こんばんは。

「燃える秋」という映画をご存知ですか?1978年公開の百貨店の三越が東宝と提携して製作した作品です。原作は五木寛之さん。監督は「人間の条件」「切腹」「怪談」などの小林正樹さん。主演は真野響子さんです。内容を簡単に説明すると…

初老の画廊経営者(佐分利信さん)との愛人関係を清算しようとする女性(真野響子さん)が若い商社マン(北大路欣也さん)と出逢い二人の間で愛とは生きるとはと葛藤するという物語です。テーマはもっと深くて複雑ですけどね。

手元に当時のパンフレットがあるのですが総額10億円の費用をかけて製作されたとあります。三越一社だけでまかなったんでしょうか。東宝が半分は出してるのかもしれないですね。今はだいたい製作委員会方式で色んな企業がお金を出し合って映画って作られていることが多いですけどね。

4月30日から6月12日まで、銀座シネパトスで日本映画レトロスベクティブPart22「巨匠 小林正樹の足跡」と題して代表作の上映をしているんですがその中の1本として6月1日から4日までこの「燃える秋」が上映されたのです。

それで僕、もう昨日になっちゃいましたが4日に見てきました。午後1時からの上映だったのですが上映後に主演の真野響子さんのトークイベントがあったんですよ。聞き手が映画評論家の樋口尚文さんで樋口さんのたっての希望で今回の上映と(ニュープリントでした)真野さんの来場が決まったそうです。

真野さんのトークは最高でした。女優さんは男っぽい性格の方が多いですけど真野さんもサバサバした軽妙に話をされるとても楽しい方でしたよ。最初はこの映画のヒロインは栗原小巻さんで決まっていたそうですが小巻さんは舞台のマイフェア・レディを選ばれたので急遽、主演女優を探すことになり当時、カティーサークのCMが話題になっていた真野さんが選ばれたそうです。監督が「もう一回やって見て」と言ってもどうしてですかと反論したりして若かったので怖いもの知らずだったのよねとかその現場に別のスタジオで市川崑監督の「火の鳥」の撮影中だった仲代達矢さんが役の扮装のまま遊びに来ていて、役者は黙って監督のいうことを聞くもんだと言われたなど楽しい話が満載でした。

相手役の佐分利信さんはどうでしたかと樋口さんに聞かれた真野さんは不気味なガマガエルみたいだったと大胆発言。会場大爆笑でした。聞き手の樋口さんの真野さんへの愛があふれた見事な進行で楽しいトークイベントでしたよ~。

樋口さんは10代の頃にこの作品を見てとても強い印象をもたれたらしいのですが僕もこの作品には想い出があるんですよ~この作品は1978年の12月公開なのですが僕その時、見てるんですよ~。実は。家族3人でたしか大阪の難波へ買い物へ行ったんです。何故か父が何時間か別行動をして母が時間つぶしに僕を連れて映画館へ入ったんですけどその時の映画がこの「燃える秋」だったんです。

しかし僕はその時まだ小学校にあがる前でそんなこどもに見せるような作品じゃないのに母は大胆な人だったと思いますね。

でも僕の中では幼いながらイランの風景の雄大さや武満徹さんの素晴らしい音楽がいつまでも心に焼き付いてしまいました。ませてましたね~。いつか僕もイスファハンの王のモスクへ行きたい思っていたのですが映画が公開されてすぐ革命が起こってしまって政情が不安になり今だに紛争が絶えない国になってしまって残念ですね。

中学生になってから母が買っていた原作本(初版)を読み、五木寛之さんにはまり、「恋歌」「戒厳令の夜」「凍河」「青年は荒野をめざす」「風の王国」「青春の門」「内灘夫人」「朱鷺の墓」などなど熱中して読んでました。


それからず~とこの「燃える秋」をもう一度見たいと思っていたのですが、TV放映もされず、ソフト化もされず再上映もあまりされず見る機会がなかったのです。何年か前にCSで放送されたみたいですがやはり大きなスクリーンで見たいなあと思っていたので今回はほんとにうれしかったです。願いがかないました。主演の真野響子さんの当時の撮影秘話も聞けるなんて幸せでした。

ソフト化されない理由を樋口さんが少し仰ってましたが製作した三越の当時の社長が自分の愛人が経営するアクセサリー会社に不当な利益を与えて三越に損害を与えたとして特別背任罪で捕まったそうです。それと日本橋三越で開かれた「古代ペルシャ秘宝展」の展示品にかなりのニセモノが混じっていたとか。その社長は知っていたんでしょうね。こんなつまらないことで何百年と築いてきた信用を一瞬で壊してしまう愚かな人間っているものですね。そんなことが理由でこの「燃える秋」という作品がソフト化されないなんておかしくないですか。ちょっと怒りが湧いてきましたよ~。ソフト化されていればレンタルだってされているはずだしもっとたくさんの人に知ってほしい作品なのに本当に残念です。

今回、「燃える秋」に再会できて本当に感動しました。真野響子さんの燃えるような美しさ、北大路欣也さんの弾けるような若さ、佐分利信さんの得体の知れない男の不気味さと悲しさ、岡崎宏三さんの迷いのないカメラワーク、武満徹さんの流麗な聞くたびに胸が熱くなる旋律、エンディングのハイファイセット山本潤子さんが歌う主題歌の美しさ、小林正樹監督の重厚で格調高い隙のない演出。どれも素晴らしいです。

ここまで女性の愛と性を突き詰めた作品って日本映画には珍しいと思います。樋口さんが仰ってましたが、死期を悟った佐分利さん演じる影山がペルシャ絨毯の上に真野さん演じる亜希と寝そべりながら「君はやさしいね」というシーンで僕もグッときてしまいました。誰からも愛されず、愛してこなかった男が最後に知った愛だったんではないでしょうか。
それとイランで亜希が絨毯を織る女性の汚れた指を見て涙を流すシーンで僕もジーンと来てしまいましたよ~。年齢を重ねてから見ると、影山という人間の孤独や淋しさが理解できて奥深い作品だなあと思いますね。

最後に亜希が選んだ生き方に僕も強烈に共感します!

「燃える秋」にこういう形で再会できたこと樋口尚文さんに感謝します。ありがとうございました。いつかデジタルリマスターされたDVDが発売されることを願っています。