WOWOW開局30周年を記念して、政財界をまたぎ、富と権力をめぐる人間の野望と愛憎を描いた山崎豊子さんの傑作小説『華麗なる一族』が、中井貴一さん主演でドラマ化され放送が始まりました。

 

第一回目を視聴しましたが、ドラマの感想は全話を観てからの事にして、今日は、山本薩夫監督、佐分利信さん主演、1974年(昭和49年)1月26日に公開された映画版『華麗なる一族』のお話をしたいと思います。

 

『華麗なる一族』

◎製作:芸苑社、◎配給:東宝

カラー、スタンダード、211分

◎監督:山本薩夫さん

◎製作:佐藤一郎さん、市川喜一さん、森岡道夫さん

◎原作:山崎豊子さん

◎脚本:山田信夫さん

◎音楽:佐藤勝さん

◎撮影:岡崎宏三さん

◎美術:横尾嘉良さん、大村武さん

◎照明:下村一夫さん

◎録音:原島俊男さん

◎編集:鍋島淳さん

《受賞》

第48回キネマ旬報ベスト・テン 第3位

第29回毎日映画コンクール 撮影賞、美術賞

第28回日本映画技術賞(横尾嘉良さん、大村武さん、下村一夫さん)

 

◎キャスト

万俵大介(万俵家の15代当主:阪神銀行頭取)佐分利信さん

万俵寧子(その妻)月丘夢路さん

万俵鉄平(万俵家の長男:阪神特殊鋼・専務)仲代達矢さん

万俵敬介(万俵家の14代当主、大介の父)仲代達矢さん(2役)

万俵銀平(万俵家の次男:阪神銀行・本店融資課長)目黒祐樹さん

美馬一子(万俵家の長女:大蔵省主計局次長の妻)香川京子さん

万俵早苗(鉄平の妻:大川一郎の娘)山本陽子さん

万俵万樹子(銀平の妻:大阪重工業・令嬢)中山麻里さん

万俵二子(万俵家の次女)酒井和歌子さん

三雲志保(大同銀行頭取令嬢)大空真弓さん

一之瀬四々彦(息子)北大路欣也さん

銭高(阪神特殊鋼・常務)加藤嘉さん

和島(帝国製鉄・専務)神山繁さん

春田(大蔵省銀行局長)平田昭彦さん

松尾(大蔵省審議官)細川俊夫さん

荒尾(社民党・代議士)大滝秀治さん

中根(社民党・代議士)金田龍之介さん

倉石(弁護士)鈴木瑞穂さん ※ナレーションも担当

小島(大同銀行・常務)小林昭二さん

中川留市(地主)花沢徳衛さん

小泉夫人(総理筋縁談の仲介者)荒木道子さん

伊東夫人 小夜福子さんさん

鎌倉の老人 佐々木孝丸さん

田淵(自由党・幹事長)河津清三郎さん

周子(佐橋総理夫人)北林谷栄さん

松平(日本銀行・総裁)中村伸郎さん

宮本(長期開発銀行・頭取)滝沢修さん

安田太左衛門(大阪重工業・社長)志村喬さん

綿貫千太郎(大同銀行・専務)西村晃さん

永田(大蔵大臣)小沢栄太郎さん

三雲祥一(大同銀行・頭取)二谷英明さん

美馬中(大蔵省主計局・次長)田宮二郎さん

高須相子(万俵家の家庭教師兼執事)京マチ子さん

その他

 

製作の芸苑社とは、1972年(昭和47年)に、東宝の製作部門の分社化の方針によって設立された会社です。初代社長には新東宝、東京映画で活動してきた佐藤一郎さんが就任し、初期の役員には映画プロデューサーの市川喜一さんがいました。

 

芸苑社製作で僕の印象に残っている作品は、『恍惚の人』豊田四郎監督(1973年)、『吾輩は猫である』市川崑監督(1975年)、『桜の森の満開の下』篠田正浩監督(1975年)、『妻と女の間』 豊田四郎・ 市川崑共同監督(1976年)、『不毛地帯』山本薩夫監督(1976年)、『天平の甍』熊井啓監督(1980年)、『ひめゆりの塔』今井正監督、神山征二郎協力監督(1982年)です。

 

