先月の27日(火)のことなんですけど、何気なくTVを観ていたらNHK総合で、俳優の谷原章介さん、NHKアナウンサーの赤木野々花さんが司会の『うたコン』が始まり、映画音楽&朝ドラ「虎に翼」「男はつらいよ」 という特集で、僕は映画好きで、朝ドラも毎回観ていますし、寅さんも大好きですから、『うたコン』観てみました。
放送日だった8月27日は『男はつらいよ』シリーズ第1作の公開日で、ファンの間で「『男はつらいよ』の日(寅さんの日)」と呼ばれる日なんだそうで、寅さんの妹・さくら役を全作品で演じてこられた倍賞千恵子さんが『うたコン』に初出演し、『さくらのバラード』を歌われたんです。
その歌唱がとても感動的だったので、今日は『さくらのバラード』について呟きたいと思います。
『さくらのバラード』は作詞を『男はつらいよ』の生みの親であり監督の山田洋次さんが手掛けられ、作曲は『男はつらいよ』のテーマ曲も作曲された山本直純さん。
映画本編ではシリーズ第16作『男はつらいよ 葛飾立志編』で映画のオープニング、寅さんの夢のシーンで1度だけ歌われた幻の名曲なんです。
西部劇の設定で、西部劇によく出てくる酒場のシーンから始まります。ファーストシーンからすぐ「さくら」が歌い出すのですが、周りのみんなが泣き出すような本当に綺麗な歌声なんです。
歌詞も西部劇風に替えてありますが、倍賞さんの兄を想う、哀しくも美しい歌声を堪能できる唯一のシーンです。でも途中で止められてしまうんです。「いいなと思ったらレコードを買って」ということだったかもしれないですね。
倍賞さんは松竹歌劇団(SKD)ご出身で、松竹映画にスカウトされて女優になられた方ですから、歌もダンスも見事なんです。
1962年に大ヒットした倍賞千恵子さんのデビュー曲『下町の太陽』は山田洋次監督で映画化され、第4回日本レコード大賞新人賞を受賞されました。NHK紅白歌合戦にも4年連続出場し、歌手としても素晴らしい実績をお持ちです。
『さくらのバラード』
山田洋次:作詞/山本直純:作曲
倍賞千恵子:歌
江戸川に雨が降る
渡し舟も今日は休み
兄のいない静かな町
どこに行ってしまったの
今頃何してるの
いつもみんな待っているのよ
そこは晴れているかしら
それとも冷たい雨かしら
遠くひとり旅に出た
私のお兄ちゃん
どこかの街角で見かけた人はいませんか
ひとり旅の私のお兄ちゃん
❖さくらのセリフ
『いつもそうなのよ いつも
さくら、しあわせに暮らせよって
もう帰らないって
あの時言ったけど…』
そこは晴れているかしら
それとも冷たい雨かしら
遠くひとり旅に出た
私のお兄ちゃん
どこかのお祭りで見かけた人はいませんか
ひとり旅の私のお兄ちゃん
この曲の倍賞さんのセリフの部分ではいつも胸がキューンと締め付けられますね。
倍賞さんは渥美清さんが亡くなった時、寅さんとの「お別れの会」で弔辞の後に『さくらのバラード』を献歌されていました。
『男はつらいよ』関連のイベントなどに参加されると、サプライズで歌われたりされていました。倍賞さんにとっても「男はつらいよ」のファンにとっても大切な曲なんだなと思います。
この曲を取り上げてくれた『うたコン』はなかなかやるなーと思いました。
倍賞さんは現在83歳におなりです。それでも凛とステージにお立ちになり、夫である作曲家の小六禮次郎さんのピアノで『さくらのバラード』を切なく、優しく、温かく、とても美しい澄んだ歌声で僕たちの胸に届けてくれました。
長年、共演し本当の兄の様に慕われていたのでしょう。その歌声に僕は涙が止まりませんでした。こんなに感動的な歌声を聴いたのは久しぶりでした。
『さくらのバラード』が唯一聴ける『男はつらいよ 葛飾立志編』は、寅次郎が「愛情」というものをどうとらえているかが、自身の言葉によって初めて語られることでも知られています。
「あー、いい女だな、と思う。その次には話をしたいなあ…、と思う。ね。その次にはもうちょっと長くそばにいたいなあ…、と思う。そのうち、こう、なんか気分がやわらかーくなってさ、あーもうこの人を幸せにしたいなあ…って思う。この人のためだったら命なんかいらない、もうオレ、死んじゃってもいい、そう思うよ。それが愛ってもんじゃないかい」
いい台詞ですよね〜。こんな台詞を言えるのは、渥美清さんしか思い当たらないですね。この台詞を自然に、嘘臭くなく寅次郎というキャラクターとして言えるっていうのは並の役者にはできませよね。
一見、幼稚に聞こえるかもしれないですが、人間の愛情に対する本質を言い得ているようで胸を打たれます。
気取ってもいない、難しい言葉も使ってはいない、だからこそ誰の胸にも届くし、心を震わせるのだと感じます。寅さんって、たまに良いことをいうんですよ〜。
倍賞千恵子さんは現在、音楽に重点を置いた芸能活動をされています。歌謡曲からポピュラー、スタンダード、童謡・唱歌まで幅広いジャンルを歌いこなすことに加え、よく伸びるソプラノと日本語の発音の美しさから歌手としての評価も非常に高く精力的にコンサートを行なわれています。
歌もいいですけど、女優としてもまた素敵なお芝居を魅せて欲しいとも思います。こんなにいい女優さんを使わないなんてもったいないですよ。
チェーホフの戯曲『桜の園』のラネーフスカヤを倍賞さんで観てみたいですー。