試合の序盤、相手の放ったボールは、まるで何かの意志を持っているかのようにゴールネットへ吸い込まれていった。
僕らはその一発のゴラッソに息を呑み、沈黙の海に立ち尽くしていた。
でもその沈黙の中で、誰かが立ち上がった。
あきらめないという静かな灯火を胸に抱えながら。
それは選手たちだった。ベンチだった。
そして、風の中に立っている僕らサポーターだった。
3点。
その数字に表されたのはただのスコアではない。
信じることの重さと支えることの意味。
無償の愛とそこに秘められた強さ。
前節、スタンドに響いたいくつかの冷たい言葉を僕は覚えている。
辞めろ
いらない
変われ。
それらはたしかに心の奥で膿のように澱んでいた。
でも、それでも。
でも、それでも僕たちは愛し続けることを選ぶ。
その日そのときがどんなに苦しくても、勝てなかった夜がどんなに長くても。
信じ続けることこそがサポーターの本質なんだと、そう思いたい。
5試合ぶりの勝利――
その重みは数字だけでは測れない。
それは失いかけた希望のかけらをもう一度拾い集めて、ポケットにそっとしまうような、そんな感触だ。
スタジアムを吹き抜ける風が、少しだけ優しくなった気がした。
帰宅した僕はビールを飲みながら静かにひとりつぶやいた。
「信じてよかった」と。
勝つことだけがすべてじゃない。
でも、信じ抜いた先にある勝利はたしかに僕らに小さな光をくれる。
それを胸に、僕はまた次の週末もスタンドに立つ。
手を叩き、声を張り上げて風の向こうにいる誰かへ届けるんだ。
それが――僕の愛のかたちだから。