どの作品も、映画史に残る名監督の個性的で意欲的な作品ばかりで、僕の好きな文芸作品を製作してくれた会社として心に残っています。

 

原作者の山崎豊子さんは、1924年、大阪市生れ。京都女子大学国文科卒業後、毎日新聞大阪本社学芸部に勤務され、その傍ら小説を書き始められます。1957年(昭和32年)に生家の老舗昆布屋の「小倉屋山本」をモデルに、親子二代の船場商人を主人公とした『暖簾』を刊行。翌年、吉本興業を創業した吉本せいさんをモデルに、大阪人の知恵と才覚を描いた『花のれん』により直木賞を受賞され、新聞社を退社して本格的な作家生活に入られました。

 

山崎さんのご実家の『小倉屋山本』は1848年創業の老舗昆布店です。大阪では知らない人いないんじゃないかなぁ〜。

 

関西は昆布文化なんです。お出汁はカツオではなく昆布で出汁をとることが多いし、塩昆布をよく食べますしね。

 

僕は関西人ですから、『小倉屋山本』さんの「えびすめ」という商品は子供の頃から馴染みがあります。おいしいんですよ〜。

 

山崎さんの初期の作品は、ご実家がある船場など大阪の風俗に密着した小説が多いのですが、その後、テーマ設定を大阪から離し、戦争の非人間性など社会問題一般に広げられます。

 

大学病院の教授選の闇と医局制度の問題点や医学界の腐敗を鋭く追及し、鋭い社会性で話題を呼んだ『白い巨塔』、11年にも及ぶ過酷なシベリア抑留を生き抜いて帰還し、商社マンに転身した元大本営参謀・壹岐正が巻き込まれる過酷な経済戦争を描いた『不毛地帯』、真珠湾攻撃から東京裁判まで日米間の戦争に翻弄された日系アメリカ人二世の姿を描いた『二つの祖国』、中国残留孤児、陸一心(ルー・イーシン)の波乱万丈の半生を描いた『大地の子』、日本航空社内の腐敗や日本航空123便墜落事故を扱った『沈まぬ太陽』など著作はすべてベストセラーでしたね。

 

毎日出版文化賞特別賞受賞した大作『約束の海』を遺作として 2013年(平成25年)年に亡くなられました。

 

僕が山崎豊子さんの小説を初めて読んだのは、高校生の頃、『白い巨塔』でした。その前にTVで田宮二郎さん主演の映画版を観たんですよ。凄く面白くて、原作を読んでみたのが最初です。『続・白い巨塔』も読みました。

 

次に読んだのが『華麗なる一族』でした。

 

大阪万博を間近に控えた日本の高度経済成長期、関西の政財界で閨閥を張り巡らす阪神銀行の頭取・万俵大介を中心に、富と権力を追い求める人びとの野望と愛憎、そしてその果てに待つ一族の崩壊を描ききった大巨編です。

 

1970年3月から1972年10月まで『週刊新潮』に連載され、1973年に新潮社より上・中・下巻の全3巻で出版されました。

 

『華麗なる一族』の主な舞台は神戸・岡本近辺なのですが、僕は阪急沿線の六甲育ちなので、作品全編に漂う雰囲気や感性が身近に感じられて、とても熱中して読んだことを覚えています。

 

関西人にしか分からない、言葉の微妙なニュアンスや空気感というものがあるんですよね。山崎さんの文章から滲み出すものが。関西人独特の匂いというんですかね〜。それが肌で感じられると山崎さんの小説はもっと楽しめるんじゃないかなぁという気がします。

 

山崎さんが生まれ育った原風景である大阪船場に生きる商人の「ど根性」、「深い人情」、「誇り」を体臭を感じさせるほどに描いている初期の作品である『暖簾』、『花のれん』、『船場狂い』、『へんねし』、『しぶちん』、『ぼんち』等も大変面白く、興味深く僕は読ませてもらいました。大好きです

 

大阪の商人って、どんな手段を使おうが、「儲かったらええんや」的な、お金に汚いとか、言葉遣いがどぎつい(言動などが強烈すぎて、不快感を与えるさま)とかっていうイメージありませんか?

