(後編)

自分だけの名前を、その白紙に刻み込む。

 

木曜日の、夜。

一週間の物語もいよいよ終盤に差し掛かり、

あなたはデスクの隅で、もはや掠れ始めたペン先を静かに見つめています。

 

火曜日の前編では、

私たちが組織という巨大なシステムのなかで、

自分の名前を消されたまま、

消えるインクで誰かのための指示書を書き続けている残酷な現状についてお話ししました。

 

後編の今日は、

その空っぽになったペンに、

自分だけの決して消えないインクを充填し、

どうやって人生という名の広大な白紙に、

自分自身の名前を刻み直していくか、その具体的な覚悟についてお伝えします。

 

転職を決意し、今の場所を去るという一歩は、

これまであなたが信じてきた、予定調和の脚本をすべて自らの手で破り捨てる行為です。

 

それは、安全な定型文の世界から無防備に放り出され、

真っ白なノートを前にして、独りきりでペンを握り直す、

震えるほどの恐怖を伴う決断です。

 

周囲の人々は、あなたが自分の物語を

再び書き始めようとすることに対して、

無謀だと囁き、あるいは理解できないといった冷たい目を向けてくるかもしれません。

 

せっかく築き上げて安定しているページを

わざわざ破り捨てて、一体どうするつもりなのか。

 

この年齢で、

新米の執筆者(若手社員)のように一から振る舞って何になるのか。

 

そんな、もっともらしい批評家たちの言葉が、

あなたの決意を鈍らせようと容赦なく襲いかかってきます。

 

でも、どうか知っておいてください。

他人が書いた完璧な脚本が、

あなたの魂を救ってくれることは、

これまで一度もなかったはずですし、これからも決してありません。

 

本当に恐ろしいのは、道に迷うことではなく、

どこにも自分の名前が記されていない物語のなかで、

ただの使い捨ての端役として一生を終えてしまうことです。

 

転職活動という名の、新しいインクの選定。

それは、

あなたが自分自身の人生の、最初で最後の主筆になるというプロセスです。

自分が本当はどんな言葉を後世に遺したいのか。

自分が本当はどんな物語を、どんな仲間と共に、この一度きりの旅路で紡ぎ上げたいのか。

その答えを出すことができるのは、世界中で、今、

この瞬間に乾いたペンを握り直した、あなた一人だけなのです。

 

新しいページを書き始めた瞬間、あなたは、

かつてないほどの激しい葛藤と自己否定を経験することになるでしょう。

 

自分の言葉の拙さに絶望し、

真っ白な空間を埋められない自分を責め、

かつての退屈だけれど安全だった物語に戻りたいと、

夜、一人で涙を流し、紙を濡らすこともあるかもしれません。

 

しかし、

その葛藤こそが、あなたが再び自分の足で立ち、

自分のインクで、自らの命を生きているという、強烈で確かな証拠なのです。

 

消えるインクで誰かの指図をなぞっていたときには、

決して感じることのできなかった、

紙が持つ本物の抵抗と、心臓の鼓動を加速させる、あの心地よい摩擦。

 

その痛みを越えた先にしか、あなたが心から望んでいた、

誰にも消すことのできないあなただけの真実の光は、姿を現さないのです。

 

人生の時間は、砂時計の砂のように、

気づかないうちに指の間を、音もなくすり抜けていきます。

 

他人が勝手に引いた罫線のうえを、

不満を漏らしながらなぞり続けるために、

あなたの貴重な残りの寿命をこれ以上浪費してはいけません。

 

転職は、単なる職場の移動ではありません。

それは、

あなたが自分の人生の主権を力強く奪還し、

自らの手で最初の一行を書き入れる、最高に贅沢で神聖な再起動なのです。

 

あの時、勇気を出して、

自分の名前を消し去るインクを捨てて本当によかった。

 

数年後のあなたが、

自分自身で選び抜いた最高の言葉のなかで、

誰にも邪魔されない自由な物語を、晴れやかな顔で綴っている。

 

その景色を迎えに行けるのは、世界中で、今、

この瞬間にペンを走らせ始めた、あなた一人だけなのです。

 

さあ、深く深呼吸をしてください。

 

あなたの新しい物語は、今、

あなたの手で最初の一文字が力強く刻まれるのを、静かに待っています。

Believe in your permanent ink.

( 著者:TSK )