こんにちは。

 

『美しく、狂おしく 岩下志麻の女優道(春日太一さん著、文藝春秋刊)』という本を読ませていただきました。

 

岩下志麻さんが女優になられて今年で60年だそうです!

 

岩下さんがこれまで出演された、数々の作品の思い出や、夫である篠田正浩監督との作品づくりの苦労や、女優として生きてきたこれまでの人生などを振り返り、語り尽くされたインタヴュー本です。

 

岩下志麻さんは、僕が映画に興味を持ち始めた頃には、日本代表するトップ女優のお一人で、華々しい活躍をされていました。

 

どの作品を観ても、女の情念が身体全身から強烈に溢れ出ているようで、普通ではない、何かに憑かれた人間を演じると凄まじい輝きを放つ、物凄い女優さんだと幼い頃から思っていました。

 

『美しく、狂おしく 岩下志麻の女優道』の著者は日本の映画史・時代劇研究家である春日太一さんです。

 

僕は春日さんの書かれたもの何冊か読ませてもらっていますよ〜。

 

◎あかんやつら 東映京都撮影所血風録 (文春文庫)

◎仲代達矢が語る日本映画黄金時代 完全版 (文春文庫)

◎鬼才 五社英雄の生涯 (文春新書)

◎天才 勝新太郎 (文春新書)

◎市川崑と『犬神家の一族』 (新潮新書)

◎役者は一日にしてならず(小学館)

 

これくらいですかね。

 

どの本も面白そうだなぁと手にとってはみたのですが、そこそこ映画好きで、そこそこ映画を観ている者からすると、もう知っているエピソードが多くて、「もうちょっと、そこ掘り下げてくれないかなぁ」、「もうちょっと突っ込んで聞いてよ〜」とか思ってしまって、春日さんには悪いんですけれど、僕なんかは少〜し物足りない本ばかりなんですよね〜(笑)。

 

偉そうですいません(笑)。

 

『美しく、狂おしく 岩下志麻の女優道』もいい本だとは思いますけど、1990年に主婦と生活社から出版された、岩下さん自身が書かれた『鏡の向こう側に』という本と内容はそんなに変わらないように思いました。

 

僕は『鏡の向こう側に』の方が好きかなぁ〜(笑)。

 

勝手なこと言ってますよね(笑)。

 

ということで今日は本の感想ではなく、大好きな女優のお一人である、僕が思う岩下志麻さんのことを書いてみたいと思います。

 

僕が岩下志麻という女優さんを初めて意識したのは、幼い頃に母と夕方観ていた、『さよならお竜さん』という再放送ドラマだったと思います。

 

『さよならお竜さん』は1980年にTBS系列で放送されたドラマです。脚本は倉本聰さん。

 

僕が観たのは再放送なので、放送されてから何年か後だったと思います。ストーリーはほとんど覚えていませんが、岩下さんは物産会社に勤める、38歳独身で男性経験の無い、秘書課課長補佐のキャリアウーマン役でした。

 

コメディタッチの作品で、共演も緒形拳さん、池部良さん、平田昭彦さんと名優揃いだったんです。

 

主題歌が梓みちよさんが歌う「淋しい兎を追いかけないで」(作詞:阿木燿子さん、作曲:筒美京平さん)という曲で、これが名曲なんですよ〜。大好きです(笑)。

 

今さら、慎ましい女になれって無理よ〜♪

こんな出だしです。

 

このドラマはもう一度、観てみたいと願っているドラマの一つです。

 

ドラマでは、1983年にフジテレビ系列で放送された、『早春スケッチブック』も印象深いです。これも再放送で観ました。山田太一さん原作・脚本なのですが、平凡に幸せに生きる事がどんなに難しく、素晴らしい事なのかと観る側に突きつける傑作ドラマでした。このドラマの岩下さんは本当に美しいです。

 

1980年にテレビ朝日系列で朝日放送創立30周年記念番組として放送された『額田女王』というドラマももう一度観たいと思っている作品です。

 

井上靖さんの小説を中島丈博さんが脚本化したものです。岩下さんは額田女王を演じてらっしゃいます。額田女王が歌を詠むシーンがとても印象に残っていますね。

 

1979年1月7日から12月23日まで放送されたNHK大河ドラマの第17作『草燃える』も良いんですよ〜。

 