 

そんな人もいるかも知れませんが、山崎さんの小説に登場する主人公たちは、自分の店の暖簾に誇りを持ち、金銭や打算を越え、ユーモアに溢れ、一流の哲学と勘を持ち、商いに精進している人々です。

 

そんなキャラクターたちを見つめる山崎さんの目はとても暖かいんです。そこが僕の好きなところです。

 

『女系家族』のように老舗問屋の養子婿が死んだことで巻き起こる遺産相続争いを描いた、欲にまみれた娘たちが主人公の小説もありますけどね。

 

『白い巨塔』から山崎さんは、激しい上昇志向や自己顕示欲が強烈な人間たちが蠢く群像ドラマを書かれるようになってゆき、『華麗なる一族』はその頂点に位置する名作なんじゃないかと思います。

 

映画版の監督は山本薩夫さん。山本監督が山崎さんの小説を映画化するのは『白い巨塔(1966年)』に続いて2度めです。『華麗なる一族』の後、『不毛地帯』も監督されました。

 

山本監督は1933年に大手映画会社である松竹蒲田撮影所に入社し、その後、PCL(東宝の前身)に移籍され、1937年、監督に昇進されます。

 

召集され、復員後、東宝に復帰されますが、当時、東宝は東宝争議第2次争議の最中であり、山本監督は組合側の代表格として会社側と敵対し、1948年、会社側が1,000名以上の解雇を通告したことがきっかけとなり、会社側と組合側の間に第3次争議が勃発し、撮影所に篭城した組合側を排除するために、ついにはアメリカ軍も軍事介入する事態になり、山本監督を含めた組合指導部16名の退職で騒動は決着となります。

 

その後、1950年に今井正さん、亀井文夫さん、伊藤武郎さんと独立プロダクションである新星映画社を設立し、『箱根風雲録』、『真空地帯』、『太陽のない街』といった反骨精神旺盛かつ骨太な社会派作品を数多く作られました。

 

1959年には、全国の農村婦人から10円ずつカンパしてもらい、農村映画の傑作『荷車の歌』を製作し、映画は移動映写機を用意して、全国の農村で上映して回られます。

 

そんな山本監督の活動を見ていた大映の永田雅一社長より仕事の依頼を受け、市川雷蔵さん主演の時代劇『忍びの者』の監督をすると、当時としては忍者を初めてリアルに描いた作品として大ヒットを記録し、以降は大手映画会社での製作が中心となられます。

 

大映では『傷だらけの山河』、『証人の椅子』、東映では『にっぽん泥棒物語』を世に放ち、1965年には医学会にメスを入れた山崎豊子さんの問題作であり、山本監督の代表作となった『白い巨塔』を発表するのです。

 

『白い巨塔』は、独立プロで活躍した社会派監督の山本薩夫さんが、娯楽性を持った政治社会派ドラマの第一人者であることを立証させた記念すべき作品であり、山本監督並びに主演の田宮二郎さんの代表作となります。第40回キネマ旬報ベスト・テン第1位。昭和41年度芸術祭賞を受賞します。

 

1969年に、日本の大陸への進出の歴史を描いた『戦争と人間』三部作を監督し、構造汚職を摘発した石川達三さん原作の『金環蝕』(1975年)、自衛隊のクーデターを描く『皇帝のいない八月』(1978年)、日本の貧しく苦しい時代を懸命に生き抜いた娘たちの哀しみを浮き彫りにした『あゝ野麦峠』(1979年)などの社会作を連続して監督されました。

 

『あゝ野麦峠・新緑篇』(1982年)が遺作となり、1983年、73歳で亡くなられました。

 

社会派として反体制的な題材を扱いながらも、豪華キャストを巧みに演出し、娯楽色豊かに、ドラマチックに仕上げる手腕にいつも胸を打たれる名監督です。大好きな監督のお一人です。

 

遺作となった『あゝ野麦峠・新緑篇』(1982年)は、公開されてから、日の目を見ない作品の一つですが、これには何か理由があるのですか?僕は過去に一度だけ観た記憶があるのですが、記憶が曖昧なのでもう一度観たいと願っている作品です。

 

『華麗なる一族』はこんな物語です。

物語は、関西の財界で有名な阪神銀行頭取、万俵大介とその一族、すなわち『華麗なる一族』の新年恒例の志摩観光ホテルでの晩餐から始まります。

 

