先日、amazon prime videoでお気に入り登録をしたまま観ていなかった『WEEKEND ウィークエンド』という映画を観ました。
今日はその感想を書いておきます。
『WEEKEND ウィークエンド』は、2011年に製作された、イギリス映画で、2012年に第21回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で日本初上映された作品です。
東京国際レズビアン&ゲイ映画祭は、1991年10月、ILGA日本代表の南定四郎さんが「芸術表現を通じて社会におけるゲイの認知を促す」ことを目的として、「ゲイアートプロジェクト」を立ち上げ、映画祭を開くことを企画したことが始まりです。
『ILGA』というのは、国際レズビアン・ゲイ協会 (International Lesbian, Gay, Bisexual, Trans and Intersex Association)の略称です。600以上のレズビアンとゲイ、トランスジェンダーそしてインターセックス関連団体が参加する国際的な協会なんです。
第1回の名称は「東京国際レズビアン・ゲイ・フィルム&ビデオ・フェスティバル」で会場は、「中野サンプラザ6階研修室」だったんですよ〜。中野サンプラザも閉館してしまいましたね。僕もこの場所には色々と思い出があります。
回を重ねるごとに規模も大きくなり、上映会場も増えて、2015年7月10日、「NPO法人レインボー・リール東京」が設立され、翌2016年、映画祭の開催名称も「第25回レインボー・リール東京〜東京国際レズビアン&ゲイ映画祭〜」に改められ現在に至っています。
僕は同性愛者ですけど、こういったフェスティバルやパレードなどに積極的に参加しようというタイプではないので、いつも遠くから眺めているだけですが、この映画祭を始めた方、運営に長年携わっている方々の努力は素直に素晴らしいと思っています。
『WEEKEND ウィークエンド』という作品は以前から良い映画だよとは聞いていましたし、ずっと前から配信されていることは知っていたのですが、観たいなとおもっていながら今頃になってしまいました。
『WEEKEND ウィークエンド』(2011年)
[カラー/96分]
〈スタッフ〉
監督・脚本・編集:アンドリュー・ヘイ
製作:トリスタン・ゴーライアー
撮影:ウーラ・ポンティコス
〈出演〉
トム・カレン、クリス・ニュー、ジョナサン・レース、ローラ・フリードマン、ジョナサン・ライト
◎アメリカSXSW映画祭:観客賞
◎ナッシュビル映画祭主演男優賞(トム・カレン)
◎トロントインサイドアウトLGBT映画祭:◎オーディエンスアワードベストフィルム
◎フレームライン映画祭:ベストフィルム賞
◎メリンカ国際クィア映画祭:ベストクィア賞
◎オスロゲイ&レズビアン映画祭:グランジュリー賞・観客賞
◎イブニングスタンダード映画賞:最優秀脚本賞
◎ロンドン映画批評家協会賞:協会賞
◎クロッシングヨーロッパ映画祭:観客賞
2023年には有名映画サイト「ザ・ハリウッド・リポーター」において、21世紀を代表する名作映画50選の1作に選ばれたそうです。
監督のアンドリュー・ヘイは、2000年にアカデミー作品賞を受賞した『グラディエーター』、2001年に『ブラックホーク・ダウン』の編集補佐を務め、映画編集者としてキャリアを積み、2009年に監督デビューします。『WEEKEND ウィークエンド』は監督2作目です。私生活では作家のアンディ・モーウッドと同性婚を挙げています。
2015年、監督を務めた『さざなみ』は、主演のシャーロット・ランプリングがアカデミー賞の主演女優賞にノミネートされ、2017年、監督を務めた『荒野にて』は、第74回ヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門に出品され、主演のチャーリー・プラマーが新人俳優賞に相当するマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞するなど監督として高い評価を受けている方です。
「その後のLGBT映画の流れを変えた一作」と評され、アカデミー賞で作品賞を受賞した『ムーンライト』のバリー・ジェンキンス監督は「この作品が大好きだ」と語っているそうで、『WEEKEND ウィークエンド』は、後進の作家や作品に大きな影響を与えたと言われているんです。
僕は観る前はそんなに期待はしていなかったです。こういったジャンルの映画は今までもたくさん観てきましたが、なかなか僕自身、共感や納得のできる作品とは出会ってこなかったので…。
世間では評価の高い、バリー・ジェンキンス監督の『ムーンライト』も、今年話題になった日本映画の『エゴイスト』も僕はあまり共感できなかったですしね。
