前回、「刃研ぎ師の砥いだ包丁の切れ味が最上の切れ味」と書きました。
これについて、もう少し説明します。
なお、包丁の種類や用途(何を切るか)によっても変わるところはあります。基本的な話として聞いてください。
包丁の世界では、「本刃付(ほんはつけ)」という言葉があります。
メーカー出荷後の包丁(いわゆる、新品の包丁)に砥ぎを加えて、切れ味を100%にすることです。
また、基本的に包丁の刃先は「蛤状(ハマグリのかたち)」が良いとされています。
刃先は尖っているものの、刃先以外は丸みを帯びている状態です。
専門的な説明はこちらに詳報されています。
では、なぜメーカーで本刃付をせず、また形状もハマグリ型では無いのでしょうか。
それには大きく2つ理由があると考えています。
①メーカーでは加工できない
結論から言えば、メーカーによる機械加工では本刃付レベルの加工が出来ません。
・機械による砥ぎ(研磨)では砥石と包丁との摩擦熱が高くなり、包丁が鈍りやすい(なまる=柔らかくなって、切れ味が落ちやすくなる)
・薄い刃先を機械で研磨すると刃先が折れやすくなる(不良になりやすい)
・機械研磨後のバリ(返り)取りが大変になるため、バリを取れる程度の角度で終わらせる
包丁メーカーは量を作るように製造ラインを整えています。
量を作る=1本1本に手間はかけていられません。
本刃付レベルの機械加工は単純に難易度が高い上にコストもかかるため、包丁価格も高くなります。
コストと技術レベルでバランスを取った結果が現在のメーカーレベルだと考えています。
当社が機械加工で刃物を作り続けてきているからこそ、機械研磨の善し悪しが分かります。
②刀の製作は分業制であった
日本で刃物と言えば、日本刀は欠かせません。
刀鍛冶の仕事は時折テレビ等で目にすることは多いかと思いますが、鍔(つば)や束(つか)を取り付ける工程を見ることは滅多に無いかと思います。
ましてや、鞘を作る工程なんて見たことありますか?
刀身ばかり取り上げられますが、刀の完成には様々な業界が関わっています。
何を言いたいかというと、
実は「刃砥ぎ」も分業の一つなのです!
もちろん刀鍛冶師も砥ぎます。
ですが、刀鍛冶は言わば「包丁メーカー」。
素材選定、素材組合せ、加工、熱処理等々、やることたくさんの総合加工です。
砥ぎも総合加工の一部です。
一方、世に出た刀(包丁)は切れ味が落ちたら砥いで切れ味を良くして使いますから、日本中で砥ぎ需要は多かったわけです。
元々分業で刀を作っていましたから、刃付け(刃部分の砥ぎ)は刃研ぎ師に任せることに不思議はありませんでした。
まとめ
分業で作る昔からの慣習があり、研ぎ師も多かった過去では新品包丁に本刃付を行うことは珍しくありませんでした。
いつしか、研ぎ師が減り、安い包丁が出回り、
「切れなくなったら新品に買い替えた方が安い」
→「新品が一番の切れ味」
となっていってしまいました。
鍔、束、鞘等に滅多に光が当たらないように、刃付けにも滅多に光が当たりません。
ですが、刃付けは切れ味を決めるとても重要な最終工程です。