万俵家は播州平野の大地主で、大介の父・敬介は第一次世界大戦に乗じて得た莫大な富を駆使して、神戸に万俵船舶、万俵鉄工を起こし、船舶ブーム到来前夜に万俵鉄工を残して売り払い、万俵銀行を創立しました。

 

他にも万俵不動産、万俵倉庫、万俵商事を興し、さらに昭和9年には群小銀行を合併して、阪神銀行の礎を築きました。敬介の跡を継いだ大介は、一介の地方銀行から全国第10位の都市銀行にし、万俵鉄工を阪神特殊製鋼に発展させたのです。

 

万俵家の食卓テーブルは家長・大介の左側が妻の席でしたが、妻・寧子と表向き万俵家、家庭教師で妾・相子が一日交替で座ることになっていました。このしきたりは、テーブルの席順だけでなく広大な神戸、東灘区の天王山の麓にある万俵邸では、一日交替で大介の同衾の相手が変わる習わしでもありました。いつからか大介の寝室には3つのベッドが運び込まれ、獣のような妻妾同衾が行われていたのです。

 

過去には、その屈辱に耐えられなくなった公家華族・嵯峨子爵出身の寧子は、実家にも帰ったのですが、妹の莫大な支度金で何とか体面を保って暮らす貧乏公家の長兄・静麿の説得で仕方なく戻るのでした。

 

そして大介から二度目に妻妾同衾を求められた時、寧子は「夫婦の交わりは獣のようなものではございません」と激しく拒みますが、「お前の口からそんなことが云えるのか、それなら離婚して貰おう、離婚されるだけの理由は身に覚えがあるだろう」と残忍な響きをもった声で突き放すように云われたのです。

 

寧子はその夜、睡眠薬自殺を図ります。しかし致死量を誤り未遂に終わりました。その後、寧子は諦めて耐え忍んで生きています。相子はそんな寧子を尻目に、万俵家を寧子に代わり取り仕切り、閨閥づくりに生き甲斐を感じています。

 

寧子には大介に嫁いできた頃、舅の敬介から迫られた苦い思い出があったのです。風呂場で敬介に襲われ、驚愕のため失神してしまい、舅に犯されたか曖昧なまま、その夜、寧子は大介の狂ったような愛撫を受けたのです。そして寧子は妊娠し、長男鉄平を産んだのでした。鉄平は顔つきから動作まで何かにつけて舅似でした。大介は常にそのことにこだわり、鉄平を父の子と思っていたのです。

 

阪神特殊製鋼高炉建設や融資における大介の鉄平に対する冷たい仕打ちは冷徹な銀行家として当然としながらも、このわだかまりが根深く横たわっていました。

 

辛うじて都市銀行十位の阪神銀行は、国際競争力の強化と健全経営をめざして金融再編成の政策を強める大蔵省の主導で、いずれどこかの上位銀行と合併を強いられると大介は日頃、思っていました。

 

そうなる前に“小が大を喰う”合併を進めることが生き残るために必要だと考え行動します。自行の生き残りのために家族のしあわせも顧みず、相子に閨閥づくりを任せていました。

 

すでに阪神特殊製鋼専務、長男・鉄平は元通産大臣・大川一郎の長女・早苗を娶り、長女・一子は将来の次官候補と目される大蔵官僚主計局次長・美馬中へ嫁がせています。大介はそんな閨閥を巧みに利用して大蔵官僚や永田大蔵大臣が目論む銀行合併の最新情報を入手して先を読もうとします。

 

最大手、富国銀行が密かに阪神銀行を呑み込もうと、メインバンクとして育ててきた平和ハウスに公定歩合より低いレートの貸付をしたりして、得体の知れない不気味な触手を出しつつあることも感じます。また太平スーパーの万俵商事への吸収や祖父似で自分の子どもではないと思い込む鉄平が実質上経営する阪神特殊製鋼へのメインバンクとしてあるまじき感情的な冷たい引き締めなど、阪神銀行が銀行合併で有利に働くよう自行の体力づくりに勤しむのでした。

 

まず“小が大を喰う”合併先のターゲットとして大財閥系銀行として凋落著しい第三銀行を選びますが、第三銀行が美馬中を介して阪神銀行側の永田大蔵大臣の政敵、田淵幹事長の政治資金源の1つと判明して断念するのです。

