芳子さんには
仏壇の前で座っているのが誰なのかすぐにわかった…


そして歓迎されていない事も…



あわてて部屋を出た時…山中さんが電話を終えて戻ってきた


ここは亡くなった妻の部屋だったんです 裁縫が得意でね、よく子供達に服を作ってやってました…



山中さんが言うには

そろそろ処分しようと思っていたが
ついつい忙しさに負けて先延ばしにしていた

君と一緒に暮らすまでにはかたづけようと思っていた…



芳子さんは複雑だった…

山中さんには死別した妻がいるという事は承知していたが、残された遺品や、隅に追いやられたような仏壇…その前で、うなだれたように座る彼の奥様らしき人を目の当たりにして
まだ2年しか経っていない…



その日は山中さんに食事を作ってあげるつもりだったが早々に引き揚げて帰った…



その日から
亡くなった奥様の存在が頭から離れなくなった



そして山中さんに奥様のお墓参りをしたいと申し出た


ところが、
お墓は まだないという事で遺骨は今だ仏壇の中に納めていると言われ芳子さんは驚いた…


そうよね…
自分がまだ
お墓にも
入れずにいるのに、主人が
再婚相手を
家に入れるなんて…奥様にしたら納得いかないはずよ…


芳子さんは、
山中さんに
早くお墓を建てて奥様の遺骨を納めてくれるよう頼んだ…



山中さんは
墓はそのうちに
建てるつもりだから心配いらないと言った…



ある日の午後
芳子さんは
仏壇に供える花
を買って
山中さんを訪ねた


先にメールで伝えてはいたが、返信がない…



会社に電話してみたら、今日は家の片付けで休んでいるというので家にいるはずだ



家の前まできて
もう一度
携帯に電話してみた
何度か鳴らしてみると、やっと山中さんが出てくれた


今、妻のものを片付けていたところで家の中もちらかっているから
またにしてくれないか
というのだ…



こちらから話す間もなく切られてしまった…



仕方なく帰ろうとした時、庭の方でガタガタガンガン音がしたので門を少し開け、のぞくと…



山中さんが足でタンスを踏みつけて壊していた…



その傍らで喪服姿の女性が立っていた…



奥様?…



芳子さんは震えが止まらなくなった亡くなった奥様を見たからではない…


よーく見ると
山中さんが足で
踏み壊しているのが仏壇だったから


それ以来
芳子さんは
山中さんとの再婚を考え直し交際もやめた



この結果が亡くなった奥様の嫉妬による策略なのか、山中さん自身の人間性に疑問をいだいた芳子さんの決断なのか…



自分は後者を信じる



芳子さん(仮名)
の出来事…



芳子さんは
自分の友人の母



友人が小学生の頃離婚して
女手一つで
二人の子供を
育て上げた…



友人が就職し、弟も大学生になり、それぞれ家を出て新生活を始めた頃芳子さんにも新しい出逢いが訪れた…



芳子さんが勤務する会社の取引先の山中という社長さんで、度々芳子さんの会社に出入りする内、二人は恋に落ちた…



山中さんは2年前に奥様をガンで亡くし、3人の子供がいるが、それぞれ所帯を持ち独立して、今は大きな屋敷に山中さんが独りで住んでいる


お互いの子供達も二人の交際に反対する事なく、むしろ苦労してきた二人が結ばれる事を強く望んだ…



トントン拍子に話が進む中で、芳子さん一人悩んでいた…



それは、まだ二人が交際している事を、それぞれの子供達に知らせていない時の事…



芳子さんは初めて山中さんの家につれて来られた



南向きの
大きな門構えで
右手にガレージ
左手には庭が広がっていて
真ん中の敷石を歩いて東側に回ると玄関がある…



男ヤモメの家にしては庭も手入れされており、玄関回りもスッキリと片付けられている…


芳子さんは玄関の前で待たされ
山中さんが北側の裏口から中へ入り玄関の鍵を開けてくれた…



