ける方法考えてっ」
「・・・・はぁ?」
「最初はどっかに放してやろう、って言ってたんだけどよー・・・
こいつが・・・」
「だって・・・・一度拾ったのにすぐ放しちゃうなんて無責任すぎるよ・・・
かわいそうだし・・・・ねぇ? ミャケ、トラ、タマ。」
しゅ、洲矢!? なに、洲矢も絡んでるわけ?
・・・ってか名前フツー・・
「ってか、洲矢にはなんでばれたわけ?」
「いや、洲矢に『なんか隠してることあるでしょ』って言われて・・・」
「洲矢、カンがいいんだもんっ」
「いや、そんな簡単に洲矢に見抜かれるんだったら
風丘や雲居あたりに感づかれるのも時間の問題・・・」
あいつらのカンの良さは恐ろしいからな・・・・
「だからお前に相談してるんだろ?」
「巻き込むなよ・・・」
「ま、俺らとダチだってことを恨めよっ(笑)」
「満面の笑みで言うな・・・・・・・・ったく。
餌は? 今日、どうしたわけ?」
こうなったらやるっきゃない。
どうせいつかは巻き込まれんだからな・・・はぁ。
「給食の牛乳と焼き鮭を・・・・」
「くすねたわけ? そんなんじゃ明日にでもばれるよ・・・・
いいか、少し金はかかるけど、ちゃんと猫缶買ってこいよ。
こいつら野良猫だろ?
フツーの猫よりは生命力強いだろうから、
一日一食でもいいかもしれないけど、
その一食ちゃんとしたもの食べさせてやれ。
あと、子猫じゃないんだから
無理してミルク飲ませようとしなくたっていいんだよ。
水で十分なんじゃない?」
俺はとりあえず思いついただけアドバイスし、問題点を改善し、実行した。
そしたら、奇跡的(?)に、
なんと一週間もばれずに飼い続けることに成功したんだ。
今日も餌をやりに行かないとなー・・
当番制にしようかとも思ったけど、
別に屋上は結構俺らがつるむのに使ってるから平気だと思ってさ。
「・・・・!!・・おい! あいつらいねぇ!」
・・・・・え?(汗)・・・・・おいおいおいおい! ミャケもトラもタマもいないし!
「・・・・なに? あいつら脱走・・・?」
「・・・・や、やばくない!? それってさ・・・」
「・・・あー・・・朝、きっとドアちゃんと閉めなかったんだろ。
校内で見つかったら間違いなく風丘の部屋行きだな。」
「「冷静に言うなっ!!!!」」
うるさい・・・あまりのことに思考がストップしてお前らみたいにリアクションできないんだよ!
「ねぇ・・・これからどうするの?
ほったらかしにできないよ? ミャケもトラもタマもかわいそう・・」
かわいそう・・・・って洲矢。この状況で・・・。
お前、やっぱ観点ずれてる・・・・ってか、探すっきゃねぇよな・・・
あーどうすんだよマジで・・・
もう昼休み終わるし・・・放課後にするしかねぇよな・・・はぁ・・・
所変わって保健室・・・(ここから通常視点)
5時間目が始まりかけるころ、
昼休みに職員室で小休憩をとっていた雲居が戻ってきた。
5時間目に授業を持っていない、風丘も一緒だ。
理由は簡単、同じく授業を持ってない地田と
同じ空間にいるのが苦手なためだった。
「なーんや、はーくんもあかんねんな。
よぉ魅雪も昼休みはこっちでコーヒー飲んどるけど・・・・」
「そりゃあ、できることなら一緒にいたくはないよ・・・・
苦い思い出ばっかだからね・・・・」
二人が話しながら保健室に入ると・・・・
「・・・・・猫? おいおい、どこから入ってきたん?
よりによって保健室はまずいで。
いつはいったんやろ? 変やなぁ、野良にしてはキレイやし・・・
あー、ベッドのったやろ?
