風丘 葉月、23才。

彼が1年5組の担任だった。

教師2年目で、去年いた学校ではそのルックスや性格などで生徒達から、
そして独特の教育方針で、父兄達からの支持も得てしまったスーパー教師だ。

その教育方針は・・・「悪いことをしたときはお仕置き」というものである。

普段は優しく友達感覚で接してくれ、叱るときは厳しく・・・

これが彼の人気の秘訣らしい・・・







「今日からこの1年5組・・・というより、

君たちの担任になる、風丘 葉月です。 よろしく(ニコッ)」


一同呆然だ。 どう見たって学校教師といえる風貌ではない。
スーツは先生らしくピシッとしてるわけじゃなく
格好いいモデルみたいな着崩し、

メガネだってレンズに薄く色がついた、

どちらかというとサングラスに近いおしゃれメガネ。

どこかの雑誌に載ってそうなモデルのような人だ。


「年、何歳なの?」


新堂 惣一。 小6の時からガキ大将的存在で、

何か問題があれば必ずいる、というほどの問題児。

敵意を向けて風丘に尋ねた。


「23才。教師2年目。ついでに言うと担当教科は社会。部活の顧問はやらないよ。

・・・あ、それと言い忘れた。

俺の管理する個人教室・・いってみれば学校内の俺の部屋は、

前まで音楽準備室だった部屋。防音きいてるから♪」


「きいてるから・・・なんだよ?」


楽しげな風丘に、訝しげに尋ねる惣一に、風丘はこともなげに言い放った。

「え? ああ、お尻ペンペンのお仕置きしやすいでしょう。」


「「「「「「「「お仕置きぃ!?」」」」」」」」」」」


耳慣れない恥ずかしい言葉に、そしてとんでもない内容に、クラス一同が騒然とする。


「そう。お尻ペンペンだよ♪ ほら、俺見た目こんなんだから舐められやすいし。
特に惣一君みたいな子にね☆」

「うっ・・・・」


名指しされた惣一はうろたえる。

「だ・か・ら!叱るときは超~~~~~厳しくすることにしたの。
わかったかな?」


「・・・・・・・・・・・」


そんなこと言われてそう簡単に「はい、そうですか」と言えるわけがない。

クラス一同を置いてけぼりにして、風丘はどんどん説明する。

「あ、ちなみに俺、自分の担任の生徒しかお仕置きしないから、

他のクラスの奴は同じことやったのに叩かれてない、とか文句言わないでね。」


「はぁっ!?何でだよ!?」


クラスを代表して新堂がつっかかる。


「あのねぇ、惣一君。

他のクラスの生徒には、その生徒の担任がいるでしょ?
だから、他のクラスの子の処分はそのクラスの子の担任が決めるの。

俺が処分を決めるのは、自分が担任持ってる子たちだけ。」


「・・・・ちっ」


もう何を言っても「悪いことをしたらお尻ペンペン」という事実は曲げようがないらしい。
さすがの新堂もとっつきにくいこの教師につっかかるのをひとまずやめた。


「やっと諦めたみたいだね。 

それじゃあ教科書配るから名前ばんばん書いてー。
今日は初日だから1冊残らず持って帰るんだよ。」


ホームルームが終わると、全員とっととこの変人教師の前から退散した。
いつ変なことを言われるかわかったもんじゃなかったからだ。







翌日から、何の滞りもなく授業が開始された。
風丘が担当の社会では一瞬妙な緊張感に包まれるが、

授業自体はくだけたことも教えてくれる、いいものだった。

だんだんと、生徒たちも風丘にうち解けていく。


ただ、こうなると小学校時代、

いつも教師をからかって遊んでいた惣一たち腕白少年グループはおもしろくない。

ここ何日かで風丘の弱点を探っても見つからない。


だが惣一は、

昔小学校で自分がサボったら、担任が主任に怒られていたのを見たことを思い出した。

あれはどうせ理不尽な理由だが、

サボれば少なからず風丘は困るんじゃないだろうか? 