ガラガラガラガラ玄関から中へ入る時…フワッと中から風がたち、ユリの花の香りがかすかに匂った…



靴を脱ぎ
左手の応接間に通された…



暖炉とピアノ、天井にはシャンデリア、昭和40年代に建てられたようでその頃を象徴するようなインテリア


暫くは談笑していたが、山中さんが家の中を案内するという…



まずはキッチン…
やはり長年使い込まれたようで流し台やガスコンロなどは古い…



キッチンは君の好きなようにリフォームするから


と山中さんは言う

次は居間



その時
山中さんの携帯に仕事の電話が入った…


自由に見て
と言うように
山中さんは
指先と顎でグルッと円を書き片手の手のひらを鼻の前で立てて
ゴメン という仕草で応接間の方へ行った



芳子さんは
トイレや風呂場などを見てまわり、南側の座敷も見て回った…
座敷は続き間になっていた


南側は陽当たりもよくて板張りの縁下(えんげ)から庭が見渡せとても気にいった


続き間になっている座敷の片方には床の間があり、立派な掛け軸が下がっている…



その隣に普通は仏壇があるはずだが何もない…



仏壇は?もしかしたら他の部屋に置いてあるのかしら


そう思いながら
板張りの縁側に立ち右手を見るとドアがあった



押し入れか物置かそれとも、もう一室あるのかしら?

山中さんに聞いて見ようかと廊下に出たが、まだ電話で話ている…



芳子さんは気になって縁側にあるドアの前に立ち少しだけドアを開けて中を覗いた…


和ダンスが見えてユリの花の香りがする…


ドアを大きく開けて覗くと部屋になっていた…



和ダンスが並び
古いミシンが置かれていた…


ドアを開けた右手にも洋服ダンスが置いてある


納戸だわ


と思って中に入ると右奥に小さな仏壇が置いてあり、仏壇の前に黒い喪服(着物)を着た女の人が頭を前に垂れて 長い髪をバサッと顔に覆いかぶせて座っていた…



思わず
ひぃーっ
と声をあげてしまった…



次回つづく…



少し離れたところに、お婆さんの息子らしき人が立っていた…



とても若い
学生服を着た
その男性は
じぃーっと
こちらを見ている


その姿を見た時
すべて理解できた


お婆ちゃん
お弁当持ってゆく?持ってこようか


お婆さんは
目を細めて
ニッコリ笑い
息子さんの方へ
歩いていった…



不思議なことに
手押し車なしで歩いてゆく
その後ろ姿が
どんどん若く見えてくる…



自分はA子さんに知らせるため
急いで店の中に
入った



A子さんは
先ほどから外の様子を見ていた…



なかなか入って来んで 泣いとるが 心配しとって…



そう言うと
また仕事を始めた


さっき お婆さんがお別れに来た事、息子さんと一緒だった事
話すのをやめた…


しばらく経って
数日前の朝10時頃大通りの交差点で歩行者と同じ方向から右折しようとした大型ダンプが歩行者を巻き込む事故を起こした



被害者は手押し車ごと巻き込まれ
後輪にひかれて
即死だった…という事がわかった


それがいつもお弁当を買いに来ていた、あのお婆さんだった事をA子さんは知らない



お婆さんは若い時高校へ上がったばかりの一人息子を事故でなくし
その事が原因かどうかはわからないが、ご主人と離婚して
それ以来ずっーと独りで生きてきたそうだ…



A子さんは、お婆さんが来なくなった事を
不思議に思っていたが
日々の生活に追われ そんなお婆さんがいたという事も忘れてしまったようで…



自分は
お弁当を買いに
くるたびに
お婆さんの事を思い出す…




お婆さんにとってどんな人生だったんだろう…


幸せな人生だったのだろうか…


人は日常生活の中で出逢いと別れを繰り返す…



ほんの小さな出逢いは覚えて心に留めて置く事さえできない…