今年は、仕事の変化があり、秋以降、公私ともに多忙を極めたので、ブログを更新するのも数か月ぶりです。
とても忙しい1年間でしたが、コンサートは、夏のザルツブルク音楽祭も含め、それなりの回数行きました。ただ、自宅で音楽を聴く時間はあまり取れなかったので、今年購入したCDやBDは、例年の半分程度(30枚弱です)です。
今年聴いた数は少ないですが、レベルの高い聴きごたえのある作品が多かったように思います。ちょうど大晦日ですから、私が選んだ今年のベスト・アルバム(CDだけでなくBDも対象です)3作品をご紹介します。
第3位 シューベルト歌劇「フィエラブラス」全曲(BD)
出演者は、タイトルロールのフィエラブラスがミヒャエル・シャーデ(テノール)、他にドロテア・レシュマン、ユリア・クライター(ソプラノ)、ゲオルク・ツェッペンフェルト(バス)など主要な配役がドイツ系の実力派歌手で固められており、それぞれ見事な歌唱を聴かせています。指揮は、新日本フィルの音楽監督だったインゴ・メッツマッハー、管弦楽ウィーン・フィル。シューベルトの美しいメロディをリズミカルに活き活きと演奏しており、まったく飽きることがありませんでした。シューベルトのオペラは、ほとんど演奏されないですが、この公演は成功だったようなので、上演機会が増えることを期待したいと思います。
なお、この作品を第3位に選んだのは、演奏内容が良かっただけでなく、テーマの今日性にあります。中世ヨーロッパに君臨したカール大帝がイベリア半島を支配していたイスラム教徒のムーア人と戦ったという史実に基づいており、ムーア人の王子であるフィエラブラスは、カール大帝と対立しますが、最後に和解してハッピーエンドで幕が下りるという筋書きです。今、ヨーロッパはキリスト教徒とイスラム教徒との共存が危ぶまれていますが、この歌劇のように明るい結末となることを願ってやみません。昨年、ザルツブルク音楽祭が上演した理由の一端もここにあるような気がします。
第2位 シューマン オラトリオ「楽園とぺリ」全曲(SACD & BD Pure Audio)
この作品が素晴らしいのは、SACDとBD(Pure Audio)の2種類の高音質メディアで演奏を聴き比べることができることです。ロンドン交響楽団は以前からこの形態でリリースしていますが、ハイレゾ時代にふさわしい取組ですし、価格もSACDの料金でBDをつけているという感じなので、とても好感が持てます。ぜひ、継続してもらいたいものです。
演奏も音質に負けず劣らず素晴らしい内容です。この曲は、演奏時間が1時間半くらいかかる上に、6人のソリストと合唱が必要な大曲ですが、ラトルはオケをはじめすべての演奏者を的確にハンドリングして、詩情あふれる演奏を展開しています。特に、ナレーターのマーク・パドモア(テノール)の存在感がこの作品の成功に大きく寄与しています。(彼とラトルは、ベルリン・フィルのマタイ受難曲でもタッグを組んでいました。)
ラトルは、この演奏だけでなく、同時期にリリースされたワーグナーの「ラインの黄金」(管弦楽 バイエルン放送交響楽団)でも見事な演奏を聴かせてくれており、今や巨匠というにふさわしい指揮者となりました。これからの録音が楽しみです。(指環はぜひ全曲吹き込んでもらいたい。)
第1位 ブラッド・メルドー 10 Years Solo Live(CD)
私にとって今年はピアノの当たり年でした。昨年末に出たポリーニのベートーヴェンのソナタ全曲盤、メジェーエワのモーツァルトのピアノ・ソナタ演奏会、ザルツブルグで聴いたヴォロドスのシューベルトのピアノ・ソナタなど多くの素晴らしい演奏を聴くことができました。そして、このCDは、その白眉といえる名演集です。
この作品は、2004年から2014年の10年間にメルドーがヨーロッパで行ったソロ・コンサート40回の中から彼自身が選んだ19公演の32曲を収録したもので、5時間にわたってオリジナルだけでなくスタンダードやレイディオ・ヘッド、ニルヴァナなどのロックの曲などバラエティ豊かなナンバーを聴くことができます。
演奏内容ですが、一言でいうとピアノという楽器の無限の可能性を感じられるものです。これほどカラフルな音色が1台の楽器から奏でられること自体驚きですが、メルドーの名人芸のなせる技でしょう。最初は、5時間聴くのはたいへんかもしれないと危惧していましたが、聴き始めるとグイグイとメルドー・ユニヴァースに引き込まれてしまい、まったく長さを感じさせませんでした。今年のベスト・ワンにふさわしい傑作です。
また、収録曲の並びはランダムではなく、彼自身が明確な意図をもって決めたもので、本人による詳細な解説がブックレットに記載されており、それを読みながら聴くことで演奏の興趣がさらに深まるように感じられます。
ジャズ愛好家ばかりでなくすべての音楽ファンに聴いてほしいアルバムです。
来年も今年以上に素晴らしいアルバムに出会いたいと願ってやみません。
終わりに、皆様も良い新年をお迎えください。