1月10日より、NHK総合の「ドラマ10」枠で、よしながふみさん原作の漫画を元にした『大奥』が放送中です。

 

『大奥』は、隔月刊誌『MELODY』(白泉社)にて2004年8月号から2021年2月号まで連載されました。

 

連載中から、文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、手塚治虫文化賞マンガ大賞、日本SF大賞、芸術選奨文部科学大臣新人賞 など重要な日本の漫画賞を受賞しているほか、ジェンダーへの理解に貢献したSF・ファンタジー作品に送られる文学賞「ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア賞」を受賞するなど、日本国外からも評価されている作品です。

 

僕がよしながふみさんの名を知ったのは2001年によしながさん原作の漫画『西洋骨董洋菓子店』がテレビドラマ化された時に、その原作者としてでした。

 

僕は男性しか愛せない男で、子供の頃から少年漫画より少女漫画の魅力に憑かれ、名作と呼ばれるものは大体読んでいましたが、女性が描くJUNE系、ボーイズラブ(BL)と呼ばれるジャンルには抵抗があったんです。男性が好きなんだから(BL)って好きなんじゃないの?と思われるかも知れませんが苦手でした。

 

理由は?と聞かれても明確な答えは出せないんですけど…ただ男性同士のSEX描写を売りにしているだけでしょ?という思い込みがあったのかなぁという気がします。

 

それも18歳の夏休みに男性と初体験をしてから、男性一筋に生きてきた僕としては美青年同士の『耽美で背徳的』なSEXなんてファンタジーでしょって思ってたし。

 

ボーイズラブ愛好者の大半を女性が占めていて、愛好者の女性は腐女子と呼ばれていたりして、そのネーミングが受け付けなかったんです。

 

よしながふみさんも同人活動を皮切りにボーイズラブ(BL)誌での執筆や、ボーイズラブ小説の挿絵などで活躍されていたことは聞いていたので敬遠していたんです。

 

よしながさんの漫画『西洋骨董洋菓子店』が滝沢秀明さん主演で『アンティーク 〜西洋骨董洋菓子店〜』というタイトルでドラマ化された時は、滝沢秀明さんのファンだったので観たのですが面白かったんですよね〜。

 

その時、食わず嫌いはよくないなと思い、よしながさんに興味を持ち何作か読んでみました。『ソルフェージュ』、『執事の分際』、『彼は花園で夢を見る』、『愛すべき娘たち』、『フラワー・オブ・ライフ』、『ジェラールとジャック』などなど…。

 

ああ、よしながさんはあまたいる「BL物」と呼ばれる漫画を書いている人たちとはどこが違うなと思いました。男性同士が愛し合うことを特別なこととして捉えていない、男性同士の性を興味本位でテーマにしていないという感じがしたのです。

 

それと多分、よしながさんが描く男性キャラクターたちが僕の好みだったんでしょう。きっと(笑)。

 

よしながさんの代表作として映像化もされている『大奥』と『きのう何食べた?』は、第1巻目のコミックスが発売された時、即買って読みました。でもこの2作、第1巻目で挫折したんです〜。

 

『大奥』は過去にも小説や映画、TVドラマで何度も取り上げられて、名作と呼ばれているものがたくさんあります。僕も『大奥』をテーマにした作品は大好きでたくさん読んだり観ていたので、よしながさんの『大奥』を読んだ時にちょっとした違和感があったのかなぁ。『男女逆転』という設定に。

 

なので、2010年に公開された映画版『大奥(吉宗編)』、2012年公開の『大奥〜永遠〜(右衛門佐・綱吉篇)』、2012年、TBS系でドラマ化された『大奥〜誕生(有功・家光篇)』も観てはいないんです。

 

『きのう何食べた?』も第1巻を読んだ時、なんかご飯ばっかり作ってるだけでつまらない漫画だなぁって思ってしまったんです。でもドラマ化されて映画化されて、映像化されてみてやっと良さが分かりました。映画版なんて何度か泣きそうになったりして、我ながら驚いちゃいました。西島秀俊さんはやっぱりいい男ですよね(笑)。

 

今回のNHKでドラマ化され放送中の『大奥』はちゃんと1回目から録画をして観ています。僕はそういう理由で原作漫画を読んでいないので、純粋にドラマを楽しみたいと思っています。でもさすがNHKですね。衣装と美術さんが見事だなぁと拝見させてもらっています。大奥が誕生した、3代将軍・家光編から物語のラスト・大政奉還まで映像化されるのはこれが初めてだそうなので、最後まで見届けて、面白かったらいずれ感想はblogで書きたいなと思います。

 

今日は、僕が『大奥』というものに興味を持ったきっかけとなった作品を何作か紹介したいと思います。

 

