こんばんは。

今回は日本を代表する文豪と映画監督のお話です。

まずは作家の井上靖さんのお話から。井上さんは、1991年にお亡くなりになられて今年で没後20年になります。生前はノーベル文学賞の候補に何度も上げられた、国民的な作家でした。

書かれた作品を上げると、「あすなろ物語」「蒼き狼」「敦煌」「氷壁」「天平の甍」「おろしや国酔夢譚」「化石」「風林火山」などなどすべて映画化やドラマ化された作品ばかりですね。

僕が井上さんの小説で読んだことがあるのは、今、大河トラマで宮沢りえさんが演じている淀君の生涯を描いた「淀どの日記」。増村保造監督、山本富士子さん主演で映画化された「氷壁」、小林正樹監督が死に直面した男の内面を佐分利信さん主演で重厚に描いた「化石」です。時代物ありメロドラマあり多彩なテーマに挑まれた作家さんでした。悠々と時が流れているような格調のある文章で、登場人物の息づかいが聞こえてくるような小説たちでした。

今年は没後20年ということもあり自伝的小説「わが母の記」という作品が役所広司さん、宮崎あおいさんで映画化されるようですよ。楽しみですね。

次は五所平之助監督のことを少し。
映画がサイレントの時代から約半世紀に渡り活躍された女性映画の名手と呼ばれた名匠です。代表作は高峰秀子さん、田中絹代さんが主演した「煙突が見える場所」、原田康子さん原作の「挽歌」などがあります。どちらも大好きな作品です。日本初のトーキー映画「マダムと女房」も撮られています。

没後20年だからでしょうか、4日・5日・6日連続で井上さんが初期に書かれた小説を五所監督が撮られた作品がWOWOWで放送されたのです。タイトルは「名匠/五所平之助×文豪/井上靖」です。

4日は「通夜の客」という小説を映画化した「わが愛」です。主演は有馬稲子さん、佐分利信さんです。この作品はとっても良かったです~。僕はこれまで、有馬稲子さんてあまり興味の持てない女優さんだったのです。正直いっちゃいますと。有馬さんが出演された作品は小津安二郎監督の「東京暮色」「彼岸花」、市川崑監督「愛人」今井正監督「夜の鼓」、中村登監督「波の塔」、渋谷実監督「もず」、内田吐夢監督「浪花の恋の物語」など(凄い巨匠、名匠の作品ばかりですね)見てきましたが綺麗な女優さんだなあと思うだけで、うまいなあとかいいなあとか感じたことがなかったんです。

でもこの「わが愛」という作品は有馬さん自身が「大好きな私の代表作」と言われているだけあって初めて有馬さんていい女優だなあと思わされた作品でした。「きよ」という女性を演じられているのですが全身全霊、愛した男の為だけに生きるのが幸せで仕方がないと思っている女性を生き生きと演じられていました。演じているというよりは「きよ」そのものでした。僕、はじめて有馬さんの映画で泣いちゃいましたよ~。男や時代に翻弄されるのではなく、自分の意思で人生を掴みとろうとするヒロインが清々しかったです。ロケーション撮影も素晴らしい映像の美しい作品なのですが、フイルムの保存状態が悪かったのかところどころ色が褪せている部分があるんです。こういうのを見ると悲しくなりますね。たくさんの人が大変な思いをし力を合わせて作り上げた一つの芸術品なのにもう少し大切に保管してほしいです。松竹さんお願いします。それと佐分利信さん、いい役すぎますよ~。

5日は「白い牙」という作品でした。主演は牧紀子さん、佐分利信さん、桂木洋子さん。主演の牧紀子さんという女優さんはこの作品で初めてしったのですが、新人さんだったんですね。あまり魅力のある方ではないんですよ~。こういう言い方は申し訳ないんですけど。もう少し名のある華やかな女優さんが演じていたらまだこのヒロインのキャラクターも説得力がでたかも知れないと思いました。この頃からもう佐分利さんは「華麗なる一族」の万俵大介みたいでした~。それから最後まで見てもタイトルの意味が分かりませんでした。(笑)もしかしたら主演の牧さんが白い衣装を来ているシーンが多かったので、白い牙ってヒロインのことなのかもしれないですね。

6日は「猟銃」です。
主演は山本富士子さん、岡田茉莉子さん、佐分利信さんです。

秋に中谷美紀さんがこの原作で初舞台を踏まれるんですね。3役されるそうですよ。

この作品も良かったです~。一見、単純な不倫メロドラマのように見えるも知れませんが、嫉妬や憎しみが人をどれだけ愚かにさせるのかということを見終わってとても感じましたね~。美しい女優さんが火花を散らすんですから見応えタップリでした。憎みあっている訳じゃないんです。お互いが口に出せない悲しみを抱えて苦しんでいるんですね。最後もどちらかが勝ったわけでも負けたわけでもないんです。そこが不思議な余韻を残す作品でした。その二人の女性の間に存在する男性がまたまた佐分利信さんなのです。この男のいきつく先が「燃える秋」の影山じゃないでしょか~(なーんて)

大映から山本富士子さんを招いた甲斐がありましたね。お二人の衣装がまた素晴らしかったです。山本さんは着物、岡田さんは当時の最新の洋装スタイル。関西の上流階級の人たちですからお屋敷も衣装もゴージャスなのです。眼福でございました。

昔の日本映画もいいものですよ。敬遠しないで気軽に見てほしいです。今の映画にはなかなかない濃厚な人間ドラマが楽しめますよ。