亡くなった息子が初めて外に出た日
散歩道の端に咲いていた桜が満開でした。
「ほら、桜、綺麗だね」
そう言って木の下に連れて行くと息子の顔にひらひらと一枚
花びらが舞い落ちて来ました。
しばらくするともう一枚。
その様子を見ながら
息子は満面の笑みを浮かべていました。
「きれいだね。退院したらまた見ようね。」
「来年はお花見に行こうね」
笑った息子の顔が嬉しくて何度もそう言っていました。
息子が退院したのは初夏。
家の近くの桜並木の木々の葉がとても綺麗な季節でした。
来年の春はここの桜を見られるね。
それを楽しみにしていました。
そして
また桜の咲く季節になり、
息子は天国に行ってしまいました。
私の夢は叶うことはなく、
息子は咲き始めた桜を見ることもなく
病院でなくなりました。
告別式の日
あの桜並木の横を通り火葬場へ向かいました。
桜は少しほころび始めたくらいでした。
去年あの時の言葉は守れなかったことが
本当に悲しかった。
それからしばらくして、
満開の時期を迎えた桜を息子の代わりの人形を持って
一緒に見に行きました。
その桜は
本当に綺麗でした。
私の心が寂しかったからでしょうか?
悲しいほど綺麗。。。。
それはそんな表現がぴったりでした。
その桜を見ながら
「やっと一緒に見れたね」
と思っていました。
でも、出来ることならば、生きている時に見せてあげたかった。
あれ以来、
桜は私にとって特別な花。
息子との思い出の花であり、
悲しい花でもある。
毎年綺麗に咲く桜を見ながら
私は息子を思い出しています。