あかんやん、アレルギーの子とかもおんねんから。」
雲居がそう言って猫を抱きかかえる様子を見ながら、風丘は呟いた。
「・・・ついに失敗したか。」
「・・・へ?」
風丘のつぶやきに、雲居は首をかしげる。
すると、風丘は苦笑いしながら答える。
「それ、惣一君たちだよ。
何日か前からたぶん屋上あたりで飼ってたんだと思うよ。
全く・・・ばれてないわけないじゃない。」
「そうなん? 俺なんも気づかへんかったけど・・・」
「昼休みになるたびにダッシュで教室出てったり、
脱ぎっぱなしの制服の上着に明らかに人の毛じゃない毛がついてたり・・・
だいたい、初っぱな焼き鮭と牛乳なんてくすねてたら、
何かあるなって思うでしょ。
まぁ、途中からちょっと巧妙になったから、
たぶん隠しきれなくなって夜須斗君にでも頼んだかな?
今回は洲矢君も一緒に行動してるから、
絡んでるのは
惣一君、夜須斗君、つばめ君、洲矢君の4人だね。きっと。
多いなぁ、また嫌われ役だね、俺。」
風丘はため息をつきながら、苦笑混じりに言った。
「・・・・ほんなら、俺受け持ってもええけど。
半分でも、全員でも。
いっつもはーくんにきっつい役やらせるのも悪いしなぁ。」
「・・・十分、光矢もお仕置きしてると思うけど?
でも・・・そうしてくれると助かるよ。
やるときに、4人の反応で決めよっか。」
「せやな。」
「じゃあ、放課後に呼ぶよ。俺の部屋、ということで。」
「りょーかい。」
こうして、惣一達の知らないところで恐ろしい約束が交わされていたのであった。
5時間目が終わり、生徒たちは掃除に各担当場所へ移動している。
風丘は自分の監督場所である資料室に向かう途中だった。
「全く・・・次から次へと問題起こしてくれちゃうんだから・・・・」
独り言で愚痴をこぼしながら歩いている時、
前方から惣一たちが歩いてきた。
それに気づいた風丘は、ちょうどいい、と呼び止めた。
「ああ、惣一君たち!」
「・・な、なんだよ風丘!」
すれ違いざまいきなり声をかけられて、惣一は少し怯んで答えた。
「惣一君とつばめ君は清掃場所、体育館でしょ?
なんで特別教室棟の方に向かって歩いてるの。反対方向じゃない。」
「そ、それはぁ・・・・・」
しどろもどろになるつばめ。
実は、掃除の時間、校内中が騒がしくなるから
猫が出てくるんじゃないか、ということで
掃除をさぼって猫探しをしようとしていたのだ。
「ああ、そうか!」
風丘は、ポンと大げさに手を打つジェスチャーをして意地悪く言った。
「猫探さなくちゃいけないもんねぇ?
見つかったらお仕置きでお尻ペンペンされちゃうもんねぇ?
そりゃあ掃除より大事だよねぇ?」
「!!!!!!!」
2人は顔面蒼白になった。
ばれてる・・・なんで!?
2人の頭は焦りと恐怖でフリーズした。
「夜須斗君と洲矢君もどこかで探してるんでしょ?
ばれてないなんて考えが甘すぎるんだよ。
何でバレたか? そんなのあとでたーっぷりお仕置きの前に教えてあげる。
・・・・・ってことで、新堂、太刀川。放課後、俺の部屋ね。
ああ、ちゃんと吉野と佐土原も連れてくるんだよ。」
それだけ言うと悠々と2人の元から去っていく風丘。
だが、2人はなかなかその場から動くことができなかった・・・。
放課後、明らかにテンションの低い4人組が廊下を歩いていた。
「なんでばれたんだよ・・・・・」
惣一がげっそりとした顔で夜須斗に尋ねる。
「俺に聞かないでよ・・・ どーせ、どっかでボロが出たんだろ。」
夜須斗も暗い声で答える。
「ねぇ、どうすんの? 絶対お仕置きだよ?」
「痛いよね、風丘先生の・・・・」
つばめも洲矢も落ち込んだ様子で不安を口にする。
そうこうして歩いているうちにも、
風丘の部屋へは確実に近づいている。
「なぁ・・・・マジでこのままばっくれねぇ?」
この雰囲気に耐えられず、惣一がそんなことを思わず口にした時だった。
「ほぉ・・・・そんなん言うて、ただで済むとでも思っとるんか?」
「「「「ぎゃぁぁぁぁ!!!/うわぁぁぁぁ!!!」」」」
雲居の声が背後から聞こえ、振り向いた4人は大声をあげた。
「そんな大騒ぎすんなや。うるさいやろ?」
「な、なんで雲居がいんだよ!」
「いて悪いんか?
