(後編)
自分だけの原画を、その白紙に描く覚悟。
木曜日の、夜。
一週間の仕事も終盤を迎え、
デスクの上に積み上がった複写資料の山を見つめながら、
あなたは今、
自らの指先にこびりついた黒いインクの汚れを、落胆とともに眺めてはいませんか。
火曜日の前編では、
私たちが組織という巨大な印刷システムのなかで、
自分自身の名前を奪われたまま、
誰かのためのカーボンコピーを繰り返している残酷な現状についてお話ししました。
後編の今日は、
その何枚も重ねられた複写紙を自らの手で剥ぎ取り、
どうやって人生という名の真っ白なキャンバスに、
自分自身の鮮やかな色彩を取り戻していくか、その具体的な覚悟についてお伝えします。
転職を決意し、今の場所を去る準備を始める。
その一歩は、これまであなたが信じてきた、
予定調和のテンプレートをすべて自らの手で破り捨てる行為に他なりません。
それは、安全な複写の世界から無防備に放り出され、
真っ白な上質紙を前にして、独りきりでペンを握り直す、震えるほどの孤独と恐怖を伴う決断です。
周囲の人々は、
あなたが自分の原画を描き直そうとすることに対して、
無謀だと囁き、あるいは
今の安定を捨てるなんて正気ではないといった冷たい目を向けてくるかもしれません。
せっかく築き上げた
完成度の高いコピーをわざわざ台無しにして、一体何になるのか。
この年齢で、
新しい技法を一から学ぶ新人画家のようにもがいて、何を得ようというのか。
そんな、もっともらしい安全圏からの批評が、
あなたの決意を鈍らせようと容赦なく襲いかかってきます。
でも、どうか知っておいてください。
他人が描いた完璧な見本をどれだけ忠実に模倣しても、
あなたの魂が震えるような感動がそこに宿ることは、
これまで一度もなかったはずですし、これからも決してありません。
本当に恐ろしいのは、道に迷うことではなく、
誰かの下書きをなぞり続けるだけの人生のなかで、
自分というオリジナルが完全に消滅してしまうことです。
転職活動という名の、新しいキャンバスの選定。
それは、
あなたが自分自身の人生の、最初で最後の主筆(しゅひつ)になるという神聖なプロセスです。
自分が、本当はどんな色を世界にぶつけたいのか。
自分が、本当はどんな風景を、
どんな仲間と共に、この一度きりの旅路で描き切りたいのか。
その答えを出すことができるのは、世界中で、今、
この瞬間に汚れた手を洗ってペンを握り直した、あなた一人だけなのです。
新しいページを描き始めた瞬間、
あなたは、
かつてないほどの激しい葛藤と自己否定を経験することになるでしょう。
自分の描く線のあまりの細さに絶望し、
真っ白い空間の圧倒的な広がりに怯え、
かつての退屈だけれど安全だった複写の日々に戻りたいと、夜、一人で震えることもあるかもしれません。
しかし、その震えこそが、
あなたが再び自分の足で立ち、
自分の筆圧で、自らの命を動かしているという、強烈で確かな証拠なのです。
カーボンコピーを通して
誰かの指図をなぞっていたときには、
決して感じることのできなかった、
紙が持つ本物の抵抗と、心臓の鼓動を加速させる、あの心地よい摩擦。
その痛みを越えた先にしか、
あなたが心から望んでいた、
誰にも上書きされることのないあなただけの真実の色は、姿を現さないのです。
人生の時間は、砂時計の砂のように、
気づかないうちに指の間を、音もなくすり抜けていきます。
他人が勝手に引いた枠線のなかを、
不満を漏らしながら黒く塗りつぶし続けるために、
あなたの貴重な残りの寿命をこれ以上浪費してはいけません。
転職は、単なる職場の移動ではありません。
それは、
あなたが自分の人生の主権を力強く奪還し、
自らの感性で最初の一線を書き入れる、最高に贅沢で誇り高い再起動なのです。
あの時、
勇気を出して、自分を劣化させていた複写紙を捨てて本当によかった。
数年後のあなたが、
自分自身で選び抜いた最高の色彩のなかで、
誰にも邪魔されない自由な絵を、晴れやかな顔で完成させている。
その景色を迎えに行けるのは、世界中で、今、
この瞬間に最初の一筆を動かし始めた、あなた一人だけなのです。
さあ、深く深呼吸をしてください。
あなたの新しい物語は、
今、あなたの手で最初の一線が力強く刻まれるのを、
静かに、けれど熱烈に待っています。
Believe in your authenticity.
( 著者:TSK )