僕が最初に『大奥』というものを知ったのは幼い頃に母が観ていたTVドラマ『大奥』(1983年)を一緒に観た時です。

 

「関西テレビ放送 開局二十五周年記念番組」として関西テレビ・東映製作の連続テレビドラマ時代劇でした。フジテレビ系列で1983年4月5日から1984年3月27日まで、毎週火曜22:00 →22:54に放送していました。徳川幕府成立時から265年の繁栄を支えた江戸城の大奥を舞台に、その誕生から幕府崩壊までを女たちの人間模様と愛憎を絡めて描いたオムニバス時代劇で全51話が放送されました。

 

この作品は何年前か忘れましたが、CSの時代劇専門チャンネルで繰り返し放送していた時期があり、その時も観ましたし、現在はAmazon primes videoの東映オンデマンドで観れますし、東映時代劇YouTubeでは第1話と2話が無料で観ることができます。

 

今観ても見応えがある、ドラマ史に残る大作です。

 

この『大奥』はキャストが豪華でした〜。

お江与:栗原小巻

春日局:渡辺美佐子

徳川家康:若山富三郎

徳川家光:沖雅也

孝子(家光正室):坂口良子

お万(家光側室、大奥総取締):紺野美沙子

桂昌院:淡島千景

飛鳥井(顕子付上臈御年寄):草笛光子

徳川綱吉:津川雅彦

信子(綱吉正室):司葉子

右衛門佐(上臈御年寄、綱吉側室):梶芽衣子

熙子(家宣正室)/天英院:加賀まりこ

月光院:いしだあゆみ

徳川吉宗:鹿賀丈史

ゆり(吉宗の生母・浄円院):山田五十鈴

松島(家治付き御年寄):乙羽信子

徳川家斉:丹波哲郎

天璋院(篤姫・家定正室):小林麻美

和宮(家茂正室):仙道敦子

勧行院(和宮生母):三ツ矢歌子

徳川慶喜:山本學

瀧山(大奥最後の総取締):栗原小巻

淀君/淀殿:小山明子

松平信綱:平幹二朗

柳沢吉保:あおい輝彦

牧野成貞:田村高廣

間部詮房:天知茂

孝明天皇:松橋登

などなど…すごいでしょ。

 

大奥の礎を作ったお江与と大奥の幕を引いた大奥総取締・滝山を栗原小巻さんが演じていたのが見所です。主題歌が森山良子さんが歌う『セフィニ〜愛の幕ぎれ』という曲で、ドラマの終盤で流れるんですよ〜とても素敵な曲で子供心にすごく印象に残っています。

 

岸田今日子さんのオープニングのナレーションがまた素晴らしい。「思えば大奥とは、女人たちの運命の坩堝でございました。大奥には女人の運命(さだめ)を思いもよらぬ方向に大きく変えてしまう魔力のようなものが潜んでいたように思われます」痺れる〜。

 

『大奥』は、1968年に関西テレビ開局10周年として制作されたのが最初で、この『大奥』も随分前にCSの時代劇専門チャンネルで放送していたのを観たことがあります。和宮(家茂正室)を美空ひばりさんが演じていて、徳川家茂が石坂浩二さんでした。この『大奥』も当時のトップ女優さんたちが多数出演されていて、女優さん好きにはたまらんドラマです。

 

このドラマを観て、『大奥』というものに興味を持ち、高校生の時に読んだのが、吉屋信子さんが書かれた『徳川の夫人たち』、『続 徳川の夫人たち』という小説でした。

 

吉屋信子さんは、1920年代から1970年代前半にかけて活躍した方で、初め『花物語』などの少女小説で人気を博し、以後家庭小説と呼ばれた、新聞に連載された女性向け通俗小説の分野で活躍されます。

 

現実をありのままに描写するのではなく、人は理想を高く掲げ、人として行うべき道を正しく守り、生きてゆくことが美しいという理想主義と主人公の清純な少女の感じやすい心の痛みを描き、女性読者の絶大な支持を獲得されました。

 

戦後は『徳川の夫人たち』が大奥ブームを呼び、女性史を題材とした歴史物、時代物を書き続けられました。平清盛の側で生きた女性たちの視点で平家一族の興亡を描いた晩年の『女人平家』も傑作です。

 

吉屋信子さんは、50年以上パートナーの門馬千代さんと共に暮らし、同性愛者であったと言われているので、そこも僕が吉屋信子さんに興味を持ったところです。

 

1986年に文藝春秋から出版された、吉武輝子さん著の『女人 吉屋信子』という評伝があって、これを読んだ時に吉屋信子さんが同性愛者だったということ、どんな想いで『徳川の夫人たち』を書かれたのかということを知り、深く感動したんです。

 

今は絶版のようで、中古屋さんで探すしかないようですが、名著なので復刻して欲しいですね。

 

