明雄はまだ小学1年位の子供の頃、不思議な体験をした。季節は夏、場所は川の中、水深は明雄の肩位、少し背の高い小学生だから1メートル位か。まだ泳げない頃だったが、両膝を抱えて水中に浮かんだ。
 「浮かぶ!浮かんでいる!」
 バランスが崩れて、天井を見るようになると、膝を抱えたまま、水面が水中から上の方に輝いているように見える。空気と水の境界で光が反射したり、屈折したりしているのだろうか?空気の大きな泡の表面も輝いて見える。明雄は喜びを感じた。何もしなくても浮かんでいる事に。
 「楽ちんだ!」
 空中では、留まれるのはほんの一瞬で、すぐに地面に落ちてしまうのに、ここでは、いつまでも浮かんでいれる。寝たままで青空を見ていればいつまで青空を見て居られる。時おり太陽光は眩しかったが、
 明雄は、水の中という空間が自分にとって、とても居心地のいい場所であると感じていた。
山下姓の生徒は3名いた。明雄、浩、時男である。時男は理系らしいので、省くと、明雄と浩の二人になる。明雄が浩を知ったのは、2年次の組替えで同じクラスになったからである。点呼の時は連続しているが、あまり意識はしなかった。校内のプールが工事中で体育の水泳の授業が少し離れた市営プールで行われた時の事である。その時浩は見学に回っていたが、一冊の単行本を持って市営プールまでの道を歩いていたのである。水泳の教則本ならまだしも、文芸書のようである。昭雄は帰り道、浩に話仕掛けざるをえなかった。その事がきっかけで2人は交流を深めて行く事になる。「文学」や「社会情勢」や「考えるありとあらゆる事」を語り合う友人として。3年の時には文化祭が行われたが、西北大学大学院に進学していた浩の兄が、講演を行い、部室で明雄は面会し言葉を交わした。明雄が高校に入学する前の年に会津若松高校には理数科が設置された。最初の年には、理数科、普通科併願が認められており、理数科には結果として、成績上位者が集中した。理数科の生徒は普通科も合格していたからである。そして理数科を落ちた生徒も、最初の挫折をバネに大学入試では奮闘し結果として学年全体の実績向上に貢献する事と、なった。また、普通科合格と理数科合格の二つの栄冠を手にした彼らの団結は強固で、昼休みにはみんなで体育館を使いバスケットボールなどをしていたし、クラス対抗戦では、士気が非常に高かった。白波五人男を講堂のステージ上で演じたのも彼らだった。