(夜須斗語り)
この前はひどい目に遭った・・・・
知ってるだろ?
酒飲んだのが風丘に見つかって、めちゃくちゃ叱られた話。
あれ以来、スーパーの酒売り場通るのもいやになるくらいトラウマになったし。
結局、そんなこんなでもう4月も終わりに近づいてる。
その間に風丘に呼び出しくらって脱がされて直に叩かれたのは、
俺と惣一だけ。
他の奴ら、まだ風丘の怖さわかってねぇんだよな、絶対・・・
それで、今の状況は・・・放課後。
教室でつばめと惣一が俺を挟んで口げんかしてる。
ったく・・・・人を巻き込むのはやめろよな。
「だから、どうして昨日来なかったんだよ。」
「さっきから言ってんじゃん。 忘れてたって。」
「忘れてたぁ!? ふざけんな、前から言ってあっただろ!」
まぁ、喧嘩の原因はつばめが土曜の俺たちの練習に来なかったってこと。
ほら、よく高架下とかそういうとこにバスケのコートがあるじゃん?
無人の。
そこに放課後、よく俺たち・・・惣一と俺とつばめと、
前に一緒にサボりの計画たてた仁史、
それにもう一人・・・サボりは一緒じゃなかったけど、
俺らのグループに入ってる洲矢って奴。
この五人でよく行って、バスケしてたわけ。
そしたら、他校の奴らに試合ふっかけられてさ。
バスケ部みたいなんだけど。
惣一の奴、負けず嫌いだからその試合受けちゃって。
んで、バスケ部のあいつらに勝つには練習が必要だ、
っつって練習することになってたってわけ。
それで昨日も練習日だったんだけど、
つばめが来なかったんだよね・・・
つばめは元々時間にルーズだし、
約束も忘れるから、
そういうのにこだわる惣一とはよくぶつかるんだよね・・・
いたずらするときはあんなに息ぴったりなのにさ。
それで、この日の練習日が3回目で、
つばめは10分遅刻→30分遅刻→来なかったって
3回連続まともに来なかったもんだから、惣一ぶち切れちゃって。
それでこうなってるってわけ。
「お前、昨日で3回目だぞ、3回目! 異常なんだよ!」
「何それ、2回は最終的に行ってんだから関係ないじゃん!
そういう昔のことねちねちねちねちしつこく言う奴は嫌われるよ!」
おい、つばめ。それは言い過ぎ・・・
「んだとぉ!?」
あーあ。 惣一がつばめの胸倉つかんじゃった。
こうなったらもう止めんのは至難の業だぞ。
「きゃーっ!」
「新堂君、やめてーっ!」
クラスの女子が無駄に高い声で騒ぎ始める。
うちの学年、男女比率がめちゃくちゃで、
女子なんて一クラスに10人弱しかいないのに、
それでもうるさい・・・
しょうがない、止めに入るか。
「おい、二人ともやめろって!」
「うるせぇ! 夜須斗は引っ込んでろよ! つばめが悪いんだろ!」
「惣一。確かにつばめが約束忘れたのは悪いけど・・・
手を出したのは惣一でしょ?
