手塚治虫さんの名作漫画を実写化したテレビ朝日ドラマプレミアム『ブラック・ジャック』が6月30日に放送されました。

 

高橋一生さんが演じた主人公ブラック・ジャックの再現度の高さや、子役の永尾柚乃ちゃんが演じるピノコの愛らしい演技がSNS上でも話題を呼んでいました。

 

『ブラック・ジャック』は、“医療漫画の金字塔”として色褪せることなく、たくさんの人に愛され続け、連載開始から50年という節目を昨年迎えました。

 

連載50周年記念の特別プロジェクトも多数展開されていましたね。生成AIを活用した新作漫画の制作や、「ブラック・ジャック」はどうやって誕生したのか、作品に込められた深いテーマやメッセージなど、作品の魅力を余すところなく紹介した『手塚治虫 ブラック・ジャック展』が各地で開催されていました。

 

今年の3月には、アニメーションでブラック・ジャックを声で演じた大塚明夫さんと、映画、ドラマ、CMなどで幅広く活躍している大迫一平さんで、東京・銀座 博品館劇場にて、『「ブラック・ジャック」漫劇!!手塚治虫 第5巻 The Fusion of Comics & Theater』の上演がありました。

 

そして24年振りとなる今回のテレビドラマ化です。

 

ドラマ化の発表の時も、このBlogに『ブラック・ジャック』のことは書かせてもらいましたが、その時から今回のドラマ版の放送を楽しみにしていました。ドラマ版を観て、色々と思うところもあったので、今日は感想を書いておこうと思います。

 

テレビ朝日ドラマプレミアム

『ブラック・ジャック』

6月30日(日)21時~22時54分(テレビ朝日系)

©︎テレビ朝日/東映

 

《キャスト》

高橋一生 石橋静河 井之脇海 永尾柚乃 山中崇 山内圭哉 味方良介 早乙女太一 千葉哲也 玉置孝匡 宇野祥平  松本まりか 竹原ピストル 奥田瑛二 橋爪功

 

《スタッフ》

◎原作:手塚 治虫『ブラック・ジャック』

◎監督:城定 秀夫

◎脚本:森下 佳子

◎音楽:大間々 昂

◎ビジュアルコンセプト・人物デザイン監修・衣裳デザイン:柘植 伊佐夫

◎造形・特殊メイク:松岡 象一郎

◎制作:テレビ朝日、東映

 

『ブラック・ジャック』は手塚マンガのなかでも「映像化された回数」が一番多い作品です。過去に実写作品でブラック・ジャック役を演じたのは、宍戸錠さん、加山雄三さん、隆大介さん、本木雅弘さん、岡田将生さん。

 

その中でも僕が好きなのは、原作が連載中の1977年にはじめて映像化された、宍戸錠さんがブラック・ジャックを演じた映画『瞳の中の訪問者』です。

 

◎原作:手塚治虫 

◎監督:大林宣彦 

◎脚本:ジェームス三木

◎出演:宍戸錠、片平なぎさ、山本伸吾、志穂美悦子、峰岸徹 ほか

 

制作はホリプロ系のホリ企画制作、配給は東宝。併映作は花の高三トリオの卒業コンサートを記録したドキュメンタリー『昌子・淳子・百恵 涙の卒業式〜出発〜』。片平なぎささんを、山口百恵さんに継ぐ「ホリプロ」のアイドルとして売り出そうと企画された作品です。

 

原作漫画「春一番」の映像化で、患者として登場する千晶(片平なぎささん)を主人公とし、宍戸錠さんが演じるブラック・ジャックはメインではなくゲストとして扱われています。インターハイを目指してテニスの特訓中にコーチの今岡(山本伸吾さん)の打ったボールが左目に当たり負傷した千晶。医師からは回復は絶望だと診断されます。

 

密かに千晶を愛していた今岡は責任を感じ、ブラック・ジャックに手術を依頼します。手術は成功し奇跡的に回復する千晶。しかしある時から、千晶の目には周りの人には見えない「幻の男(峰岸徹さん)」が見えるようになり…。

 

大林監督の『HOUSE』が好きな人なら「これもありかな」と思ってもらえる作品だと僕は思っているのですが、公開当時は手塚ファン、映画評論家から罵倒、酷評されたそうです。あの世界観についていけない人は多いとは思いますけど、僕は決して失敗作とは言いたくないです。宍戸錠さんのブラック・ジャックはとても色気があるし僕はお気に入りです。

 

手塚治虫さんのご子息の手塚眞さんは「大林さんは失敗作とおっしゃってますけど、失敗作には見えなかったですね。いかに映画の中の虚構を楽しめるかに満ちた作品で、まさに大林さんらしい大林映画ですね。大林映画としてもっとやりたかったことがあるんじゃないかと思います。すごく意外だったのは、手塚治虫映画になっていたことです。手塚臭と大林臭の両方あり、そのへんが普通の映画と比較した時に、若干臭みが強いなと思います(笑)」とおっしゃっていて、僕もそうだなぁと思います。

