あの大騒ぎの持ち物検査週間も終わり、6月も半ば。

期末テスト週間に入るまでは、

ここからず~~っとどの部活の誰もが中体連へ向けての

部活三昧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・のはずなのだが。

そうではないのもいるわけで・・・・


「惣一君とつばめ君と夜須斗君ですね? 

わかりました。注意しておきます・・・」


ここは土曜日、午前中の職員室。

風丘の元に、内線で部活サボり衆三名のことが知らされたのだった。


「確かにこう毎日部活じゃあ飽きるかもしれないけどさぁ・・・・」


この中学では、中体連前の6月に入ってからは、

部活を平日、毎日入れられるようになる。
活動日は部長が先生と話し合って決めるため、

だいたいどの部も毎日活動がある。
その上、休日の部活動も必ず土日どちらか入れられるため、

本当に「部活三昧」なのだ。

出場が決まっている3年、2年なら必死になるだろうが、

雑用中心の1年では、飽きるのも分からないでもない・・・・・・・・が、

これで平日、放課後の部活サボりも含めて
今週だけで3回目ともなれば、さすがにフォローできない。

今まで学校自体のサボりはお仕置きもしたり厳しくしたが、

部活サボりについては
風丘は、自分がどこの顧問にも入っていないこともあって、

ほとんど把握していなかったのも悪かったな・・・・と、反省しながらも、


「(探してお仕置きしなきゃな・・・・。 明日呼び出すかぁ・・・。)」


と考えていた。






一方、そんな恐ろしいことを考えられているとはつゆほども知らない惣一たち。

サボり組の惣一、つばめ、夜須斗に加え、部活が休みの洲矢がいる。

洲矢の入っている吹奏楽部などの文化部は、基本的に部活は日曜日なのだ。
そしてもう一人、仁史は(柄に似合わず)風邪をこじらせ、今日は家で休んでいる。

ということで、いつもとちょっと違うメンバーではあったが、遊んでいた。


「なぁ、次どこ行く??」


ファーストフード店を出て、惣一が聞く。


「う~~~~ん・・・はいはーい! 僕、ゲーセン行きたい!」


つばめが無邪気に答える。


「俺や惣一はいいだろうけど・・・洲矢は大丈夫か?」

「あ、そっか・・・。」


夜須斗が聞く。そう、洲矢は惣一たちと違って、

そういったところには全く縁がないのだ。
だいたい、ゲーセンは中学生だけでは行っては行けないと

校則で定められているのだが・・・・

しかし洲矢は、


「ううん。大丈夫だよ。僕も、ちょっと行ってみたいなぁって思ってたし。」


と、ニコッと微笑んで言った。

こういうある意味での大胆さが、

洲矢が惣一たちのグループに入っていられる所以でもある。


「よし、んじゃあ決定! ゲーセンへレッツゴー!!」




駅前にある巨大なゲームセンター。

3階建てで、フロアによってレーシングゲームなどのスポーツ系統だったり
麻雀などのボードゲームなどの系統だったり、

プリクラやポップコーンメーカーなど女の子や子供を対象にしたものを集めていたりと、

様々なゲームが設置されている。

惣一たちは、音楽系統やスポーツ系統のゲームで遊んでいる。

洲矢は、夜須斗に面倒を見てもらいながらも楽しんでいた。

夜須斗は、ちょっと世間ずれしている洲矢の面倒をみる係だ。

・・・というより、
夜須斗以外、面倒みれるようなメンバーがいないのが原因だが。



そして入店から1時間ほど。4人はフツーに楽しんでいた。

・・・・ただ、いくら昼間とはいえ、いろんな若者が集まるゲームセンター。

もちろん、ちょっとアブナイ系の高校生・若者もいるわけで・・・。


正午過ぎ、少しずつ混み合ってきた店内を歩いていた惣一とつばめと、

すれ違った高校生らしきガラが悪いグループの数名と肩がぶつかった・・・・・。


「ってぇな! 何してんだよガキ!」


ぶつかった高校生が怒鳴り、惣一たちをにらみつける。


「ああ?」


惣一も負けずにガンをとばす。


「お、おい惣一やめ・・・」


少し離れたところで洲矢と一緒にいた夜須斗は、

焦って惣一を止めようとした。

惣一は、とにかく喧嘩っ早い。

その上強いので、ここらの中学生で惣一と対等に喧嘩できるのは、早々いない。

特に、同学年では話にならないぐらいの強さだ。

だから、これが中学生同士なら夜須斗だってこんなに焦らない。

だが、相手は明らかに高校生。

しかも明らかに「不良です」的な感じの奴らなのだ。

いくら惣一だって、高校生なんかにかなうはずがない。

しかも今日は、その惣一よりも強い空手の名人、仁史がいない。
こんな状況で喧嘩になったりすれば、結果は目に見えている。

しかし、夜須斗が止めに入ったときにはもう遅かった。


「ちょっと肩がさわっただけでガタガタ言うんじゃねぇよ!」

「ああ? 『ちょっとさわっただけ』だとぉ!? 言ってくれるじゃねぇか、
誰に向かって口聞いてんだ!」

「ええ、十分わかってますよ! 

