たとえばあなたが栃木に住んでいて「香川に行くんだ」と誰かに言ったとする。
その言葉の裏にある、時間の重さや財布の軽さ、身体にのしかかる疲労の存在をどれだけの人が想像できるだろう。
それは簡単なことじゃない。
簡単に行っている人なんてきっとどこにもいない。
たとえ軽く笑ってそう話していても、その裏側には何かしらの代償がある。
誰かにとっては時間だったり、誰かにとってはお金だったり、あるいは誰にも言えない何かだったりする。
それでも僕たちは行く。
飛行機に乗って、新幹線に揺られて、あるいは夜通し車を走らせて。
その理由はたったひとつ「勝つため」だ。
ただそれだけのために僕らはアウェイに向かう。
かつて栃木SCのサポーターだった人が言った。
「報われぬ愛ほど惨めなものはない」
その言葉が試合のあとホテルのシャワーの音にまぎれてふいに胸の奥から立ち上がってきた。
涙が出た。久しぶりに、大声をあげずに泣いた。
鹿児島。香川。
遠く離れた地での連敗。
悔しさだけじゃない。
もっと深い何かがずっと心を締めつけていた。
プロというものはきっと「結果」でしか語れない。
どんなに過程に意味があろうと、どれだけ頑張っていようと、結果が伴わなければそれは何も語ってくれない。
じゃあ何のためにここまで来たんだろう。
夜明け前のフライト。炎天下のスタジアム。
ひとつひとつがふと、虚しくさえ思えた。
裏切られたような気持ちになった。
でも誰かを責めたいわけじゃなかった。
試合後、選手や監督や、クラブの社長と会話をした。
彼らも必死だということはよくわかっている。
そして僕たちも必死だった。
それでも、プロというのは残酷なまでに結果を突きつけるものなんだ。
わかっている。
だけどそれでも悲しかった。
静かに讃岐の地酒の盃を黙って傾けた。
ひとりで飲む酒の味は少しだけ塩辛かった。
それでも、だ。
試合は続く。
次の試合が来れば僕はまた声を張って応援するだろう。
喉が枯れようと心が折れそうでも。
なぜならそれが僕の役割だから。
ピッチの上に11人が立つようにスタンドにもまた、11人を信じる者たちがいる。
僕らには僕らのポジションがある。
勝手にそこに立ったのかもしれないし、気づいたら立たされていたのかもしれない。
でもどちらにせよ――
僕は次も応援する。
たくさん裏切られてたくさん傷ついた
それでも、僕は栃木SCを愛するサポーターだから。
ただ、それだけのことなんだと思う。