 

一方、高須相子は寧子を抜きにして大介とベッドの中で相談し、これから展開される“小が大を喰う”合併劇でどうしても協力を必要とする阪神銀行筆頭株主で大阪重工社長・安田太左衛門の娘・万樹子と次男・銀平とを舞子ヴィラで見合いさせ、政略結婚を進めるのです。

 

銀平は父・大介と同じ慶応大学経済学部出身で阪神銀行本店貸付課長をしていますが、仕事も対人関係も冷たくニヒルでした。少年時代、母の自殺未遂に遭遇し、歪んだ性格が形成されたのかも知れません。

 

そんな銀平も母・寧子にだけには優しいのでした。「別に、どうってことはない、兄さんの時と同じでしょう」銀平は投げやるように閨閥づくりにも自分の結婚にも興味を示しません。

 

しかし、心の中は銀平と別れて絵を描きにパリに去った灘の酒造家の娘で清楚な小森章子の面影が哀しみと苦渋を伴って占めていたのでした。

 

長男・鉄平は阪神特殊製鋼が材料の銑鉄供給を大手の帝国製鉄の都合で左右されずに特殊鋼の生産を行うことで、一貫生産によるコスト削減や販路の拡大により安定経営をめざして高炉建設に情熱を傾けます。

 

高炉建設は父・大介が指揮するメインバンクである阪神銀行や帝国製鉄の意向を窺う、高炉建設の認可権を握る通産省の同意をなかなか得られません。鉄平は高炉建設の建設を先行させる一方で、認可と資金250億円の調達に東奔西走します。高炉建設の認可は義父の元通産大臣・大川一郎の口利きで下り、ようやく鍬入れ式に漕ぎつけます。

 

しかし高炉建設を阻む台風の到来や、アメリカン・ベアリング社の経営交替に伴う大量キャンセルによる資金繰りの悪化など難題は次つぎに押し寄せてきます。特に父・大介の意向によるメインバンク・阪神銀行の貸し渋りは当初計画の250億円の70%72億円から30%の65億円に抑えられ、大きな痛手となって鉄平を襲います。

 

彼は次第にサブ銀行である大同銀行の日銀出身の三雲頭取への依頼を強めてゆくのです。三雲頭取は鉄平をよく理解してくれる友人でした。鉄平がマサチューセッツ工科大学へ留学していたとき、阪神銀行の支店がニューヨークにあったことから、日銀ニューヨーク事務所の三雲頭取と知り合い、人間的情緒を失いがちな海外生活の中で心のふれあいを育んだ仲だったのです。

 

三雲は鉄平の理解者であり、また日銀出身の銀行家として大同銀行が何か企業を源から育てるような有意義な融資をすべきと考えていたのです。そんな矢先、綿貫専務に代表される大同銀行の生え抜きの反発は覚悟の上で、鉄平との個人的繋がりもさることながら折からの金融引き締めと大量キャンセルで資金繰りの危機に陥った阪神特殊製鋼に思い切った融資をし、育ててみたいと思ったのでした。

 

そんな大同銀行のメイン逆転という貸し越しに気づいた大介は、大同銀行を“小が大を喰う”銀行合併劇のターゲットとして狙う思いが閃くのでした。

 

これを機にさらに三雲に阪神特殊製鋼融資を促すため、みせかけ融資を行います。それは大同銀行に阪神特殊製鋼へさらなる融資を引き出させ、その不良債権により相手の体力を衰えさせ、阪神銀行にとって有利な合併を進めようという戦略でした。

 

大同銀行生え抜きの綿貫専務に対しては、合併後の副頭取のポストの念書と彼の娘婿のいるアサヒ石鹸への融資を決め、懐柔を図ります。また大介は、合併までに都市銀行第10位の阪神銀行の預金高を1兆円の大台に乗せ、順位を一桁にするため、全行員にノルマを課すのでした。

 

銀平と万樹子は愛のない結婚をしますが、銀平は相変わらず毎晩バーを飲み歩くプレイ・ボーイの生活を続けます。広大な万俵家の屋敷で銀平を待つ万樹子の思いは次第に波立ち、乱れるのです。

 

