(前編)
重すぎる看板を、脱ぎ捨てる勇気。
火曜日の、午前8時30分。
駅のホームに並ぶ、無数の背中。
そこには、目には見えないけれど、
ずっしりと重い鋼(はがね)の鎧を纏った人々が、音もなく立ち尽くしています。
30代後半、あるいは40代。
社会という名の戦場で生き抜くために、
私たちはいつの間にか、自分を守るための、分厚い鎧を身につけてしまいました。
それは、
今の会社で築き上げてきた、役職という名の頑丈な胸当て。
周囲から頼られるという、責任感という名の重厚な肩当て。
そして、
世間体や安定という、光り輝くけれど重たい、鋼の兜(かぶと)。
これらはかつて、未熟だったあなたを、
外敵の攻撃や不安から守ってくれる、頼もしい装備であったはずです。
この鎧があったからこそ、
あなたは、理不尽な上司の叱責にも耐え、
過酷なノルマという名の矢の雨をくぐり抜け、今日まで生き残ることができた。
しかし、今のあなたはどうでしょうか。
守ってくれているはずのその鎧が、今や、
あなたの血肉に食い込み、呼吸を妨げ、
一歩を踏み出す自由を奪う、巨大な呪縛に変わってはいませんか。
鎧が重すぎて、自分が本当は何を求めていたのか、
どこへ行きたかったのかさえ、思い出せなくなっている。
ただ、その重みに耐え、
その場に立ち続けることだけに、すべての生命エネルギーを使い果たしてしまっている。
それが、
今のあなたが抱えている、その出口のない閉塞感の正体です。
私たちは、鎧を脱ぐことを、死ぬほど恐れています。
もし、
この役職という名の胸当てを外してしまったら。
もし、
会社という名の巨大な盾を、手放してしまったら。
むき出しになった自分は、
あまりにも無防備で、あまりにも価値がなく、世界から一瞬で消し去られてしまうのではないか。
その恐怖が、あなたを、
錆び付いて動かなくなった鎧のなかに、閉じ込め続けているのです。
鏡のなかの自分を見てください。
鎧は立派に見えるかもしれない。
けれど、
その隙間から覗くあなたの瞳は、すでに光を失い、
深い絶望の泥に沈んでしまってはいませんか。
その鎧は、
もうあなたを守るための道具ではありません。
あなたを、
今の場所に永遠に繋ぎ止めておくための、重い錨(いかり)にすぎないのです。
転職を考え、
その重い鋼のパーツをひとつずつ外そうと決意するとき。
あなたの心は、
経験したことのないような、鋭い痛みに襲われることになるでしょう。
それは、長年あなたの肌に癒着していた鎧が、
剥がされるときにあげる、魂の悲鳴です。
けれど、その痛みを越えた先にしか、
あなたが再び、自分の足で軽やかに大地を踏みしめる日は、やってこないのです。
( 後編へ続く )