田辺聖子さんが書かれた『ゆめはるか吉屋信子』も見事な評伝なので、興味をもたれた方はぜひ読んでいただきたいです。

 

吉屋信子さんの『徳川の夫人たち』、『続・徳川の夫人たち』は、1966年1月から1968年4月まで朝日新聞で連載され、当時[大奥ブーム]を巻き起こします。

 

これ以降、『大奥』を舞台にした映画、TVドラマが作られるようになります。ほとんどが吉屋信子さんの『徳川の夫人たち』が物語のベースになっているのです。

 

東映では1967年『大奥㊙︎物語』が公開されます。中島貞夫監督で、主なキャストは佐久間良子さん、山田五十鈴さん、藤純子さん、岸田今日子さん、小川知子さん。

 

「大奥」とタイトルに冠された最初の映像作品で、オムニバス形式で主演級を女優で固めた点や、ナレーターが大奥を説明しながら話が展開するスタイルが、今日続く大奥ものや「女性時代劇」の実質的元祖となった作品と言われています。

 

この作品がヒットしたことにより、TVドラマ『大奥』(1968年)の放送が始まります。

 

『大奥㊙物語』の大ヒットを受けての第2弾『続・大奥㊙物語』が1967年に公開されます。主演小川知子さん、監督中島貞夫さん。

 

1968年には大奥ものの決定版『大奥絵巻』が公開されます。監督山下耕作さん。 主なキャスト:佐久間良子さん、淡島千景さん、大原麗子さん、田村高廣さん、木暮実千代さん、三益愛子さん。

 

美しい三姉妹が大奥に召され、姉(淡島千景さん)は権力者大年寄に、次女は(佐久間良子さん)将軍の寵愛を一身に集める中臈、三女(大原麗子さん)も姉の失脚を狙い、女一代の栄華を極めんと権力をめぐる醜い争いに飲み込まれてゆきます。哀しい三姉妹の宿命を女優オールスターで描いた豪華で絢爛たる超大作で僕の大好きな作品です。

 

こうして次々と大奥を舞台にした作品が作られてゆくのですが、映画を制作した東映の狙いは、大奥という女性だけの閉鎖された世界でのドロドロとした人間ドラマ+将軍を巡る愛情と色欲を巡る女たちのエゴイズムとエロティシズムを描くというのがコンセプトで、女性同士のSEXシーンやヌードがこれ見よがしと描かれていたため、大奥ブームを自らが作ってしまった吉屋信子さんは憮然としていたそうです。

 

「ああ呪わしき大奥ブームよ」といって嫌悪感をさえ持っていたんです。

 

吉屋さんは次のようなことを言っています。

 

「江戸城大奥の女性たちに関する資料はあまりに少ない。いや、多少はあるにしても、それらはどれもこれも[狂言綺語の俗書のみ]」

 

「皆彼女たちを、あるいは淫婦にあるいは毒婦に扱って、女性を性の対象とのみ見て“大奥”と呼ぶ禁男の女の世界を猥雑な修羅場をした戯作のたぐいのみ」だと。

 

吉屋さんは次々と映画化される大奥を舞台にした作品を「猥雑な戯作」だと感じ嫌悪感を持たれていたようです。

 

江戸時代において最高の身分の貴婦人達が集う場所でもある江戸城大奥において「春日局以来たくさんの優れた当時の最高の教養を備えた女性がいたはずだ」。そういった優れた女性たちの姿をこそ描き出したいという吉屋信子さんの想いの上に書かれたのが『徳川の夫人たち』なんです。

 

『大奥』というと女の嫉妬、憎悪、陰湿なイジメ、足の引っ張りあいといったフレーズを誰もが思い浮かべるでしょ?

 

僕もそう思い込んでいるところが少なからずありましたけど、『徳川の夫人たち』を読んで、人はどんな状況に置かれても、自分を見失うことなく、「誇り高く」「気高く」「汚れなく」生きなければということを教えて貰った気がしています。

 

それが吉屋信子さんの理想主義だったとしても。

 

『徳川の夫人たち』は、徳川幕府三代将軍・家光が、生涯でただ一人寵愛した側室・お万の方の生涯を描いています。家光が亡くなった後は永光院と呼ばれた女性です。

 

六条有純の娘として京に生まれ、幼少より仏への帰依の心深かった彼女は、伊勢の由緒ある尼寺慶光院の新院主となり、継目の御礼の挨拶のため、家光に御目見えした際に、家光の目にとまり還俗を余儀なくされ運命を大きく変えることになるのです。

 

稀有な人生をたどったお万の方の、破戒への罪の意識や家光への愛情…、一言では言い表せない様々な心の機微が、吉屋さんなりの解釈で非常に繊細に描かれています。

 

