「ぼっち・ざ・ろっく」を観て考えたこと~物語の中に「音楽」が出てくると身構えてしまう件~ | 名盤アーカイヴ ~JAZZ・FUNK・FUSIONを中心に~

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管楽器が活躍するジャズ・ファンク・フュージョン・ブラスロックなどを紹介します。更新はゆっくりですが、いずれは大きなアーカイヴに育てていきたいなと思います。好きな音楽を探すのにお役立ていただければ幸いです。なお、過去記事はちょいちょい編集・加筆します。

最近頭から離れない曲

 

 

 

 

 

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  「音楽」が主題になるアニメ

 

 最近、とあるアニメをみました。昨年、大きなブームを巻き起こした「ぼっち・ざ・ろっく」。女子高生がバンド活動をする日常系4コマ漫画のアニメ化ですね。

 

 ええ歳こいてアニメを観ている私ですが、さすがに年を重ねるごとにアニメを見る本数が減ってきました。近年は年間数本といったところ(今年は「機動戦士ガンダム 水星の魔女」「ヴィンランド・サガ」、そしてつい先日映画館で観てきた「君たちはどう生きるか」)。特に音楽が主題になる作品に関しては、自分が音楽が好きなために視聴するうえで色々余計な思考が働いて素直に楽しめないことが多いので、なかなか手が出ないのが現状です。

 「ぼっち・ざ・ろっく」に関しても、はじめは観る気無かったのですが、飲み友達がみんな楽しそうに話すもんだから、話題に乗るために観始めた次第です。内容は...うん!ぼちぼち楽しめました。元が日常系ギャグ4コマなので、私の好みからいけばギャグはぬるいし説明的なんだけど、パロディネタなんかはクスリと笑わせてもらいました。

 

 そして何よりポップでキャッチ―な曲が耳から離れなくなっちゃったのです。「ぼっち・ざ・ろっく」の楽曲はバンドサウンドこそ丁寧に作り込んでますが過剰ではない。小技は効かせているけど刺激重視の不自然な転調もない。そしてメロディは非常にわかりやすい。蛸壺化が進んで、皆が口ずさみたくたるような普遍性の高いポップスが無くなってしまったJ-Popの中で、「ぼっち・ざ・ろっく」の楽曲はそこに割ときれいに嵌ってくれる気がするんですよね。

 

中でもお気に入りがこちら

 16ビートのドラム、ワウを効かせたギターのカッティング、そしてベースのスラップ。私好みのファンキーなサウンドです。これに甘くてかわいらしいボーカルが乗っかる。このちょい甘辛な味付けがいい!

そしてね~、この曲にまつわるエピソードがまた良かったんですよ!アニメ本編でこの曲が演奏されるシーンでは器材トラブルが発生しますが、「結束バンド」はこれをチームワークで乗り越えて見事にステージを成功させます。みんなで晴れて一つの「星座になれた」わけですね。う~ん粋!

 

  許されるもの、許されざるもの

 

さて、本作のような音楽モノをはじめ、何か専門的なジャンルを物語の中で扱う映画・アニメ・ドラマでは「通」な立場からのツッコミが入るのが定番です。曰くオマージュの仕方が雑だの、リアリティが無いだのとかそういうツッコミですね。

 そういうツッコミを入れたがる人たちは作品以上にそのジャンルに対する愛が深いので、世の中に「正しくない」ものが広がるのが耐えられない、許せないという心理が働くのです。面倒くさいですねー!余計なお世話もいいところですよねー!...え?なんでお前にその心理がわかるのかって?だって私がそうだもん(笑)(いや、もちろん大人ですから基本は口を噤んでますよ!!SNSに悪口書いて炎上させるようなことはしません!!)

 

「面倒くせぇなーいやなら見るな!」と言われればその通りなんですけど、これ考えてみたらけっこうおもしろいと思うんですよね。どんな作品でも一定のツッコミは入るものですが、その中で比較的受け入れられるものと、炎上してしまうものがる。その線引きは果たしてどこにあるのでしょうか。

 

  ぼっち・ざ・ろっくの「一点突破」

 

「ぼっち・ざ・ろっく」を例に考えてみましょう。本作のツッコまれるポイントとしてはロック・ミュージックへのオマージュの仕方があげられます。これについては脈絡無くかな~り軽いノリでやっちゃってるので、多分そこはロック好きな人はイラっとくるじゃないでしょうか。またほぼ全てがご都合主義でファンタジーな展開なので、バンドで苦労したような人は「バンド舐めてんじゃねーぞ!」と言いたくなることでしょう。