いちいちそんなことでかりかりしてるカルシウム不足の高校生様だろ!」

「ああ!? こいつ中坊のくせに俺たちに喧嘩売ってんのかぁ!?
上等じゃねぇか、このゲーセンの裏でケリつけてやる!」


こうなったら夜須斗でももうどうしようもない。

今更詫びを入れても聞いてくれるような相手じゃなし、

だいたい惣一とつばめはもうやる気満々だ。

こうなったら残るは・・・と、

この状況に気づいてハラハラしている洲矢の方を向いた。


「お前は逃げろ。」

「えっ?」

「お前はこーいうの慣れてないだろ。絡まれねぇように気をつけながら表出て、
今日はそのまま家に帰れ。おぼっちゃまでもそれぐらい出来るだろ。」

「や、夜須斗は・・・?」

「俺は、あいつらんとこに行く。

あいつら2人じゃ収集つくのもつかないからな。いいからお前は・・・」

「で、でも・・・」

「ほら、早くしろ。」

「・・・・・・・わかったぁ・・・・」


洲矢は振り返りながら表へ面した出口へと向かって走り出した

夜須斗は、それを確認して惣一たちと高校生が出て行った裏口を出る。




ゲーセンの裏、まぁ簡単に言えば路地裏で、もうすでに乱闘は始まっていた。
惣一もつばめも持ち前の運動神経で何とか応戦しているが、

なんてったって体格・体力が違いすぎる。すぐに2人ともふらつき始めた。

そして、


ドゴッ


初めて、つばめの顔にパンチがまともにヒットした。
もう体の至る所に擦り傷も出来ていて痛々しい。


「ちっくしょ・・・」


惣一たちは、今までほとんど負けというものを知らない。
だからこそ、負けを認めるということができない。
夜須斗も加勢するが、だいたい人数からして分が悪い。

どこからわいてきたのか、相手は10人にものぼる。

体格だって違うのだから、

夜須斗1人が加勢したところでどうにかなるものでもなかった。
数分後には夜須斗も路上で倒れているつばめや惣一とほぼ同じ状態にされた。

そして、


「(やっべぇ・・・)」


路上に座り込んでしまった夜須斗は、最大のピンチだと感じた。
相手が、手に手にバットや棒を持ち込んできたのだ。
これはもはや正々堂々の勝負とは(最初から言えなかったが)