はーくんに呼ばれてるんや。ってか俺もお前らに用があんねん。」
「よ、用って・・・?」
「あ、光矢も一緒だったの?
ほら、4人ともぐずぐずしてないで早く入って。」
雲居に気を取られて歩いているうちに、
4人はとうとう風丘の部屋についてしまった。
「え・・・」
4人は急かされるままに部屋に入り、ソファーに座らされた。
正座ではないが、
ソファーに座ったまま長身の風丘と雲居に見下ろされ、自然と体が縮こまる。
「何で呼ばれたか分かってるよねぇ?」
風丘がにっこり笑顔で聞いてくる。
だが、その瞳は心から笑ってはいない。
「・・・・・猫のこと。」
夜須斗がボソリと答えた。
「そう。結構前から飼ってたよねぇ?」
「なんで・・・・・なんで分かったんだよっ」
惣一が悔しそうな声で言う。
すると、風丘はため息をついて答えた。
「そりゃあ、あれだけ失敗すればね。
いつも5時間目ギリギリに汗だくで帰ってきて。
それに、制服のズボンに動物の毛みたいなのがいっぱいついてるし。
最初の頃は、堂々と給食のおかず盗ってたしね。」
「「「「・・・・・・・・」」」」
4人は何も言い返せず、黙ってうつむく。次に、雲居が口を開いた。
「極めつけは今日の5時間目や。猫、保健室のベッドに潜り込んどったで。」
「えっ!? じゃあ光矢がいるのって・・・・」
「おかげでシーツ洗わなあかんし、掃除せなあかんし・・・・
俺からもお前らに言わなあかんと思てなぁ。」
怖すぎる低音ボイスの関西弁。4人とも自然と体が縮こまる。
そんな4人に、風丘が柔らかい声で言った。
「だからね、今日は選択肢をあげる。
お仕置きをされるの、俺か光矢か。まぁ、半々で2枠ずつだけど。」
「なっ・・・・・そ、そんなの選べるわけないだろ!!」
惣一が目を見開いて叫ぶ。
どっちにしろ、痛い思いをするのだ。
長くしつこく数を叩いてくる風丘、
短期決戦型、数は少ないが一発一発がとにかく痛い雲居。
結局、最終的な痛みは同じぐらいなのだ、どっちを選んだって得しない。
「「「「・・・・・・」」」」
4人は困り果てて黙ってしまう。
「早くせぇや。あみだにするか?」
何も言わない4人にしびれを切らして雲居が言う。すると、
「え・・・・・あの・・・・僕・・・・・風丘先生・・・・」
洲矢が今にも消えそうな声で言った。
「ん? 佐土原は俺? いいよ、じゃあこっちおいで。」
風丘がそう言って、
自分はいつぞや惣一を叩くときに座ったピアノの椅子に座り、
横に洲矢を立たせた。
「ほら、あとの3人は? 言ったもん勝ちだよ。」
「何が勝つのか知らないけど・・・・じゃあ、俺風丘・・・・」
夜須斗がそう言って風丘の元に行った。
すると、雲居が茶化すように
「お、夜須斗俺から逃げたん?」
と言った。
夜須斗は一瞬「うっ・・・」とうろたえて言った。
「選べって言ったのそっちでしょ。俺あんた苦手だもん・・・」
「ああ、そういえば夜須斗は光矢に気に入られてるんだっけ?」
風丘はそんなやりとりにクスッと笑うと、
「じゃあ、佐土原と吉野が俺ね。新堂と太刀川は光矢。決定!」
「「何で嬉しそうなんだよ・・・・」」
惣一と夜須斗の疑問をよそに、
こうして、4人のお仕置きの時間が幕を開けた・・・