第一、あんな奴の顔なんざ見たくはない。 

そう思い、惣一はサボりを仲間に提案した。


「なぁなぁ、そろそろサボりとかやってみてもよくね?」


いつものように惣一が提案する。


「いいじゃん。やろやろ!」


惣一と仲良しのクラスの人気者、つばめも同意する。
つばめの人気はどちらかというとそのおちゃらけた性格と運動神経の良さで、

別に生活態度がいいわけではなかった。

どちらかというといつも惣一とつるんでいる悪ガキタイプだ。


「ま、たまにはいいかもね。」


少しクールな感じの夜須斗も同意。
成績は良いが素行が悪く、通知票はいつも授業態度だけが最低ランク。
教師嫌いで小学校の頃から有名だ。


「一発かまして、風丘出し抜こうぜ!」


ノリだけがいい仁史も同意。
バカだが体力だけは自信のある筋肉バカタイプだ。


「おーし、それじゃあな。字がうめぇ夜須斗が俺の生徒手帳に・・・」


4人が話し込み始めたときだった。

「おーや、そこの腕白少年達。一体何のご相談ー?」


今、絶対にこの状況を見られちゃならない人物・・・

風丘が背後に立っていた。


「かっ、風丘!?」


固まる惣一に、風丘はニッコリとほほえみかける。

「えー、俺の耳に間違いがなければ君たちさぼりの計画立ててたねー?」


「「「「・・・・・・・」」」」

「はい、お残り決定。逃げたら家まで行くからね♪ 

おっと職員会議、職員会議。
それじゃね。覚悟決めておくように。腕白少年達♪」


風丘がさらっと言いのけた言葉。

それは惣一達にとって死刑宣告に等しいものだった。






(惣一視点)




・・・来た。来ちまった。

いつもは早く来てほしくてしょうがない放課後も、
今日は来てほしくなかった。

なんでかって? あったりまえだろ! 風丘にサボりの計画ばれたからだよ!
んで、計画した俺とそれにのった(あわれな)仁史、夜須斗、つばめの4人は
教室に残らされてんだ。
あいつの言う「オシオキ」のために。
最初はばっくれようかと思ったけど、「逃げたら家まで行く」っていうのが
あいつの場合冗談に聞こえないんだ、これが。
だから、しょうがねぇから残ってんの。


そんなこんなしてたら、風丘が意気揚々とやってきた。


「おっ、逃げなかったじゃん♪ 感心感心。

んじゃ、新堂以外の三人、おいで。」

「お、おいちょっと待て! なんで俺だけはぶるんだ!」


「だって新堂が首謀者でしょ? 

だからお前は別。教室にいなさい。迎えに来るから。
あ、三人は荷物も持ってってね。こっからは一方通行。

終わったら教室に戻んないで俺の部屋の近くにある階段で帰ってもらうから。」

「どうして?」


夜須斗が聞く。そりゃそうだ。一方通行になんの意味が・・・


「ん? 新堂の恐怖心倍増させるため(ニコッ)」


おいおいおい! 満面の笑みで言うなっ! 


・・・つまり、教室に誰も戻ってこないってことは、行った奴が帰ってこないから、

俺の「きょーふしん」が増えるってことらしい。 

・・・自分で言っててわけわかんねー・・


「そいじゃ、行くよ~」


そう言った風丘は、俺以外の3人の腕を掴んで半ば引きずるように連れて
廊下を曲がっていっちまいやがった。






・・・・俺、待つのって苦手。

もうかれこれ1時間近く一人っきりで待たせられてんだけど。 

てか、教室は鍵もなくて完全無防備じゃん! 俺、逃げられるじゃん!

・・・え? 何で逃げねぇかって・・・わかるだろ!
「逃げたら家まで行く」ってせいだよ!

・・・・まぁ、何回か逃げようって思ったけど・・・ 

あいつらだけやられて俺だけ・・・ってのも気まずいし。
だから決断できずにいた。


そうこうしてるうちに・・・・


「お待たせ♪ それじゃ行くよ。」


いつの間にかやってきた風丘の長い手がぬっとのびてきて、俺の腕を掴んだ。
やばい、人生最大のピンチかも、俺・・・


「離せよ!」


俺は言っとくが喧嘩は相当強い。力にも自信がある。

なのに・・・びくともしやがらねぇ。
なんだ、こいつ!?


「ほーら、今更抵抗したって無駄無駄。俺の部屋行くよ。」


「はーなーせぇ!!!」


俺の腕を掴んだまま、風丘は自分の部屋へ俺を引っ張ってった・・






「な、なんだよここ・・・」


風丘の部屋(元音楽準備室)は、想像以上に広く、いろんなものが揃ってた。
電化製品とか、家具とかあって、生活できそうな感じ。

こいつ、ここで何しようとしてんだ・・・?