完全に言えなくなってしまった。
抵抗する体力を奪われ、この状況はかなりヤバイ。

ある一人の高校生が、木の棒を夜須斗の頭上で振り上げた。


「(くっ・・・・。)」


夜須斗が目をつぶったときだった。


「やめてよぉーーーっ!!」


と叫び声がした。



そこに立っていたのは、帰ったはずの洲矢だった。
夜須斗に帰れと言われ、仕方なく帰ろうとしてみたはものの、

3人のことが気になって結局帰るに帰れず、物陰に隠れて様子を見ていたのだ。


もともとお坊ちゃま育ちの洲矢は、

ういう喧嘩を間近で見たなんて初めての経験で、

3人が殴られているときも、どうすることもできずにただ見ているしかなかった。

ただ、相手が凶器とも言える物を持ち出して夜須斗を殴ろうとしたとき、
洲矢の体は物陰から飛び出し、発作的に大声で叫ぶという行為に至っていた。

しかし、これで夜須斗がそのまま殴られる、というのは回避できたものの、
洲矢が来たからといって状況が変わるわけでもない。


「なんだぁ? まだ一人隠れてやがったのか・・・」


と不良が洲矢に近づいて行く。


「バカ洲矢・・・帰ってろって言っただろ!」

「だって・・・だって・・・」

「ほぉ・・・自分から巻き込まれに来たってわけかぁ・・・ 

それゃずいぶんとお友達思いなこった!」

「喜べよ。自分からお出まししてくれたんだ。まずはてめぇから料理してやるよ・・・」

「や、やめろ!洲矢には・・・」

「手を出すなといわれて素直に聞くかよ!」


不良がバットを振り上げる。

洲矢が怖さにしゃがみ込んで目をぎゅっとつぶったときだった。


「おやおや。まだ義務教育も終わってないお子様に

この人数でしかも武器とは・・・ ずいぶん卑怯な手ですねぇ。」


本日2回目の予想外の出来事が起きた瞬間だった。



その声がする先には、一人の20代ぐらいの青年が立っていた。

サラサラとしたショートボブっぽい黒髪。

メガネをかけていて、凜とした雰囲気を漂わせている。


「もう十分でしょう? それだけたこ殴りにしたら。もうやめてあげなさい。」

「んだとぉ!? てめぇ、調子にのりやがって!!」

「調子に乗ってるつもりはないですよ。ただ自分の考えを述べただけです。」


このイヤミっぽい言い方に、不良はかちんときたのか


「うるせぇ この野郎!」


と、一人の不良が、持っていた金属バットを彼めがけて振り下ろした。

しかし、彼はそれを簡単に片手で受け止めた。


「なっ!?」

「危ないですねぇ・・・バットは野球ボールを打つ物ですよ。

僕の頭が野球ボールに見えますか?」


なおもイヤミを言い続ける彼に、ついに不良全員が立ち上がった。

しかし、彼はそれを見ても冷静沈着に


「おやおや、怖い人たちですねぇ・・・・仕方ありません。お相手しましょう。」


と言って、メガネを外した。(まるで○○せんの○○クミのように)

メガネでカモフラージュされていたのかはわからないが、

メガネを外した彼の眼光は、とても鋭いものだ。
一重で切れ長。太い黒フチのメガネで、

物腰柔らかそうに見えたその目からは一変している。
その目で不良たちをにらみ付けた。


不良たちは一瞬ひるんだが、すぐに気を持ち直し、その中の3人が飛びかかった。
が、彼は最初の一人が振り下ろしてきた竹刀を掴んで

そのままそれごと横に投げ飛ばし、
二人目には蹴りをいれ、

三人目は腕を掴んで一本背負いを決めた。

その光景に不良たちは唖然としている。


「ほら、お次はどなたですか?」


彼がそう問いかけると、不良たちは「チッ」と舌打ちをしながら、

秒殺された三人を引きずりながら逃げていった。


「やれやれ。やっと片付きましたか。

君たち怪我は・・・・ないですか、と聞くところですが、
それを聞くのは今は無粋ですね。。
ああ、君たち。そこのおとなしそうな子にちゃんと礼を言うんですよ。
彼が叫んでくれたおかげで僕が駆けつけることができたんですから。
それと、ついででもいいですから一応僕にも礼を言ってもらいたいんですが。」


怪我だらけの三人を見て、彼は言った。


「そ、それは・・・ど、ども。・・・あ、じゃ、俺たち・・・」


惣一がさりげなくその場を立ち去ろうとしたときだった。


「ちょっと待ってください。これほどのことをしておいたんだから、

学校に連絡しないとね。どこの中学の生徒ですか?」

「「「「が、学校!?」」」」


4人は一斉に反応した。学校。学校だけは困る。

下手に家に連絡されるより数倍・・・いや、数百倍困る。


「いや、俺たちいいですよ。別に・・・」

「『別に』なんですか。別に連絡する必要なんてない、とでも? 

まぁだいたい自分に非がある場合、『どうぞ連絡してください』なんて言いませんよ。
今分かっているのは、君たちは市の条例で違反されているゲームセンターに行き、
そこで不良少年たちと喧嘩し、一般人に助けられた、という事実。
そしてそれは十分学校に連絡するに値しますよ。」

