今までで一番長く感じた1学期もやっと終わって、
今は、俺たちにとって待ちに待った夏休み。
風丘たちから開放されてハメをはずせる・・・・はずなんだけどさ。
惣一たちと俺は、ちょっと状況が違って・・・・
「待て、夜須斗。どこに行くんじゃ。まだ昼も食べとらんのに。」
これ。夏休み中の悩みのタネ、じいちゃん。
うちは両親共働きで2人とも忙しくてろくに帰ってこないから、
物心ついた頃から俺を育ててたのはこのじいちゃんなんだよね。
昔、剣道の師範とかやってたらしくて、めちゃくちゃ厳格で口うるさい。
父さんや母さんからは叱られた記憶なんて少しもないけど、
じいちゃんからは毎日毎日怒鳴られてる。
俺があんなに正座に強くなったのも、なりたくてなったわけじゃない。
ことあるごとにじいちゃんに何十分も、
ひどいときは何時間も正座させられてたせい。
学校あるうちは昼間とかいないし、
顔合わせること少ないから(まぁ、その分風丘とか雲居がいたけどさ)
良かったんだけど、
夏休みは出かけないと一日中一緒にいることになるからイヤになる。
「どこだっていいじゃん。じいちゃんには関係ないっしょ。」
「昨日も門限に遅れたじゃろう!
2日連続で門限破りなんてしようものなら
どういうことになるか、分かっておろうな!?」
そう、うちには門限もある。夜の7時。
今時の中学生に守れったって無理じゃない? この時間。
じいちゃんは全部昔の感覚でこーいうの決めるから、
ほんと無理なんだよね・・
他にも11時には寝る、起床は5時半、とか
もろもろ守るのはぜってー無理なのばっか・・・
前、たまたまトイレに起きたじいちゃんに
夜中の1時に起きてパソコンやってんのばれてめちゃくちゃ怒られたし。。
「分かってるよ・・・・もう行っていい?」
「全くお前という奴は・・・・」
やばい、説教始まる!
俺は急いで家を出た。
じいちゃんがなんか言ってるけど気になんかするか。
じいちゃんの説教はとにかく長い。
まともに聞いてたらいつまでたっても家出られないし。
今日は、別にフツーに惣一と遊ぶだけなんだけど。
昨日は仁史とつばめと遊んでて、門限1時間過ぎて、
正座1時間だったんだよな・・・・畳だったから良かったけどさ。
板間だったりしたらサイアクだったな・・・
板間と畳って、かなり差あるんだよね。
~~♪~♪♪~~~~
ん? メール・・・・
『本日、母・父共に仕事で帰れず。』
・・・・・素っ気なっ まぁ、いつものことだけど。
早く惣一んち行こ。
ピンポーン
「はーい。あら夜須斗君! いらっしゃい。」
そっか。惣一んちのおばさん
(↑おばさんって歳じゃないって言い張ってるらしいけど)は専業主婦なんだ。
どちらかって言ったらヤンママで、
惣一は絶対おばさんに似たな、うん・・。
うちは母さんがこんな昼間に家にいるなんてあり得ないんだよな・・・
「惣一! 夜須斗君が来たわよ!」
「おう! 今行くー!・・・・・よっ ずいぶん早かったじゃん。」
惣一は、うちの事情(もちろんじいちゃんのこと)を
自称「よく」知ってるらしい。
まあ、小さい頃はウチで遊んで、二人して怒られて・・・
ってのもよくあったからな。
だから、俺がそう簡単に家を出てこられないことも知ってんだ。
「ああ。うまくかわしてきた。それで?今日どうすんだよ。」
「あ、ねぇ! 今日うちの人出張で帰ってこないから、
夕飯焼き肉しようと思ってたのよ!
夜須斗君、お呼ばれされない?
ついでに泊まってっちゃいなさいよ!ご両親、お忙しいんでしょ?」
そんな満面笑顔で言われたら断りにくいじゃん・・・・
「いいじゃんいいじゃん! 夜須斗! たまにはそーいうのもよくね?