おあいこってことでこの辺でやめとけば。あとひいたら面倒じゃん。」
「「やだ!」」
あーあ、結局何の効果も無しか・・・
「おい、女子委員長。 もう誰か先生呼びに行ったわけ?」
近くにいる女子のクラス委員に聞く。
うちの学年の女子って、こういうのあるとすぐ先生のとこ行くんだよな・・・
「ええ、行ったわよ。水池先生のところにね。」
「水池? ・・・・ハァ。」
水池ってのは二つ隣の1年3組担任の女教師だ。
確か、今年採用されたばっかの教師だよな・・・
バカか、女子は。
女教師、しかも教師1年目の奴に止められるわけねぇじゃん。
「ったく・・・・ちょっと職員室行く。
とりあえず、お前らは騒がないで見てな。
水池だって一応来るだろうから、マジでひどいことにはならないだろうし。」
「吉野君はどうするのよ?」
「風丘呼んでくる。
前、小学校の時に喧嘩で一学年分の教師総動員させた
伝説つきのあいつらの喧嘩を止められんのは、風丘ぐらいでしょ。
とにかく、それまでは任せた。」
「え、ええ・・・・」
・・・・さて。 とっとと呼びに行きますか。
「風丘~ いるー?」
職員室まで行って、風丘を呼んだ。
あ、俺は職員室でもいつもこんな感じ。
先生たちに敬語使おうなんて気さらさらない。
別に尊敬も何もしてないし。
「何~? 夜須斗君。」
「つばめと惣一が喧嘩してる。」
「え?」
「女子が水池呼んだけど・・・」
「こら。 俺はいいけど他の先生にはちゃんと「先生」つけなよ。
印象悪いよ~」
「・・・・・水池・・・先生呼んだけど、
あの二人のけんか、俺でも止めらんないから
あんたじゃなきゃ無理・・・」
「わーっ! 夜須斗君、俺のこと認めてくれたんだね!」
「誰もそんなこと言ってない・・・・」
「まぁ、おふざけはこれくらいにして(^-^) いいよ。じゃあ教室行こうか。」
そう言うと、風丘は職員室から教室へ向かい始めた。 俺も後を追う。
・・・・んで、教室。 予想通り、水池の存在はほとんど無意味に近かった。
「んだよこいつ!」
「そっちこそ、先に手出したくせに!」
「二人ともやめて! やめなさい!」
水池の言ってること、もう完全に聞こえてないね、あの二人・・・
完全に二人だけの世界行っちゃってる・・・
「ありゃ~ こりゃすごいね・・・・」
「感心してないで早く止めなよ。」
「・・・・はいはい。 はい、そこの二人そこまで~!」
風丘が軽い調子で手をパンって一回叩いて呼びかけると、
あいつらの動きがピタって止まった。
すご、こいつ・・・・
「ほら。教室でそこまでやったら、みんな帰れないじゃん。
理由は俺が聞くから、部屋においで。」
「「やだ!!」」
ハハ、即答。
そりゃ、二人ともあの部屋にいい思い出なんかないもんね。
「何だよ、同じこと言うんじゃねぇよ!」
「ハァ!? 惣一が僕と同じこと言ったんじゃない!」
おい、んなくだらないことでまた喧嘩始めるなよ・・・・
「もう・・・元気でいいねぇ、お子様は・・・・よいしょっと」
「わあっ!」
「ひゃぁぁっ!」
「おいおいおい・・・・」
何をしたかって、
風丘は、右肩に惣一を、左肩につばめを俵を担ぐみたいにして、
腰に手を回して担ぎ上げたんだ。
こいつ、前から思ってたけどこのほっそい体のどこにんな筋肉あんの・・・
「水池先生。 他の子たちを帰らせてくれますか。」
「は、はい。 すみません。 お役に立ちませんで・・・」
「いえいえ。 この子らは特別ですから~
それじゃお願いします。
夜須斗君~ ちょっと一緒に来てくれるかな、状況説明。」
「あ、ああ。わかった。」
俺は、風丘についてくことになった。
んで、ここは風丘の部屋。
俺が原因説明してる間も、二人はむすっとしてる。
「ふ~ん・・・つまり、原因は太刀川で、
手を出したのは新堂か・・・」
「まぁ、そういうこと。」
あ、太刀川ってのはつばめの名字。
童顔の上にチビで、どう見たって中一には見えないのに、
名字だけは「太刀」なんてついてて立派なんだよな・・・
「ま、この際喧嘩両成敗ってことで。 そいじゃ新堂。おいで。」
「何で俺からなんだよ!」
「まぁまぁ、細かいことはいいから。」
笑いながら惣一膝に引き倒してズボンとトランクス下げてるあたり、
ドSだよね、風丘って・・・
「まず20発叩くからね。 その後素直に太刀川に謝れたらそれでおしまい。
謝れなかったらもうちょっときつめのお仕置きね。」
「はぁ!?」
「それじゃ行くよ~」
バシンッ
「ってえ!」
バシンッ バシンッ バシンッ バシンッ バシンッ
「ん・・・った・・・いいっ! いってぇ!」
ああ~ やっぱ人が叩かれてるの見るのってきついもんあるな・・・
やばい、部屋出るタイミング逃した・・・
バシンッ バシンッ バシンッ バシンッ
「やぁ・・・・いってぇ! ひいっ!」
バシィンッ
「ひぃぃっ!」
バシンッ バシィンッ バシンッ バシィンッ
「や・・謝るから・・・ちょっ! いったい! ぎゃぁっ!」
バシィンッ バシッ バシッ バシィンッ バシィンッ
「ぎゃぁぁぁっ!」
「はい、それで? どうするの?」
「ってぇ・・・・つばめ・・・・手ぇ出したのは・・・・悪かった。ごめん・・・」
「・・・・・・・・・」
つばめはまだ不機嫌そう。 こいつ、頑固だからな・・・
「ま、とりあえずOK。 次、太刀川。おいで。」
風丘が呼んでもつばめは動こうとしない。
ふくれっ面してるよ、ったく・・・
「しょうがないな~」
「やだぁっ! やだやだやだやだ!」
風丘が腕をつかんで無理矢理来させると、
つばめは大声あげて抵抗し始めた。
こいつ、俺らのグループで一番往生際悪いんだよね・・・
バシンッ
「やぁぁぁっ!」
ひゃっ! うっるさ・・・ってか、もう声ふるえてるし・・・大丈夫か?