「だから別に良いって・・・」

「・・・・・・・・・・・市立星ヶ原中学、1年5組・・・」

「「「「!!!」」」」

「な・・・なんで・・・・?って俺の財布!」


気がつくと、

夜須斗の履いていたジーパンのポケットに入っていた財布が抜き取られていた。


「ジーパンのポケットなんて、スられやすいところに財布入れてちゃダメですよ。

まぁ、今回は助かりましたけど。。」


CDショップなどで会員証を作るときに、学生証明書が必要なため、

一応入れておいた生徒手帳を見られた。
もともと小さいものしか入りにくいジーパンのポケットだから、

そこに財布なんかを入れていればだいたい盗られたら気がつく。
しかし、彼はそれを全く感じさせずに抜き取った。相当なスリのテクニックだ。


「あんた何者・・・・??」

「まぁまぁ。とりあえず連絡しますよ?」

「えっ、ちょっ、待っ・・・!」


止めようとしたときには、もう携帯のボタンが押されていた。

しかし、履歴からかけたらしい。4人が???と思っていると・・・


ピッ

「もしもし、葉月ですか? ああ、良かった。僕です。森都ですよ。えっ?
いちいち携帯で本人確認する必要はない? すみません。どうも慣れなくて・・」


「お、おい葉月って・・・」

「まさか・・・・」

「そう、だよな・・・・」

「だよねぇ・・・」


全員、血の気がサッと引くのがわかった。

名前で呼び合ってるあたり、風丘の友人であることはまず間違いがない。

そして、風丘の友人と知り合って良かったことなど一つもない。

事務員の氷村は、

事務室に提出しなければならないものが少しでも期限遅れになると
いちいち風丘に言いつけて「お仕置きして」とせまり、

風丘も全部聞くわけではないが
期限を一週間近く無視したりしている場合は、容赦なくやる。

校医の雲居に至っては、時には風丘よりも厳しくなり、

夜須斗なんかは風丘よりも雲居に拒否反応を起こすぐらい
徹底的にやられた過去もある。

この過去の経歴からいって、こいつも・・・・
4人はそう思うと生きた心地がしない。


「ええ、今日の午後、下見と挨拶に行く予定でしたよ。

ですが、行く途中にちょっとしたおもしろいものに出くわしましてねぇ。
あなたのところのいたずら子猫を4匹捕獲しましたよ。

・・・え? 表現が古い?
そんなのいちいちつっこまないでくださいよ。
感謝してください。

あのままじゃあゲーセン徘徊してるカラスたちに食べられるところだったんですから。
ええ、とどのつまりは喧嘩です。おおかたゲーセンでいちゃもんつけられて
我慢できなくてキレたんでしょう。

ええ、わかってますよ。ちゃんと今から連れてきます。
はい、それじゃあ。」


ピッ


「・・・・終わったな、俺ら・・・」


「うん、完全に・・・・」

「だからやめろっつったのに・・・・」

「怒るよねぇ、風丘先生・・・・」

「おやおや、この世の終わりって顔してますね。

まぁ、仕方ありませんよ。潔く受けることですね。ほら、じゃあ歩けますよね? 
行きますよ、学校。」

「「「「行きたくない(ねぇ)・・・・」」」」


結局、あの喧嘩の結果をまざまざと見せつけられた後では

逃げようにも逃げられず、
彼に連れられて学校までたどり着いてしまった。



運動部も午後は活動がないため、生徒玄関は閉まっている。

職員玄関へ回ると・・・・


「待ってたよ~ よ・に・ん・と・も!」


怖すぎる笑顔を浮かべた風丘が立っていた。


「怯えようが尋常じゃないですよ。葉月、相当やってるみたいですねぇ。」

「森都。ありがと~ 助けてくれたみたいで。」

「いえいえ。ああ、君たちには自己紹介してませんでしたね。

霧山森都(きりやまもりと)。
来週からこの学校の図書室の司書として赴任する者です。

ああ、ついでに言えば葉月たちとは昔からの友人です。」


その時、4人の想定外の人物が現れた。


「相変わらずやなぁ。その嫌みったらしい口調は・・・」

「「「「ええ~~~~っ!?」」」」

「な、なんで!? なんで光矢がいるのぉ!?」

「なんや、おったらあかんのか? 自分ら洲矢以外そないに傷だらけであかんやろ。
はーくんに呼ばれたんや。治療のためになぁ。」


当たり前のように言う雲居に、夜須斗が聞く。


「それってマジで治療のためだけ?」

「せやで。お前らをええ子にする為の治療も込みやけど。。」

「「「「・・・・・(やっぱり・・・)」」」」


聞いた瞬間、4人は肩を落とす。


「今日は二重にも三重にも罪重ねたでしょ。きっつ~いのするからねー」


風丘にもそう宣告され、全員、顔が真っ青になった。


「とりあえず、そこの怪我組は治療からや。

洲矢はどこも血ぃでたりぶつけたりしてへんか?」

「う、うん・・・・」

「せやったら直で風丘と一緒に部屋行きぃ。」

「・・・・」

「返事は?」

「う、うん・・・」

「怪我組は治療終わって、洲矢終わったら順に行きぃ。逃げたら困るから、
そんときはもりりん、付き添い頼むわ。」

「別にかまいませんが、その『もりりん』、この歳になっても続ける気ですか?」

「ええやん。ええやん。」

「じゃあ、佐土原。行くよ。」

「・・・・・・はい。」


洲矢は風丘の後をとぼとぼとついていった。


「ほな、お前らも・・・」

「「やっぱやだ!!」」


雲居が言った瞬間、惣一とつばめが脱走しようとした。

しかし、


「ちょお待て!!」


雲居はそれに瞬間的に反応し、2人の襟首を掴んだ。


「ひゃぁっ」
「ぎゃぁっ」

「元テニス部エースペアの片割れなめんでほしいわ。

リーチの長さと反応時間の早さやったらはーくんより上なんやで?」


そう言いながら、雲居は2人を俵を担ぐように両肩に抱えた。


「お前らは逃げようとしたぶん、俺からのお仕置き追加や。ええな?」

「「ええ~~」」

「お前らほんと馬鹿・・・」


呆れながら、夜須斗は雲居の後をついていった。