こんにちは。

 

古典バレエ作品に斬新な解釈を加えることで新たな光を当て、数々の金字塔を打ち立ててきたイギリス人演出・振付家であるマシュー・ボーン。

 

彼の名を一躍世界に知らしめた作品『白鳥の湖~スワン・レイク~』が1995年の初演以来はじめて、振付や照明、美術、衣装など細部にわたり手を加えた新演出版が「渋谷Bunkamuraオーチャードホール」で上演されました。

 

マシュー・ボーン氏は、永年にわたる英国エンターティメント界への功績を讃えられ、今年度のローレンス・オリビエ賞特別賞を授与されました〜。おめでたい!

 

友人に誘われて観てきたので、今日はその感想を書いておきます。

 

『白鳥の湖~スワン・レイク~』はスワン役を全員男性が演じるという斬新な演出で、ダンス公演としては異例の4ヶ月というロングラン記録を打ち立て、1998年にはブロードウェイに進出し、1999年には、演劇界最高の栄誉であるトニー賞において、最優秀ミュージカル演出賞、振付賞、衣裳デザイン賞の3冠に輝き、またローレンス・オリヴィエ賞他30以上の国際的な演劇賞に輝きました。

 

『白鳥の湖~スワン・レイク~』は僕が初めて観た、マシュー・ボーンの作品でした。2010年の青山劇場での公演だったと思います。

 

その当時は、バレエというものにはあまり興味はなく、マシュー・ボーンという名前も聞いたことはあるなぁという程度で、男性が白鳥を踊るの?どういうこと?そんな感じで、友人に連れられて劇場へ足を運んだんです。

 

どれどれ、どんなもんだと観初めて、観終わって、雷に打たれたようにものすごく感動して、興奮して帰路に着いたことを覚えています。

 

それから、白鳥/アダム・クーパー、王子/スコット・アンブラー、王妃/フィオーナ・チャドウィックのオリジナル・キャストによるロンドン ウエスト・エンド公演を完全収録したDVDを購入し何度も繰り返し観ました。

 

それがきっかけで、バレエに興味を持つようになり、現在に至っているのです。

 

その後、色々なバレエ団の公演や中継を観るようになりました。その中でも「一番好きなバレエは何ですか?」と聞かれたら、『白鳥の湖』と答えるでしょうね。哀愁を帯びた音楽とダンスが一つに溶け合い、観る者を幻想の世界に誘うのがこのバレエの魅力だと思います。

 

様々な演出や名演に出会うたびに、新たな発見かある、魅力に溢れた演目です。

 

幼い頃、ピョートル・チャイコフスキーが作曲した有名なあの旋律を聴いた時から、クラッシック音楽といえば僕の中での一番はチャイコフスキーでしたから。今でもそうかも知れないですね〜。

 

甘やかで、煌びやかで、美しくドラマチック…。

 

何度聴いても、聴き飽きることがありません。

 

『白鳥の湖』は、ヨーロッパ各地に伝わる白鳥伝説をもとに、悪魔の魔法によって白鳥の姿に変えられた王女オデットと王子の運命を描いた物語です。

 

ある王国が舞台です。成人式を明日に控えた王子の祝宴が開かれています。王子は母・王妃から明日の舞踏会で花嫁を選ぶように命じられますが気が進みません。

 

夕暮れ時、空を飛ぶ白鳥の群れを目にした王子は、湖に狩りに出かけます。月に照らされた湖畔で1羽の白鳥を見つけた王子が弓を向けると、白鳥は美しい娘に姿を変え、2人は一目で恋に落ちるのです。

 

娘はオデットと言い、悪魔に魔法をかけられ、昼間は白鳥、夜の間だけ人間の姿に戻ることができるというのです。

 

オデットを救おうと王子は永遠の愛を誓います。翌日の舞踏会で王子は、騎士に変装した悪魔ロットバルトが連れてきた娘の黒鳥オディールをオデットと勘違いし、花嫁に選んでしまうのです。

 

王子の裏切りに絶望したオデットは湖に身を投げ、王子も後を追うのでした…。

 

このロマンチックな物語を、マシュー・ボーンは大胆な解釈でアレンジしていますよね〜。痺れます!

 

◎マシューが描くとこうなります。

王子は公務をこなす毎日ですが、そんな自分の生活になじめないでいます。女王である母は公務の傍ら、士官候補生と戯れてばかり。

 

孤独と閉塞感に苛まれる王子にガールフレンドが出来ますが、母である女王は二人の仲に反対するばかりか、酒に溺れ、愛を求める王子を拒絶するのです。 

 

ある日、ガールフレンドを追ってナイト・クラブへ入った王子は、酔っ払って他の客と諍いを起こし、つまみ出されたところをパパラッチに激写されてしまいます。自暴自棄になり、夜の街を彷徨う王子はいつしか公園にたどり着き、生きることに疲れ、絶望し湖へ飛び込み命を絶とうとします。 

 

そんな彼の前に、一羽の雄々しい白鳥が颯爽と現れ、群れを率いて舞うのです。その美しく力強い姿に、王子の孤独な心は癒され、彼は生きる気力を取り戻すのでした。 

 

宮殿では、各国の貴賓客を招いた舞踏会が開かれています。そこに妖しげな魅力を漂わせた、謎の男スレンジャーが現れます。その男を見て、王子は激しく動揺します。彼は、あの公園で出会った白鳥と瓜二つだったのです。 

 