『WEEKEND ウィークエンド』もどれどれ、どんなもんじゃいと観始めたんですけど…とっても良かったです!僕はとても共感できました。
物語を簡単に…
⦅金曜日の夜⦆
ラッセルは16歳まで孤児院で育ちました。友人のジェイミーとは兄弟のような関係です。そんなジェイミー一家のホーム・パーティーに参加した帰り道、ラッセルは、寂しさを癒すため、一夜の相手を求めてクラブにふらりと立ち寄ります。そこで出会ったアーティスト志望のグレンと、自分のアパートで一夜を共にします。
⦅土曜日⦆
ベッドの上でまどろみながら、これはアートだと言い張り、昨晩の出来事をラッセルに語らせ、録音しようとするグレンにラッセルは戸惑いながらも二人は心を通わせます。そのラッセルの姿から、グレンはラッセルの中にある葛藤を感じ取るのです。そんなラッセルに惹かれるグレン。互いの連絡先を交換し合い、 グレンは帰っていきます。
グレンの帰宅後、ラッセルは仕事に向かいますが、彼は同僚との休憩中でも、どこか口数が少なく上の空。グレンのことが気になって仕方がありません。そんな中、グレンから一通のメールが届きます。それは、仕事の後に会おうという誘いでした。朝以来に再開した2人は、ラッセルの家に向かう途中、2人は互いのことを話し、自分のキャリアや過去についてを語ります。
ラッセルは「自分には両親がいなく、他のゲイのようにカミングアウトを経験したことがない」勇気がないと心の葛藤を明かすのです。それが原因でラッセルは自分に自信を持てずに、周囲の目線を気にしてばかりいたのでした。
心の距離が近くなった二人は、ラッセルの家で再び愛を交わします。
互いに自分のことを語り合う中、実は、アートの勉強のため、アメリカのポートランドに留学する、翌日曜に旅立つということをラッセルはグレンから告げられます。
ラッセルは動揺します。それはグレンも同じでした。
その晩、町のパブで開かれたグレンの送別会にラッセルも招かれて参加します。彼はそこで、グレンのルームメイトのジルと出会います。ラッセルはジルからグレンの過去を知ります。それは、過去に付き合っていたジョンに何度も浮気をされていたこと、ゲイを理由に暴行を受けたことがあることでした。そして、友人たちはグレンの渡米が本当は成功しないと思っているということも…。ラッセルはグレンの孤独を知るのでした。
2人はパーティーを抜け出して遊園地で遊び、そのまままたラッセルのアパートで最後の夜を共に過ごすのです。
グレンは、ジョンに浮気をされたことは怒っていない、隠していたことに怒っていたのです。なくならないLGBTQへの差別に対する抵抗感、差別がなくなったと楽観する他のゲイ達に対する呆れや失望が重なり、周りを信じることができなくなってしまっていたのです。グレンの孤独を知ったラッセル。分かり合い心が通いあった2人は、情熱的な夜を共にします。
⦅日曜日⦆
グレンは、翌朝、夕方4時半の電車で旅立つと去っていきます。一方、ラッセルは、前から約束していたジェイミーの娘の誕生会に出席しますが、気持ちを察したジェイミーから今すぐ駅に行くべきだと背中を押されるのです…。
ホームで電車を待つラッセルとグレン。決して多くの言葉は交わしませんが、互いの思いを感じ取る2人。そして、2人は熱いキスを交わすのでした。これまでのラッセルだったら、人前でキスを交わすことなど、あり得ませんでした。
そこには、「ホモ!」と冷やかす周囲を睨み返すほどに自信を取り戻したラッセルの姿がありました。
帰宅したラッセルは、グレンが手渡してくれたレコーダーで、土曜日の朝に録音していた自分の言葉を聴き返します。運命を変えた週末が終わっていくのを感じながら…。
この映画では、大きな出来事は起こりません。タイトル通り『WEEKEND ウィークエンド』の2日間に起こるささやかな出来事や瞬間を描いた物語です。
世間での理解が進んだと言っても、なくならない僕たち同性愛者への差別の目線…。
いつもいつもそういう視線にさらされている訳ではありませんが、何気ない日常の中で感じる苛立ちや違和感、抑え込まなきゃいけない悔しさ…僕たち同性愛者が抱える葛藤がこの作品には上手く描かれていました。
主役二人がまた良いですね〜。
日本映画でよくある、BL漫画風のイケメン俳優や絵に描いたような美ボディの偶像としての男ではなく、どこにでもいそうな髭面の緩めの体型の男と、スマートではない、一見むさ苦しい男同士のリアルな愛を二人の俳優は素敵に表現していました。ナチュラルでしたね〜。
同性愛者である自分を受け入れることもなかなか難しいと思っている人もいるし、同性愛者同士でも差別はあるんです。行き方も違うし温度差もあるんです。監督のアンドリュー・ヘイは同性愛者ですから、その辺のところをよく理解をしているなぁと思います。
