「白蘭紅蘭」 (1952) 前編 | All the best for them

All the best for them

好きな人と好きな人に関連するあれこれ、好きな物、家族とのことを細々と、時間があるときに綴っています。





















 

70代の根上さんを見た後で無性に若い頃のが見たくなって、

チョイスしたこの映画。

配役のクレジットでは根上さんの岩村は男性では2番目で、

まずまず期待して臨んだ割には、出番が前半だけ。ちょっと寂しい~

けど、とっておきのシーンがあったりしてラブラブ

それに、遺産相続を巡る騒動に奇妙な三角関係を絡ませた

ドキドキハラハラのストーリー展開が、結構気になって、

最後まで引き込まれてしまいました。



建設会社工務主任・井筒英志のもとへ、

叔父・井筒精作の元顧問弁護士が現われた。

一昨日に亡くなった精作の遺言状を開封するのに

唯一の身内である英志の立会いが求められたのだ。

精作の遺言状の中身はというと、

実兄・英之助長男、井筒英志に下記の条件により

全財産を与えるというものだった。

1. 竹村千草という女性を見い出し、結婚しなければならない。

2. 竹村千草は私が与えた指輪を持つ。

   その指輪は所有のカフスボタンと対をなすもの。

3. 英志がこの条件を果たさぬときは、財産は千草に渡る。



4,500万もの遺産が転がり込んでくるかもしれないということで、

友人の東京日報記者・真田が英志の家にやって来た。

しかも彼は千草という人物を知っているらしい。



真田に連れられて英志が出向いた先は、

キャバレー黒水仙(Black Narcissus)。

ここの歌手の名前が紅蘭(Red Orchis)こと竹村千草というのだ。

(もちろん芸名なのだが…)

妖艶で気性の激しい千草は、

私の知っている女優の中で例えるならヴィヴィアン・リーか。

そんな千草の迫力に圧倒される英志。

また、千草のマネジャーの望月は、真田の元仕事仲間のようだった。



一方、翡翠の指輪をはめた白蘭(White Orchis)こと本物の竹村千草はといえば

両親の墓参りの最中だった。

清楚で可憐なお嬢さまといった風な千草は、例えるならオードリー・ヘプバーン。

そこへ、「千草さ~ん」と声が聞こえた。

愛しの君の出現に千草の顔がパッとほころぶ。

はずむような軽やかな足取りで千草の元へ駆けて来たのが、

はい、根上さんでございましたラブラブ! 黒いスーツに今回は山高帽よ~

爽やかな笑顔を浮かべて、いかにも真面目で純粋そうな好青年です。

お墓への挨拶もそこそこにいそいそと彼、岩本謙一郎の側へ寄る千草。

「外務省へ寄ってたんで遅くなっちゃった」と汗をふきふき岩本ちゃん。

渡航手続きでしょ? 「うん」 きっとそうだと思ったわ。

2人は歩き出した。 さりげなくエスコートする岩本ちゃん。

時間が経つのはとても早いわ…

2人は並んで、お寺を出て階段を下りて、小僧さんに会釈して…

駅へ続く大きな橋の上を歩いていく。

下の川では偶然にも英志が釣りを。

それを何気に覗く千草。岩本ちゃんも覗くがあまり関心を寄せず、先へと進む。

先に岩本ちゃんが袂の階段に腰掛けて、千草も横へ。

あたくし、今何考えてるか分かる? 「あ~これからのプラン?」

ううん、あたくしも一緒にアメリカに行きたいの。

だってあなたがあちらへ行ったら誰を頼りにするの? 

誰もいないじゃありませんか。

優しく微笑み岩本ちゃんは答えた。

「な~にすぐ帰ってくるよ。学術会議はたったの一月なんだからね。

そりゃ僕だってキミを残して立つのは心配さ。

だいたいキミはおとなしすぎるんだ。キミんとこにいる狭山って夫婦は、

何の権利があってキミに変な縁談を押し付けんの?」

色々と面倒を見てやったから当然だとでも思っているらしいの。

でもあたくし、もっと強くなるわ。どんなことがあってもお帰りをお待ちしています

この次の日曜にはあなたはもう海の向こうにいらっしゃるのね。

いつまでもこうしていたい…

「しばらくの辛抱だよ」 ううん、いいのよ。(と言う千草を見つめる岩本ちゃん)

ごめんなさいね。あたくしだって喜んでいるのよ。…でも。

(次第に千草の背中に手を回していく岩本ちゃん)