 

もう一つ好きなのは2011年4月にNTV系で放送されたドラマ岡田将生さんがプラック・ジャックを演じた『ヤング ブラック・ジャック』です。僕、岡田将生さん好きなんですよね〜(笑)

 

ブラック・ジャックがその名を名乗る前のエピソードをオリジナルストーリーで構成し、ブラック・ジャックの生い立ちも本名といった設定も原作と異なるのですが、本間丈太郎に命を繋いでもらったこと、タカシから受けた皮膚提供、どうして医師を目指したのかなど、独自の倫理観と覚悟の所在などをスピーディに描いていました。若き日の仲里依紗さん、賀来賢人さん、小澤征悦さん、波瑠さんたちも魅力的に描かれています。皆、現在でも第一線で活躍されていて素敵です。続編が作られなかったのが残念でした。

 

アニメ作品だと、出﨑統監督版と手塚眞監督版がありますね。

 

出﨑版は劇画調でキャラクターデザインをされていて、さらに止め絵(その場面を印象づけるため、止まった絵で見せるカット)と光彩(画面に光が差し込んだように見せる手法)の演出を組み合わせた出﨑統さん特有の演出技法が冴え渡り、原作の持つハードボイルドな面を強く打ち出した作品になっていました。

 

ブラック・ジャックの声を担当されたのは大塚明夫さん。いいですよね〜大塚さんの声。以降も「ブラック・ジャックといえば大塚明夫」言われるほどのハマリ役となられました。

 

出﨑統さんといえば『エースをねらえ!(1973年)』、『ベルサイユのばら〔1979年)』が印象深いです。劇場用アニメの『哀しみのベラドンナ〔1973年)』も大好きです。

 

手塚眞版は、原作の魅力に焦点を当てたつくりになっています。手塚治虫さんのご子息ですから「手塚治虫のDNA」を色濃く受け継いでられて、ストーリーもキャラクターのタッチも原作に忠実描かれています。僕はどちらかというと出﨑版よりこちらの方が好きですね。

 

『ブラック・ジャック』の映像化作品はそれぞれに異なる魅力がありますよね。原作の持つ深いテーマとキャラクターの魅力を活かしつつ、その都度、原作の枠組みに囚われず独自性のあるストーリーと、監督たちの作家性を尊重し、実験的なことにも挑戦してきた歴史を感じます。それは手塚プロダクションの懐の大きさなんじゃないかと思います。

 

さてさて、24年ぶりに実写化された今回のTVドラマ版『ブラック・ジャック』はどうでしたかー?

 

『ブラック・ジャック』は、1973年11月から1983年10月まで、週刊少年チャンピオンで連載され、単行本は全25巻、全242話におよぶ大長編です。この作品は、手塚治虫さんの円熟期とよばれる42歳から52歳までの10年間に渡って執筆された手塚治虫さんの代表作であると同時に、日本の漫画史に確固たる地位を築いた不朽の名作です。読まれた方は誰もがそう感じることでしょう。

 

そんな作品をアニメや実写化するのは相当、大変なことだとは重々承知しています。作品のファンそれぞれに思い入れもあるし、譲れないものもあるし…。

 

主人公であるブラックジャックは、高い医療技術と独自の倫理観を持つ無免許医です。彼が金持ちだろうが、貧乏だろうがどんな患者にも高額な医療費を要求し、困難な手術に果敢に挑む姿が印象的で、時には、どうしてそこまでと思うような自らの命を危険に晒してでも患者を救おうとする姿に読者は胸を打たれる訳です。

 

作品全体を通して、医療とは何か、医師の役割とは何かを深く考えさせられる場面が多数あり、読者に強いメッセージを残してくれます。

 

今回のドラマ版で、それを感じることが出来たか…観ている僕の心に何かを残してくれたかと問われれば…残念というしかなかったです。

 

連載開始から50周年という記念の作品ということもあり、期待値が高すぎたのかも知れません。子供の頃から大好きな作品の一つですし、僕は、ブラック・ジャックという男に惚れてますから。勝手なこと言ってますね(笑)

 

主演の高橋一生さんは実写ドラマ化決定のニュースの時点で「厳しく観ていただきたい」とコメントしていますし、人物デザイン監修・衣装デザインを担当した柘植伊佐夫さんの公式Xでは放送後に「国民的な名作ですのでさまざまな思いやご意見があると思います。そのすべてが愛情だと感じております」と投稿されています。

 

この言葉通り、受け手の正直な批判が届くことも、作った方々は覚悟されているようなので正直に僕も言うことにしました。

 

面白くなかった訳じゃないんです。ブラック・ジャックを演じた高橋一生さんには、ビジュアルも含めて何も文句はありません。高橋さんはとても魅力的でしたし、何しろ彼は声が良いので好きな俳優さんの1人ですし。

 

その彼の良さをもっと映像で引き立たせて欲しかったですね。もったいないですよ。

 