男は各国の王女たちを次々に挑発、誘惑していき、ついには王子の母・女王の関心までとらえてしまいます。そんな光景に耐えられず、王子が逆上のあまり起こした行動がさらなる悲劇を招くのでした…。

 

何度見ても、胸を揺さぶられますね〜。

 

マシュー・ボーンは野生的な魅力に溢れた、力強い男性ダンサーに白鳥を演じさせ、スタイリッシュな衣裳と斬新な美術、美しい照明と共に、エネルギッシュで革新的なコンテンポラリー・ダンスに『白鳥の湖』を一新させたのです。

 

僕が今回観たのは初日でした。

《キャスト》

◎ザ・スワン/ザ・ストレンジャー(The Swan/Stranger)マックス・ウエストウェル

◎王子(The Prince)ジェイムズ・ラヴェル

◎女王(The Queen)ニコル・カベラ

◎ガールフレンド(The Girl Friend)キャリー・ウィリス

◎執事(The Private Secretary)グレン・グラハム

 

《クリエイティブ》

◎演出・振付/マシュー・ボーン(Sir Matthew Bourne OBE)

◎音楽/ピョートル・チャイコフスキー(Pyotr Ilyich Tchaikovsky)

◎美術・衣裳/レズ・ブラザーストン(Lez Brotherston)

◎照明/ポール・コンスタンブル(Paule Constable)

◎音響/ケン・ハンプトン(Ken Hampton)

◎映像&プロジェクション/ダンカン・マクリーン(Duncan McLean)

◎アソシエイト・アーティスティック・ディレクター/エタ・マーフィット(Etta Murfitt)

◎アシスタント・リハーサル・ディレクター/ケリー・ビギン(Kerry Biggin)

◎レジデント・ディレクター/ピア・ドライバー(Pia Driver)

 

今回の新演出版は、演出や構成が大きく変わったというのではなく、細かく隅々まで微調整を施したというか、アップデートしたという感じですね。

 

初めて観た時より全てが新鮮に映りました。

 

レズ・ブラザーストンによる美術と衣装、装置も華やかに豪華になっていますし、ポール・コンスタンブルによる照明が美しくてうっとりしてしまいました。

 

大きく変わったなぁと言えるのは、「スワンク・バー」のシーンでしょうね。今までいた個性的なキャラクターがいなくなり、よりスタイリッシュになっていました。

 

それと肌の色に関係なく、様々な国籍のダンサーが増えたなぁという印象です。日本人の女性ダンサーもいましたし。

 

マックス・ウエストウェルのザ・スワンとストレンジャーは堂々たる風格で神秘性に溢れていました。筋肉質で体格もがっちりしているので、スケールが大きく、力強くて迫力がありましたね〜。その分、優雅さと妖艶さを求める人には物足りないかも知れませんがそれは好みの問題でしょうね。マックス・ウエストウェルは野生の動物が隠し持っている凶暴さも上手く表現していましたよ〜。

 

鍛え抜かれた無駄のないスタイルのスワンたちの群舞も迫力満点でした。ダンスが進むに連れ、スワンたちの上半身が汗で光り始め、跳び舞うたびに汗が散り息づかいも聞こえるほどで、圧倒されました。群舞も一糸乱れぬというのではないんです。スワンたちそれぞれに個性があり、それがまたマシュー・ボーンの演出の妙なんでしょうね。

 

今回は、プリンスのジェイムズ・ラヴェルがとても良かったです。女王に愛してもらえず、精神的に抑圧され、苦悩と孤独の中でもがいているプリンスの哀しみが伝わってきました。僕はプリンスに感情移入してしまって、彼の苛立ちや絶望が胸に響いて、目頭が何度か熱くなってしまいました。

 

今回は今まで以上にプリンスの自由を手にできない苛立ちや孤独と哀しみが強調された演出だったと思います。ジェイムズ・ラヴェルの感情表現が巧みだったからそう感じたのかも知れませんけど。

 

威厳さと気品ある物腰の裏では、若い士官候補生とアバンチュールを楽しんでいる性に乱れたクィーンを、ニコル・カベラは美しく気高く演じていました。彼女もプリンスとは違う満たされぬ心を持て余している女性なのかも知れません。

 

執事のグレン・グラハムがカッコ良かったですね〜。クィーンとプリンスに一見忠実に仕えているようで、プリンスを貶めるようなことを影で仕向けていたりして、古典バレエでの悪魔ロットバルトにあたる謎めいたキャラクターながら、踊り出すと突然、色気がダダ漏れで驚きました(笑)。

 

今回観たのは初日だったのですが、さぁいよいよクライマックスという時に幕がスルスルと降りちゃったんです。しばらくお待ちください状態…。

 

何事が起こったのかは推測するしかありませんけど、すぐに再開はしたんです。初日ですから色々ありますよね(笑)。

 

でも、何度もても飽きることのない作品ですよね〜。

 

性別など関係なく、異質で孤独な者たちが出会い、惹かれ合い、愛し合い、許し合い、二人が安らげる世界へ共に旅立つという物語なんですよね。何者にも邪魔されず、いつまでも寄り添っていられる場所…。

 

ラストシーンは本当に神々しく、見る度に胸を揺さぶられます。

 

プリンスが迎えた最後は悲劇かも知れませんが、愛したものに抱かれて、欲しくても手に入れる事が出来なかった自由をやっと与えてもらい、「幸せになれたね」と僕は言ってあげたいです。

 

苛立ちや絶望、孤独がどれほど人を哀しみに追い込むのか…。

 

切ないまでに美しく、マシュー・ボーンは描ききっていますね。名作です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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