5月も終わりに近づき、

みんなが大嫌いな中間テストがもう一週間後にせまってきていた。

先生たちはこぞって授業前にやたらと小テストをしたり、

ただでさえテスト勉強しないといけないのに
それ+大量の宿題を出したり・・・・学校全体がテスト期間一色だった。



「だーっ!! んだよ、みんなテストテストって・・・

授業のたんびに小テストさせやがってよ!」


惣一がたまった文句を、放課後、夜須斗に向かってはき出していた。
惣一は、とにかく『勉強』『テスト』という言葉を聞くと、

体が拒否反応を起こすくらいの勉強嫌いだった。


「わかったわかった。できないからってそうガナんないでよ。」

「んだよ、ちょっとぐらいできるからって!」


夜須斗は、惣一とは違ってかなりの秀才だ。

小学校の頃の担任は、「これで授業態度が良ければ・・・」と

よく嘆いていたらしい。


「だいたい今日は授業が全部主要五教科だったんだぜ!? 

やってられかよ!」

「主要五教科だろうと実技教科だろうと、んなに変わんないじゃん。」

「変わる! 毎回毎回飽きずにテストしやがって!」

「別に3、4分で終わるただの小テストでしょ。

いちいち目くじら立てるなよ。」

「できるお前にはわかんねぇよ!」

「・・・お前はいったい何点取ったんだ?

・・・・国語の漢字テスト。」

「2点。」

「・・・数学の復習テスト。」

「0点。」

「・・・理科の用語テスト。」

「1点。」

「・・・社会の重要単語テスト。」


「0点。」

「・・・英語の単語テスト。」

「1点。」

「・・・・・・・・・・・・」


夜須斗は大きなため息をついた。


「お前さぁ。そのテストは3点満点か何か?」


「いいえ、10問出題の10点満点ですよ! 

そうですよ、俺はどうせダメですよ!
わかってて聞いたんだろが!」


「いや、まさか半分いってるのが一つもないとは思ってなかった・・・」

「んじゃあお前はどうなんだよ!?」

「・・・・全部満点だよ。当たり前だろ?」

「むっかつくな~ お前!」

「ああ! もう突っかかるな! 

んでそんなに機嫌悪いの、お前・・・

テストができないなんて、
小学校からしょっちゅうだったじゃん。」


「どうもこうもあるか! 風丘にイヤミ言われたんだぞ!」

「はぁ?」

「『満点取れとは言わないけどさぁ、惣一君。

アメリカの位置ぐらい覚えてよ。
これ、どこからどうみてもロシアなんだけど?』ってよ!」

「お前・・・『アメリカを塗れ』って問題でロシア塗ったわけ?」

「ロシアだとかアメリカだとか知るかよ! 

日本の位置が分かりゃいいだろ!」

「お前さぁ・・・・まぁ、いいや。

テストで点取って風丘見返しゃいいじゃん。」

「それができたら苦労しねぇんだよなぁ・・・・。

やっぱカンニングか? なぁ、夜須斗。協力・・・」

「やだね。」

「なっ・・・」

「いいか。今まで散々思い知ったでしょ?