永井路子さんの小説『北条政子』『炎環』『つわものの賦』などを原作に、源氏3代による鎌倉幕府樹立を中心とした東国武士団の興亡を描いた一大叙事詩です。脚本は『額田女王』と同じ中島丈博さんです。

 

鎌倉幕府を開いた源頼朝の妻であり二代将軍・頼家と三代将軍・実朝の母である政子の生涯を中心に、関東に武家政権を築いた頼朝の時代から、北条氏が実権を握り政権を盤石にした承久の乱までが描かれています。

 

岩下さんは北条政子を演じられました。

 

尼将軍といわれた北条政子は、非情で嫉妬深く、権力欲が強い女傑という負のイメージで語られることが多いですよね。それは俗説を基にした“日本三大悪女”のひとりとして取り上げられることが多いからなんです。俗説なんですよ〜(笑)。

 

でも、岩下さんが演じられた政子は、頼朝を一途に思い、我が子四人をすべて喪う哀しい女性、御台所という立場の重さにとまどっている等身大の女性として描かれていて、出演者の皆さんも全力で役に向きあっていられるのが感じられる名作だと思います。

 

「草燃える」はNHKインターナショナルを通じてロサンゼルス、サンフランシスコ、ニューヨークでも放送された初めての大河ドラマで、現在もNHKオンデマンドで全編観れますから、時代劇のお好きな方で興味を持たられたら是非ご覧になってほしいと思います。

 

岩下さんが他のお仕事と掛け持ちをせずに、政子という女性に1年間向き合われた作品ですから見応えがあります。

 

テレビドラマでは、僕の大好きな作家、宮本輝さん原作の『花の降る午後』(1989年・NHK)も忘れがたい作品です。

 

映画で岩下さんを初めて観たのは確か…1971年に公開された、貞永方久監督『黒の斜面』という作品だったと思います。

 

幼い頃に、テレビの映画劇場で放送されていたのを何となく観たんだと思います。共演は加藤剛さん。

 

商事会社の係長(加藤剛さん)は、3,000万円を持って、飛行機で大阪に出張する事になっていましたが、愛人(市原悦子さん)宅に一晩泊まり、翌朝行くことにします。ところが、乗っているはずの飛行機が墜落事故を起こし、彼も犠牲者の中に入っていたのです…。

 

気の弱く優柔不断な主人公(加藤剛さん)をどうしても手元に引き止めておきたい愛人(市原悦子さん)の策略と、真実を追求し嫉妬心に駆られる妻(岩下志麻さん)。

 

その間で身動きが取れず自滅していく主人公(加藤剛さん)の姿が哀れでもあり、滑稽でもあり、子供ながらに面白いなあと思いました。

 

愛人役の市原悦子さんのだらしなさの陰に見せる凄み、岩下志麻さんの硬質な陶器がひび割れるような緊張感のある演技。堪能できます。

 

松竹さん、DVD化希望します!

 

それから、岩下さんの作品は次々と追いかけて観るようになりました。

 

笛吹川(1960年)、秋日和(1960年)切腹(1962年 ※第16回カンヌ国際映画祭審査員特別賞受賞作品)、秋刀魚の味(1962年)、古都(1963年 ※第36回アカデミー賞外国語映画賞本選ノミネート作品)、死闘の伝説(1963年)、五瓣の椿(1964年)、雪国(1965年)、紀ノ川 花の巻 / 文緒の巻(1966年)智恵子抄(1967年 ※第40回アカデミー賞外国語映画賞本選ノミネート作品)、女の一生(1967年)、心中天網島(1969年)、影の車(1970年)、内海の輪(1971年)、婉という女(1971年)黒の斜面(1971年)、嫉妬(1971年)、沈黙 SILENCE(1971年)、辻が花(1972年)、桜の森の満開の下(1975年)、はなれ瞽女おりん(1977年)、鬼畜(1978年)、聖職の碑(1978年)、悪霊島(1981年)この子の七つのお祝いに(1982年)、疑惑(1982年)、鬼龍院花子の生涯(1982年)、迷走地図(1983年)、魔の刻(1985年)、極道の妻たち シリーズ(1986年〜 1998年)、近松門左衛門 鑓の権三(1986年 ※第36回ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞作品)、桜の樹の下で(1989年)、霧の子午線(1996年)

 

結構たくさん観てますよね〜(笑)。

 

どれもこれも思い出深く、好きな作品ばかりです。

 