そんな中、万樹子は妊娠しますが、銀平は子どもを堕せと言うのです。やがて万樹子は流産し、労りもない万俵家には自分の居場所もなく、実家へ帰るのですが、銀平は迎えに行きません。こうしてこの極めて不幸な結婚は終わりを告げます。

 

次女二子は相子の閨閥づくりの一環として、佐橋総理夫人の甥・細川一也と無理矢理見合いをさせられ、婚約を強いられます。しかし二子は抵抗します。彼女の意中の人は阪神特殊製鋼工場長の息子・一之瀬四々彦だったのです。

 

彼女は四々彦との交際を続け、二人は互いの愛を確認します。二子は婚約解消を自ら直接婚約者・一也に伝えます。また四々彦はピッツバーグにあるUSスチールの技術開発研究所へ就職することとなりました。

 

鉄平の高炉建設は若干の工程の遅れはあるものの進んでいましたが、工事中の熱風炉が爆発し、4名の死者を出す大惨事になります。これは高炉の完成を半年遅らせることであり、鉄鋼不況が始まり、この半年の操業の遅れは決定的なダメージでした。鉄鋼不況は受注を減少させ、大量キャンセルがボディブローとなり、株価も低迷した阪神特殊製鋼の経営は急速に悪化していきます。資金繰りに窮した阪神特殊製鋼はついに事務の手違いから不渡りとなりかけます。その噂は、瞬く間に燎原の火の如く業界、金融界に拡がるのでした。

 

その後、日銀特別融資などいろいろな善後策が検討されますが、ついに阪神特殊製鋼は経営不振で550億円にのぼる負債を抱えて倒産し、会社更生法の適用を申請します。阪神銀行の見せかけ融資を疑わず、メインバンクより貸し込んだ三雲頭取は責任を問われて大同銀行を去るのでした。

 

銀平はその三雲の信頼を裏切ったことを悔いて、祖父譲りの名猟銃ジェームス・パーディで壮絶な自殺をしてしまいます。鉄平の血液型は、祖父と寧子からは考えられない大介の子を証明するB型でした。

 

阪神銀行と大同銀行の合併は成り、東洋銀行が発足します。しかし、すでに次の大型合併に向けて新たな企てが政財官の水面下で芽生え始めていたのでした。大介は合併銀行(東洋銀行)の頭取となり、それを機に、スキャンダルを恐れた大介から、高須相子は1.000万円の手切れ金で、大介から別れを告げられるのでした。

 

そして、大介、寧子、相子だけの最後の晩餐が始まります。人気のないがらんとしたダイニング・ルームには、曾て万俵家の華麗な一族が団欒したさざめきはなくなっていました、三人の使うナイフとフォークの音だけが、天井に音高く虚しく響くのでした…。

 

長編なのでストーリーの紹介も大変です〜(笑)。

 

この長大な原作を、脚本の山田信夫さんは、手際良く、作者が伝えたいテーマを見誤ることなく、たくさんの登場人物の性格を描き分け、名シーンもふんだんに織り込みながら見事な構成力でシナリオにしています。

 

映画のオープニングは、リアス海岸として有名な、さまざまな形の島や半島が美しい海岸線をつくる英虞湾の夕景から始まります。そこにタイトルが出て、流れるのが映画音楽の大家、佐藤勝さん作曲のメインテーマです。

 

僕はこの音楽が大好きで、初めてこの映画を観た時から、「あぁ、いい音楽だなぁ」と思っていつも観ています。サントラも買っちゃいました(笑)。

 

僕はこういう、豪華なキャストとスケールの大きい演出で描かれた、社会派エンターテイメント作品って大好き(好物)なので、長編(211分、途中、休憩が入ります)ですけど、たまに見返したくなる作品ですね。

 

キャストを観ているるだけで幸せになれます。

 

佐分利信さん、仲代達矢さん、目黒祐樹さん、月丘夢路さん、香川京子さん、山本陽子さん、北大路欣也さん、酒井和歌子さん、小沢栄太郎さん、二谷英明さん、田宮二郎さん、京マチ子さん…などなど、綺羅星の如くです!