風丘はそこらのバカ教師とは違う。
んな不正やったってばれて部屋送られんのがオチ。

この前徹底的にやられたすぐ後にまたやられんなんてまっぴらごめん。

こればっかりは風丘見返すんだったら正攻法でいけば。
国語は漢字の読みと書き、英語は単語の意味とスペル、

数学は単純な計算式の

理科と社会は板書で赤字・黄色字になってた重要単語と
その意味さえ覚えとけば、

一桁台なんて、ましてや0点なんていくはずないんだし。わかった?
正攻法でいくんだったら相談乗るけど、

そうじゃないなら、俺は乗らない。」

「んでお前がそんなに言うんだよ・・・できるわけないじゃん、俺に・・・」

「できなくてもやれ。」


夜須斗は、ことに勉強に関してはかなりのスパルタになる。 
ただ、教えるセンスはあるようで、

いくら頭が悪くても、やる気があるのに教えれば、必ず二桁台にはしてくれる。

ただ、惣一にはやる気がない。


「どうすっかなぁ・・・」

「・・・・・とにかく、考えとけば。」


夜須斗はそう言うと、カバンと部活道具を持って教室を出て行った。


「あー! 俺も部活出るかな・・・」


惣一は、結局考えても結論が出ず、部活に向かった。

惣一は、バスケ部に所属している。

そんなに背が高いわけでもないが、
小学校からバスケは得意だった。
中学に入っても、そのすばしこさで、

一年ながら大会にも少し出してもらえるぐらいにまでなっていた。
その上バスケ部の先輩ともそれなりに仲がいいので、

部活は楽しいはずなのだが、
なぜか惣一は部活1の遅刻魔で有名だった。

今日も、そんなこんなで部活開始から余裕で30分過ぎていた。

体育館に行くと、当たり前のようにアップは終わりに近づいていた。


「ちわッス」

「おい、惣一。また遅刻かぁ~?」

「ゲッ、桂助先輩・・・・」


阪東 桂助(ばんどう けいすけ)、バスケ部の部長である。


「ゲッてなんだ。ゲッて。

それよりお前、毎回毎回遅刻すんなよ、

部誌に適当な理由見つくろって書くのめんどいだろ~」

「そういう理由ッスか?」

「お前! その言い方ないだろ。俺が適当な理由でごまかしてやってるから、
説教まぬがれてんだろーが!」

「・・・・それは感謝してるッスよ。」

「ったくお前は・・・・ま、ほどほどにしとけよ。俺も昔遅刻したけどよ。
あんま遅刻多いと、さすがの俺もフォローしきれねぇし。」

「頼んでないし(笑)」

「おっ、言ったなこいつ!」

「や、やめてって・・・」

「それより、つーことで、今日の片付け、惣一よろしく!」

「はぁ!? なんでそうなるんスか!?」

「うるさい! 遅刻の罰だ。しっかりやれよ! あ、部室の鍵もな!」

「ええ~」

「ほらほら、遅れてる分自分でアップしろ!」




結局惣一は遅刻の罰としてボールの数確認などの雑用後片付けを行い、

部室の鍵を閉め、
「ついでだから」とまたもや部長に押しつけられた部誌と返す鍵を持って

職員室へ向かっていた。




「ったく・・・桂助先輩、人使い荒いっつーの・・・しっつれいしまーす・・・・・

って誰もいねぇのかよ! 

ま、顧問の机に置けばいいんだから別にいいけど。」


惣一は、鍵と部誌を顧問の机に置くと、とっとと出て行こうとした。

その時、あるものが目に入った。


「何これ・・・・・テスト?」


それは、コピー機の横に置かれている古紙回収箱の中に入っていた、

社会のテスト用紙らしきものだった。


「今度のテストのやつか? マジで?・・・・・・

(古紙なんだし・・・いいよな、別に。)」


そして、惣一は行動を起こした。

職員室に誰もいないことを確認すると、

素早く古紙回収箱の中からそれを抜き取り、
小さく畳んでバスケのユニフォームのポケットにしまい込んだ。

そして、走り出したりせず、平静を装って職員室を後にした。


ただ、この日、惣一には運が無かった。

第一の不運。職員室を出てすぐ、風丘とすれ違ったのだ。
惣一は何とも思わなかったが、風丘は


「(あれ、惣一君・・・・珍しいな、職員室に用があったなんて・・・・)」


と思った。 これだけならたいしたことはないのだが、

第二の不運。風丘が職員室に戻ったのはコピー機を使うためだったのだ。

そして、風丘は試し刷りに使える古紙がないか

古紙回収箱を見た。


「なーんか今日はコピー多いなぁ・・・

さっきもやったばっかりなのに・・・・あれ?
おっかしいなぁ。さっき一番上に、

テスト用紙の余り入れたはずなのに・・・なくなってる・・・・
職員室、誰もいないし・・・・出て行った人にもすれ違ってないし・・・

第一、あれ両面刷りだから試し刷りにはできないし、

あれ作ったの俺だから他の先生が持ってく理由もないし・・・・

職員室にいたのは・・・・・・! まさか・・・・・ね。
ダメダメ。むやみに生徒を疑う教師なんて嫌われるぞ!