一つ一つ語り出すと大変なことになるのでまたの機会にしたいと思います〜(笑)。

 

岩下さんは長い女優歴の中で、舞台に立たれたのは一度きりなんです。1969年3月に日生劇場で上演された、浅利慶太さん演出の『オセロ』です。オセロの妻デズデモーナを演じられました。この舞台は観たかったですね〜。

 

この舞台を選ばれた経緯と、何故これ以降、舞台には積極的に立たれないのかを詳しく聞いて欲しいかったですね〜、春日さん(笑)。

 

僕はずっと前から、テネシー・ウイリアムズの『欲望という名の電車』のブランチは岩下さんにぴったりの役だと思ってるんですけど…。儚い夢なんでしょうねぇ〜。

 

1983年に公開された、松本清張原作、野村芳太郎監督の『迷走地図』という作品があります。

 

この作品は黒澤明監督の『影武者』を降板した後、勝新太郎さんが9年振りに映画に出演された作品として話題になりました。

 

岩下さんは、次期総理を狙う通産大臣、寺西正毅を演じた勝新太郎さんの妻、寺西文子を演じられたのですが、この作品今ではお蔵入りになっているのです。

 

松本清張さんは、政治の世界の不透明さと、政治家の実態に議員秘書など主に裏方の視点から真摯に迫った作品として書いたつもりなのに、野村芳太郎監督は当時全盛だった「フライデー」や「フォーカス」のような写真週刊誌の野次馬的視点から描こうと考えられて、意見が食い違ったんですね〜。

 

清張さんは、野村監督が「張り込み」、「ゼロの焦点」、「砂の器」、「影の車」、「鬼畜」など自身の原作を次々と見事に映像化してくれて多大な信頼を寄せていらして、二人で「霧企画」というプロダクションを起こし、今回も任せていたのに、期待を裏切られたというお気持ちになったようです。

 

制作費の一部を出資したテレビ朝日で二度放映されただけで、清張さんはビデオ化を拒否されたままお亡くなりになったので、今だにDVD化はされず仕舞いです。

 

勝新太郎さんと岩下志麻さんの迫力ある演技合戦が楽しめるシーンがあるのにもったいないですね〜。何とかならないものでしょうか。

 

1990年に出版された『鏡の向こう側に』という本の最後に岩下さんはこう書かれていました。

 

私が今、やりたくて企画にもっているものの一つに遠藤周作さんの『真昼の悪魔』という作品がある。

 

この小説は僕も読んでいて、大好きな作品でした。

 

主人公は女医で、人間の中に棲む悪魔と神がテーマになっています。

 

このヒロインをぜひ映画で演じてみたいと当時、岩下さんはおっしゃっていて、僕は実現すれば良いなと楽しみにしていましたが、しかしこの企画は実現せずに今に至っています。

 

『美しく、狂おしく 岩下志麻の女優道』ではこうおっしゃっています。

 

夢はあります。女優人生60年の集大成に、『サンセット大通り』のような映画に出演したい。晩年の女優の栄光に対する執着と衰え、そういうものの入り交じった悲しさ。その中で生まれるラブロマンス。そんな物語を主役映画の最後の1本にできたら本望です…と。

 

誰か、この岩下さんの夢を叶えてあげようと思う人はいないんでしょうか〜。

 

今の日本映画界は…。

 

こんな名女優をほっとくなんて情けない限りです。

 

岩下志麻さんは、ただ女優として守られて生きてこられただけではありません。夫である篠田正浩さんと共に独立プロダクション・表現社で、二人三脚で苦労をものともせず、映画製作をしてこられた骨のある女性です。尊敬しています。

 

そして、美しさの裏に隠した『狂気』と『情念』を華麗に表現できる岩下志麻さんは素敵です!

 

最後に『美しく、狂おしく 岩下志麻の女優道』の中で嬉しかったのは、増村保造監督の『この子の七つのお祝いに』のことを岩下さんが初めて語ってくれたことです。春日さんにはもう少し突っ込んで聞いてほしいこともたくさんあったのですが(笑)、幼い頃から、信じさせられてきたことが全て嘘だったと知った時に精神が崩壊してしまう女性を演じた岩下志麻さんの演技は語り継がれるべき名演技です。

 

美しいが故の哀しみってあるんですよ〜。

岩下さんの映画を観ているといつもそう思います。

 

またつらつらと、好き勝手なことを書いてしまいました〜(笑)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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