こんばんは。

今日は1985年公開(日本では未公開)ポール・シュレイダー監督の
『MISHIMA: A Life in Four Chapters』という映画の
お話をしたいと思います。

三島由紀夫という作家の生涯を、陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地に
乱入して自衛隊員に決起を促す演説をし、最後に割腹自殺を
遂げた1970年11月25日の最後の一日という時間と、45年という
彼の生涯をフラッシュバックにより振り返るシークエンスと
彼が書いた「金閣寺」「鏡子の家」「豊饒の海 第二部 奔馬」
の3つの作品の重要だと思われるシーンを映像化したものを
加えて、三島由紀夫の人生のテーマを「美」「芸術」「行動」
「文武両道」という4つのテーマに分けて描いた作品なんです。

監督のポール・シュレーダはマーティン・スコセッシ監督の
「タクシー・ドライバー」の脚本を20代で書いて一躍注目を浴び、
「レイジング・ブル」「最後の誘惑」など傑作を何本も書いている
脚本家でしたが、次第に監督というポジションに情熱を持ちはじめ
リチャード・ギアの出世作「アメリカン・ジゴロ」や人間の心の
闇に迫る問題作「白い刻印」などのヒット作を撮られた方です。

製作総指揮は『ゴッドファーザー』シリーズと『地獄の黙示録』の
フランシス・フォード・コッポラ、『スター・ウォーズ』シリーズの
ジョージ・ルーカスが務めています。

三島由紀夫役には緒形拳さん。「復讐するは我にあり」「鬼畜」
「北斎漫画」「野獣刑事」「楢山節考」「陽暉楼」「魚影の群れ」
「櫂」などみんな素晴らしかった大好きな俳優さんです。
高倉健さんや坂本龍一さんなども出演オファーを受けたそうですが
なかなか決まらず、最終的に緒形さんが受けられたようです。

その他の配役は
利重剛さん (三島の青年時代)、大谷直子さん(三島の母)、
加藤治子さん(三島の祖母)、塩野谷正幸さん(森田必勝)、
三上博史さん(楯の会隊員)、坂東八十助さん(溝口・金閣寺)、
佐藤浩市さん(柏木・金閣寺)、萬田久子さん(真理子・金閣寺)、
沢田研二さん(収・鏡子の家)、左幸子さん(収の母・鏡子の家)、
横尾忠則さん(夏雄・鏡子の家)、李麗仙さん(清美・鏡子の家)、
永島敏行さん(飯沼勲・奔馬)、池部良さん(尋問官・奔馬)、
誠直也さん(剣道教師・奔馬)、勝野洋さん(堀中尉・奔馬)などなど。

製作:山本又一朗さん、トム・ラディ
脚本:ポール・シュレイダー/レナード・シュレーダー
音楽:フィリップ・グラス
プロダクションデザイナー:石岡瑛子さん

これだけでビッグプロジェクトだったことが分かるでしょう?

第38回カンヌ映画祭で話題になり、石岡瑛子さんのセット美術が
高く評価され、芸術貢献賞を受賞したにもかかわらず日本では
今だに未公開なのです。

何故、日本では公開されないのかは色々な憶測が流れていますが、
真相は薮の中ですよね~。石岡さんが2005年に出された
「I DESIGN~私デザイン~」という本の冒頭に書いて
らっしゃいます。ある圧力によって葬られたと。
この作品の制作と上映に対しては、石岡さんの想像を遥かに越えた
複雑な動きが起こったそうです。遺族の意思もあったし、政治的な
動きもあったらしいです。公開すれば殺すという脅迫が出演俳優や
重要スタッフに対して投げられるという恐ろしい動きも
あったそうです。ここまでくるといたしかたないとう気も
しますけどね。カンヌ映画祭で高い評価を受けているにもかかわらず
日本のジャーナリストのほとんどが事実を無視したり、
意図的に歪曲して報道したそうです。ここまでくると遺族の反対と
いうよりは政治的な力が働いたんでしょうね。元総理大臣経験者が
からんでいるとう噂も聞いたことがありますよ~。
日本の闇の部分に何かが触れたんではないでしょうか。怖いです~。

三島由紀夫の生涯の映画化については、様々な方面から申し込みは
あったらしいですが三島夫人はすべて断ってきたそうです。
しかし、いつかきちんとした形で製作すべきだと考えられてたそうで
フランシス・フォード・コッポラの熱心な説得に三島夫人も映画化の
許可を出したみたいです。