バシンッ バシンッ バシンッ
「やあっ! 僕、悪くないっ・・・」
は? こいつ、「僕悪くない」って言った?
もともとの原因はお前じゃん、つばめ・・・ってな感じが続いて、
結局20発終わって風丘が・・・
「はい。それで? どうするの?」
って聞いても・・・
「やだ。謝んないもん・・・・僕、悪くないもん!」
って言い張るし・・・
「あっ、そう。 わかった。
太刀川はこんくらいのお仕置きじゃ足りないって言うんだ?
それならそれでも俺はいいけどね・・・
夜須斗君、惣一君。悪いけど、先に帰っててくれないかな?
太刀川には、明日絶対謝るって約束させるからさ。ね?」
「だってさ。惣一。」
「俺は別に・・・いいけど・・・・」
惣一は、もう喧嘩熱冷めたみたいだな。
「それじゃあ、また明日ね。」
「うぃーっす」
「ああ・・・・」
そう言って、俺たちは風丘の部屋を後にした。
惣一と夜須斗が出て行った後。 風丘がまた口を開いた。
「それじゃ、お仕置き再開。 どこまで意地張るのか知らないけど、
惣一君に謝るって約束するまでは、膝からおろしてあげないからね。」
そう宣告すると、
バシィィンッ
「やぁぁぁぁぁぁっ!」
さっきよりも威力が増した平手を、つばめのお尻の中央に打ち下ろした。
そのとたん、耳をつんざくようなつばめの高い声の悲鳴が部屋中に響いた。
この部屋が元音楽準備室で、防音でなければ、
この3階中に響き渡りそうな声だ。
つばめのお尻は、皮膚が薄いのか何なのか赤くなりやすいらしく、
さっきのでもう全体が赤く染まってきている。
そしてその上、お尻の中央に赤い手形がうつり、
見るからに痛そうだ。
でも、そんなことはお構いなく風丘は平手を振り下ろす。
バシィィンッ
パンッ
バシィンッ
バッシィィンッ
「やだぁぁぁ! いたいぃぃっ! やめてよぉ! あああん!」
ついにつばめは泣き出した。
開始早々潤んでいたが、ついに我慢の限界を超えてしまったようだ。
すると、さすがの風丘も仕方なく助け船を出した。
「ほらほら。これからどうするの?
それ言ったら許してあげるから。」
しかし、つばめの口から出た言葉は・・・・
「やだ。」
「・・・・・・え?」
「だって・・・だってだって、手ぇ出したのは惣一だもん!
僕じゃないもん!」
「・・・・・はぁ。」
風丘はため息をついた。
ここまでつばめが意地っ張りだとは想像していなかったんだろう。
お尻は真っ赤に腫れ上がり、
見るからに痛々しかったが、「惣一に謝る」と約束しないかぎり、
やめるわけにもいかない。
風丘は、さっきより少し威力を弱めた平手を打ち下ろした。
パシィンッ
「やぁぁっ!」
「全く・・・・わかってるでしょ? 太刀川。」
パシィンッ
「うわぁぁんっ!」
「確かに手を出したのは惣一だけど・・・・」
パシィンッ
「いたいぃぃぃぃぃっ!」
「そもそもの原因を作ったのは自分だって。」
パシィンッ
「ああああんっ!」
「約束忘れて、行かなかったのはどこのだれなのかな?」
パッシィィンッ
「ひゃぁぁぁぁぁっ!」
「でもまぁ、どうしても謝るって言わないんならいいよ。
こっちだって考えがあるから。」
風丘はそう言うと、足を組んで、つばめのお尻を高い位置にした。
「この体勢、すっご~く痛いんだよ?
