増蔵が自宅へ帰ってきたのを見た半七と善八。
増蔵の様子から旅に出ることを察知し、きっとお光も動くであろうと予想する。
朝もやが立ちこめる町を、
険しい表情で襟元を正しながら宗兵衛が歩いて行った。
そして増蔵も家を出る。後を善八が追いかけて…
お光も家を出た。こちらは半七が尾行。
増蔵が、途中で道をそれ、善八は見失ってしまう。
お寺の門のところで、宗兵衛が増蔵を待っていた。
女房の供養の巡礼旅と言いてえが、女連れじゃサマにならねえ。
お光も追っ付け来るんでござんしょ?
「ハハハ、何とでも言っておくれ。今日でお前さんとの腐れ縁とも終わりだよ」
何か心に思うことを隠すかのように、底抜けに明るい表情の宗兵衛である。
持ってきてくれただろうね、金の蝋燭は?
「ああ。持っていた蝋燭は全部で6本(荷物を置いて)
そのうち1本はお前に金に替えてもらった。
残りの5本は承知のように(懐をがさがさ)お重が抱いて死んでいった」
それじゃあ?
「ああいや、えへへへへっ(ちょっといやらしそうな笑みを浮かべて)
その代わり(風呂敷を取り出す)ここに200両ある。これで勘弁してくれないか?」
200両か…分かった。そいつで手打ってやろうじゃねえか と手を伸ばす増蔵。
「お~っと (一旦かわして) いいかね、これで一切忘れておくれ」
と最後は強い口調で言い切った宗兵衛。
分かってるよ と包みをひったくった増蔵が、
宗兵衛に背を向け、中身を確かめ始めた。
背後から覗き込んでいた宗兵衛の顔つきが次第に強ばり…
腰の小刀をさっと抜いた! えいっ!
鬼気迫る表情で増蔵の脇腹に刃を向けた宗兵衛…
刀を抜くと、増蔵が小判とともに倒れこんだ。 ちきしょ~!
「てめえのような悪党に一生付きまとわれてたまるかっ!!」
逃げる増蔵を、目をむいて鬼のように恐ろしい表情で追いかける宗兵衛。
門のところに追い詰めると、や~っと背中にとどめを刺した。
増蔵はその場に崩れ落ち、持っていた小判がちゃらら~んと散らばる。
その様子を目撃してしまったお光、そして彼女を尾行の半七。
刀を鞘に収めた宗兵衛は、「よ~し、これでいい」
「けっ!」と増蔵の死体を左足で蹴散らすと、
「今までこの男にどれだけ生き血を吸われてきたことか」と小判を拾い始めた。
後ろから近づいたお光に気がついた宗兵衛。
「あっ、お光か。ささ、出かけよ。これで心おきなく出立だ」
いや!行かない!
はっとする宗兵衛。「お光、お前!」 宗兵衛の顔が青ざめた。
お前さんなんかと行くもんか!
「お光、今さら、今さら何を言うんだ。おいお光」
お光に強く拒絶された宗兵衛が、必死で懇願しているところへ半七参上。
宗兵衛、観念するんだ!
ひるんだ宗兵衛の懐からお光が飛び出し、半七の背中に隠れる。
とんだ地獄を見てしまったぜ~
たった1人のお光にまでおめえは見放されちまったんだよ。
震えながら後ずさりした宗兵衛は、「殺してやる~」と刀を振りかざすが、
あえなく十手にはじき返され、地面に倒れこんだ。
「ふっ、殺してやる~」 再び立ち向かうも振り回され、又こかされ、
又、泣き声で殺してやる~、羽交い絞めにされても「殺してやる、殺してやる」
と、もがき続ける宗兵衛…
観念しろ、宗兵衛!!
ついに、地面に投げつけられ、小判が散らばる門の前に転がると
「ふふふふふふ…」 ひざまづいて小判を手に取ると、
ちゃらら~ん、とこぼし、手に取ってはこぼしを繰り返す宗兵衛は、
髪は乱れ、すっかり半狂乱の金の亡者になり
泣くとも笑うともつかない不気味な声を上げるのであった…
最後に、江戸留守居役の浜村も、悪事が明るみになり、評定所送り
となった。
見終わって「もう、根上さ~ん」と思ってしまったわよ。
とにかく今まで見た作品の中でも、一番の怪演?
巧妙な演技とでもいったらいいのか、
表の顔と裏の顔の表情と声色の使い分けがすごくて、見ていておもしろくて、
こんなに腹黒で、狡猾なやつなのに、心から離れなくなってしまいました。
怖い悪役っていうのは、色々見てきたけど、
それはその道の人だったり、悪徳○○とかで、
付き合っている女性もそれを知ってて付き合ってる人ばっかりだったけど、
今回の宗兵衛は、お光はだんなの過去を全く知らないわけで、
むしろ尊敬できるだんなさまと思っていたわけだから、
その仮面がはがれ、殺人鬼の顔がむき出しになったときのショックは、
非常に強かったと思う。
裏切られたっていうのかな?
騙されたっていうのか?
そんな人についていこうとした自分もみじめ、みたいな。
う~ん、私ならどうだろう。
もし好きな人が過去に殺人を犯して、目の前で又人を殺してしまったら。
やっぱり怖くなるわなあ、例えそれが宗兵衛どんだったとしても。
人を殺すことに対しての罪意識をまったく持ってない
というところが恐ろしいのよ。
増蔵を殺しておいて平気な顔、何事もなかったかのように平然と、
お光に笑顔を見せるその感覚に、耐えられないと思う。
女性に対してはとことん優しいのに、同性には徹底して手厳しく、
金に対する執着心も人一倍。
これが根上さん演じるヒール・キャラの特徴と思うけど、
そういうとんでもない悪人がなぜか気になってしかたがない
と思わせてくれるところが、根上さんのもつ不思議な魅力なのよね~
今回も楽しませてもらいましたわ。
それにしても…お光との最初のシーンのなんと目尻が下がっていること。
ほんまに嬉しそうで、お光が大好き~って様子がびんびん伝わってきましたよ。
ふんわりした大きな手で、お光の手をモミモミしているところなんか、
自分が手をニギニギしてもらってるみたいで、良かった