ファーストシーンは緒形さん演じる三島由紀夫が馬込にある実際の
三島邸の寝室のベッドで目覚めるシーンから始まります。
高梨豊さんという方が1968年に三島由紀夫本人がベッドに寝ている
ところを撮影した「夏の夜の終わりの一夜」という写真と同じ部屋
でした。その部屋で盾の会の制服に着替えて、自衛隊の市ヶ谷駐屯地へ
出かけるシーンから始まるので、三島夫人も撮影には協力的だった
と思うのです。

映画の中には美輪明宏さんだろうなと思わせる人物が出てきて
二人には何か同性愛的な関係があったようなシーンやゲイバーの
シーンがあったりするので遺族の怒りを買ったという説もありますが
どうなんでしょうか。まっ僕らがあれこれ考えてもしょうがない話
ですよね(笑)。三島由紀夫の生涯を描くには避けて通れなかったんだ
と思いますが。

僕がどうしてこの作品に興味をもったかというと三島由紀夫の生涯
というよりはセットデザインを担当したのが石岡瑛子さんだった
からなんです。1983年に石岡さんがそれまで手がけられた
グラフィックデザインやアートディレクターとしての仕事をまとめた
「石岡瑛子 風姿花伝」という本を偶然本屋さんで見かけて
子供だったんですけど内容にものすごく感動して18,000円も
したのですが母にねだって買ってもらいました。
本だけはいつも何も言わずに買ってくれたんですよ。感謝です~。
今も僕の本棚にちょっと汚れて立ってます。(汚してごめんね)
カバー写真が三宅一生さんが観音様をイメージしてデザインした
コスチュームを着た女優のフェイ・ダナウェイの素敵な写真なんです。
1979年のパルコメディアキャンペーンのポスター用に撮られた
写真だそうです。この頃の広告ってお金がかかってるんですよ。
いい時代ですね。
グラフィック界にもスターデザイナーが一杯いた頃です。

この本を見て僕もグラフィックデザイナーになりたいと子供心に
思ってしまったんですね~。今も業界の片隅で細々とやっております(笑)。

この本がニューヨークでも出版され、1979年に石岡さんがコッポラが
監督した「地獄の黙示録」のポスターのアートディレクションを
手がけていた縁で「MISHIMA」のプロダクションデザイナーの
依頼がきたそうなんです。このポスターが2種類あるんですけど
滝野晴夫さんという当時人気のあったスーパーリアリズムという
手法で描くイラストレーターの作品で表現されていて、今の映画界
ではお目にかかれないような素晴らしいポスターなんです。

石岡さんはその後ビョーク「COCOON」のミュージックビデオを演出。
マイルス・デイビスの「TUTU」アルバムジャケットのアートワーク。
(グラミー賞受賞)
映画「ドラキュラ」のコスチュームデザイン。
(アカデミー賞衣装デザイン賞受賞)
などを手がけられています。今年NHKで放送された番組では
ブロードウェイミュージカル「スパイダーマン」の舞台衣装の
デザインから完成までを通して石岡さんの生き様や仕事に取り組む
姿勢が語られていました。石岡さんは、デザインをするに当り常に
三つの事を心掛けていると語ってられました。

original=誰にも真似できない
revolutionary=革命的であれ
timeles=時代を超えろ

最後にプロフェッショナルとは、の問いに「与えられた条件を
クリアーしながら、それに止まらずもっと高い答えを生み出す事
だと思うけどね。それが本当のプロフェッショナルだと思います。」
と答えてられました。この情熱でどんな困難も乗り越えてこられ
たんだろうなと感動しました。

そんな石岡さんをアメリカで仕事をしていこうと決断させたのは
この「MISHIMA」という作品の日本でのいきさつなんですよね。
この作品を作ったすべてのスタッフの血の滲むような努力や結果を
日本の誰もが見ようともしなかった。その事実だけが今も重く
よどんで残っていると石岡さんはおっしゃっています。
いつか日本でもこの作品が正しく評価されることを僕も願っています。

そんな憧れだった石岡さんが関わって、カンヌで賞を受賞した
作品に興味を持たずにいられないでしょう? しかし色んな事情で
日本ではみれないことがわかりあきらめていました。