謝ったほうがいいと思うんだけどな~・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「ま~た意地はるんだ? しょうがないなぁ・・・・」
そして・・・
パァァァンッ
「ぎやぁぁぁぁぁっ!」
「ほら、どうするの? 惣一君に謝る?」
パァァンッ
パンッ
パァァァァンッ
「あぁぁんっ! ひぃぃぃっ! 謝るっ! 謝るからぁ!
やめて、やめてよぉぉ!」
「はい、じゃぁこれでさーいご。」
パァァァンッ
「~~~~~~~~~!!!!」
最後は足の付け根近くを思いっきり叩かれて、
つばめは声を出すことすらできなかった。
「ふぇ・・・・うぇぇぇんっ」
お仕置きが終わった後、
惣一や夜須斗はすぐに膝から降りようとするのだが、
つばめはそれもできず、膝の上で泣きじゃくっていた。
「全く・・・・泣き虫なのに意地っ張りやさんなんだから、つばめ君は・・・・」
風丘はつばめを軽く起こして、そのままソファーにうつぶせで寝かせた。
「ふぇぇぇ・・・」
「うっわ、真っ赤っかだ~・・・
このお尻にアイスノンのせるのはさすがに酷だな・・・・
ちょっと待っててね~」
風丘はなぜか置いてあった洗面器に水を張り、
そこにタオルをつけて絞ってつばめのお尻に置いた。
「ひゃぁんっ!」
「一応冷やすけど、しばらく痛むかも~ ま、それは我慢だね。
約束破ったバチが当たったんだよ。」
「ふぇっ 風丘がっ・・・叩いた・・・くせに・・・」
「ほらほら、涙もティッシュで拭いて。
そんなに泣いたら目まで真っ赤になっちゃうよ。」
「ふぇぇ・・・・・・」
結局、つばめが泣きやんで落ち着き、
帰り支度をするまでにそこから30分もかかってしまった。
「さ、じゃあもういいね。 もうすぐ6時すぎるからさっさと帰るんだよ?」
「言われなくても帰るよっ さよなら!」
「くすっ はい。さよなら。 ちゃんと惣一君に謝るんだよ~!」
つばめは部屋から出ると、
背後から呼びかける風丘の声を振り切るように、
下駄箱へ向かって一目散にかけだした。
「・・・・・・え?」
もう6時過ぎ。
つばめは、校舎内には自分だけで、一人惨めな思いで帰るんだ、と思っていた。
だが、予想と違い、下駄箱にまだ人がいたのだ。
「惣一・・・・ 夜須斗・・・・」
「・・・・・・よぉ」
「お疲れ様。 無事だったみたいだね。」
「惣一・・・・ 夜須斗・・・・待っててくれたの?」
「夜須斗が「つばめは泣き虫だから、
風丘にやられたあと、一人で泣きながら帰るんじゃないか」とか言うから・・・!」
「でも、待つって決めたのは惣一でしょ。なんだかんだ言って仲いいじゃん。」
「惣一・・・・・」
「別に・・・・手出したのは・・・俺だし。
さっきは風丘の前で、なんか適当に謝ったみたいになったから・・・・」
「・・・・え?」
「あ~ くそっ! だから! ちゃんと謝りたかったんだよ!
つばめ、ごめん! 手出すのはやりすぎた!」
そういうと、惣一は手を合わせながら頭を軽く下げた。
つばめも、もうあんな意地を張ろうなんて気はなかった。
同じように手を合わせて頭を下げて、
「ううん! 僕が約束破ったのに開き直ったのが悪いんだよ・・・
ごめんね、惣一! 許して!」
と謝った。
見事仲直りした二人は、夜須斗も混ぜて三人で仲良く学校を出て行った。
「全く・・・・やっぱり仲良しだねー。あの二人。」
その仲良く帰って行く様子を風丘が見ていたのは、また別の話・・・・