でも・・・・聞いてみるだけならいっか♪ きっとまだいるよねっ」


風丘は、職員室を出て生徒玄関へ向かった。




かたや惣一は、そんなことになっているとはつゆ知らず、

生徒玄関で夜須斗としゃべっていた。


「で? 結論は出たのかよ?」


「おう! 今日、チョー使えるもん拾ったから、

お前にその答え教えてもらえば社会は完璧だなっ」

「はぁ? 何拾ったんだよお前・・・・」

「聞いて驚くなよ? 実はなぁ・・・」

「惣一君!」

「ひゃぁぁぁっ!」


惣一は大声をあげた。

何せ、話の核心に迫ろうというときに、

風丘に話しかけられたのだから、こんなリアクションになるのも無理はない。


「な、何だよ・・・・・」

「テスト用紙知らない?」

「へっ!? て、テスト用紙・・・?」


挙動不審になれば一発で風丘にばれるに決まってるのだが、

だからといって平常心でいられるわけがない。


「(テスト用紙・・・? おい、こいつ拾ったって・・・・バカじゃない。

ばれんに決まってんじゃん。)」


夜須斗はあきれ果て、


「んじゃ、取り込むみたいだから俺帰るわ。じゃあな惣一。」

「お、おい夜須斗!」


とっとと生徒玄関を出てしまった。


「それじゃあ、先生方にも許可とってあるし、

俺の部屋でい~っぱいお話しよーねっ
そ・う・い・ち君!」

「・・・・・・・・」






ここは風丘の部屋。

惣一は、ついさっき生徒玄関で捕まり、ここまで連行されてきたのだ。
『カンニング疑惑』で。


「・・・さて。 惣一君。職員室でなーにしてたのかなぁ?」

「・・・・・部室の鍵と部誌を顧問に出しに行ったんだよ。

いなかったから机においてったけどよ・・・」

「ほんとに?」

「・・・・・ああ。」

「じゃあポケットの中みーせて☆」

「へっ!? な・・・んで・・・?」

「いいじゃん、持ち物検査の一環だよ☆ ほら、早く早く!」

「うっ・・・・」

「あれれ? 見せられないものでも入ってるのかなぁ?」

「ん、んなことは・・・・」

「じゃあ見せて。・・・・・・・・早く。」


風丘が少し怒った口調で急かした。

仕方なく、惣一はポケットをひっくり返す。

もともと部活用のユニフォームだ。
そのポケットなんて滅多に使わない。

出てきたのは・・・・あの二枚の紙だけだ。


「どれどれ・・・・・・・これ・・・・・社会のテスト用紙と回答?」

「・・・・・・ああ。」

「どこで拾ったの?」

「職員室のコピー機の横の古紙回収箱。」

「・・・・なんで?」


と風丘が聞いたときだった。

惣一は、なぜだか自分でもわからないうちに逆ギレしていた。


「カンニングするためだよ! 

んなのわかるだろーが! わかっててここ呼んだんだろ? 
なのになんだよその言い方!

わかってて一から吐かせるなんてサイテー! 

どーせ、あの社会の時間みてーに俺に向かって
イヤミ言って、俺のリアクション見て楽しんでんだろ、このサド教師が!」


ここまで言って、さすがの惣一もやばいと感じた。

だが、ここまで言って引き下がるわけにもいかず、風丘をにらみつけた。


しかし、言われた風丘はキョトンとした顔をしている。

とんだ肩すかしを食らった惣一は、内心「???」だった。


「何言ってるの、惣一君?」

「・・・・・・は?」

「よーく考えてごらん。今、学校は中間テスト一色。

授業するたびに小テストの嵐。
そう、惣一君がイライラするくらいね。

ううん、惣一君じゃなくたってみんなイライラしてる。
そこまでさせて先生たちが小テストをやるのは、

この中間テストの結果が成績に、成績が進路にって大きく関わるから。
いーい? そんな重要なテストの用紙をコピーして、

しかも原版を古紙回収箱に回答と一緒に放り込むと思う?」

「・・・・・・・・・へ?」

「しかもさぁ、これ、社会。俺の担当教科だよねぇ? 

俺、まだ今回のテスト用紙、パソコンに打ってもいないんだけどなぁ・・・・」

「!!!」

「これは、去年の社会の先生が作った過去問を集めて俺が作った摸擬テスト。

つまり! 惣一君がやったことはカンニングでもなんでもなく。
ただの古紙回収箱から古紙を持ってったってことに過ぎないわけだ。

めでたしめでたし。」

「な、なんだよそれぇ・・・・・・」


惣一は、今までの苦労が水の泡になったのと、

カンニングをした、ということについて
叱られないという少しの安心で、その場でへたり込んだ。

しかし、また風丘が口を開いた。



「さてさて、新堂?」

「へっ!?」


惣一はまたびっくりした。
風丘が自分を「新堂」と呼んだということは、お仕置きをするつもりなのだ。

なんで・・・? 惣一はそう思った。

しかし、それは聞く前に風丘の口から話された。


「さっきなんて言ってたっけぇ? 