「千草さん…」 とここでアップに。

「千草さん」 千草の左側にいる岩本ちゃんが頬を寄せてくるんですね~

なんか洋画の1シーンを見ているような美しくロマンチックな抱擁のあと、

さっと千草の右側に顔を持っていって、

千草も下から岩本ちゃんの頭に手を回して引き寄せるんですよ~

そのまま岩本ちゃんは千草の唇を覆いました。

カプッと音が聞こえそうな情熱的なキスでした。

初めて見た根上さんのキスシーンですよ~キスマーク私はどれだけ興奮したかドキドキ

この後は岩本ちゃんの背中からのカットに切り替わって…

ますます力を込めて、千草に顔を押し付ける岩本ちゃんなのでした。

いやあ、絵になる美男美女のラブラブなシーンはかなり刺激的でしたが、

これテレビのない時代でしょ。

スクリーンで見たら、きっと誰でも夢見る乙女になってしまうでしょうね。

根上さんも憎い人です。



さて、魅惑のひとときを過ごした恋人たちは帰りの電車に揺られています。

千草の右側に甘い笑みを浮かべる岩本ちゃん、そして彼女の左側には…

それが運命の人だとは知らずに居眠りしてコックリコックリもたげてくる英志。

奇妙な構図のまま電車は終点に。

岩本ちゃんは終点だと千草に目配せして先に行き、

千草はまだ眠っている英志に、終点ですよと声をかけて電車を降りた。



竹村邸では、土建屋・金島と竹村氏の元使用人である狭山夫妻が、

千草と金島の縁談を進めるために色々画策中。

狭山の妻の弟でもある望月は、千草の部屋で彼女のアルバムを見ている。

そこには岩本との仲睦まじいスナップの数々が貼られていた。

(写真の岩本ちゃんもステキですラブラブ

そこへ千草が帰宅して…

ウラニウムの研究をしている岩本と結婚しても何の得にもならないからと

金島との縁談を強引に進める狭山と、

金島の味方をする一方で、

歌手の千草を精作の遺産目当てに本物の千草に仕立てようとする望月、

2人に迫られ身動きとれない千草なのだった。



そして、望月は千草がはめる例の翡翠の指輪を手に入れようとする。

千草は、金島・狭山夫妻と明治座で観劇中だったが、途中で逃げ出し、

岩本のいる大学へと急いだ。そこを望月に待ち伏せされ、

岩本に連絡を取ってあげるからと、料亭・山中に連れて行かれた。

(千草が何でイヤな望月についていってしまったのか、ここが解せない私)

山中では、当然のことながら岩本に連絡をとるそぶりがなく、

千草は、酒を運んできた女中に、東大物理学研究室の岩本に電話して、

すぐ来るようにと伝えてほしいとそっと頼んだ。



鞄を抱えて大学から出るところを岩本ちゃんは教授に呼び止められた。

あっ、岩本くん、出かけるのかい? 

「はあ、ちょっと電話がかかってきたもんですから」

飛行機の都合で急に出発が早くなってね~

明日の朝7時ってことになったから、そのつもりで。

「あっ、分かりました」 

一礼をして先に進もうとする岩本ちゃんにさらに続ける教授。

それからねキミ、今度の会議に行ったら

1人だけ向こうの研究室に残れることになるんだが、どうかな?

「はあ、よく考えてみます」

チャンスだからね、

もっとも3年ぐらいは向こうにいるつもりでいてもらいたいんだが、いろいろいいかな?

「はあ、大丈夫です…」

(こんな切羽詰った大事なことをえらい淡々と話す教授にびっくりの私。

岩本ちゃんも色々言いたかっただろうに、教授の手前、遠慮したのかな?

なんとなく千草との間に暗雲が立ち込めてきそうな予感…)



そして予感的中…

山中の千草は、望月に絡まれ、さらにどさくさにまぎれて指輪を抜き取られる。

必死で部屋から逃げ出した千草を、桃太郎姐さんが助け、

千草とともに車に乗り込んだ。

車が発車した後に、岩本ちゃんが山中に到着。あ~すれ違いの2人だったの。

岩本ちゃんが望月の部屋に通された。

よお、岩本くんですか?

酔った望月に一礼して正座する律儀な岩本ちゃん。

「千草さんから電話をもらって来たんです」

君を呼んだのは他でもない。

(と指輪をテーブルに置く望月。それを見た岩本ちゃん、ギョッとする)

千草のことで話があってね。まあ、飲みたまえ と杯を差し出す。

それには応じず「千草さんは?」と岩本ちゃん。

まあ聞いてもらおう。実は今日限り千草から手を引いてもらいたいんだ。

あまりに唐突な話…「君は一体誰なんです?」

君には大変気の毒だが実は俺たちはね~

ご覧の通りさっきから乾杯しながら君の来るのを待ってたんだ。

この場を君にも見てもらったほうが心が残らなくていいと思ってね~

とうそぶく望月。

「僕は千草さんに会いたいんです。どこにいるんです?」

曇りのない瞳で真っすぐに望月を睨む岩本ちゃんだったが、

ここは望月の方が一枚も二枚も狡猾だった。

よし、と立ち上がった望月が、奥のふすまをさっと開けると、

そこには布団の中で横たわる女の頭があった。

驚愕の岩本ちゃん、そして視線を落として…

何とか作り笑いを浮かべて、「いやあ失礼しました」と腕時計に目をやると、

部屋を出て行った。

実は女中に頼んで望月が一芝居打っていたのだが、

そうとは知らない岩本ちゃん、

部屋の外で怒り心頭の様子からがっくりと肩を落とし、

とぼとぼと部屋を後にしたの。

あまりにも傷心な姿に、心が痛んだ。


こんなにpureな青年を騙すなんて、望月め~許せない爆弾

だけど、岩本ちゃんも

千草がそんな軽はずみな女ではないと信じてたはずなのに、

何できっちり声をかけて寝ている女が千草かどうか確認しなかったのよ~

このままだと、岩本ちゃんが千草に何も告げずにアメリカに行ってしまう、

しかも恐らく3年の道を選ぶのは必至。

2人の運命がこれからどうなってしまうのか、気が気でなかった。

一方、アメリカに行ってしまったら、

岩本ちゃんの出番はもうないのではないかという懸念がよぎった。

(この時代、まさか海外ロケなんてありえないだろうし…)