原作の複数のエピソードを、脚本家の森下佳子さんが一つのストーリーとして再構成されていましたが、詰め込みすぎじゃないかなと感じました。

 

◎1話『医者はどこだ!』

◎31話『獅子面病』

◎51話『ふたりの黒い医者』

◎104話『タイムアウト』

◎140話『落としもの』

 

この5つだと思いましたが、3つくらいでよかったんじゃないかなと思います。エピソードを並べるより、もっとブラック・ジャックと言う人間の内面を掘り下げて欲しかったです。彼が背負った苦悩や悲しみとか。

 

ブラック・ジャックは神業ともいえる手術手腕を誇る驚異的な天才外科医で、常に冷静でドライで冷酷に見えるので絵に書いたようなダークヒーローと捉えられがちですが、そんな単純なキャラクターではありません。

 

患者とその関係者が置かれた状況を見据え、密かに心を痛める優しさも持ち合わせているし、要所要所で壁にもぶつかり慟哭もするし、時には滑稽な姿もさらけ出す。そんな実に多面的であるがゆえに、僕たちはブラック・ジャックというキャラクターに魅かれるのです。そこを描いてくれないと…。

 

テレビ朝日と東映が制作なので、どこか『相棒』とか『科捜研の女』のような展開がミステリー的なムードになっていたり、美術セットも刑事ドラマっぽくてなんだか寂しかったです。気になったのは、ブラック・ジャックの自宅屋敷です。崖の突端に立っているはずなのに、どうしてもそう見えないところが辛かったです。カメラが引くと突端には建っているのに、屋敷のアップになるとそう感じないんですよ〜ファンは細かいことにうるさいんですよ〜(笑)

 

映像ももっと凝って欲しかったですね。リアルじゃなくていいんですよ。原作は漫画なんですから。なんだか中途半端な感じでしたね。作り手の、私たちはブラック・ジャックという作品をこう捉えています。こう解釈しています。そしてこれを伝えたいのです。と言うものが特に感じられなかったのが本当に物足りなかったです。

 

ドクター・キリコを女性に変更したことが原作ファンから批判を浴びています。製作側は変更した理由をあれこれ語ってはいますが僕はやはり原作通りの方が良かったんじゃない?と思います。

 

飯田サヤカプロデューサーがインタビューで、今回のドクター・キリコについて「海外で安楽死をサポートする団体には、なぜか女性の姿が多い印象があった」「脚本の森下佳子さんと相談しているうち、『優しい女神』のような存在が、苦しむ人のそばにいて死へと導くのかもしれない、と想像するようになった」と、改変の理由を語っていましたが…そんなことで納得できない!(笑)

 

ドクター・キリコを演じた、石橋静河さんには何の罪もありません。本当に。

 

僕は、ドクター・キリコを無理に登場させることもなかったと思っています。ピノコもいなくても良かったかなと思います。ピノコ役の永尾柚乃ちゃんは可愛かったですけど。

 

助手・ピノコは『ブラック・ジャック』と言う作品において重要な存在ですけれど、ピノコの生まれたエピソードはとても印象的ですし、ここを描かずしてピノコの存在はないと思うのです。

 

第12話で双子なのに生まれてこれなかった奇形腫として登場したピノコは、ブラックジャックによって摘出・組み立てられ、以降、彼とともに暮らすようになります。

 

見た目は幼女ですが、「18歳の淑女」を自称するピノコのキャラクターは、読者に強烈なインパクトを与えました。ピノコはブラックジャックにとって家族であり、助手であり、時に手術の鍵を握る存在です。ブラックジャックもピノコを深く愛しており(妬けちゃう〜)、白血病で生命の危機に陥った時には「お前にだけは生きて欲しかった」と語りかけるシーンには心を打たれた読者はたくさんいるでしょう。

 

このように、作中では登場人物たちの悲哀や苦悩、喜びなどの感情が丁寧に描かれているんですよ。ブラックジャックとピノコに代表される濃密な人間ドラマが数多く展開されてるのです。

 

それこそが、『ブラックジャック』という作品の大きな魅力の一つなんですから、そこを見誤ってしまったらどんなにお金をかけても良い実写化はできないと思います。

 

日本の名だたる名医と言われている方々も「大変、影響を受けた」と言われている作品なのですからね。

 

やはり『ブラック・ジャック』と言う作品は実写化するなら単発のスペシャルドラマではなく、連続ドラマとして、ブラック・ジャックの子供時代から、ピノコとの出会い、ドクター・キリコとの確執など、丁寧に描くべきだと思いました。世界に通用するものが今なら作れると思いますよ。

 

『火の鳥』だって、これだけCGやVFX技術が進んだのだから、完璧な映像化が出来ると思います。『ゴジラ』が特殊効果賞を受賞したのですから『火の鳥』もアカデミー賞、夢じゃないですよ。火の鳥(鳳凰編)ぜひ映画にして欲しいです。

 

色々、生意気なことを言ってしまいましたが、高橋一生さんのブラック・ジャックまた観てみたいです。期待しています。