『イヤミを言われた相手のリアクション見て楽しんでる』だっけ。
ああ、それに『サド教師』とも言ってたねぇ。」

「!!!!」

「それに、いくら結果的にカンニングにならなくたってしようとしてたでしょ?
ほんとにあれがテスト用紙で・・・まぁ、そんなこと万に一つもないけど。

ばれなかったらしてたでしょ?
無罪放免ってわけにはいかないなぁ・・・・」

「な、なんでそうなるんだよっ してないんだしいーじゃねーか!」

「そうはいかないな。カンニングは立派な罪だよー?
そ・れ・に! 新堂によると、俺は『サド教師』らしいしね☆」

「や、やめろ~!」


風丘は有無を言わさず惣一の腕を引っ張り、

座っている自分の膝の上に乗せた。


「さっ じゃあ行くよ~ た~っぷり反省しよーねー」


バッシィンッ


「いってぇ!」


バシンッ

バシンッ

バッシィンッ

バッシィンッ


「ってぇ! やめろよ、風丘! やめろ! やってないだろ、許せって!」

「だからダーメ。」


バッシィィンッ


「ぎゃぁぁっ!」

「俺だってさ。だから今回はそんなに叩こうと思ってなかったのにさ。

新堂があーんな悪いこと言っちゃう悪い子だから、

こんなに叩かなきゃいけなくなっちゃったんだよー?」


バシィンッ


「だったら叩くなぁっ!」

「それはダーメ」


バシィンッ


「ひいいっ!」

「あんなこと、俺じゃなくって、他の先生に言ったりしちゃったら、

もーっと大変なことになっちゃうんだからね?(特に地田先生とか・・・)
そ・れ・に! カンニングなんて言語道断!」


バッシィィィンッ


「ひゃぁぁぁっ!」

「わかったのかな? 新堂!」


バッシィンッ


「ぎゃひぃっ わ、わかったあ! わかったから・・・」

「んじゃ、あと5連打でおしまい♪」

「や、やだ・・・やめ・・・」


バッシィィィンッ


バシンッ

バシィンッ

バシンッ

バッシィィィンッ


「ぎゃぁぁぁぁっ!!」


惣一は悲鳴をあげた。やっぱり慣れるものではない。



風丘はいつものようにアイスノンを用意して、

惣一のお尻にのせた。


「ひっ・・・」

「全く・・・毎度毎度お子様なことやらかすねぇ。惣一君は・・・」

「るせぇっ・・・」

「だいたい、あんな大胆に持ってくなんて・・・・

君は、夜須斗君がついてないとやたら幼稚な手に走るねぇ。

張り合いがないほど・・・」

「るせぇってば!」

「全く・・・・・・イヤミ言われて悔しいと思った?」

「へっ?」

「社会の時。俺にイヤミ言われて悔しかったー?」

「ったりまえだろ! だからこんな・・・」

「だったら大丈夫。惣一君はまだまだ頭良くなる可能性ありっ」

「・・・・は?」

「悔しいって思ってるんだったら、勉強すれば絶対力つくよ。

やる気がなくなったらそこまでだね。
もうそれ以上は大して頭良くならない。」

「で、でも夜須斗はそんなに悔しいなんて・・・」

「夜須斗君は、勉強にはすっごい興味持ってるしねぇ。

何より、負けず嫌いでしょ? プライドもすごく高いし。
だからだよ。1回トップに立っちゃってるから、抜かれるのがやなんだよ。」

「・・・・・・」

「悔しい、負けたくないってって思うこと・もっと知りたいって思うこと・
楽しいって思うこと。

これがあれば、誰だってもっと頭良くなれるんだよ。」

「・・・・勉強なんて、楽しくねー・・・」

「そりゃ全部とろうなんて無茶すればね。

とりあえずどれか一教科に絞ればいいじゃない。

それに、嫌いなものは選ばない方がいいよ。

嫌いなのって結果がなかなか見えないから、

飽きっぽいお子様には合わないから。」

「なっ・・・・!」

「社会は・・・・だめそうだよね。理数は?」

「ダメに決まってんだろ。数字見たら頭痛くなる。」

「国語は?」

「俺、『主人公の気持ちは?』なんて考える趣味ねぇ。

英語もダメだぜ。綴りだけでパニックなる。」

「うーん・・・・」

「だったら社会やるし・・・」

「えっ・・・?」

「地理は苦手だけど・・・・歴史はなんとか小学校の頃から点とれてたし。」

「・・・・・わかった。それなら、これから聞きたいことがあったらおいで。

絶対に0点なんてとらせないから。」

「・・・・・・フン・・・・気が向いたらな。」

「・・・・うん。バイバイ、惣一君。」

「・・・おう。」


惣一は、少しバツが悪そうに風丘の部屋を後にした。



そして、校門の前で待っていた夜須斗と合流した。



「バカ。だから正攻法でいけっつったのに・・・」

「るせぇな。わぁってるよ。・・社会ちゃんとやるって言っちまったし・・・」

「何。言わされたわけ?」

「・・・・・・ちょっとだけ・・・あいつが良い教師に見えたんだよな。

俺、ケツ叩かれて気がおかしくなったんかな・・」

「・・・・さぁな。」



惣一が珍しくこんなことを思ったそんな日だった。

パターンと計算方法、