 

この物語の面白さは、原作のモデルと言われている、戦後最大といわれた山陽特殊製鋼の倒産や、太陽神戸銀行合併劇の裏側はこんな風だったの?という興味や、金融界再編を巡る銀行家と政治家の野望と駆け引きがメインなのかも知れませんが、『華麗なる一族』として関西の財界から羨望の眼差しで見られている万俵という家族のドロドロした愛憎劇が上手く交錯する形で描かれているところでしょうね。

 

ドス黒くて、好色な万俵大介を演じた、佐分利信さんの迫力ある凄まじい力演は圧倒されますし、仕事に一途で、友情には熱く、誠実な人柄ゆえに自ら命を断つ事になった男の哀しみを演じ切った仲代達矢さん、キザで嫌みったらしく冷酷な官僚をクールに演じた田宮二郎さん、華族の令嬢として世間知らずのまま育ち、夫の愛人との同居という歪な生活でも鼓を打つ事で、心の平静を保っている妻・寧子を演じた月丘夢路さん、家庭教師でありながら、いつの間にか妖艶な美貌で一家の長を籠絡し、強大な力を掴んだ愛人を演じた京マチ子さん。見所は一杯です。

 

田宮二郎さんは、大映時代、京マチ子さんが主演した、山崎豊子さん原作の『女の勲章』で一躍名をあげた方ですから、二人を観てるとなんだか感慨深いなぁなんて思ったり。

 

大同銀行の叩き上げの行員・西村晃さん、小林昭二さん、お上品ぶった首相夫人・北林谷栄さん、強欲な農家の土地成金・花沢徳衛さんら脇役さんたちも名演技で、細部に至るまで山本監督の演出力、人間描写が炸裂しています。

 

自分の息子や娘の結婚も、野望達成のための閨閥作りの道具としてしか考えない冷徹な野心家である父・大介と、天職である鉄に人生をかける息子・鉄平との対立が小説の重要なテーマです。

 

しかし、山崎豊子さんが描いている大介と鉄平の対立はあくまでも表面的なものであって、実は大介と、大介の父である敬介との因縁だったんじゃないかと思います。

 

大介は「息子」である鉄平が本当は父・敬介と自分の妻・寧子との間にできた子供ではないのかとの疑念を持ち続けています。亡き父に、顔も容姿も趣味も似ている鉄平に対して苛立ちと憎悪を募らせます。

 

原作には深く描いてありませんが、鉄平を見るたびに思い出す自分の父・敬介への憎悪とライバル心が、自分の野望を達成させる為なら、鉄平の夢を潰しても構わないと、大介に思わせたのではないかと思います。

 

万俵コンツェルン全体の繁栄のためと言いつつ、内心は妻・寧子を自分から奪った(かもしれない)父・敬介に対する憎しみだけが大介を動かす原動力になっていたような気もします。

 

大介は、息子・鉄平の会社というよりも父・敬介が築き上げた会社である阪神特殊鋼を消し去りたかったのかも知れません。父・敬介の面影を宿す鉄平をも同様にだったのかも知れないなと思いました。

 

この父と息子の対立と虚しさを、佐分利信さんと仲代達矢さんは本当に感動的に演じてらっしゃいます。

 

そして、鉄平が自ら命を経った後、本当の血液型が判明し、鉄平が血を分けた実の「息子」であったことを知り大介は愕然とするのです。

 

母役の月丘夢路さんの、これまで耐えていた何かが爆発したように大介にしがみつき、泣き叫ぶシーンは涙が溢れます。

 

鉄平の葬式後、三雲が大介に言う言葉が深いのです。

「人間性を置き忘れた企業は、いつか何処かで必ず躓く時が来るというのが私の信条です。」

 

これは現代でも通用する言葉だと思いますね。

 

利益優先で倫理観を失った企業は、必ず不祥事を起こしているのではないですか?

 

山崎さんの中には、大企業も大阪船場の問屋さんも、「同じ商売人やろ?何が違うねん?」っていう思いがあったんじゃないかなぁと思います。

 

商売の基本って何なんやって事ですよね。

 

僕は山崎豊子さんの小説は、遺作の『約束の海』以外ほとんど読んでますけど、やはり僕のNo. 1は『華麗なる一族』です!

 

映像化も、過去に何度かされていて観ていますが、この映画版が一番好きです。

 

今回のWOWOW開局30周年記念のドラマ化は、どんな作品になるか…。最後まで見届けさせてもらいましょう。