「それじゃ。こっち来て。」


風丘が部屋のちょうど真ん中辺りにあるソファーに手招きした。
素直に行くのは癪だけど、

行かなきゃどんな目に遭わされるか知ったこっちゃねーからしょうがなく行く。
風丘がソファーに座ったから、その前の床に正座する。その時・・・


「・・・何で正座するの?」


風丘が不思議そうに聞いてきた。


「え、何でって・・・・」


俺もわかんなかった。風丘が正座しろって言ったわけでもねぇし、

俺自身正座なんざしたくもねぇ。
だけど自然に正座になってんだ。 本能か? 叱られ慣れしすぎだろ、俺。


「いや、だって・・・生活指導とか叱るときいつも『正座しろ』って言うし。
あんたもそうかと思った・・・ん・・・だけど・・・」


風丘がずーっと見つめてくるから、恥ずかしくなって最後はどもっちまった。


「そうなんだー。それが根付いちゃうって、

新堂は随分生活指導に気に入られてるんだねぇ。

新堂、生活指導好きなの?」


「はぁっ!? んなわけねぇだろ! 

つーかなんでさっきからいきなり新堂って・・・」


風丘は俺と初めて口聞いたときから「惣一君」だの呼びやがってた。
それがいきなり普通の教師みたいに名字で「新堂」って呼び始めたんだ。


「お仕置き中は名字で呼ぶことにしてるわけ。その方が冷たく感じるでしょ?」


分かるような、分からないような・・・

「あ、そう・・・それで?説教。するんだろ?」

「俺の場合、お説教はお仕置きしながらやるの。

よし、準備できてるみたいだし。ここおいで。」


ここ・・・・って!? こ、こいつの膝!?


「あの・・・・・どこに?」


「おやおや、見えないかな? お膝の上。ほら早くしな。」


早くしなって言われて素直に行けるようなとこじゃねーじゃねーか。

膝の上とか・・・俺中1だぜ? むちゃくちゃ恥ずい・・・


「全く・・・しょうがないな。」


「えっ・・・うわっ お、おいちょっと!」


こいつ、腕引っ張って無理矢理膝の上にのせやがった!
信じらんねー、こいつこの細腕に一体全体どれだけ力あんだよ!?


「素直に来れない子はお仕置き追加だよ?」


そう言いながら・・・おいおいおい!

こいつ俺の制服のズボンおろし始めてるんですけど!?


「ちょっ 待てよ! あんた何やってんの・・・?」


「ん? ズボン脱がしてるの。あ、下着も脱がすからそのつもりで。」

「はぁぁぁっ!?」


「何がはぁぁっ!?なの? 首謀者じゃない3人だってズボン下ろしたの。
なのに首謀者が同じお仕置きなんて理不尽極まりないでしょ。

ま、一緒に計画立てた時点でほぼ同罪なんだけどさ。」


「・・・・・・」


なんかそれ、抵抗したら俺が卑怯者みたいじゃんか・・・
それ以上何も言えなくなって、下着もあいつに脱がされた・・・
ううっ めちゃ恥ずい・・・


「よし、それじゃ首謀者君? たっぷり反省しなね。」


パンッ


「つっ」


え? え? マジで叩かれた?

(いや、わかってたけどさ・・・ただ、どっかで冗談じゃないかって希望が・・・ハハ)

しかも結構痛いじゃん!(認めたかねぇけど)


パシインッ


「ったい・・」


間髪入れずに2発目。さっきよりも痛い。

叩かれたとこは熱もってじんじんしてる。


「全く・・・」


パシインッ


「まだ新学期始まって」


パシインッ


「1週間なのに」


パシインッ


「ちょっ、ちょっとタンマ!」


「問答無用。」


パシインッ


「痛ってぇ!」


「もうサボるなんて」


パシインッ


「いい度胸」


パシインッ


「してるねぇ!」


バッシィンッ


「いったぁ~!」


思いっきり引っぱたかれた・・・・

俺だってさ、こいつの膝の上で叩かれながら「いったぁ~!」なんて叫びたかねぇよ!

けど・・・実際痛ぇんだ、これが。


バシンッ

バシンッ

バシンッ

バシンッ

バシィンッ


「い・・・うっ・・・ちょ、ちょっと待てってば! いったぁ!」


あまりの痛みに叫んだら・・・・あれ? 止まっ・・・た?
終わったのかな・・・・  

あー・・もう汗びっしょりだし・・・それに何より尻痛い・・・


バッシィンッ


「ぎゃぁっっっ!」


ちょっと待て! こんなフェイントありなのか!?
我慢して力入れてなるべく悲鳴出さねぇようにしてたのに、
それ解いたとたんに一番きついのなんか打ってきやがって・・・・
しかも、風丘が追い打ちかけるみてーに言い出した。


