8月、世間はお盆休み。

 

私はというと、

たまには仕事のことを忘れてのんびり観光でも楽しもうと、

とあるバスツアー旅行へ参加していたのである。

 

行きの道路は、お盆とは思えないほど空いており、天候にも恵まれて、

絶好の旅行日和(りょこうびより)である。

 

そうこうしているうち、バスは最初の観光地へと到着。

他のツアー客に混ざりながら、私もバスを降りる。

大きな山々。 

綺麗な川。

到着してすぐの私は、思わず

澄んだ空気を思い切り吸い込んだ。

そして、

普段吸い込んでいる毒ガスのような都会の空気を、

体内から完全に追い出したような気分に浸っていた。

「来て良かった」

心の底からそう思った。

 

初めて訪れた土地に少し浮かれながら、

きょろきょろと辺りを見回していたその時だった。

 

私の視界に、

ある建物が飛び込んできた。

 

大きなお土産屋さんである。

「おっ」

私は、ワクワクした気持ちで少し足早になった。

 

旅行先のお土産屋というのは、

なぜあんなにも魅力的に見えるのだろう。

 

吸い寄せられるように店へ入る。

 

店内には、地域限定のお菓子が並び、

人気のお土産ランキングがポップ紹介されている。

他にも、

可愛らしい雑貨。

限定キーホルダー。

さらには、

「ここでしか買えません」

と書かれた店舗限定の商品まで並んでいる。

「ここでお土産を買ってしまおう」

私は心の中でそう呟いた。

 

が、

結果的には、買うのをやめることにしたのである。

 

なぜなら、

私はライターだからである。

いや、

正確には、考え過ぎる人間だからである。

 

まだ旅は始まったばかり。

この先、

もっと魅力的なお土産に出会うかもしれない。

 

今買えば荷物にもなる。

帰りにじっくり吟味して買えば良い。

 

完璧な判断だった。

この時点では。

 

私は満足そうに、店を後にした。

 

集合時間になり、バスに乗り込み、

次なる旅行の目的地へと向かう。

 

道中、旅行のしおりを開いてみると、

次なる目的地では名物の昼食がいただけるようだ。

昼食を満喫した後は、最終目的地へと移動し、

そこでも、

大自然を感じながら、食事処やお土産屋さんもあると、しおりには書かれている。

「やはり、お土産は早々に買わなくて正解だったな」

私は、スマホを取り出して、

このエリアの「人気お土産ランキング」を検索することにした。

「もらって嬉しいお土産ランキング」

「地元民おすすめランキング」

「絶対に失敗しない手土産ランキング」

などなど。
さまざまな観点のランキングがあり、 私はついつい、「お土産市場の分析」という調査を始めてしまったのある。

 

ランチ場所では、バスから一旦下車して昼食を済ませたが、

またすぐにバスの車内へと戻り、引き続き「お土産市場の分析」調査を進めるのである。

 

もはや、観光ではない。

 

気付けば、

レビュー件数。

価格帯。

配りやすさ。

話題性。

限定性。

さらには、職場向きか、家族向きか、親戚向きかまで調べ始めていた。。。

 

バスは最後の地点へと到着。

「調べは、なんとか間に合った」

と安堵(あんど)して、バスから降りる。

 

しおりの内容通りで、美しい自然に囲まれたとても良い場所だ。

歩いていると、食事処が見えてきた。

「近くにお土産屋さんもありそうな感じだな」

お土産について、知識だけは異常に増えている状態であり、

荷物の状態も考慮に入れている私は、

「帰りに買えば完璧だ」

と確信していたのだった。

 

すべてを比較検討した私は、

買う前からすでに、お土産選びを制したも同然のような心持ちになっていたのである。

 

そして、

バスガイドさんが明るく言った。

「あと30分でバスに戻りますので、お土産などがまだお済みでなければ、時間までにお願いします」

小さな外観ではあるが、お土産屋さんを見つけた。

 

私は勝利を確信した。

 

いよいよ、

研究成果を発揮する時である。

 

私は、

勝者の覇気を纏う(まとう)かのごとく意気揚々(いきようよう)と威勢よく入店する。

 

しかし、

店内を見渡して、私は絶句して固まってしまったのであった。

 

そこには、 

「木彫りの熊」

「木彫りの熊」

「木彫りの熊」

なぜか、

夥しい(おびただしい)数の「木彫りの熊」しか置かれていないである。

 

そんなはずは無いと、店内の奥へと進むが、、、

ここにも「木彫りの熊」

「謎の柄のお皿」

またしても「木彫りの熊」

「謎の置物」

やはり「木彫りの熊」。。。

 

「こんなはずでは。。。お菓子は。。。限定の商品は」

脳内はパニックである。
 

店内には、伝統工芸を感じることができる本来のお土産が並んでおり、

ランキング上位の商品など、見る影もなかったのである。

 

しかし、

出発時間は刻一刻(こくいっこく)と迫っている。

 

バスガイドさんは言った。

「集合時間まで、あと5分になります」

短い。

人生の選択としては短すぎる。

 

私は、今起きている現実を受け入れることができず、急ぎ店内を三周した。

 

しかし、

結果は変わらなかった。

「木彫りの熊」だけだったのである。

 

もはや、時間的な余裕は一切なく、

陳列されているなかで一番近くにあった「あの工芸品たち」を手に取り、レジで会計を済ませる。

 

【購入品】

木彫りの熊

謎の柄のお皿

謎柄のお箸

以上。

 

集合時間までになんとか間に合いバスに乗り込むことができて安堵(あんど)した。

 

帰りの道中、

車内でお土産の袋を見つめながら、

中身の「あの工芸品たち」を思い出して、反省する。

 

私は、せっかくのリフレッシュするために参加したツアー旅行なのに、

つい、市場調査、商品分析、比較検討、レビュー確認など、

普段のようにリサーチ癖を発揮してしまい、貴重な観光時間を費やしてしまっただけでなく、

あらゆる調査を重ねても、活かせないまま

結果として「あの工芸品たち」を買うに至ったのであった。

 

帰宅後、 

袋から出した「木彫りの熊」を見つめながら考える。

「実家へのお土産にしよう。。。」

「よし、それしかない」

Believe in your curiosity.

 

( by TSK )