夕飯の頃まで駅前とかで暇つぶしてさっ」
「・・・・・・分かった。そうする。」
「っしゃぁっ! さっすが夜須斗! 物わかりいいっ!」
「一応じいちゃんに連絡しとくわ。なんか言われたらやだし。支度してて。」
「OK!」
ルルルルルル
ガチャッ
『はい、吉野ですが。』
「あ、じいちゃん? 今日、ダチんち泊まるから。よろしく。」
『はぁ? こ、これ! ちょっと待・・・』
ピッ
ふぅ・・・・ なんか言ってたけど、ま、これで良いか。
何にも言わないと、あのじいちゃんのことだから
学区内かけずり回ってでも探し出しそうだからな。
「連絡ついたのかよ?」
「ああ。」
「よし、んじゃ行こうぜ!」
この日、俺は惣一んちでしばらくなかった
じいちゃんから開放された一日を送った。
じいちゃんにしては珍しく、携帯にはなんもかかってこなかったし・・・・で、
結局俺は次の日の朝9時頃、惣一んちを出て家に帰った。
「・・・ただい「保護者の許可も得ず外泊とは何事じゃ、このバカ者がーっ!!」
うわ、びっくりした・・・
こんな玄関先で怒鳴られたのマジで久しぶりだし・・。
何、そんなに怒らせた?
「ちょっと来なさい!」
「うわっ ちょ、ちょっと待ってよ、じいちゃん!」
俺の腕を掴んで引っ張ってったのは・・・・
うわ、道場の方向じゃん!
道場は、昔剣道師範だったじいちゃんが
自分の鍛錬に使ってた部屋で、今もその目的でちょっとは使ってるけど、
ここ数年間はもっぱら俺の説教用の部屋なんだ。
「待ってってば!」
やっとの事でじいちゃんの手を振り払ったのは、
道場に入るふすま前の縁側だった。
「何を待つんじゃ!」
「俺、ちゃんと連絡したじゃん!
何怒られなきゃなんないわけ!?」
「連絡は受けた。だが許可はしておらん。
無断でまだ中学生の分際で外泊などしおって!
自分勝手にもほどがある!」
「友達んちなんだから別にいいじゃん!
向こうから誘われたんだし。」
「そのあたりの経緯も聞く。とにかく入れ!」
「やだよ! ただ説教して正座させるだけじゃん!」
「入れ!」
また腕を掴んで引っ張ってきた。
俺は、やだって言って腕を振り払って、じいちゃんを突き飛ばした。
その瞬間・・・
「うっ・・・!」
「あっ・・・・」
じいちゃん、縁側から落ちて腰を打ったんだ。
ヤバ・・・・じいちゃん、剣道の師範やめたのも、
腰痛めたからって理由が大きかったんだよね・・・・
出てくか・・・でもそれはさすがにひどすぎだよな・・・
後々のことも怖いし・・・
「ううっ・・・夜須斗・・・」
「・・・・・・・じいちゃん、かかりつけの形成外科どこ!?
救急車・・・は大げさだよな・・・。」
「あたたた・・・年寄りをぞんざいに扱いおって・・・」
「説教とかの場合じゃないし! どっか形成外科言ってってば!」
「前の城谷さんは閉院したからのぉ・・・・今は・・・雲居さんじゃ・・」
「く、雲居!? あいつ形成もやるわけ?
内科医じゃなかったっけ・・・ま、まぁとにかく連絡とるから、
じいちゃん変に動いたり、立とうとかするなよ!」
あ~~~なんでこんな展開になってんだろ・・・・
つーか、なんで俺雲居のケー番知ってんの?
ってか、今雲居呼んで、原因ばれたらマジで怒られるよな・・・
でもそれどころじゃないし!
・・・・・・・・さすが一応医者。
連絡して、状況話したら近所だってこともあって
5分でチャリンコ乗ってすっ飛んできた。
「じいちゃん、大丈夫か?
今診るさかい。もうちょっと待ってや。
おい、夜須斗!
布団、そこの道場?みたいなとこに敷け!」
「わ、分かった・・・」
言われたとおり、じいちゃんの部屋から布団を引っ張り出して敷いた。
だって言われたとおりにするしかないし・・・。
「ほな、診察するで。
あー、夜須斗は診察の邪魔や。
どっか別ん部屋で待っとき。
ああ、せやけど家から出たらあかんで。」
「え? なん・・・で?」
「医者の勘、や。『勘』。」
そんな勘聞いたことないし!
ヤバ・・・俺がからんでるってことばれてる?
「じゃ、じゃあ居間で待ってる・・・。」
結局、刷り込みなんだよな・・・・
雲居に対して逆らえないっていうか・・・素直に待つことに決めた。
逃げる勇気がないってのもちょっとはあったりして・・・・認めたくないけど。
あーあ、このあと俺どーなんのかな・・・・