 

ただね、私は観ていて音楽ファンとして全然嫌な感じはしなかったんです。なぜなら「ぼっち・ざ・ろっく」は物語の大半がファンタジーだったとしても、大事なツボをピンポイントで押さえていたからです。

 

「ぼっち・ざ・ろっく」は確かにロックはしていないかもしれませんが、「音楽」そのものは物凄く大事にしています。演奏の描写がとにかく細かくて正確なのはもちろんのこと、私が何より感心したのは演奏中の言葉によらないコミュニケーションやアンサンブルの演出すね。私はコレ、音楽の本質だと思っています。

 音楽とは演者と演者、演者と聴衆が皆で時間と空間を共有する営みで、そこに言葉はありません。そして、この言葉無しのコミュニケーションに関して本作の描写は目を見張るものがあります。未熟なうちはみんなが自分のパートに精いっぱいで周りの音を聴けないから演奏がグダグダになる。成長したら今度は仲間の器材トラブルを皆でカヴァーできる。さらにもう一歩進めば今度は聴衆とも一体感を共有して大きな喜びを知る...こういったことが優れたアニメ表現で丁寧に描写されているのです。ゆえに私は「ぼっち・ざ・ろっく」は、例え物語の大半がファンタジーだったとしても、「演奏シーンで音楽の本質を描き切る」という一点突破で音楽モノとして成立していると思うのです。

 

(演奏中の視線・表情)

 

 無論「ぼっち・ざ・ろっく」が唯一の正解ではなくて、逆のアプローチも考えられます。つまり、物語の中で1つでかい嘘をつくために、その他を徹底的にリアルに作り込む、ということです。これは軍服から兵器まで本物そっくり(或は本物を実際に使う)につくり込み、その上に虚構の人間ドラマをのっける戦争映画なんかが当てはまるでしょう。

 さらに作品のトーンによってルールを意識的に使い分けることも重要です。例えばスペース・オペラの代名詞であるスター・ウォーズでは真空であるはずの宇宙空間で平気で爆発が起こったり、レーザー光線の発射音がプシュン!プシュン!って鳴りまくってます。一方で超リアルなSF映画である「ゼログラビティ」は宇宙空間の完全無音演出で凄みを出してきます。物語には荒唐無稽なものも、超リアルなものもありますが、いずれにしても作品の中でルールを統一しておく必要があるでしょう。

 

(映画「ゼログラビティ」これは映画館で観とけばよかったと心底後悔)

 

 「物語」というのは所詮「嘘(虚構)」。でもだからといってなんでもアリにしてしまえば、客はしらけてしまう。嘘を嘘として成り立たせるために、作り手は物語の中でリアルとファンタジーのバランスをとる必要があるのです。作品によってバランスが取れるポイントは様々ですが、うまいことバランスが取れているものは世間から認められ、崩れてしまっているものに対してはツッコミで炎上してしまう、というのが令和の現状ではないでしょうか。

 

 

  おわりに

 

 近年は、どのジャンルでも考証がかなり丁寧に行われるようになって、変な描写はかなり減ったと思います。これはSNSの発達によるところが大きいでしょう。おかしいところがあれば一気に炎上してしまうので、作り手は嫌が応にも意識せざるを得ません。話題作ならなおさらです。

 しかし、結局のところ許せる許せないの線引きはその人次第なところがあるので、この問題は面倒なのです。私にしたって、「ぼっち・ざ・ろっく」を許容できるのはロックやバンドというものへのこだわりが少ないから。これがジャズやクラシック、吹奏楽だったらそう簡単にはいきません。クラシックものののだめカンタービレ」は良かったですよ(ただし実写はのぞく)!ただ「坂道のアポロン」「BLUE GIANT」はダメだったんですよね~。「響けユーフォニアム」は恐ろしくて観れません!そのへんを語っていたらまた長くなるので、いずれ機会があればその時に。

 

 あと、自分がどうであれ、問題なく楽しめている人に水をさすようなことは絶対に良くない!せっかく興味を持ってくれたご新規さんを遠ざけてそのジャンルを滅ぼすのは、そのジャンルのマニアなのです(酔っぱらっているときは特に危ない)。自戒を込めて。

 

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