「あけましておめでとうございます」から1か月経過、新型コロナの陽性者数はすごいことになっていますがいかがおすごしでしょうか?m(_)m
 
 さて年末にご案内が来て「おぉ!」って思ったけれども、あまりにもマニアックなネタなのでちょっと自重していた内容でございます。
 
 年末に今季の日本ハープ協会の会報が届きました。

今回も歴史的な偉人が登場する篠﨑史子先生(もはや偉人)の留学秘話とか今年も結局いけなかった草加のハープフェスティバルとか貴重な昔のカタログなんかも載った十字屋様昔話とか、本当にとっても読み応えのある内容でした。
 
 日本ハープ協会、これだけでも入って損はないと思う。弦も割り引きになるし、憧れのハーピストの先生とお近づきになれるし。
 
 で、今回の表紙の写真、これ福井県の青山ハープ様本社にある楽器コレクション(通常は非公開)で、端っこに阪神淡路大震災の際に発見された青山ハープ第一号の楽器とかも写ってるんですけど逆の端の前から2番目、
これプレイエルのクロスストラングハープなんですけど、巻末に楽器の解説が載っていて、

「プレイエル:クロマティックハープ

 うで木にボタンがあり、それを押すと内部に仕込まれたグロッケンが鳴る。」

 

内部にグロッケン!いわゆる鉄琴ですね、あれが入っているという衝撃の記述が!

で、これ個人的に「おぉ!」って思ったのはなぜかというと、このブログにも書いたのですが2016年にプラハでこの楽器みつけたことあって、

その時の記事にも

 

「写真をよく見て気が付いたのですが、チューニングピンが複雑な形。あと謎のダイヤル?みたいなのが片側に7つ、もう片側に5つついているのはなんだろう?」

 

って書いてるんですよね~5年を経てようやく謎が解けた!(スッキリ)

 

で、こんなとこに鉄琴ならすボタンついてるのもなんでかな?(ハープ弾いてる途中「チーン」って鳴らすわけでもないだろうし)って調べたら出てきた。

 

こちらもまた名手中の名手、小指まで使ってリストとかも弾けるし最近はクロスストラングハープも演奏されるシルヴァン・ブリュッセルのまとめページ。

腕木の中に鉄琴が入っているのが出てる写真もあります。これをチーンって鳴らしてチューニングしてたんですって。

 

で、流石シルヴァン、ここでクロスストラングハープの様々な疑問を一気に答えてくれております。

 

実はプレイエルもペダルハープ作っていたけど不完全でやめちゃったとか(中庭で燃やした!)、ブログで触れた「不思議な形のチューニングピン」がAlibert pegsという、微調整可能なピンであるとか。

 

個人的にとても勉強になったことその①、「クロスストラングハープは弦の本数が多いので響板にかかる負担が大きく、そのため弦の張力を高くできず音が小さかった」というのが誤認であったこと。トリプルハープなんかはその通りなのですが、プレイエルの楽器はもともと響胴の奏者側に金属製の弦留めがついていた!弦とはバネでつながっていたそうです。響板の鳩目が駒になるような感じですね。

 そのため柱-腕木-ネック-響胴底の弦留めと金属フレームを持っていて、さながら現代のピアノのように強靭な構造で張力が高くても平気。しかもペダルハープがアクションのディスクの配置の都合で腕木の片側にしか弦が張れず、経年変化でだんだん腕木がねじれてしまうのに比べ、クロスストラングハープは7本5本の差はあるものの腕木の両側に弦が張ってあるので比較的ねじれにくく長持ちであると!

 しかし金属フレームがあるために60kgとか重くなってしまって(現代のペダルハープで35~40kg前後)、そのために前脚にローラーがついたとか。このローラー、現在は青山、サルヴィ、カマックのハープには採用されていて、その源流はプレイエルだったんですね~

 結局重すぎるので響胴の弦止めは低音の金属弦部分だけになり(響孔が低音だけ2列になる、僕がプラハで見たのはこのモデル)、さらに柱、腕木の金属フレーム&グロッケンもやめてしまったようですが、金属フレーム採用して響板は音を伝えるだけというのはハープの寿命の伸ばすためには画期的だと思いました。

 

あとちょっと形の違うクロスストラングハープたちも解説されていて(写真はすべて拾い)、こちらの

柱がA字というか逆V字になっている楽器はハープリュート(同じような名前の別の楽器があるので紛らわしい)といって弦が金属でチェンバロ的な音でバロック音楽なんか演奏する為につくられたものであるとか(ちなみにこの写真で演奏しているのはマルセル・トゥルニエの奥さんで同じくパリ音楽院でクロスストラングハープの教授であったルネー・レナール、ご夫婦で教授だった!)、
 
この柱が完全にXになった楽器(写真の楽器はさらに響板まで二つに分かれている)
はHenry Greenwayという別のメーカーのものであるとか。
 柱が増えると見た目はごっつい感じになるんですけど、やっぱり構造上は得があるようですね。
 
それから最初の表紙の写真の真ん中くらい、奥の方にある腕木が折れてしまっている楽器があるんですが、これがarpa de dos órdenesという、16世紀後半にスペインでつくられた(おそらく最初の)クロスストラングハープなのです。英語版のウィキペディアには解説がある。
 スパニッシュバロックハープとかとも呼ばれる。こちらはアンドルー・ローレンス・キングという、この楽器に限らず様々な古楽器のハープの第一人者的な方がyoutubeなんかにも演奏や解説の動画上げられていて、曰く(プレイエルの楽器と違って白鍵、黒鍵とも腕木の片側から弦が張られているため)右手が腕木に近い、高いところで弾くことになるので音が硬くなり(響板の近くで弾くのと同じ)、左手はより柔らかい音になる→それを強調して右手は爪、左手は指で弾くようになったなんてこともあるそうです。そして植民地時代にこの爪で弾くというのがつながって南米のアルパたちは爪弾きになったと…
 
 この楽器、ちょっと前に「持ち運びが容易であらゆる調への対応が可能で即興演奏がしやすく、かつ立奏可能なハープ」というかぐや姫的なご要望を頂いたときにもう投げやりで提案してみた楽器だったりする。(この楽器、立って弾く!天使様が立って弾いている絵画があったりします。)
 そしてなんと日本にもこの楽器を演奏されるプロの方がおられる!ぜひ聴きに行きたい…
 
 で勉強になったことその②、プレイエルの楽器は弦の下3分の1でクロスするよう計算されていて、弦の真ん中が弾けるので柔らかい音が出せたんですって。共通する仕組みはあって同じように見えても、色々工夫されているんですね~
 
 あとワーグナーの音楽はペダルが恐ろしく難しいことになっていて、でも没年的にクロスストラングハープのために書いたというわけではない(なおさら罪深い)んだけど、やっぱりクロスストラングハープで弾くとペダルハープよりも雑音なくてよいとか、ニュルンベルクのマイスタージンガー用にベックメッサーハープというのが現在ホルンガッハから出ている(ペダルが2つついた小さい楽器で不思議な音が出る、最近京都交響楽団の松村衣里様がご購入された!)んですけど、クロスストラングハープ型のベックメッサーハープもあったとか。
 
 歴史上本当にいろんな楽器があって、残念ながら滅んでしまっても魅力はあったんだな~とか思いました。あのプラハの楽器、またいつか見に行きたい…