人と人が心を通わせ、お互いを理解すること…それがいかに美しく尊いことなのかをアンドリュー・ヘイは巧みに描いています。
永遠に続くことのない、ほんの一瞬の儚い時間だったとしても、自分自身の運命を大きく変えるような出会いって誰もが一度は経験すると思います。
色のない寂しげで無機質なアバートが、二人が心を通わせ、語り合い、理解し合い、愛に包まれてゆくに従い、暖かい色に満ちてゆく様が淡い美しい映像で描かれていました。
同性愛者だから異性愛者だから、そんなこと関係ないじゃないですか?なぜそうやって誰が決めたのかも分からない社会のルールだ規範だに人を嵌め込もうとするのでしょうか。
この物語の良いところは、同性愛者だからと特別な設定で描いていないところです。
クラブで気に入った人を誘って、自分の部屋やホテルへ誘い、一晩だけのSEXをするなんていうのは男女間でもよくあることでしょ?。お持ち帰りとか言ってるじゃないですか。
出会ったばかりの見ず知らずの男を酔っぱらって家に連れ込み、勢いでSEXした翌朝の気恥ずかしさとちょっとした後悔…。
他人の部屋で、淹れてくれたコーヒーだけ飲み、帰る時の後ろめたさと見送る寂しさ…。
戸惑いながら連絡先を交換し、かかってこないかも知れない電話を待つ時間のせめぎあう期待と不安。そして失望…。
何人、こうやって今まで見送ってきたんだろう。こんなこといつまで続くんだろうっていう孤独な男の揺れ動く些細な感情が切実に伝わってくるラッセル役のトム・カレンの自然な立ち振る舞いがいじらしかったです。
僕も若い頃は、クラブの全盛期で、今は渋谷に移転してしまいましたが、当時、新宿の歌舞伎町にあったライブハウス『LIQUIDROOM』で月に一回、大規模な『ゲイ・バーティー』が行われていて、その頃、付き合っていた彼氏によく連れて行って貰っていたので、一晩中遊んで、眩しい光を浴びて明け方の歌舞伎町を歩いて帰った記憶は忘れられないし、この『WEEKEND ウィークエンド』が描いている世界観や空気感は僕はとてもよく理解できるんです。
僕も20歳前、東京に住む前、若かったですから、家に帰りたくない時もあり、終電車を見送った後、大阪のゲイバーが集まっている堂山町というところで初めて会った人に誘われて、部屋に止まったこともありますし、朝、朝食を作ってくれた人もいたし、そこそこのいけない経験もしていますので(笑)。
でもこんなことは“ゲイならでは”のものではないですよね。誰もが経験したことがあるかもしれない出来事です。
セックス・シーンに射精があるのにも感心しました。二人がマリファナやコカインを吸うシーンもあり、それを否定する人、拒絶する人もいると思いますが、僕はそういうシーンを描いてこそ今の時代だなぁだと感じました。
孤児で施設育ちで、自分だけを特別扱いしてくれる愛を独占したことも与えられたこともなく、人と争わず、深くかかわらず、迷惑をかけないように生きてきたためにカミングアウトできず、夜の街でゆきずりの一夜の関係ばかりしか出来なかったかったラッセルと、自由で打たれ強く見えるけど実はカミングアウトに失敗して周囲に突き放され、恋人には浮気され、恋愛自体に臆病になり相手を責めることもできず、反動で周囲の人に何かあると噛み付き、避けられてしまうグレン。
この二つの孤独な魂の出会いと別れを、切なく描いた名作だと思います。
ラストシーンの二人の別れのシーン。余韻があって良いですよね〜。二人が本当に美しく見えます。ハッピーエンドじゃないかも知れないけど、生きていればいつかはまた会うことができる…そう信じたいホロっと来る名シーンです。
昨日、あるタレントさんが自死されました。とても痛ましく、哀しい出来事です。ご冥福を祈るしかありませんが、僕は静かな怒りも抱いています。
最後に僕が昔経験したお話をします。
僕が20歳になる直前くらい、大阪の堂山町で同い年のある男の子と出会いました。夏休みを利用して、長野県から一人で遊びに来ていました。子供の頃から野球をしていて、細身の筋肉質の陽に焼けたスポーツマンで、とても素朴で良い子でした。
彼が止まっていたホテルに泊めてもらい、翌日帰郷するというので一緒にホテルを出て、クラッシック音楽が好きだと言って、梅田の大きなCDショップへ寄り、何枚か買って連絡先を交換して別れたんです。
何度か手紙のやり取りをして、しばらく音沙汰がなかったのですが、ある時、彼のお姉さんという方から手紙が来て、「弟はある病で、精神科に入院していましたが、自ら命を経ってしまいました。」という衝撃の内容でした。
詳しいことは聞くことも出来ず、知ることも敵わず、月日は経ってしまいました。彼がなぜ、自ら死を選んだのかは誰にも分かりません。僕は知りたいとも思いません。
タレントさんの死をきっかけに昔のことを思い出してしまいました。
『WEEKEND ウィークエンド』は愛を描いた美しい名作です。お勧めします。