令和4年4月某日。各地から桜の開花情報が届き始めた、穏やかに晴れた平日。

 

最近増えてきた「建築」の現場。なんと海に面した住宅街。新旧の家屋が立ち並ぶなんとも閑静な、車も人もあまり通らない裏通り。路地の先に見える海には春の光がキラキラと跳ね、波打ち際では幼い子どもを遊ばせる一組の親子が見える。

 

裏通りでの通行止め。バイク、自動車を迂回路に誘導する、比較的やさしい現場。春の陽気も手伝い、平穏な一日が過ごせそうだ。

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

1台の乗用車が接近する。声をかけ迂回をお願いする。一瞬怪訝(けげん)な表情をされるが迂回路に回ってくれた。申し訳ありませんね、なにぶんにも通り抜けできないもので…


軽自動車だ。なんかめんどくさそうな運転手。「なんだ、通れないのか!?」「はい、申し訳ございません」「チッ!」

にらみ付けていきやがった。

いや、俺に言われても。資材運搬トラックが道をふさいでんだから、仕方ないだろ…

 

バイクが近づいてきた。赤旗を振り停車を促す。ところがスピードを落とさない。突破するつもりか?なお旗を激しく振る。ギリギリまで来て急停車した。「すみません、迂回をお願いしております」「はぁ?いつも通ってんだぞ?」「申し訳ありません」「めんどくせーな!」

 

捨て台詞をはいて行きやがった。だから俺のせいじゃねーだろがっ!文句があるなら家を建ててる本人に言いやがれっ!

と、バイクが見えなくなってつぶやく…

 

自転車だ。地元の方らしい、年配の男性。無線で現場に確認すると自転車も通れないらしい。

「申し訳ありません、自転車も迂回をお願いいたします。降りて手押しなら通れますが」「…(無言)」そのまま通過しようとする。「すみません、通り抜けできませ~ん!」並走しながら声をかける。男性は自転車を停め「昨日は通れたんだよ、迷惑なんだよ!」罵声を浴びせて迂回路へ回った。

 

…、な…、なんだと、この野郎!文句言わずに迂回しやがれっ!ぐだぐだ言ってっと、ユンボですくって合材で固めてそこの海に沈めっぞ、この野郎!!!

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

波打ち際の親子もお昼ご飯を食べに帰ったようだ。

 

 

おしまい。