「ま・さ・か! こんな簡単に許されるとは思ってないよね~ しーんどう?」


「なっ・・・ふざけんな! こんなフェイントかけやがって!」

「おっ まだそんなこと言うんだ~ どこまで続くか見物だね♪ 

ま、俺は言うべき事を言うまでは許してあ~げない♪」


「な、なんだよ『言うべき事』って・・・」


「さぁ、なんでしょね。 自分で叩かれながら考えな」


バシィンッ


「いってぇ!!」


こいつ、叩き方さっきから強くなってねぇ!?
つーか、マジでなんなんだよ『言うべき事』って・・・


バシィンッ

バシィンッ

バシィンッ

バシィンッ


「ひぃっ ああっ やめろ・・・・ってぇ!」


この期に及んで連打ですか・・・・!?
あー、もうマジで無理!
こうなりゃ多少、プライド傷つけても・・・


「待てって! マジでわかんないんだよ、その『言うべき事』ってのが!」


こいつに聞くなんて癪だけど、こうなりゃこうするしかねぇんだよ!
悔しいけど・・・


「全く・・・・悪いことした時は『ごめんなさい。もうしません。』でしょ?」


「なっ・・・・」


なんだって尻叩かれた末にんなこと言わなきゃなんねぇんだよ!


「嫌だ。んなことぜっっっったい言わねぇ!」


「あらら、そう。ま、別に俺はいいけどさ。言わなきゃ終わんないよ?」 


「うっ・・・・」


「もうこんなにお尻真っ赤なのにねぇ? そりゃあ見上げた根性だ。」

「・・・・・」


「ま、それじゃあ新堂が言いたくなるまで気長に付き合うとしますか。」


バッシィィンッ

バシィンッ

パンッ

バシィンッ

バッシィィンッ


「いってぇっ! うっ あうっ ひぃっ」


緩いのや強いの混ぜるのやめろよ・・・マジで痛い・・・・


バッシィィィィンッ


「ひぃぃっ ちょっ、ちょっ 待った! ギブギブ!言うからっ
ご、ご・・・・ご・・・・めん・・・・・な・・・さ、さ・・・・い」


言えた!というか言った!俺偉い! 人生初じゃん?こんなこと言ったの!
・・・・あれ?


「・・・・・・・・・・」


沈黙・・・?


「あのねぇ、新堂。俺が言って欲しいのは

『文字』じゃなくて『言葉』なんだけどなー?」


はぁぁぁぁっ!?
こいつ絶対鬼畜だ、サディストだ!
この俺があそこまで言ったんだぜ!? それで上等じゃねぇかっ!


「ほらほら。どんどん言っちゃわないとあとが大変だよ? こんな風に・・」


バッシィンンッ


「ぎゃぁぁっ」


バシンッ

バシィィンッ

バッシィンンッ


「ひいいっ ごめんなさぃぃっ!」


バシィンッ


「ほら、あとは?」


バッシィィンッ


「ぎゃぁっ もうしないぃっ!」


「はい、よく言えました。(ニコッ) そいじゃラストね。」


バッシィィィィンッ


「ぎゃぁぁぁっ!!」


最後にとびっきり痛いのが降ってきた・・・・・・

そしたら・・・


「はい、おしまい。よく言えたねー 惣一君。偉い偉い。」


「頭撫でるなっ! 俺中一だし!・・・・ってぇー!」


尻めちゃくちゃ痛ぇ・・・・なんか熱持ってるし・・・


「あらら。ちょっと待っててねー・・・・ほら。」


ピトッ


「ひゃぁぁっ! な、何だよ!?」


「ん? 氷枕。冷やして腫れ引かせとかないと明日大変だよ?

6時間の上に部活だしね。」


「うっ・・・・・」

確かに風丘の言うとおりだ・・・・

この尻でこのまんまだったら絶対明日無理・・・


「しばらくそうしてなよ。」


「ん・・・・」

「それにしても、とっとと言っちゃえば

こんなにお尻真っ赤っかにならなくて済んだのに・・・意地っ張りさんなんだから。」


「あんたの膝の上で叩かれながら『ごめんなさぃ』なんて、そう簡単に言えるかよっ!」

「でも結果的には言ったじゃない。」


「うっ・・・・それは・・・」

「よっぽど痛かったんだねー お尻ペンペン。」


「も、もうそれ言うなっ!」

「わっ 照れてる♪ 惣一君ったらかーわーいーいー♪」


「ふ、ふざけんな! 気持ち悪ぃ!」


・・・・結局、尻冷やしながらの15分間、

俺は風丘にからかわれまくった・・ちっくしょう・・・・






「よし、そろそろ良いでしょ。ほら、お尻しまって。さっさと帰りましょー」

「言われなくたって、こんなとこ今すぐ帰るっ」


恥ずかしさから叫ぶけど、風丘はからかってくるのを止めない。

「・・・・・あんた最っ低!!」


俺が初めて風丘からお仕置きされた日のことだった。


「夜も、ちゃんとお尻冷やすんだよ? 

明日『お尻痛いから学校休みます』なんて言わないでね。」