吉屋信子さんが、同性愛者だったからこそ書けた物語なんだと思います。

数ある『大奥』物の小説の中で僕が一番愛している作品です。

 

他に『大奥』をテーマにした小説で僕の好きなものは…

 

春日局の権勢から、絵島生島の悲劇まで…。愛と憎しみと嫉妬、さまざまな思いを秘めた女たちの性が渦まく江戸城大奥の実相を、松本清張さんが冷徹な社会派推理作家の眼で捉えた異色時代小説『大奥婦女記』

 

月光院(6代将軍・家宣の側室で7代将軍・家継の生母)の代参で芝の増上寺に行った大奥女中頭(御年寄)の絵島は、その帰り道に山村座で当時人気絶頂だった生島新五郎が主演する歌舞伎を鑑賞した後、生島を招いて宴席を開きますが酒に酔い帰城の門限に遅れるのです。 禁を破った絵島は、評定所での吟味の結果、宿下がりのたびに芝居見物をして生島との情交を重ね、部下の女中達も乱交に巻き込んだとされます。絵島は罪状を全て否定しますが聞き入れられず、死罪が言い渡されますが、月光院の減刑嘆願により、信州の高遠に幽閉されるのです。 「絵島疑獄」と呼ばれる実際に起こった事件を描いた舟橋聖一さんの『絵島生島』

 

『絵島生島』は、1955年に大庭秀雄監督、淡島千景さん、九代目市川海老蔵さん主演で映画化されています。

 

幕末から明治維新の激動の世に、薩摩藩の島津家より徳川13代将軍家定のもとに嫁ぎ、短い結婚生活を経て夫の死後も徳川宗家に尽くした天璋院の波瀾に満ちた生涯を描いた宮尾登美子さんの『天璋院篤姫』。NHK大河ドラマ『篤姫』の原作として有名ですが、1985年(昭和60年)にテレビ朝日「新春ドラマスペシャル」として佐久間良子さん主演でドラマ化されているんです。僕、幼い頃に一度、観ているのですが記憶が薄れてしまっているのです。もう一度見たいなぁと願っている作品の一つです。

 

攘夷か開国かで二分された国論を調停するために、皇妹・和宮は「公武合体」の名目で徳川将軍家に降嫁せよと勅命を受けますが和宮はそれを拒否。彼女の身代りに仕立てられた少女フキは何も知らされないまま江戸へ向かう輿に乗せられるのです…。大義によって人生を翻弄された女たちの矜持を描き、犠牲になった者への思いをこめた不朽の名作、有吉佐和子さんの『和宮様御留』

 

『和宮様御留』は1981年と1991年にドラマ化されていますが、大竹しのぶさんがフキを演じた1981年版はドラマ史に残る超名作です。

 

1989年放送された、第27作目のNHK大河ドラマは『春日局』でした。橋田壽賀子さんによるオリジナル脚本で主演は大原麗子さん。

 

明智光秀の重臣・斎藤利三の娘というつらい境遇にありながら戦国を生き抜き、その力量を徳川家康に見込まれ、のちの3代将軍徳川家光の乳母となって大奥を取り仕切り、それまで“強い女”“烈女”のイメージが強かった春日局の生涯を、平和な世を希求し、家光・徳川家を支え献身的に生きた女性として橋田壽賀子さんは描いていました。橋田さんはタイトルを『献身』としたかったとおっしゃってましたね。

 

春日局といえば、東映制作の『女帝 春日局(1990年)』という映画もありました。大奥ものといえばこの人、監督は中島貞夫さん。主演は十朱幸代さん。

 

徳川家光は、春日局と家康との間に生まれた子供だという大胆な設定で描かれた、東映らしい女性のお色気シーンが満載の作品です。10億円の製作費をかけた、原寸大の江戸城大奥を再現した美術セットが見ものでした。東映らしいとんでも史観なのかも知れませんが、そうかも知れないねと思わせる強引さが楽しい作品だと思います。草笛光子さんが最高なんです。

 

吉屋信子さんの精神を受け継いでいたのは石井ふく子さんかなと思わせる作品、1985年、東芝日曜劇場1500回記念として放送されたスペシャルドラマ『花のこころ』も忘れがたい作品です。脚本は橋田壽賀子さん。今、放送中の『大奥』にも登場した徳川家光の側室、4代将軍徳川家綱の生母・お楽の方の生涯を描いたドラマです。大原麗子さんがお楽の方、春日局を森光子さんが演じています。

 

最近はこういう大型ドラマは作られなくなりましたね。寂しい限りです。これらの作品も、若い女優さんたちでリメイクしてもらいたいなと思います。NHKさん、どうですか?

 

NHK総合「ドラマ10」枠で放送中の『大奥』もラストまで楽しませてもらいますね。