それが15年くらい前に、合羽橋近辺に住んでいる知人の家に
遊びに行き、生まれて初めて本場のもんじゃ焼きを食べた帰り
(関西出身なもので食べたことがなかったんです。)ふらっと
知人と立ち寄った街の小さなレンタルビデオ屋さんにぽつんと
輸入版のビデオが置いてあったのです。えっ~。小さく叫び声を
あげる僕。知人にたのんで借りてもらい知人の家で見させて
もらいました。石岡さんは三島が書いた小説部分を映像化した
パートのセットデザインを担当されているのですが、その斬新さに
感動してしまって、他のパートとも違和感なく溶け込んでいるし
映画全体の印象もとっても興味深い仕上がりで凄く心に残る
作品だったんです。いつか日本版のビデオが発売される日がくる
だろうと思い続けて15年ですよ。仕事で5年ほどフランスに住んで
いた知り合いに「もしフランスにDVDが売ってたら買ってきて!」と
たのんでいたら買ってきてくれたんですけど中身は三島由紀夫が
監督、主演した「憂国」という作品でした~。
この作品も長らく封印されていたのですが今では日本でも
買えるのでがっかりでした(泣)。パッケージに大きく「MISHIMA」と
書いてあるので興味のない知り合いにしてみたら間違えても
しょうがないんですけどね。

そうしたらなんと今年、三島由紀夫の生涯を再検証した、
『三島由紀夫と一九七〇』という本が鹿砦社から出版され、
三島事件がきっかけで「一水会」を結成した鈴木邦男氏と
『極説 三島由紀夫』などの著書があるフラメンコ舞踏家である
板坂剛氏の三島由紀夫についてのエピソードが満載の本なのですが、
巻末に参考資料映像として映画『MISHIMA』が付録DVDとして
封入されていたのです! 面白いこともあるもんですね。
見たい見たいと思い続けるとかなうんでしょうか。
付録ですよびっくりです。画質もちゃんとしているし。
『三島由紀夫と一九七〇』のあとがきによると、鹿砦社の社長
松岡利康社氏は「世界的名作がこのまま埋もれてしまっていいの
だろうか」という心情から三島由紀夫の40回忌に合わせて発売された
同書に『MISHIMA』をDVDとして封入する"蛮勇"を決意したとの
ことです。どんな形であれまた見ることが出来て感謝です。

この15年の間、三島由紀夫については色んな本や戯曲を読みました。
全集も集めたし、ジョン・ネイスンの「三島由紀夫―ある評伝」や
猪瀬直樹さんの「ペルソナ」などの評伝や1998年に裁判にもなった
福島次郎という人が書いた『三島由紀夫―剣と寒紅』という本も
読んだし、三島由紀夫が主演し増村保造さんが監督した映画
「からっ風野郎」や市川崑監督、市川雷蔵さん主演の「炎上」や
山口百恵さん主演の「潮騒」や妻夫木聡くんが主演した「春の雪」や
美輪明宏さん主演の三島由紀夫が江戸川乱歩の小説を脚色した舞台の
「黒蜥蜴」、深作欣二監督の映画版「黒蜥蜴」や蜷川幸雄さんや
デヴィッド・ルヴォーが演出した「近代能楽集」など気になるものは
読んだり見たりしてきました。

今回、久し振りに見て、前回見た時よりも少しは三島由紀夫という
人の理解も深まっていたので、緒形拳さんの熱演もあり以前見た時
より引き込まれてしまいました。三島由紀夫が市ヶ谷駐屯地に乱入
するシーンは異様な緊迫感がありますね。
演説するシーンを見ているとなんだか三島由紀夫が可哀想になって
きてしょうがなかったです。三島が必死に自衛隊員に心情を訴えても
誰も聴く耳をもってくれない。絶望した三島の顔が切なかったです。
心を打ち明けられる人が一人もいない孤独な人だったんじゃないかと
思ってしまいました。色んな方が書かれたものを読むと随分、
親しかった人達から裏切られたり冷たい言葉を投げつけられたり
してるんてすよ。それでも僕は平気だとガチガチの鎧を纏って
生きていた人なんじゃないでしょうか。孤独は人をおかしくさせる
と言いますしね。

僕は三島由紀夫が書いた小説や戯曲が大好きです。レトリックを多様
した文章がとっつきにくいと言われる方が多いですけど、リズムに
なれてしまえば逆に心地いいと思います。「鹿鳴館」は日本人が
書いた戯曲の最高傑作だと僕は思うし、「春の雪」は最高の恋愛
小説だと思っています。

僕は三島由紀夫が残してくれた作品がとても好きなだけです。
ああいう最後を遂げたからとか何故死んだんだとかには実は
あまり興味はないんです。

「MISHIMA」という作品は日本人では作れないタブーに挑戦して
作られ、1985年、カンヌ映画祭で2,000人の観客にスタンディング・
オベーションを受けた作品です。もしどこかで見る機会があるよう
でしたら、あまり三島由紀夫に興味がない方でも構えず気楽に
見てほしいと思います。